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Jorge Reyes, Suso Saiz - Cronica De Castas (Nigra Sintezilo Rekord:NSR23)
Jorge Reyes, Suso Saiz - Cronica De Castas
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霊的、スピリチュアルという説明が何処か胡散臭くもあるニューエイジ・ミュージックは、しかし昨今のMusic From MemoryやMelody As Truthといったレーベルの働き掛けのおかげで、再燃という形で市民権を獲得しつつある。実際に安っぽいヒーリング・ミュージックと呼ばれるような種類に足を踏み込んだものもあるが、しかし例えばスパニッシュ・ギタリストのSuso Saizの音楽は実験的でありながら深い叙情性と瞑想的なアンビエント性があり、時代に左右されずに聞ける普遍的な質を持っている。本作はそんなSaizとメキシコのニューエイジ系のマルチ奏者であるJorge Reyesによる1991年にリリースされたアルバムで、昨今のニューエイジ再燃に合わせて国内盤が初CD化されたのだ。アルバムタイトルである『Cronica De Castas』とはカースト年代記の事で、スペインに侵略されたメキシコの歴史を音楽絵巻として表現したようだが、詳細は国内盤の解説を是非読んで頂きたい。全編エスノで生楽器と電子楽器から発せられる霊的な響きは前述に関連するものかもしれないが、アルバム冒頭の16分にも及ぶ大作である"Tente En El Aire"でおおよそアルバムのイメージを掴む事は可能だ。くぐもった音響のオカリナからうっすらと浮かび上がってくる静謐な電子音のドローン、そこに静かに民族的で土着感あるパーカッションも加わりながら、まるで未開なる深い森林の中を彷徨うように進んでいく。空間を切り裂くような神秘的なギター、魔術的でもあるボイス、静けさの中にアクセントをもたらす効果音などそれら全てが何処かスピリチュアルで宗教的でもあり、しかし安らぎをもたらすアンビエント性は一級品だ。続く"Puchuela De Negro"では神々しいシンセのアルペジオにReyesによる牧歌的なフルートやオカリナが絡む作品だが、ビートが無いながらも躍動的で、もしビートは入っていれば現在のテクノとしても聞けるような作品だ。"Saltatras Cuarteron"ではSaizの泣くように叙情的ながらも鋭利なギターとReyesによる民族楽器のパーカッションの応酬はバトルのようなセッション性があり、古代の霊的な雰囲気が時空を超えて現代へと蘇るよう。そしてまた8分にも及ぶ大作の"No Te Entiendo"、様々な楽器に様々なエフェクトを駆使して異形な響きを作り出しており、生命を感じさせる打楽器の響きや異空間を創出する電子音にサイケデリックなギター等が抽象的なアンビエント空間を生み出して、中盤からは祝祭のような歌も入ってきて生命の営みを謳歌するように盛り上がっていくドラマ性がある。ニューエイジというとどうしても宗教的なり神秘的なりという点に馴染めない人もいるだろうが、そういった先入観を一切無視して単にこの心地好く平穏を誘う音楽に耳を傾ければ、変なイメージを抜きにしてBGM的な質の高さを感じ取る事が出来るだろう。



Check Jorge Reyes & Suso Saiz
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Eleventeen Eston - At The Water (Growing Bin Records:GBR015)
Eleventeen Eston - At The Water

2007年にブログとして開始し2012年にはオンラインショップとして、そして遂に2013年にはレーベル運営に着手したGrowing Bin Recordsは、リリースしている音楽のジャンル的に一貫性はないものの、昨今のニューエイジ/バレアリック再燃という時代により輝きを放つようなレーベルだ。有名なアーティストの起用や流行を意識した音楽に向かう事は一切なく、ただ単に質の高い音楽によって長きに渡って聞かれる作品を目指しているそうで、その目的によってディスコやファンクにアンビエント、ジャズにフォークやソフトロックなどざっくばらんにリリースを行っている。そのどれもがローファイな淡さやドリーミーな世界観があり、だからこそニューエイジ/バレアリック方面からも評価されるのは自然な流れだろう。