Satoshi Ashikawa - Still Way (Wave Notation 2) (We Release Whatever The Fuck We Want Records:WRWTFWW030CD)
Satoshi Ashikawa - Still Way - Wave Notation 2
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世界的に再発見が進むジャパニーズ・アンビエント、日本のレーベルでなく海外からその波はここ日本にも伝搬し、時代に埋もれた音楽が今再度脚光を浴びている。本作は1983年に30歳にして亡くなってしまった芦川聡による唯一のアルバムのリイシューで、吉村弘による『Music For Nine Post Cards』(過去レビュー)に続く「波の記譜法(=Wave Notation)」シリーズの第二作目となる。Brian Enoが提唱したアンビエント・ミュージックのコンセプトを継承しながらも、より引き算の美学が研ぎ澄まされミニマリズムとコンテンポラリー・ミュージックやモダン・クラシカルといった言葉で説明されるべきその音楽性は、特にメッセージ性や意味を込める事もなくただただ日常の中に同化したような環境音楽だと言えよう。エレクトロニクスにピアノやハープ、ヴィブラフォンやフルートを用いてはいるが過剰な装飾は一切なく、アルバム冒頭の"Prelude"こそ2分に満たない短い曲で、ハープの純朴な美しさのフレーズや淡々としたピアノの単音なミニマルな構成など、この時点から既にアルバムの静寂を際立てる環境音楽は出来上がっている。続く"Landscape Of Wheels"にしても12分と長尺ながらも間を生むハープの単純なフレーズが続くが、それ故にメッセージ性は込められずに隙間から想像力を膨らませるような面もあり、そしてまたハープの響きは事のようにも聞こえ和の雅楽的な響きが侘び寂びを漂わせる。ピアノ/ハープ/ヴィブラフォンが揃った"Still Park - Ensemble"だともう少し華やかさがないわけでもないが、ゆったりと花弁が開いていくような時間の経過が遅く感じられる感覚は、忙しない日常生活に一時の安らぎを与える如く空間の雑音を落ち着かせる。そこから引き算がなされピアノソロとなった"Still Park - Piano Solo"の静謐な美しさながらも無機質かつ無感情なただの音の連なり、やはりメッセージ性を排したからこそ日常空間に融和する性質がある。本作は確かにアンビエント・ミュージックとして説明される音楽ではあるが、当ブログの読者に誤解を与えないようにいうとクラブ・ミュージックの俗物的なアンビエント・ミュージックとは真逆の、単純で素朴を極めたコンテンポラリー・ミュージックと伝えれば分かり易いかもしれない。またはECMが提唱する"静寂の次に最も美しい音"というコンセプトにも共鳴する音楽で、静的な音響が逆に存在感を放っている。



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Jonny Nash - Make A Wilderness (Music From Memory:MFM037)
Jonny Nash - Make A Wilderness
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2019年もニューエイジやアンビエントの方面においてリーダーシップを発揮したMusic From Memory。過去の埋もれた作品の発掘というイメージは未だに強いものの未来への視線も向けており、例えばこのJonny Nashによるニューアルバムもその一つだ。Nashの存在感は日に日に増しており、かつてはコズミック・ディスコ・ユニットのDiscossessionのギタリストであり、またはGigi MasinやYoung Marcoとの3人ユニットであるGaussian Curveでの活躍、そして現在はLand Of Lightというユニットでも活動し、そしてニューエイジ系レーベルの中で注目を集めるMelody As Truthも主宰するなど、ソロ/コラボレーションのアーティスト活動にレーベル運営と彼の名は至る所で見受けられる。そして単独での作品は久しぶりとなる本作では、公式での案内では遠藤周作、J.G. Ballard、Cormac McCarthyらの著書の中に見られる風景や雰囲気の描写 - 静かな場所や古き土地、何処にでもあるが記憶に残らない場所や原野 - に影響を受けたとの事で、音楽的にも以前のニューエイジ色から脱却しより静謐さを増したコンテンポラリー・ミュージックといった趣きだ。