Nightmares On Wax - Back To Mine (Back To Mine:BTMCD001)
Nightmares On Wax - Back To Mine
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普段は真夜中の熱狂的なパーティーでダンスさせる事を目的としてDJが、しかし逆にそんな喧騒から離れてパーソナル性の強いリラクシンな選曲を行う事をコンセプトにした『Back To Mine』シリーズは、1999年から開始して遂に20周年を迎えている。そんなアニバーサリーの作品のセレクターとして選ばれたのはGeorge Evelyn率いるNightmares On Wax。常に革新的であり続けるWarp RecordsというレーベルにおいてAutechreと並ぶ最古参の一人であるが、AutechreがWarpという音楽性を象徴するように常に変革と進化を繰り返すユニットなのに対し、このNightmares On Waxはスローライフを地で行く仙人か。この『Back To Mine』に対しても敢えてリスニング系を…というプレイではなく普段通りの選曲がそのままはまってしまう存在で、デビューから一貫してレゲエやダブの要素も兼ねるダウンテンポを軸にした音楽性だからこそ、このシリーズのアニバーサリーに抜擢されたのも納得だ。勿論変革の少ないアーティストだからといって懐古的な音楽性という事でもなく、ダウンテンポを徹底して追求しながらもここ数年にリリースされた作品を中心にミックスしており、最新の音楽の中から彼の包容力とメロウネスに叶う選曲によってNightmares On Waxの世界観を作り上げている。アルバムはUKマンチェスターの若手デュオであるChildren Of Zeusによるねっとりしたヒップ・ホップのビートとニューソウル風なメロウな歌による"Fear Of A Flat Planet"で始まり、Ladi6によるざっくりリズミカルなヒップ・ホップのトラックに甘く誘うような歌にしっとりするソウルフルな"Ikarus"、Creative Principleの優美なシンセ使いでジャジーな感もあるリズムで魅了する"Caught In The Middle"と、序盤は想定通りで正にこれぞダウンテンポという流れ。Bosqのアフロ/ラテンの感覚もあるディスコ・サウンドな"Step Into Midnight"からややグルーヴは強くなり、エレクトロニックなディスコトラックに妖艶な歌によって官能性を増すDim Zachの"Innocence"、アシッド・ベースが現れながらもメロウなジャズ・コードや優雅なストリングスがエモーショナル性を発揮するChieftainの"Out Of My Life"など、ここら辺の流れは上げ過ぎる事ないながらも明確に4つ打ちのダンスの時間。そしてSoulphictionの繊細なエレピとスモーキーな響きから黒さ溢れるディープ・ハウス"Gotta Have It"、力強いキックを刻みながら美しいコード展開や華々しいシンセに彩られるメロウネス全開の"Russia (Nightmares On Wax Remix)"と、終盤は完全にハウス・ミュージックに満たされる。余りにも素直で分かり易い展開に対し驚きを感じる事は全くないが、そもそもリラックスする事が前提なMIXCDシリーズであり、そのNightmares On Waxの音楽性自体がメロウでソウルフルなダウンテンポなのだから、これ以外の正解は無い位に的確にコンセプトに沿った作品になっている。ダウンテンポ好きにとっては長年愛すべき音楽になるのは当然として、落ち着けるBGMが欲しい人にとっても幅広く訴求する選曲で、期待通りのNightmares On Wax節で素晴らしい。なお、CDでは2枚組とミックスされていないディスクも収録されているので、DJにも便利な仕様になっている。



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| ETC4 | 09:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Cass. - Postclub Prism (Into The Light Records:ITLIntl01)
Cass. - Postclub Prism