さて、本作はオーストラリア在住のEleventeen Estonによるアルバムで、以前にはGrowing BinからAndras FoxとのユニットであるWilson Tanner名義で『69』(過去レビュー)をリリースしたのも記憶に新しいが、そこでは静謐でやや神秘的でもあるアンビエントを披露していた彼が、この新作ではその雰囲気を継承しながらもフォークやソフトロックにダウンテンポ等も取り込みながらより開放感あるバレアリックへと向かっている。オープニングの"C in Sympathy"ではディレイを用いたギターで空間の広がりを演出し、伸びのある情緒的なシンセでドラマティックに染め上げ、ビートレスではありながら躍動感のあるアンビエントでこの先の期待を予感させている。続く"2 d'Or (Cab Chassis)"もギターの爽快な響きと耽美なピアノの引っ張られながら、コラージュ的な変化のあるシンセが夢想へと誘うドリーミーなバレアリック系で、広大で豊かな色彩が詰まった風景が浮かび上がるようだ。ソフトロック的でフォーキーで朗らかな響きのある"The Four Fountains"でも肩の力が抜けたビートを刻んでおり、脱力系の緩い開放感はひたすら快適だ。そこに続く"I Remember"ではサイケデリックな呟きや不穏なSEがバックに鳴っているものの、前面には美しく微睡んだシンセが浮遊して夢の中を彷徨うアンビエントを展開している。そしてオーガニックで笛やらギターの音やらも牧歌的に持続する抽象的なアンビエントの"I Float, I Am Free"、80年代シンセ・ポップを思わせるアタック感の強いドラムと妙に親しみのあるポップなサウンドのダンス・トラックである"Where There Is Rain"、安っぽいドラムマシンがローファイ感を生む郷愁たっぷりなダウンテンポの"Sand Man"など、アルバムにはバラエティー豊かな音楽性が共存しているが、やはりギターやピアノ等を使った有機的で親しみのある響きが全体を一つのモノにしている。Growing Binのファンならば当然として、Music From MemoryやMelody As Truth辺りのバレアリック系が好きな人にとっても、本作が本年度のベストの作品の一つになるであろう素晴らしいアルバムだ。



Check Eleventeen Eston
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Kaoru Inoue - Em Paz (P-Vine Records:PCD-24741)
Kaoru Inoue - Em Paz
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ポルトガルはリスボンにて運営されているGroovementは注目すべきハウス・ミュージックのレーベルの一つではあるが、ここ数年の動きの特徴の一つにYohei SaiやSTEREOCiTIといった邦人アーティストをフィーチャーしている事が挙げられる。それは単に主宰者の日本のクラブミュージックへの興味の現れではあろうが、そんなレーベルがGroovement Organic Seriesと銘打って新たにリリースしたのは井上薫のニューアルバム(元はアナログだが、日本ではCD化された)だ。サブレーベル名からも分かる通りよりオーガニックでライブ感ある音楽性に焦点を当てているようだが、それに倣いこのアルバムも何か霊的な存在を身近に感じるようなスピリチュアルなニューエイジの雰囲気と、そしてゆったりと弛緩したチルアウト/アンビエントへと向かっており、何処かChari Chariらしい国籍を超えたエキゾチック感が打ち出されている。作品の多くは新作ではなく過去にヨガの為に制作された『Slow Motion』等からの音源を再編・再構築した内容であり、決して今の時代に合わせて制作されたわけではないのだが、ニューエイジやバレアリックが再燃する今と言う時代に本作を出す事にこれ程ぴったりなタイミングは無いだろう。アルバムの冒頭は寄せては返す波の音から始まる"Wave Introduction"、そこから生命が萌芽するような豊かなシンセのアルペジオやレイヤに降り注ぎ、いきなりこの世とは思えない現実と空想の狭間で佇むチルアウトな開始だ。ヴァイオリンやアコギにタブラをフィーチャーした"Sunset Salute"は、井上らしい辺境のエキゾチックな訝しい感覚と生命の循環を感じさせるライブ感があり、タブラのリズムは正に生命の胎動のようだ。輝く一日というタイトルが音そのものを表現しているような"A Day Of Radiance"、太陽光を全身で浴びるようなオプティミスティックなノンビート・アンビエントで、ひたすら心地好いシンセの波が放射される。