アルバムは繊細な鉄琴の美しさに霊的な歌や荘厳さのあるチェロがぼんやりとした空間を生む"Root"で始まり、続く"Shell"も細い線のような電子音の響きからか弱くも叙情的なピアノのコードが浮かび上がるも音のない所の美しさが際立つ静寂な曲で、この時点で以前の作風の要素であるアンビエントやニューエイジとは異なるものが感じ取れる。朝焼けのような美しいシンセドローンから始まる"Flower"はアンビエント的だが、しかしガムランらしき打楽器や不思議な電子音響、そして霞のような聖なる声が合わさり何処か未開の深い森の中や古代の土地を想起させるミステリアスな感覚もある曲で、非常に神妙な世界観だ。9分にも及ぶ"Language Collapsed"では再びチェロが重厚感を作る中を鉄琴が繊細に装飾を施し、薄いエレクトロニクスのドローンが緊張感を持続させるが、少ない音の構成だからこそゆったりした時間の中に美しい静寂が生まれ、明確な流れの無い観念的な作風ながらもその美しさには息を呑む程だ。最後の"Apparition"ではそれまでの緊張感も幾分か和らぎ、透明感のあるドローンと臨場感を生むフィールド・レコーディングに対し朗らかで優しいピアノがしっとりメロウな叙情を演出して、最後の最後でうっとりと白昼夢に耽溺させられる。今までの分かりやすいニューエイジ/アンビエントな作風から、本作ではメランコリーはありつつも緊張感や不気味さも伴うコンテンポラリー・ミュージックへと変化しているものの、深い内面世界へとダイブさせられるような思慮深い音楽でより一層アーティスティックになった印象だ。単純には聞き流す事の出来ない濃密な音楽体験である。



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Wilson Tanner - II (Efficient Space:ES013)
Wilson Tanner - II
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ジャンルの枠にとらわれずエクスペリメンタルとロマンティシズムが交錯するGrowing Bin Records、そのレーベルからのデビュー作『69』(過去レビュー)がニューエイジやアンビエントの方面で称賛を集めたWilson Tanner。メルボルンの新世代を代表するAndras Fox/A.r.t. Wilson名義でも活動するAndrew Wilson、そして同じくオーストラリアのEleventeen Eston名義でもGrowing Binからヒットを放ったJohn Tanner、両者とも幅広い音楽活動をしながらも特にニューエイジやアンビエントにおいて輝く才能を発揮している実力者が組んだこのユニットは、共鳴する両者の音楽性が完全に融合し実験的ではありながらも自然派志向の心地好いアンビエントを奏でていた。あれから3年を経たこの2ndアルバムは1950年代のリバーボートに電子機器を載せてメルボルンの湾で録音したそうで、その意味では前作同様に自然環境にインスパイアされながら音楽にそれを反映させているのだろうが、前作のフラットな快適性よりはやや捻りが加えられ抽象性が高まっている。序盤こそ"My Gull"は牧歌的なピアノコードの奥には微かに鳥の囀りなどのフィールド・レコーディングが配され素朴な世界観があり、静けさの中に神秘的なピアノと存在感のあるウッドベースが響きながら素朴な電子音のメロディーが気怠い空気を生むニューエイジ寄りの"Loch & Key"と、以前の路線に倣った何処までもナチュラル・アンビエントな曲調だ。"Perishable"では穏やかな笛の音色に有機的なギターやベースも加わり、瞑想的なソフトロックかAORといった路線はTannerの音楽性が強いだろうか。しかし12分にも及ぶ"Killcord Pts I-III"から途端にがらっと雰囲気は切り替わり、鈍い電子音によるベースの不穏な動きに不気味なメロディーが先導する緊張感のある曲は、長い構成の中で様々な現代音楽的なミニマルな電子音のループや奇抜な効果音、逆にスピリチュアルで有機的なメロディーも現れ、一切のリズムは入っていないにもかかわらずグルーヴ感と緊張感を伴いながら抽象性の高い展開が持続する。同様に"Idle"も不思議な電子音がSE的に用いられ一般的な曲の構成を成さないものの、途中から入ってくるぼんやりとしたアンビエント的なシンセが何とか牧歌的な雰囲気を保っている。そして湿っぽいウッドベースが前面に出た"Safe. Birds."もパルスのような電子音の反復が続き、そこにローファイな電子音や生っぽい音が入り混じり、瞑想感はありながらもサイケデリックなエクスペリメンタル性が支配するなど、アルバムの曲調は前作の癒やしや快適性だけではなくより前衛的に混沌したニューエイジにまで拡張されている。しかし奇怪な音響を増しながらも、エレクトロニック・アコースティックによるノスタルジーを呼び覚ます心象風景は健在だ。



