Manuel Darquart - The Del Sol EP (Wolf Music Recordings:WOLFEP071)
Manuel Darquart - The Del Sol EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

先日Manuel Darquartの旧作を紹介したので、引き続き2023年11月にリリースされた目下最新作である『The Del Sol EP』を紹介したい。先の紹介でもあったようにハウスからイタロ、そしてバレアリックへと言った音楽性が特徴であり、時にイタロ・ハウスの永遠のクラシックである"Sueno Latino"をも思い起こさせるようなドリーミーで楽園的な音楽観が顕著にもなるのだが、古巣Wolf Musicへと帰還しての新作は正にそういった音楽性が強く打ち出された一枚。何と言ってもスペイン語で太陽を意味するタイトルからも分かるように、太陽の輝きが反射する爽やかな海の雰囲気を伴うイタロなドリーム・ハウス色全開で、Darquartに対してはこれを待ち望んでいたのだ。"Jerry's Song"はカラッと乾いたパーカッションにディスコティックなビート感を合わせてのどかでゆったりとした流れだが、光沢感を放つような優美なピアノコードやふわっとしたエレガントなシンセを合わせ、対して底部では重みのあるベースラインによって安定感を生み、至福に満たされたディスコ寄りなハウスのこの曲も魅力十分。しかしやはりタイトル曲の"Del Sol"だろう、どっしりしたビートとダビーなパーカッション、そして幻想的なシンセサイザーの音色を前面に打ち出してロマンティックな夢を見せるような雰囲気で、これぞ90年代のイタロ・ハウスを今に継承する作風。甘ったるく色っぽい女性のポエトリーも挿入され、色彩豊かなシンセの響きとゴージャスなピアノコードが展開する中盤以降は完全に"Sueno Latino"の現代版といっても過言ではないだろう。それをメロウなディープ・ハウスを得意とするSpace Ghostがリミックスした"Del Sol (Space Ghost Remix)"はピアノのフレーズ等は抑えつつ幻想的なシンセ使いを前面に打ち出し、リズムも跳ねるような勢いを得てダンスフロア向けのディープ・ハウスへと仕立てて、Space Ghostらしさを加えたリミックスも秀逸だ。またDarquartによる"The Vibe"、こちらはマイナーコードのシンセと落ち着いたパーカッションの効いた朧気な雰囲気のディープ・ハウスで、ジャジーさもある事からLarry Heardの憂いに満ちたディープ・ハウス路線といったところか。こういった説明だけ聞くと誰かの物真似的に受け取られてしまう危惧もあるが、イタロ・ハウスやディープ・ハウスのクラシカルな部分を継承しながら純度を高めた音楽性と言えばよいのかもしれないし、何より曲そのものがどれも素晴らしく作曲家としての才能を感じさせる。



Check Manuel Darquart
| HOUSE17 | 21:40 | comments(0) | - | |
Manuel Darquart - In The Post EP (Planet Trip:PT011)
Manuel Darquart - In The Post EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

ハウスからイタロ、そしてバレアリックへと陽気で多幸感溢れる音楽性を武器とするManuel Darquart。2017年のデビュー以降、ゆったりとした活動ではあるもののCoastal HazeやWolf Musicといった実力派レーベルからの作品のリリースもあり知名度を徐々に高めているように感じる。元々はロンドンとオークランドを拠点とする二人組だったようだが、現在はLouis Anderson-Rich一人のプロジェクトとなっている。本作はシドニーのニューエイジ・ブギー系レーベルであるPlanet Tripから2022年末にリリースされたEPで、ここではバレアリック感は伴いつつダウンテンポやブギー寄りで、ダンスとしての性質が無いわけではないがより聞かせる事を主体とした内容となっている。特にレコードではA面となる3曲はそれが顕著で、例えば"Shoreline"ではアタック感の強いダウンテンポ気味なリズムにブイブイと強烈なシンセ・ファンクを合わせてつつ、綺麗目でメロウなシンセのメロディーで豊かなドリーミーながらも多幸感に包まれるのどかなエレクトリック・ファンクを聞かせている。"Late Drives"もエレクトロニックで光沢を放つようなシンセベースや安っぽいリズムマシンが80年代的な感覚だが、イタロ・ハウス的な華やかで爽快なピアノ使いによってバレアリックへと向かう辺りはManuel Darquartらしい。"Porno Balearica"も前述2曲と路線は変わらないが、更にレイドバックし透明で爽快感溢れるサウンドを前面に打ち出し、ダビーなパーカッション使いで開放感も打ち出して、真夏の明るい太陽が照らす海岸沿いの多幸感溢れるバレアリック・ダウンテンポといった世界観にうっとりさせられる。B面にはプロトハウスにも近い爽快なダンスが2曲収録されており、颯爽としたビート感にカラッとしたカウベルの響きが爽やかさを生み出す"In the Post"では、透明感溢れるシンセに時折色っぽい男性の声やキラキラとした響きも織り交ぜながらイタロ・ハウス的な楽天的なムードを生み出している。全体的なイメージとしてはやはり燦々と明るい太陽光が降り注ぐビーチ、特にゆったりとした時間が過ぎるリゾート地の海といった印象で、青い空と海が想起される。