そして再びストリングスやアコギを用いた"Mystic Motion"、これはヨガのゆったりとした動きをイメージしたような有機的なアンビエントではあるが、そのスロウな響きから発せられる艷やかな官能に心もとろけてしまう。そこから続く緑が生い茂る大地の躍動感や爽快感もあるリズミカルな"Healers On Fire"、柔らかくざっくりしたブレイク・ビーツと朗らかなシンセに心弾む"Ceifa"と、ここら辺の肩の力が抜けてオーガニック性の高い曲もChari Chariを思い起こさせる。体の隅々まで浄化されるような癒やしのチルアウトとして素晴らしいのは当然として、パーティーで踊り疲れた後や悩みが途切れない日常の中でも、きっとこの音楽は一時の安息の時間を提供してくれるだろう。



Check Kaoru Inoue
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Terekke - Improvisational Loops (Music From Memory:MFM028)
Terekke - Improvisational Loops
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昨今のバレアリック隆盛と共振するように再評価著しいニューエイジ・ミュージックが、またしてもジャンルを超越しカルト・ミュージックの旧作の発掘から新作のリリースまで抜群のセンスを見せるMusic From Memoryによって再評価の後押しをされるべき作品があるとしたら、それこそこの作品だろう。手掛けたのはニューヨークのアーティストであるMatt GardnerことTerekkeで、過去にはロウ・ハウス/インダストリアル系のL.I.E.S.からも粗い音質のマシンビートを刻むロウ・ハウスや残響活かしたダビーな作品をリリースしていたりするも、一転本作ではノンビートのアンビエント/ニューエイジへと振り切れて桃源郷へと迷い込んだような夢の世界を展開している。本人の説明では2012年頃に受講していたヨガクラスに影響を受け、デジタルシンセやリバーブにルーパーエフェクト用いて制作したそうだ。イントロとしての1分程のぼんやりとしたコード展開でアンビエントへの入り口を作る"another"で始まり、圧巻はA面を丸々占める19分にも及ぶ"NuWav2"だろう。大きな展開は殆ど無くリバーブやルーパーエフェクトを活かした音の揺らぎや残響がぼんやりと柔らかいドローンとして伸びながら、淡く甘い音の響きで現実の時間軸から徐々に離れていくような無意識の感覚へと誘い込んでいき、完全なる瞑想の境地へと辿り着く平穏なアンビエントの快適性はここまでのものはそうは無いだろう。B面には1〜4分程の6曲が収録されており、大聖堂の中で残響が反射して荘厳な輝かしさが充満するアンビエントの"wav1"に始まり、動きのあるアルペジオには躍動感を感じつつもふんわりと上昇していくような清々しい爽快感のある"arrpfaded"、抽象的な音像の中に美しい宝石が光り輝くよう電子音が鳴る"soft g"、オーケストラ風のメロディーとそれに被さってくる電子音のレイヤーがニューエイジのスピリチュアル性を生む"220+g"など、それぞれ異なる姿を見せながらも陶酔感と言う点に於いては一切の切断は無い。ミニマルな構成で非常にシンプルな作品ながらも、心の穏やかさを保ちながらアンビエント/ニューエイジとしての快適性に振り切れた作品は、新作としてはそうは無いだろう。流石MFMの審美眼と言う事もあり、アンビエント好きであれば本作を見逃す事はもったいない。



Check Terekke
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Marcel Dettmann - Selectors 003 (Dekmantel:DKMNTL-SLCTRS003)
Marcel Dettmann - Selectors 003