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ニュー・エイジやアンビエントといった音楽の再興が盛り上がる電子音楽のシーンにおいて、それを語る場合において欠かす事の出来ないレーベルは複数あるが、2012年にギリシャで設立されたInto The Light Recordsもその一つだ。活動の当初はダンスかリスニングか、エレクトロニックかオーガニックかにこだわらずにギリシャの埋もれた秘蔵音源の発掘に力を入れてVangelis Katsoulisを始めとしてAngelo Ioakimoglu(過去レビュー)やAkis(過去レビュー)といった過去のアーティストの秘蔵音源のコンパイルを中心としていたが、そこから遂に過去音源ではなく新しい音楽を世界へとリリースすべく新しいカタログナンバーも付けたシリーズを開始したが、その第一弾が本作だ。手掛けているのはドイツ人であるNiklas Rehme-SchluterことCass.で、まだ27歳位と比較的若手の世代ではあるが既にInternational FeelやEmotional Responseといった著名なレーベルから電子とオーガニックの響きが共存したバレアリックな音楽をリリースしており、注目を集め始めている存在だ。そして本作によってその評価は決定的となるに違いない。光とロマンスをテーマにした本作は、プリズムが伸びる美しいジャケットのように音もクリスタルの煌めきのような電子音が用いられており、ノンビートの"1000 Superdolphins"では透明感のある電子音響の中から陽炎のようなギターも切なく湧き上がりぼんやりとしながらも情緒に溢れている。続く"The Diary"ではミニマルなシンセのリフに繊細ながらも多層にシンセやギターが被さりながら、ドローン色の強い夢現なアンビエントを展開する。"Leaving"ではスローながらもジャジーで生っぽいリズムも入ってくるが、それよりも悲哀に満ちたシンセは咽び泣くように感情を吐き出す点に耳は惹かれ、現実と夢の世界の狭間を夢遊する。ぼんやり抽象的な濃霧のアンビエント層が広がる"Painful Love In 96Khz"は、ただただ意味もなくふんわりとしたシンセのレイヤーが牧歌的な雰囲気を作り上げており、心を空っぽにしてその幻夢の世界に浸れる事が出来るだろう。そしてノイズにも近いサイケデリックなドローンが続くインタールードの"Chromakey Interlude"を通過した後には、切ないストリングスや幸福感のある朗らかなシンセが絡み合って可憐に彩る"Be My Blessing And My Lesson"によって何処までも緑の草原が広がる牧歌的なムードに包まれて、現実の時を忘れてゆっくりとした時間軸の中に逃避する事だろう。基本的にはビート無しのアンビエント/ニュー・エイジで統一されており、淡い色彩が正にプリズムの様に広がる幻想的で美しいサウンドがドリーミーで、汚れの無いピュアな感覚が素直に伝わってくる。2018年のレビューには間に合わなかったものの、本来はその年のベストにも推したかった程に素晴らしい。



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| ETC4 | 20:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Musica Esporadica (Nigra Sintezilo Rekord:NSR-24)
Musica Esporadica
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アンビエントやニュー・エイジの再考/再興が著しい電子音楽のシーンにおいて、神秘的でありながら深い叙情性によって心に染み入る音楽を制作するSuso Saizはそのムーブメントを本人が意図せずとも結果的に牽引しているアーティストの一人だ。その為新作のリリースのみならず過去の作品も積極的に再発や編纂されており、その流れの一環になるのがMusica Esporadica名義では唯一の作品である本作だ。リリースされた1985年当時はSaizは歌手のMaria VillaとパーカッショニストのPedro Estevanと共にOrquesta De Las Nubesというバンドを組んでおり(2018年に『The Order Of Change』(過去レビュー)というコンピレーションがMusic From Memoryより発売されている)、更にそれが発展してより辺境音楽らしい神秘性にミニマルの性質等も取り込んだプロジェクトがこのMusica Esporadicaだ。前述の3人に加え、フレームドラム奏者のGlen VelezとLayne Redmond、そしてスペインのギタリストであるMiguel Herreroが加わったこのプロジェクト、結果的には本作のみしか歴史に残す事は出来なかったがたった一枚の作品だからこそ現代という時代の中でより強い視線を向けられる事にもなっている。コンガやカリンバの民族的であり軽く爽快に広がるパーカッションが心地好い"Musica Esporadica"、SaizやHerreroによる繊細で掴みどころのない神秘性を生む透明感のあるギターや電子音響が浮遊しながら、そこに祈りを捧げるような声も加わってひたすら静かに漂流する如く12分にも渡ってアンビエントの海を漂う。"