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Bartosz Kruczynski - Baltic Beat II (Growing Bin Records:GBR019)
Bartosz Kruczynski - Baltic Beat II
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アンビエントやニュー・エイジの再評価は過去への視点だけでなく未来へも向いており、その後者において特に躍進を果たしたのがポーランドのBartosz Kruczynskiだ。Earth Trax名義ではレイヴ色の強いドラッギーなディープ・ハウスを、Pejzaz名義では甘く気怠いチルウェイブやダウンテンポを、Ptaki名義ではダビーなニュー・エイジ寄りと、それぞれの活動でも注目を集める才人であるが、大本命こそはこのKruczynski名義である事に異論を唱える者は少ないだろう。この名義でのデビューとなったGrowing Bin Recordsからの2016年作『Baltic Beat』(過去レビュー)は、有機的な響きが幻夢に溶け込む叙情的なサウンド・スケープで、その年を代表するアンビエント・アルバムの一つであったと思う。それから3年、その続編となる本作も前作同様にフィールド・レコーディングやギターやベースにフルート等のオーガニック性を盛り込んだ内容で大きな変化は無いが、より瞑想的な作用を増して深い自己の世界へと潜っていく世界観を獲得している。川のせせらぎのサンプリングで始まる"Pastoral Sequences"は、そこに静けさが際立つ静謐なピアノと電子音が微細な装飾を行いながら、途中からは祈りのような歌とミニマルなマリンバのフレーズも入ってくると途端に瞑想感を増して、宗教的な空気もあるニュー・エイジ風の曲。"In The Garden"は優しいピアノの和音と共にボッサ風なパーカッションが軽いビート感を生み、流麗なストリングスや穏やかなマリンバの旋律が心の奥に眠った懐かしい記憶を呼び起こすようなセンチメンタルなバレアリック系。微細なパルス音が持続する中に"Petals"もビートレスなアンビエントだが、動きの多い電子音の反復に合わせて悲哀のピアノが情緒を付け加えて、躍動を感じさせる。"Voices"になるとマリンバと電子音のシーケンスは現代音楽のミニマル的で、そこにギターやピアノがキャンバスに絵を描くように感情の高まりを加えていく。B面に移るとより現代音楽的な雰囲気は強くなり、"If You Go Down In The Woods Today"はマリンバや弦楽器のミニマリズムに霊的なコーラスが加わりまるでSteve Reichの"Music for 18 Musicians"を思わせ、その反復をベースにした流れでぐっとインナースペースへと潜っていく催眠性を発揮する。"The Orchard"も同様にマリンバの反復を基盤にしつつ咆哮しながら遠くへと霞となって消えていくようなギター風な響きや、微睡んだシンセが流体の如く動いて、宗教的な匂いもあるニュー・エイジ色が強くなっている。そんな観念的な世界から一転して"Along The Sun-Drenched Road 1 & 2"はフルートやピアノ等も導入しながら有機的な響きをただ垂れ流すように聞かせ、何も無いおおらかな大自然の中で一人夢想し佇むような感覚に陥る安堵に満たされたバレアリックな世界観で、もはや意識さえも霧散する。アコースティックとエレクトロニクスの自然な調和に安寧を感じ、瞑想や催眠をしつつも魂の開放を目指すおおらかなサウンド・スケープは、またしても2019年のアンビエントやニュー・エイジを代表する一枚となった。



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Yu Su - Roll With The Punches (Second Circle:SC012)
Yu Su - Roll With The Punches