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世界有数のフェスティバルとして評価の高いDekmantelがレーベルとしても始動して、そして新たに立ち上げた『Selectors』はMotor City Drum EnsembleやYoung Marcoと実力派アーティストを招きながら、例えば彼らのルーツや埋もれてしまった名曲等を紹介する意味で非常にコンセプト性の強いシリーズだ。そしてその第三段はベルリンテクノを代表する一人でBerghainでもレジデントを行うMarcel Dettmannが担当していているが、DJプレイでは最新系のテクノから古いシカゴ・ハウスからエレクトロまで網羅する彼がこのシリーズでは一体どんな選曲を行うのか興味深かったのだが、蓋を開けてみればインダストリアルやポスト・パンク中心と驚きを隠せない。本人の説明では"プレ・テクノ・コンピレーション"との事なので、その意味では彼にとってのルーツの紹介、そしてテクノに影響を与えた音楽の紹介という点で面白さがあるだろう。アルバムの開始はエレクトロニック・ボディ・ミュージック(EBM)を代表するユニットの一つ、Front 242の1985年作である"Don't Crash"で始まるが、破壊的なドラムマシンやノイジーなシンセなど退廃的なムードながらも肉体性もあるグルーヴ感は今で言うダンスとロックの繋ぎとしても成り立っており、そしてこの荒廃した雰囲気はDettmannのDJプレイにも感じられるものだ。The Force Dimensionは当方は初耳のユニットだが、"Algorythm (Manipulating Mix)"はパンキッシュで痺れるビート感ながらもポップなメロディーやベースの使い方はシンセ・ポップのキャッチーな響きもあり、かなりダンス色の強いEBMとして魅力的だ。逆にフィラデルフィアのインダストリアルユニットのExecutive Slacksによる"So Mote It Be"は、鈍い朽ちたようなマシンビートに呪詛的で呻き声のようなボーカル、そして金属がネジ曲がるようなサウンドを織り交ぜて、一般的にイメージする破壊的なインダストリアルというものを伝えてくれる。そしてただ単にオリジナルを収録するだけではなく、A Thunder Orchestraの"Diabolical Gesture (Marcel Dettmann Edit)"はDettmannがDJセットにも組み込みやすいようにエディットを行っており、この場合だと原曲よりもBPMを上げてパーカッシヴなロウテクノ風に変換しているのも面白い。他にもCabaret VoltaireやMinistryなどインダストリアルの大御所からマイナーなユニットまで網羅しているが、しかしどれも痺れるような電子ビートを軸に破滅的な金属サウンドからウキウキするシンセ・ポップまで、この手のジャンルの幅広さを伝えるような選曲になっており、正に『Selectors』としての役割を果たしている。テクノを期待していると少し肩透かしを喰らうかもしれないが、アーティストのルーツを掘り下げながら未知なる音楽に出会う機会を作ってくれるだろう。



Check Marcel Dettmann

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D.K. / S.K. - D.K. / S.K. (Melody As Truth:MAT9)
D.K. S.K. - D.K. S.K
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近年のバレアリック・ミュージックの隆盛は目を見張るものがあるが、そのムーブメントを作る一つのレーベルとしてMelody As Truthを欠かす事は出来ない。元Discossessionのメンバーであり近年はGaussian Curveとしても一躍名を挙げたアーティストであるJonny Nashが主宰するレーベルだが、そのレーベルのもう一人の中心人物がオランダで活動するSuzanne Kraftで、同レーベルをベースに穏やかな静けさの中で夢遊する有機的なアンビエントをリリースしている。そしてまた別に静謐なバレアリック/アンビエント方面で評価を集めているDang-Khoa ChauことD.K.というアーティストがいるが、このS.K.とD.K.がコラボレーションした本作はその両者に期待する音楽性が見事に融和しており素晴らしい。鈍いスネアや優雅なハイハットは間を作りながらゆったりとしたビートを刻み、そこに波紋が広がっていくような零れ落ちる鍵盤のメロディーや美しいパッドが抽象画のようにぼやけて彩りを行う、物憂げなニューエイジ風の"Xerox"からして音の余韻が美しい。そして神秘的な鍵盤のフレーズから始まる"Burn"はそこにリバーブのかかったピアノやギターらしき音を導入しながら、その数を絞る事で繊細に音の間が美しく映えて白昼夢に浸るかのようなアンビエントだ。そしてタブラらしきパーカッションを用いて何処か寺院のようなスピリチュアルな響きもある"No Man's Ground"は、アジアンな打楽器も取り入れる事でエキゾチックな雰囲気を携えつつも、夢の中を彷徨うようなイマジネーションを刺激するニューエイジ色が強いか。"