2020.01.17 Friday
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2018年10月頃に突如リリースされた本作、Pilar Zetaなるアーティストの初の作品にしていきなりアルバムなのだが、これが現在のニューエイジやアンビエントのムーブメントと共振しながらシンセ・ポップやエクスペリメンタルな成分もあるレトロフューチャーな内容で、デビューにして非常に魅力的な音楽性を発揮している。アルゼンチン生まれのポートランド在住のZeta、聞き慣れないこのアーティストはかつてはファッションデザイナーであり、また芸術家でありも今までに数多くのCDやレコードのアートワークを手掛けたりもしていたのだが、デトロイトのJimmy Edgarと共にUltramajicを主宰し勿論Edgarの作品のデザインも行っていた。そして公私共にパートナーであるEdgarと引っ越した先のポートランドの家で自身の美学を音楽へ投影する事を考え、90年代のアナログシンセサイザーを駆使してEdgarと音楽制作を行うようになったそうだ(結果として本作はEdgarも共同プロデューサーとして名を連ねている)。インスピレーションの元には日本のニューエイジやアンビエント(例えば細野晴臣)、またはArt of Noise等が挙がっており、確かに懐かしさもあるシンセサウンドを前面に打ち出した音楽性でレトロフューチャーなという世界観が相応しくある。ゲーム音楽かロマンス映画の一場面のようなピコピコしたシンセから始まる"Better Learning"、ネオンライトが輝いているようなデジタルで美しいシンセの響き、切なく感情性豊かな旋律は豊かな色彩感覚を帯び、これ以上無い位にドラマティックに展開する。クラブのダンストラック的な構成は皆無で、"Corporate Feng Shui"にしてもリズムは入りつつも幾何学的なシンセの羅列や不規則なキックの入り方で、ややスピリチュアルで胡散臭いシンセの響きが良い意味でニューエイジらしい。弾けるシンセのチョッパーベースから始まる"Mysterious World"はシンセ・ファンク/シンセ・ポップな趣きが強く、この辺りはEdgarが制作に加わっている影響の強さが現れているが、空間演出に付随するサウンド・デザイン的な感覚は芸術家のZetaによるものだろう。そしてラスト2曲の"Universe Waam"や"Clouds To Remember"は、ニューエイジやアンビエントの性質が特に強く、重力場のようなどんよりしたシンセベースに対して浮遊感があり動きの多いメロディーが躍動する前者、幻想的なシンセのリフレインが催眠的に心地好く続き白昼夢に浸るかのような後者と、どちらもドラマティックでありその甘い世界に没頭してしまう。Edgarとの共同制作だけあって豊潤な、しかし人工的でカラフルなシンセの響きを前面に打ち出して、そして感情性を隠す事なく叙情感たっぷりな旋律によって表現したアルバム、デビュー作ながらも非常に魅力的な一枚である。
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