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ニュー・エイジやアンビエントにバレアリックといった音楽のアイコン的存在となったMusic From Memory。そこから派生したSecond Circleはもう少しダンスに寄り添った - とは言えども単にテクノやハウスだけでは括れない多様な要素を含む実験的な性質がある - レーベルで、MFMがリスニングに傾倒し過ぎていて馴染めない人にとってはSecond Circleの方により魅力が感じられるかもしれない。ユニークなタレントが揃うレーベルにおいて、この新作もそのレーベル性に非常に適していると感じられるが、手掛けているのはバンクーバーを拠点に活動する中国人女性アーティスのYu Suだ。まだ作品数は少なくリリースを始めてから3年経つか経たないか程の新星は、特に2018年にリリースした『Preparations For Departure』におけるアンビエントにダブやエレクトロ、ジャズやファンクといった要素が溶け合った情緒的な音楽性で注目を集め、女性アーティストの中では頭一つ抜けた存在感を示していた。本作も形容のし難いダンス・ミュージックはレフトフィールドという言葉で纏めるとすっきりするかもしれないが、土着的でエキゾチックなパーカッションの効いたロウなビート感が生々しい"Little Birds, Moonbath"は、ドリーミーなシンセのアルペジオに混ざってモジュラーシンセによるトリッピーな響きが摩訶不思議な空間を生み出し、長閑な世界観の中にも刺激的な体験を込めている。10分超えの大作である"Tipu's Tiger"も湿り気のある土着的なリズム帯が根底にあり、無駄な音は削ぎ落として音の間を強調しながらギターとシンセによって訝しいエキゾチックな性質を作り、大きく展開する事もなくレイドバックした雰囲気の中でひたすらだらだらと弛緩させられる。一方裏面の3曲はアンビエントやバレアリックと呼ばれる音楽性が見受けられ、崩れたダウンテンポのビートから水の湧くような音が浮かび上がり生命の営みを感じさせる清涼なアンビエントの"Of Yesterday"、レゲエやダブの心地好い残響やリズムを用いて生々しい土着感に爽快なバレアリック感をミックスさせた"The Ultimate Which Manages The World"、ハンドクラップとパーカッションが複雑なリズムを刻み最も原始的なエキゾチック性を打ち出した"Words Without Sound"と、こちらも各曲に強い個性が見受けられYu Suの特異なアーティスト性を感じ取る事が出来るだろう。だからこそSecond Circleからリリースされたのも自然な事であろうし、レーベルとアーティスト共々にその強い個性に注目せずにいられない。



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Nami Shimada - Songs Selected By Naoko Shimada (Columbia:COCP-40840)
Nami Shimada - Songs Selected By Naoko Shimada
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ディスコからアンビエントにニュー・エイジ、世界的に再評価される7〜80年代の日本の音楽、当然JPOPやシティポップと呼ばれるジャンルも御多分に洩れずリイシューも盛んになっているが、その流れの一環でハウス・ミュージック界隈では元々人気のあった島田奈美のベストアルバムもリリースされた。島田と言えばジャパニーズ・ハウスの寺田創一やガラージの伝説のDJであるLarry Levanがリミックスを手掛けた"Sun Shower"が世界的にヒットしたアーティストで、リリースから25年以上経過した今もクラブでプレイされる事が珍しくはないハウス・クラシックは、ジャパニーズ・ハウスを代表する一曲でもある。そんな島田の1986年から1990年までの短い活動に於けるベスト盤の選曲を担当したのは、音楽ライター/プロデューサーとして活躍する島田奈央子、つまり島田奈美という芸名で活動していた島田本人で、アーティスト自身が自分の音楽性を振り返ったアルバムでもある。何でも単なるヒット曲を並べたベスト盤は念頭から外され、現在のシティポップ再燃の流れも意識した選曲は結果的に活動後期のダンスミュージックやシティポップのお洒落な要素を持つ曲が中心となり、ヒット曲を集めただけの流れや統一感の無いベスト盤以上の価値を持つ内容となったと思う。弾性のあるシンセベース、アタック感の強いキック、ゴージャスなシンセブラスなど8〜90年代のクリスタルな輝きを放つポップな"I'M ANGRY!"からして、バブル景気最中の輝かしく弾けたポップ感があり時代性が漂ってくる。