Hammond Blue"では透明感のあるシンセの粒が舞い踊る中で優雅なパッドがアクセントを作る事で豊かな色彩を伴うビートレスながらも動きのあるアンビエントで、そして"Bricks In White"において抽象的なサウンドコラージュに合わせて静謐なピアノのフレーズを被せてミステリアスに展開していくニューエイジな作風は神々しく、最後の"Fade"では何処までも伸びる美しいドローンの上にセンチメンタルなメロディを配して消え入るように静かに、しかし感情性を高めていく。全体を覆う軽くリバーブの効いたもやもやとした音響の中に、音と音の間の余白の美しさが際立つようなシンプルな構成が、すっきりとしながらも気怠い安眠を誘うようなアンビエント/バレアリックな世界は期待以上。寝起きのBGMとしても、昼下がりのうとうとする時間帯にも、夜中寝る前の時間帯にも適したアルバムだ。



Check D.K. & Suzanne Kraft
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Moonboots - Moments In Time (Music For Dreams:ZZZCD0121)
Moonboots - Moments In Time
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デンマークはコペンハーゲンからバレアリック・シーンを先導するレーベルの一つ、Music For Dreamsからまた素晴らしいコンピレーションが到着している。手掛けているのはマンチェスターでAficionadoというレーベル/パーティーを主宰するバレアリック系のアーティストであるMoonbootsで、MFDのレーベル紹介としてではなくあくまでバレアリックという音楽性に沿って選曲を行っていて、これがまたジャンルや時代を超越してムーディーな世界を作り上げており素晴らしい。ミックスではなく敢えてコンピレーションな事で、それぞれの曲毎の良さを十分に体感出来る、またそれだけにどの曲もそれだけで成り立つ質の高さが保証されており、Moonbootsの審美眼が光っている。アルバムはシンプルなピアノのメロディーとゆったりと浮かび上がるストリングスによるインスト曲の"Simple Trust"で始まるが、静謐で穏やかな響きは何処までも澄んでいて、この時点でもう気分はうっとり。続くはDavid Darlingによる"Cello Blue"で、鳥の囀り等のフィールド・レコーディングに加えチェロとピアノの落ち着いて優雅な旋律を聞かせるニューエイジ色の強い曲だが、スピリチュアル性に向かうでもなくあくまで自然体な響き。そしてJuly Skiesの"The Softest Kiss"、Beginの"Names In The Sand"とアコースティック・ギターの爽やかな響きが強調されたフォーキーな曲も続き、エヴァーグリーンな豊かさも聞かせる。一転してクラブ・ミュージック側からの選曲としてはFarbror Resande Macによるサイケデリックで幻惑的なダウンテンポの"Janne"、Gryningenによるしなやかなストリングスが延びメロウなギターが広がっていく海沿いのBGM的な"Fran Andra Hand Till Stranderna I Nice"もあり、ジャンルとしての制約から解放されて美しくメロウな曲が続く。後半ではジャズトリオであるBombay Hotelによる年を重ねて熟成されたような深い哀愁が滲み出るフュージョンの"Between Leaves"、Matt Deightonによるジャズの影響が感じられるフォーキーな"Tannis Root"もあり、円熟味は高まっていく。そしてラストはMFDでも活躍するThe Swan & The Lakeによる"Waiting For Spring"、可愛らしいマリンバに先導され浮遊感のあるシンセが広がっていく天上一直線なニューエイジ/アンビエントなこの曲はこの世とは思えない程に美しい。ここにはジャズやフォーキーなロックにフュージョン、アンビエントやダウンテンポにニューエイジなど複数のジャンルの音楽が収録されているが、それらはある種の雰囲気で統一されており、その感覚こそバレアリックを形成するものだ。特に本作ではメランコリーという感情が強く打ち出されており、ダンスで踊り疲れた時や忙しない日常の癒やしとなるであろう音楽がここにはある。



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Nightmares On Wax - Shape The Future (Warp Records:WARPCD275)