I Forgot The Shirts"ではマリンバとギターの音階やミニマル性は現代音楽のミニマル、もっと言えばSteve Reichを強く思い起こさせる作風で、囁くような声も歌というよりはミニマル性を強めるリズム的に用いられており、繰り返しという構成ながらも少しずつ変化を行い実に豊潤な響きを生み出している。再び"Meciendo El Engano"は静けさが支配するニュー・エイジ色の強い曲で、どんよりとしたフレームドラムが薄っすらとリズムを刻む中で、そこに線の細い浮遊感あるギターや透明感のある綺麗な電子音、可愛らしいヴィブラフォンがゆったりと絡み合い溶けていくようで、穏やかな空気がゆっくりと満ち溢れて安堵する。そしてどこか古代的な感覚もあるドラムのリズムに肉体性なり生命力を感じる"Combustion Interna"、そこにマリンバのミニマルな音階が動きを作り電子音が豊かな色付けを行っていくこの曲は、現代音楽のミニマルに影響を受けながらもバレアリックな雰囲気もあり心も自然と弾む。僅か4曲だけではあるがそこにはミニマルに民族音楽、アンビエントやニュー・エイジといった要素が含まれており、それらが一体となった霊性サウンドは正にSaizの音楽そのもの。プロデュースはSaizなのだからそれも当然で、実質Saizの作品と呼んでも過言はない名作だ。



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| ETC4 | 08:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Grandbrothers - Open (City Slang:SLANG50126)
Grandbrothers - Open
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2014年のデビュー作である『Ezra EP』(過去レビュー)はGilles Petersonを含む多くのDJに絶賛され、一躍時の人となったGrandbrothers。Erol SarpとLukas Vogelから成るこのデュオはリズミカルなプリペアド・ピアノとクラブ・ミュージック的なプログラミングを武器に、現代音楽やモダン・クラシックを咀嚼したハウス・ミュージック性のある音楽で注目を集めたが、その後のアルバムではそういったクラブ・ミュージック性を排除してよりクラシックな作風へと向かっていた。そして待望の2017年リリースのこの2ndアルバムもやはりというか前作の流れを引き継いで、打楽器的なプリペアド・ピアノや繊細な美しさの光るグランド・ピアノの音色を軸に、前作以上に静けさの間が際立つリスニング志向となっている。アルバムはプログラミングによる打撃音とプリペアド・ピアノの打撃音で幕を開ける"1202"で始まり、早速音の数を絞りながらも重厚感のあるグランド・ピアノが壮大さを演出し、これからのストーリの大きさを予感させるような雰囲気だ。バックにパーカッションが硬いリズムを刻む"Bloodflow"はややエレクトロニカ風でもあるが、ピアノのコードやメロディが重層的に被さってくると途端に悲哀が漂うミニマル性もあるクラシックな響きへと変貌する。"Long Forgotten Future"は比較的電子音が強く現れた曲で、ピアノが連打されながらも引っかかりのあるキックやパーカッションはダンスビートに近く、控えめながらも鈍い電子音が唸っていてピアノの美しさをより際立たせている。その一方で"Honey"ではリズム的なプリペアド・ピアノとメロディー的なグランド・ピアノを対比的に用い、"Alice"では両者が調和するようにそれぞれを異なるメロディーで被せて、ピアノのオーガニックな美しさを印象に刻ませる。アルバムは恐らく多くのファンが期待している通りの、つまりは1stアルバムの延長線上にあるピアノを軸にクラシックや現代音楽にアンビエントといった成分を含んだ音楽であり、ある意味では安心感を覚える。がしかし、1stアルバムの時にも感じたように彼らの音楽は個性的が故に完全に形成されてしまっているため、これから進化する先があるのだろうかという懸念を感じないわけでもない。



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Kode9 & Burial - Fabriclive 100 (Fabric:fabric200)
Kode9 & Burial - Fabriclive 100