活動後期の"もっと・・・ずっと・・・I Love You"は随分とダンスへと接近しジャンルとしてはHi-NRGな要素もある曲で、アシッドにも近い力強いベースサウンドやド派手なシンセや鍵盤の響き、そして可愛らしい日本のポップな世界観が見事に一体化している。ダンスだけではなくゴージャス感を削ぎ落としてアコースティックな簡素さ打ち出し、アンニュイな島田の声を強調したバラード風の"Baiser"や、または活動初期の如何にもアイドルらしい可愛さがあるボサノヴァの"サマースクール・ランデブー"など、純朴さのあるポップな曲も優しく耳に馴染む。"お願いKiss Me Again"は引退後に「City Hunter '91」のサントラの為に制作された曲だが、これは実は寺田創一がアレンジを担当している事もあり音やグルーヴ感は完全に寺田のトラックであり、アンニュイで内向的な雰囲気ながらも跳ねるリズミカルなビートや柔らかく素朴なシンセの響きはもはやJPOPではなくハウス・ミュージックだろう。そしてフレッシュな勢いがあり爽やかで弾けるポップスの"Sun Shower"に対し、おどろおどろしいムードとずっしりした4つ打ちのビートを獲得しメランコリックな性質が強くなった"Sun Shower (Larry Levan's Vocal Mix)"の比較も面白いだろう。本作がヒット作を集めたベスト盤でない事から否定的なリスナーもいるようだが、元々島田に対して見識の無い筆者にとってはヒットした曲かどうかはさしたる問題ではなく、素直に聞けばここに纏められた曲がシティポップの観点からはベスト的に感じられる程に素晴らしい曲が揃っている。当方のように"Sun Shower"しか知らないリスナーにとっても、きっと島田の魅力を知る事が出来るベスト盤になるだろう。




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Meitei - Komachi (Metron Records:MTR002)
Meitei - Komachi
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和モノ、アンビエント、ニュー・エイジ、そんな言葉で表現される音楽が今世界的に再評価される状況の中で、旧音源ではなく新世代として注目すべき存在も現れた。それこそ広島から2018年にデビューしたばかりのMeitei(冥丁)であり、昨年『Yabun = 夜分』EPと『Kwaidan / 怪談』のアルバムでデビューを果たしたばかりの存在は、「日本の失われた雰囲気」に焦点を当てるべく例えばタイトル通りに「怪談」をサンプリングしながらもグリッチやエレクトロニカの要素もある奇妙ながらも侘び寂びのあるアンビエントを展開した。そして2019年リリースの2枚目のアルバムとなる本作は、彼の99歳で亡くなった祖母に捧げられた作品で、Komachiはつまり小野小町な訳で前作同様に和のムードを導入したよりアンビエントやニュー・エイジへと向かっている。本人の説明では「闇の中に眠っている魂を蘇らせる」という思いがあるそうだが、曲名も全て日本の地名や場所に人の名前などコンセプトは一貫している。水が湧出するフィールド・レコーディングを用いて自然主義的なアンビエントの"Seto"から始まり、同様にせせらぎのサンプリングに雅楽などの和の音や打楽器のフレーズで質素さの中に美学を見つける"Ike"、正に引いては寄せる波の音を用いつつそこに叙情的な響きを重ね儚い心象を描いた"Nami"と、その曲名を示すサンプリングを軸にしながら間の中に存在する静けさを強調したアンビエントを展開する。"Chouchin"は提灯である事は言うまでもないが、繊細で美しい電子音の響きがガスや電気ではない仄かに揺れる蝋燭の自然な光の揺らぎを感じさせ、薄暗い闇の中にほっとする明るさを灯す。一方でグリッチ的なリズムとヒスノイズ混じりの音響と、お化けのような奇怪な声を被せて微睡わせるアブストラクトな"Maboroshi"もあるが、音は鳴りは丸くて柔らかく決して不快なものではない。"Kawanabe Kyosai [Pt.I]"は8分にも及ぶ曲で、軽くリズムと虫の鳴き音も入りながら現代音楽的なミニマルなフレーズが少しずつ音階を変化させていくが、微細なノイズ的な要素も含みつつ脱俗した静謐さが際立っている。アルバムからイメージ出来るのは日本各所を巡るサウンド・スケープだろうが、プレスリリースにもある通り横田進や竹村延和の牧歌的な雰囲気を思い起こさせるアンビエント性は、敢えて強調しない繊細な叙情性に満ちている。



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MATstudio - MATstudio 1 (Melody As Truth:MAT-ss1)