Nightmares On Wax - Shape The Future
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ダンス・ミュージックという荒波に揉まれる業界において、彼ほどマイペースで自然体という言葉が似合うアーティストはそう多くはないだろう。George EvelynによるNightmares On Waxは求道者としてダウンテンポを追求してきたアーティストで、ダブやレゲエにソウルやファンクなどのエッセンスも咀嚼しながら、溶けるように甘美でメロウな音楽を制作してきた。特にWarp Recordsという革新的なレーベルの最古参でありながら、その最新を切り開くレーベルの音楽性とは相反するように流行の波はそっちので心身共にリラックスさせるダウンテンポを追い続ける姿勢は、アーティストとして強い信念に基づいた事を考えると信頼の於ける存在だ。人気アーティストでありながらこの新作も前作から4年半と随分と長い時間が経過するほどにのんびりとした活動ではあるが、それだけの時間が経過しても多少のムードの移り変わりはあっても音楽的に大きな変化は見られない。アルバムは先行EPである"Back To Nature"から始まるが、しっとりとしたピアノや物哀しいストリングスに深みのあるボーカルも導入したダブ寄りのダウンテンポは正にNightmares On Waxのクラシカルな作風だが、前2作品の開放的で陽気なムードに比べるとじめじめと湿り気を帯びて内向的だ。続く"Tell My Vision"はもう少し小気味良いリズムにゆらゆら揺れるがしっかりと低音が支えとなり、二人の掛け合いのような優しいMCによって心地良いグルーヴを作っている。タイトル曲の"Shape The Future"はメロウの極みだろう、闊歩するようなシャッフル調のリズムに力強いピアノや幻想的なストリングスを配し、ゆったりとしながらも確実に身体を揺らす湿り気を帯びたR&B調のダウンテンポだ。"Tomorrow"辺りも彼等の古典的とも呼べる気怠く生温いダブ・サウンドでじめじめとしながらも甘美な空気が滲み出ているが、もう一つの先行EPである"Citizen Kane"は力強いゴスペル・コーラスをはじめ優雅なストリングスや躍動感に満ちたドラムのリズムも一体となり最早ダウンテンポではなく祝祭感もあるソウルと言った趣だ。どの曲も基本的にはリラックスしていてメロウなムードである事に変わりはないが、全体的にはシルキーな優しい響きがありメジャーなR&Bにも接近したよう作風で、良い意味でポピュラーな印象だ。驚くべき斬新性がある訳でもないが、日常的に聞きたくなるしとやかな音楽は正にダウンテンポとして機能している。



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D.K. - Distant Images (Antinote:ATN 038)
D.K. - Distant Images
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2017年はMelody As TruthのSuzanne Kraftとの共作、2018年はMusic From Memory傘下のSecond Circleからも新作をリリースするなど、ニューエイジ/アンビエント系では知名度を一躍高めているDang-Khoa ChauことD.K.。ロウ・ハウス寄りなマシンビート性が強い45 ACP名義、The Trilogy Tapesからの更に実験的でインダストリアル性もあるSlack DJs名義と、その名義毎に異なる音楽性を披露しているが、2016年にAntinoteからリリースされたD.K.名義の『Island Of Dreams』(過去レビュー)を聞けば分かる通りこの名義ではドリーミーで黄昏時のメランコリーが滲むダウンテンポな作風だ。本作は同様にAntinoteからの新作となればその路線を踏襲する事が期待されるが、冒頭の"Keyboard Study"からして"Electric Counterpoint"風なメロディーを反復させながらそれを割って入ってくる情緒的なストリングスや耽美なピアノが夕暮れ時のメランコリーを描き出す印象的な作品だ。静かに引いては寄せる波のように繰り返し感動がやってくるノンビート・バレアリック、先ずこの曲だけでも一気に耳を惹き付けられる事だろう。本作では曲毎にイメージは異なっており、"Days Of Steam"では弦楽器や木琴らしき音色がどこか異国の長閑な街並みを描写した音楽と言うか民族的な感覚もあり、そして同様にマリンバと思しきフレーズが心地良く弾みドリーミーなシンセが伸びていく清々しさ溢れる"Leaving"と、開放的な感覚に長けている。"