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ロンドンのクラブ兼レコードレーベルであるFabricが2001年から長きに渡り送り出してきた4つ打ち中心のFabric、そしてブレイク・ビーツ等を中心にしたFabricliveというMIXCDシリーズも、それぞれ丁度100作目をもって完結した。20年近くにも及ぶこれらの作品はクラブ・ミュージックのこの20年の歴史を体験出来ると言っても過言ではないが、その最後の作品もリリース前から話題沸騰。というのもベース・ミュージックやダブ・ステップのパイオニアでもあるKode9、そしてそのミステリアスな存在もあって特別な存在感を放つBurialがDJを担当しているのだから、普段この方面に馴染みの無い人達にとっても興味を惹かれるのは極自然な事だ。特にBurialにとっては販売されるMIXCDとしては初の作品であり、また普段DJを披露する事も無いわけだから、その意味でも非常に特別な作品である。そしてその音楽はある意味では愉快痛快、また一方では支離滅裂で、ダブ・ステップからドラムン・ベースにグライムやジューク、テクノからアシッドにハードコアからエレクトロなどを用い、ジャンルの壁を壊しながら縦横無尽に暴れまくる展開はFabricliveというシリーズを総括しているようでもある。正直二人がどの選曲を担当しどのようにミックスしたのかという事は伝わってこないが、持続性を無視した変幻自在で激しいビートの変遷がただただ衝動的に体を突き動かし、しかし陰鬱でダークな世界観の中にはひっそりとメランコリーが紛れ込んでいる。ちらほらと微細なノイズも聞こえるのはいかにもBurialらしい演出で現実が霞んで消え行くような感覚も覚えるが、獰猛に切り込んでくるレイヴ全開な激しいビートに目を覚ませられ、猥雑とした音楽観を目の前にすれば踊らずにはいられないだろう。特に中盤のレイヴを象徴するハードコア・ジャングル・クラシックの"Drug Me"からどぎついアシッド・トランスの"Black Acid"へと繋がる快楽的なハイエナジーの瞬間は、このMIXCDの中でも最も印象に残る場面だ。半ば理性的な展開も無視した圧倒的な勢いの最後には、何も残らない焼け野原が広がっているようでもあるが、それはFabricシリーズの終焉を迎えた事を示唆する如くでもある。個人的な思いではこのMIXCDを聞いた上で彼らがDJとして来日したとしても恐らく聞きに行く事はない。というのもやはり展開が唐突過ぎてテクノやハウスの永続的に続くグルーヴを感じられないからではあるが、しかしまあ長く続いたMIXCDシリーズの最後に花火を打ち上げる的な派手な作品としては面白いと思う。



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| ETC4 | 11:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Fabrizio Fattori - Mediterranean Africa (Best Record:BST-X052)
Fabrizio Fattori - Mediterranean Africa
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ダンス・ミュージックの界隈にて盛り上がるバレアリックなムーブメントは、それは現代に生まれた新しい音のみならず時代から忘れ去られた過去の音楽の掘り起こしにまで及び、そのおかげもあって当方のように過去の作品に対し造詣が無い者にとっては新たなる出会いが多いこの頃。本作もそんなリイシューの一つで、Fabrizio Fattoriによる1985年作である『Baraonda』と『Appunti D'Africa』からの再収録に加え、更には未発表曲も収録した最初期作品のコンピレーション的なアルバムだ。Fattoriは80年代から活動するイタリアのプロデューサーかつDJで、アフロからコズミックにイタロ・ディスコやファンキー・ハウスまで手掛けていたようだが、特に日本においては知名度も無いようで当方も含めて本作で初めて存在を知る人も多いかもしれない。しかし今まで知らなかった事がもったいない位に音楽自体は素晴らしく、先ず未発表曲の"Running On The Nile"は打ち込み系のディスコ・ファンクといった趣きで、どたどたといなたいリズムマシンがビートを刻んでいるものの快楽的なイタロなベースラインに甘いシンセやピアノの音色が絡んで、古い時代の空気感ながらもねっとり絡み付くような人情味溢れるダンス・トラックからして魅力的だ。対して"Leg Pulling"は安っぽいスラップ・ベースや雄叫びのような歌も相まってアフロ・ファンク化しているが、ブラス系の音色やまろやかなシンセの響きなど彩りの良い装飾によって今で言うバレアリック感も湧き出ている。メランコリーなピアノと木琴らしきリフが印象的な"Babe Black"は、そこから熱き感情が猛るサックスやブイブイとしたシンセベースも加わり非常に情熱的なディスコだが、その別バージョンとなる"Babe Black (Night Version)"ではリズムは抜かれる事でメロディアスな面が際立ってドリーミーなインストになっている。