Check Manuel Darquart
| HOUSE17 | 13:04 | comments(0) | - | |
Fila Brazillia - Beatless (Fila Brazillia:FBRA008D)
Fila Brazillia - Beatless
Amazonで詳しく見る(MP3)

昨年、回顧録と銘打った23年にも及ぶ活動歴のベスト盤『Retrospective Redux 90 - 22』(過去レビュー)をリリースしたDavid McSherryとSteve Cobbyから成るダウンテンポのレジェンドであるFila Brazillia。ダウンテンポを極めたアーティストに依る貫禄の一枚であったが、しかし同年それに追随するように目立たずに配信のみでリリースされたのがこの『Beatless』だ。タイトルが示すように全てがビート無しのダウンテンポ、またはアンビエントな作品で纏められており、何故ベスト盤と対を成すようにこのアルバムを出したのかと疑問と意外性に満ちたコンピレーションなのだが、彼等をダウンテンポのアーティストを決め付けては本質を曇らせてしまうかもしれない。当方もFila Brazilliaの音楽はダウンテンポと思い込んでいたのだが、本作を聞き込んだ後ではそれは彼等の音楽性の一つでしかなく、結局のところダンスであるか否か、またはビートの有無やハウスにブレイク・ビーツ、ファンクやダウンテンポといったジャンルにかかわらず、緩く気怠い雰囲気が彼等のベースとなっており、だからこそアンビエントなスタイルもまた彼等を形成する要素の一つだったのだ。よって彼等のダウンテンポとは異なる側面で魅力を伝える『Beatless』も既発曲+未発表曲で構成されているようだが、前述のベスト盤に負けず劣らず本作も素晴らしい。凛とした弦楽器の響きにスポークンワードを合わせてアルバムの入り口へと案内するような"Vanitas"で始まり、スモーキーなサックスが官能的で荘厳な電子音に神秘的に彩られるムードたっぷりな新曲の"Tone Poem"、パルスのような電子音がうねり放射して抽象的な音響アンビエントを聞かせる"Ambient Apehorn"と、序盤はエレクトロニック性が強いか。カントリー調なスライド・ギターを前面に打ち出して何処か田舎風景的な素朴さのある"Sugarplum Hairnet"といった曲も、アンビエントではなくともこのコンピレーションの雰囲気に上手く溶け込んでいる。荘厳なストリングスを大々的に用いて静かに、しかし重厚でオーガニックなアンビエント感を打ち出した"Van Cleef"、ぼんやりとアトモスフェリックな電子音をミニマルに展開した"New Chaos"など、やはり全体としては流麗にエレクトロニックな響きの方が普段の作風よりも強く現れているか。"Midnight Friends"に至っては鳥の囀りのサンプリングに上下にゆったりとリフレインする豊かな電子音をミニマルに反復させて、現実ではない何処か空想の世界へと導くバレアリック感溢れるアンビエント性は素晴らしい。このコンピレーションによってアンビエントとしても確かな才能を再認識させたFila Brazilliaだが、何故今になってこのような作品をリリースしたのか。昨今のアンビエント隆盛の流れに乗ったとも考えられるが、何にせよ気怠くも心地好い白昼夢を体験出来るような作品集なのだから、Fila Brazilliaのファンでなくともアンビエント好きなら是非聞いてみて欲しい。