Shaker Loops"でもやはりマリンバの連打が用いられているがここまで来ると現代音楽のミニマル的と雰囲気もあるが、胸を締め付けるような切ないメロディーが入ってくればシネマティックな作風へと変化する。そしてラストの"Distant Images"は鳴きのギターサウンドや感情的なピアノ、そしてカモメの鳴き声なども導入したいかにもD.K.らしいバレアリック/ニューエイジ風で、感動的な映画のワンシーンを見ているような余りにもメランコリーな響きが琴線に触れるラストを締め括るに相応しい曲だ。エキゾチックからトロピカルまで横断する音楽性は世界を旅するような感覚もあり、ゆったりと風景が移ろいゆく正にDistant Imagesなミニアルバムだ。



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The Swan And The Lake - Clouds + Moments (Music For Dreams:ZZZCD0127/107)
The Swan And The Lake - Clouds + Moments
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明らかに賑わいを見せているバレアリック・シーンではInternational FeelやMusic From Memoryなど新興勢力の台頭に依るものが大きいだろうが、その一方でより以前からバレアリックを深掘りしているレーベルにも注目が向けられる機会もあり、例えばデンマークはコペンハーゲンのMusic For Dreamsは2001年から運営を続けているこのジャンルでは老舗とも言える名門レーベルだ。ダンスやロックにジャズやヒップ・ホップにその他色々なジャンルに渡って作品をリリースしているが、それらはチルアウトやバレアリックに包括されるべき内容で、長い運営を続ける中でこの種の音楽の拡張と深堀を行っている。そんなレーベルから今一押しなアーティストがデンマークのEmil BreumによるThe Swan And The Lake(「白鳥と湖」、なんてアーティスト名なんだ!)で、2016年と2017年にはアナログで『Moments』と『Clouds』をリリースしてちょっとした注目を集めていたが、この度目出度く2枚セットでのCD化が成されている。The Swan And The Lakeの音楽は何と言えばよいのか、ほのぼのとした雰囲気の中で何処までも穏やかな地平が続くリスニング仕様な音楽は、アンビエントと言い切るのも難しくもニュー・エイジぽさもありチルアウトの落ち着きもあれば、開放的なバレアリックなムードもある。オープニングは悲哀の強いキーボードと控えめに挿入されるコンガに泣きを誘われる"Fresh Food"からしてしっとり情緒的な出来だが、逆にノンビートながらもLarry Heardぽさもある安らぎのシンセコードを展開しバレアリックな爽快感のある"Clouds Over Osterbro"もあったり、透明感のある美しいシンセを丁寧に聞かせながらパーカッションやマリンバ等の温かみのある響きも用いて人間の感情性を伝えるような作風だ。特に美しいバレアリック性が強いのは"Summer In December"だろう、青空の中に消えてしまうような美しいシンセが浮遊しながらそこに優しさに包まれるスパニッシュ・ギターが歌うような開放感抜群のフローディング・アンビエントは、その無重力感もあって何物にも束縛されない。または"Deep Red"のようにシンセが層になったようなドローンが持続する抽象的なアンビエント、嬉々としたマリンバがダンスを踊るようなクラシック的な"Moment Of Lost Swans"、味わい深いスパニッシュ・ギターにより夕暮れ時の海辺で感傷に浸るような"Dive"、映画のワンシーンに使われるようなロマンティックで情感たっぷりな歌モノの"Weather"など、意外にも曲毎に作風の変化を見せたりもする。そんな幅の広さはあってもThe Swan And The Lakeのシンプルな美しさはどの曲に於いても不変で、曲毎に風景を喚起させるシネマティックな作風によって夢の中を彷徨うようだ。CD化に際してはアナログ未収録の曲も追加されており、これは是非ともお勧めのアルバムである。





Check The Swan And The Lake
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