もう一つの未発表曲である"Bara-Hum-Ba"も奇妙な歌や生々しい土着的なパーカッションがアフロ感を生むディスコだが、エレガントなピアノのコードや熱いサックスや笛など色々なメロディーがかわるがわる出てきて、レトロな空気が溢れるマシン・ファンクでもある。最後の"Babihe"はエキゾチック感溢れるパーカッション使いながらも、爽快なギターや透明感溢れるギターに清々しい歌の効果もあって青空広がる海岸沿いをドライブするようなトロピカル感に満たされており、現在のバレアリックに合わせても違和感は無いだろう。音自体は流石に時代感が強く安っぽいシンセ・ファンクやイタロ・ディスコといった印象は残るものの、それでも尚心に沁みるメロディーセンスの良さや解放的なバレアリックなムードは素晴らしく、時が経っても色褪せない魅力がここにある。



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| ETC4 | 19:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Jon Hassell - Listening To Pictures (Pentimento Volume One) (Ndeya:NDEYA1CD)
Jon Hassell - Listening To Pictures (Pentimento Volume One)
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幾つになっても枯れない意欲と才能があれば素晴らしい音楽は生み出せる、そんな事を成し遂げた分かりやすい一例が本作。81歳という高齢のJon Hassellはトランペッターかつコンポーザーであり、Terry Rileyらの現代音楽やミニマル・ミュージックに影響を受けつつインド古典音楽にも傾倒し、古典と未来を繋ぐ試みを行う事になる。それが結実したのが電子音楽を嗜む方面からは有名なBrian Enoとの共作である1980年の『第四世界』で、今でこそ珍しくないアコースティックと電子的トリートメントの融合による何処でもない民族的音楽と呼ぶべきアンビエント・ミュージックを成し遂げていた。その後の長いキャリアについては割愛させて頂くが様々なアーティストとのコラボーレーションも含め活動は継続しており、そしてECMからの2009年作である『Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street』がそれまでの最新作であった。それから9年、その間に電子音楽の界隈ではアンビエント・ミュージックやニュー・エイジの再考と再評価のサイクルへと突入し、今その音楽は再度春を迎えている。そんなタイミングに丁度良く完成した本作は現在のトレンドにもなっているアンビエント・ミュージックの中に自然と溶け込む存在感があり、恐らくHassell自身は最近の音楽を意識したわけでもないだろうから、つまりは時代がHassellに追いついたという事なのだろうか。始まりの"Dreaming"こそ幻想的なシンセのコードラインにぼんやりとしたトランペットが溶け込む正に夢のアンビエントだが、敢えて生音を強調する事もなく電子音楽の質感に寄らせ、アブストラクトさもある現代アンビエントを展開。しかし次の"Picnic"からは特異性が現れ、チョップしたようなIDMらしきリズムや振動するシンセが躍動し、またピアノやベースにドラム等の生演奏も加わってはいるが、やはり全体像は電子音響に染められてメランコリーながらもぼやけた世界に沈み込む。繊細な電子音の上モノが美しくループも用いてミニマルでもある"Slipstream"は、しかしダビーなパーカッションやHassellによる酩酊したトランペットはエキゾチックな匂いを誘発し、古典音楽からの影響が強く表現されている。"Al-Kongo Udu"もタブラらしきパーカッションが心地好いリズムを刻むエキゾチック色濃い曲で、そのリズムのループとパルスのような電子音の持続によって刺激的な催眠効果が発するが、中盤以降のコラージュらしき電子音響に変容する展開に最新のエレクトロニック・ミュージックとの親和性を見つける事が出来る。アルバムはアンビエントでありながらもリズムへのこだわりも強く、"Ndeya"ではパンチの効いたキックやノイズのような電子音が変則的なリズムを刻み、そこに奇怪なバイオリンやトランペットもメロディーとしてというよりはムードとして存在するように鳴りながら、刺激と穏やかさが同居したアンビエントを奏でている。スリリングな電子音や幽玄なアコースティックな響きに生命の胎動のようなリズム、それらが一つとなったエクスペリメンタルかつアンビエントな音楽は、本当に81歳の人が作ったのかと疑う程に現在の電子音楽のシーンの中に違和感無く存在する。2018年のレビューには間に合わなかったが、年間ベストに入れたかった傑作の一枚だ。