Check Fila Brazillia

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| ETC(MUSIC)6 | 22:55 | comments(0) | - | |
Felipe Gordon - Errare Humanum Est (Wide Awake Records:WA-01)
Felipe Gordon - Errare Humanum Est
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
2014年頃から作品のリリースはしているもののEP中心で、アルバムは数多くはなかったコロンビアのFelipe Gordon。それでも近年はShall Not FadeやQuintessentialsにRazor-N-Tape Reserveなど著名なレーベルからのリリースも増え、注目度も増していたのかと思う。そして2023年、彼自身が新たにWide Awake Recordsを立ち上げてリリースしたアルバムが本作『Errare Humanum Est』で、今まで彼の音楽性を全く知らなかった筆者も一聴してインパクトある音にやられて、購入を決めた次第である。過去のリリース元からも分かるようにブラック・ミュージックを下地にハウスやローファイなヒップ・ホップ、時にジャジーだったりダウンテンポだったりをサンプリング主体に組み立てた音楽が彼の持ち味のようだが、本作は一旦はそんな音楽を一つのアルバムに押し込んで集大成的に披露したような作品だろう。先ずは圧を感じさせつつもざらついたビート感が生々しいローファイ・ヒップ・ホップの"Errare Humanum Est"、管楽器のミニマルなフレーズが徐々に魂を持ったように展開し始めて、初っ端から燻り続けるような微熱を帯びたメロウネスにやられてしまう。そのまま流れに乗った先はジャジー・ハウスな"Departing"で、耽美な繊細なピアノの鍵盤ワークに対しぶんぶんと豊かなベースラインがファンキーで、優雅な表情でも力強さを発揮している。煌めくような美しい電子音が滴り落ちるような開始から、強烈なドラムブレイクが入ってきてビートが躍動する"New Beginning"も印象的で、そこから更に鈍いアシッド寄りのベースも加えてどぎついファンクネスで肉体を鼓舞する。再度、素朴なピアノや管楽器の音色がムーディーで、ゆったりと優雅な佇まいをローファイなヒップ・ホップ"Para Jose"で落としつつも、そこからタイトル通りに優雅な鍵盤ワークの下で禍々しいアシッド・ハウスを繰り広げる"Take It, Acid Comes"へと行く流れは、アルバムの中に色々なスタイルが混在し忙しなく感じつつもエネルギッシュにも思われ、何だか心がウキウキとさせられる楽しさに溢れている。他にも甘ったるい男性ボーカルが映える優美かつ骨太なディープ・ハウスの"Treat You Gently"、Kerri Chandlerを思い起こさせるテック系でズンドコ硬めなビート感が肉体を震わすハウスな"What We Gonna Do?"など、ダンスフロアでも映える曲もある。文字だけで受け止めると一見纏まりの無いアルバムのように思われるかもしれないが、ここには彼が今まで取り組んできた音楽がダンスとリスニングという狭間を埋めるように構成され、実に豊かな響きとなってFelipe Gordonというアーティスト性を成り立たせている。彼自身が本当に好きな音楽を、気の赴くままに制作したような、そんなアルバムなのだろう。



Check Felipe Gordon
| HOUSE17 | 22:03 | comments(0) | - | |
Brigitte Barbu - Muzak Pour Ascenseurs En Panne (Circus Company:CCCD112)
Brigitte Barbu - Muzak Pour Ascenseurs En Panne
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
フランスのダンス・ミュージックにおいて幾人か存在するレジェンド的な存在の中でも、特に魔力によって魅了させるようにフレンチ・ハウスの奇才として君臨し続けるJulien AugerことPepe Bradock。DJ活動は決して多くはなく、大量のEPをリリースしているもののそれらも配信には乗らずにレコードでの販売を貫き、また長い活動においてもアルバムは2枚しか存在しない等、制作者としての非常に強い拘りが彼を特別な存在へと仕立て上げているようにも感じる。そんなアーティストが新たに取り組んだプロジェクトがBrigitte Barbuで、2020年には彼にしては珍しくもアルバム『Muzak Pour Ascenseurs En Panne』をリリースしている。そもそもBradock名義でも普通ではない奇天烈な雰囲気を持った変異体ディープ・ハウスを展開していたように個性的な音楽性だったのだが、この新たな名義のアルバムではダンスという拘りさえも捨て去り電子ノイズとサウンド・コラージュを用いた実験的要素の強い音楽を披露しており、アルバムという大きなフォーマットの中で自由に実験を試みたような内容となっている。便宜上アルバムは11曲には分かれているものの区分けにあまり意味はなく、全体を通して40分にも渡るコラージュ主体の壮大な電子音響として楽しむべきだろうか。幕開けからノイズのような音響が吹き荒れる"Dae-Boj DeMoya"で始まりつつも、振動する電子音と穏やかな生音らしき音が刺激的に入り混じり、予想される展開に収束する事なく自由きままにセッションしているかのような無定形な流れ。そこからインタルードとして古いラジオ局から流れてくるようなシンセオーケストラが豪華に響く"Trou Vert 1"を挟み、ギターであろうか情熱的な演奏をバックに訝しい電子音がうねる"Beau Zoo"は躍動する事もなく終始アブストラクトな状態を貫くドローン・アンビエント的でもあり、重苦しい世界観。でまたもやインタールードの"Trou Vert 2"、ボディーミュージック的な重厚なリズムマシンのキックに覚醒的なシンセのリフが反復し、何か緊張感を煽るようだ。"Sainte Amante"ではモジュラーシンセのような刺激的なシンセのうねりに雑踏の声を集めたような呪術的なボイスサンプル、奇妙な弦の音も入り混じりながら精神をトリップへと導くように摩訶不思議で形容のし難いサウンド。"Ray Z"はビートは無いながらもヒップ・ホップ的な感覚の感じられるチョップしたような電子音や、モジュラーシンセの躍動的なうねりによって体感的にはビート感が聞こえてくるようで、最後は穏やかなで美しい電子音も静かに持続してドローン・アンビエント調の"Mistori"によって叙情的な余韻と共に締め括られる。彼らしい一曲だけで魅了させるディープ・ハウスは皆無で、だからこそより大きなアルバムという形でコラージュを用いた一大絵巻の如く壮大な世界を創造した本作は、寧ろいつものBradock名義よりも野心的でありかつ刺激的でもある。欲を言わせて貰うなら、Bradock名義でもディープ・ハウスに特化したアルバムをリリースしてくれたらとも思うが。



Check Pepe Bradock
| TECHNO16 | 17:24 | comments(0) | - | |