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| ETC4 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Max Essa - Themes From The Hood, The Cad & The Lovely (Deconstructed By Balearic Demand) (Hell Yeah Recordings:HYR7183)
Max Essa - Themes From The Hood, The Cad & The Lovely (Deconstructed By Balearic Demand)
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イタリアから現行バレアリックを先導するHell Yeah Recordings、そこから2017年にリリースされたMax Essaによる『Themes From The Hood, The Cad & The Lovely EP』はレーベルオーナーのMarco Peedooをして「これまでにリリースした中でも最もバレアリックなレコード」と言わしめた作品だ。英国生まれ日本在住のEssaはBear FunkやIs It Balearic?からも作品をリリースするなど、現在のバレアリック隆盛以前からその音楽性をハウスに取り込んで開拓してきたアーティストで、特にここ数年はその音楽性は豊潤さを増している。その決定打とも呼べる作品が前述のEPなのだが、そこから更に「バレアリックな需要に合わせて解体された」という作品が本作だ。元々は12分にも及ぶ「Themes From The Hood, The Cad & The Lovely」がここでは4つへのパートで計17分への作品へと生まれ変わっており、曲そのものは殆ど変わっていないものの曲を分割する事でバレアリック向けのDJに使いやすいように編集したというところか。ベルや笛に弦楽器らしき音などを用いてどこか和のスピリチュアル感もある始まり方の"Setting Sail"、重厚で美しいシンセストリングスも入ってきて深い瞑想を誘うニュー・エイジ/アンビエントなスタイルのパートで、終盤では繊細ながらも悲哀のムードを注ぐピアノが感傷的だ。そこに続く"Gold Hush (Part 1)"で軽くビートも入ってきて視界も開けたように清々しくクリアなバレアリック性が湧き出し、大海原をヨットに乗ってクルージングするような大らかで爽やかな世界へと出航する。"Dance Indigo"はおそらくニューパートだと思われるが、前のパートの雰囲気を引き継いだダウンテンポで、透明感のあるパッドやディレイするシンセで空間の広がりを作りながら、微かにしっとり切ないピアノの用いて叙情をもたらす。そして最後の"Gold Hush (Part 2)"で清らかでメロウなピアノのコード展開を続けながらまた静けさが漂う凪の状態へと戻りながら終息するなど、4つのパードで構成された組曲は薫風がそよぎ燦々と太陽の光が降り注ぐ大海原やビーチを思い起こさせる真夏のバレアリック・ミュージック。これからの季節にもぴったりなスローモーバレアリック、季節感があって実に素晴らしい。



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Shelter - Profondeur 4000 (Growing Bin Records:GBR016)
Shelter - Profondeur 4000
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2018年も絶好調だったGrowing Bin Records、ダンス・ミュージックの枠に収まらずにオーナーの音楽観に適ったものであればジャンルに関係なく取り上げられるが、特に昨今のニュー・エイジやアンビエントの再燃の中でこそこのレーベルは輝きを取り分け放っていると感じられる。2018年には幾つか素晴らしい作品がこのレーベルからリリースされていたが本作もその中の一枚であり、手掛けているのは過去にはInternational FeelやIs It Balearic?傘下のUber等からリリースをしているパリジャンのAlan BriandことShelter。これまでの作品ではエキゾチックやカリビアンな雰囲気を軸に生音も用いながら緩く開放的なバレアリック・サウンドを展開していたが、このニューアルバムもバレアリックという方向性は変わらないものの1960年代のフランスの短編映画にインスパイされたとの事で、何処かサウンド・トラック的でもある。ハープの深い残響から始まる"Variation Abyssale (Part 1)"はビートも無く静謐さの中に美しさが持続するアンビエントで、続く"Immersion"は神聖なシンセのレイヤーに繊細で民族的なパーカッションも加わりながら荘厳さもあるニュー・エイジ風と、以前の作風に比べると随分と慎ましい。"La Vie à L'Ombre"も音の数は制限され空間の静けさが際立ち、そこに点描のように描かれる電子音のメロディーや管楽器やピアノらしき音を微かに用いて、映画の一場面のようなBGM感覚が強い。と思いきや一定間隔のシンセのディレイが多幸感を生む"Plenitude Azotee"は極楽浄土へ向かうドリーミーなアンビエントで、その意味を含まない音の心地好さは無垢そのものだ。"Dans La Jungle De Varech"では不思議なシンセの鳴りにかつてのジャーマン・プログレを思い起こす点もあり、しかし生命力が息衝いているかのようなエキゾチック感もある世界観は過去の作品とも共振する。そして無重力空間に放り出されるフローティングなシンセが特徴の"Fumeurs Noirs"、ぼやけたアンビエントの中に時折スピリチュアルな打楽器や鈍い電子音が現れ、快楽的ながらも聞き流す事を許さないぐっと意識を掴む個性がある。アルバムは過去の単純明快なエキゾチックやトロピカルなバレアリック性に比べると随分と観念的でエクスペリメンタルなニュー・エイジ色が打ち出されているが、そういった音楽だからこそ自由度の高いGrowing Binからリリースされたのも納得であり、昨今のニュー・エイジの流行りの中でもユニークな個性を確立させている。



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Motohiko Hamase - Reminiscence (Studio Mule:studio mule 10)
Motohiko Hamase - Reminiscence
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アンビエントやニューエイジの再評価、そして7〜80年代の日本の音楽の再発掘、ここ数年のこの動きは最早一種のムーブメントであるのは間違いなく、そんな動きに追随するのはダンス・ミュージックの業界において日本から世界へと羽ばたいたMule Musiqだ。別ラインとして立ち上がったStudio Muleはダンスに拘らずに制約から解放され、その動きは現時点では和モノへと向かっているようで、2018年にはジャズ・ベース奏者である濱瀬元彦の『Intaglio』(過去レビュー)をリメイクという形で復刻させている。それから間髪入れずにリメイクされたのが本作『Reminiscence』で、こちらは1986年にリリースされた濱瀬の初のソロアルバムだ。本作も『Intaglio』と同様に諸般の事情により本人によって新たに再レコーディングとなっているが、一般的なジャズという音楽から想像される音楽そのものではなく、エレクトロニクスも大幅に導入しながら現代音楽のミニマル性やアジアのエキゾチックな雰囲気、勿論濱瀬の武器でもあるフレットレス・ベースのジャズ性もあり、もし何かの言葉で述べるとすればアンビエント・ジャズという事になるのだろうか。木琴系のミニマルなフレーズがパーカッションが先導する"Childhood"はその構成が現代音楽的な要素があり、そこにオーケストラも加わるとクラシックにも聞こえ、咽び泣くような感情的なベースやしみじみとした笛の音色も渾然一体となり、幕開けから非常にドラマチックに展開する。"Intermezzo"も高速に連打されるマリンバのミニマルなフレーズが耳に付くが、静かに躍動するフレットレス・ベースはジャズのスウィング感があり、エキゾチックな軽く響くパーカッションの連打も加わって後半に向かって徐々に盛り上がっていく流れはミニマル性が活かされている。もう少しジャズの要素が感じられるのは"Tree"だろうか、繊細で優美なピアノのメロディーや朴訥とした笛の音色、そして自由に踊るベースラインはエモーショナルなのだが、そこに民族系のメタル・パーカッションや壮大なオーケストラも入ってくるのは最早ジャンルの形容がし難く面白い。"Na Mo Che"では打楽器や木管系の笛も用いて、メロディーというよりはリズム的に用いる事でビートは入っていないものの疾走するリズム感を生んでおり、Steve Reichを思い起こさせる世界観もあるのはやはりコンテンポラリー・ミュージックや現代音楽としての要素も含んでいる。ただどの曲にしても濱瀬によるフレットレス・ベースはリズムとなるための単なるベースラインではなく、これが曲の印象を作っていくメロディーの一つとして存在している事で、それがジャズの雰囲気を醸している事もありベース奏者らしい音楽性も十分にある。こんなユニークな音楽が80年代の日本にあった事は驚きだが、廃盤になった憂う状況から現代になって再評価されるも、時代を越えて聞けるエモーショナルかつメロウな普遍性があるかであり、文句無しに素晴らしい名作と断言する。



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