MATstudio - MATstudio 1
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アンビエント/ニュー・エイジの再燃というムーブメントの中で台頭したMelody As Truthは、ギタリストであるJonny Nashが主宰するレーベルで、主にNashとそしてSuzanne Kraftによる作品をリリースする。音の間にある静寂やダンスの狂騒とは真逆の静謐を打ち出したその音楽は美しくも微睡みに落ちるように幻想的で、昨今のニュー・エイジ隆盛の中で現在形を提示している。そしてNashとKraftによるこの新しいプロジェクトである「MATstudio」は、彼等の説明ではMelody As Truthのスタジオにおける即興や実験に偶然の出来事のコラージュした作品との事で、Melody As Truthらしい穏やかな叙情性はあるが即興という事もあって今までの作品よりも随分とエクスペリメンタルな風合いが強い。2曲のみの収録ながらもそれぞれ17分越えの大作だからこそ、その長尺の中で明確な形を見せるのではなく即興セッション的な構成が定型の無い抽象的な音楽となり、静けさが持続しながらもある意味では刺激的な作品だ。ドローン的で不気味なギターの広がりから始まる"In Strange Company He Spoke Softly"はエレクトロニクスも加わるが断片的なパーツを切り貼りしたような展開で、意思が感じられる明確なメロディーではなく単なる音の連なりが気の赴くがままに刻まれる。暫くすると繊細なピアノが美しいメロディーを表現しウッドベースも動きを付けたりと、電子とアコースティックが一つとなりながら聞きやすいアンビエント展開を見せたりもするが、そのパートを過ぎると今度はドラムも入ってきて捻れたような電子音が躍動するエレクトロニカな構成もあったりと、一曲の中で様々な表情を見せるのはやはり即興による自由なプレイだからだろう。"The Land Through Which We Pass"はよりアンビエント的な始まりで、エレクトロニクスのドローンにディレイの効果を被せて音が放射しながら充満し、次第にミニマルな反復の展開からもやもやとしたアブストラクトな音像まで変化し、トリッピーなパーカッションを用いた異国情緒溢れるエキゾチックな終着点へと辿り着く、正にタイトルの如く複数の土地を通過してきたように様々なパートで成り立っている。確かに両曲ともアンビエント/ニュー・エイジという言葉で表現される音楽性ではあるが、単に心地好いだけのそれではなく、枠に当てはまらない偶発性やライブ感を重視した自由度の高さを目指した音楽は、単なるBGMにはならない刺激的な響きがある。こういった音楽のリバイバルが過去の名作掘り起こしに目が向けられる事が多いが、NashとKraftは未来へと視点が向いているアーティストとして好奇心を抱かせる。



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Muro - Elegant Funk ~Japanese Edition~ (Victor Entertainment:VICL-65091)
Muro - Elegant Funk ~Japanese Edition~
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おおよそ10年程前の日本のポップスや演歌をネタにしたエディット・ブーム、そして近年のジャパニーズ・アンビエント/ニューエイジの再発見と、何故か日本の中からではなく外の世界から再発見/再評価される日本の音楽。その理由が何であれ兎にも角にも日本人自らが気付かなかった日本の素晴らしい音楽に光が当てられるのは喜ばしい事であるが、その流れに日本のディガーとして世界的にも評価を獲得しているMuroが参戦している。数年前から既に「Elegant Funk」をコンセプトにしたミックスを手掛けていたのだが、これはライナノーツによればDaytonの"The Sound Of Music"に代表されるスタイリッシュなファンクを指しているそうで、ネオンライトの光に包まれた都会的な煌めきや芳香のする音楽という事なのだろう。そんな中で日本の音楽の再評価に合わせてこのJapanese Editionがリリースされたのも当然の流れではあるが、こちらには80年代の日本のポップスやファンクにディスコやブギーといった音楽が収録&ミックスされており、もう一回聞いただけで(当時これらの音楽を知らなかったのに)懐かしさに満たされる内容だ。フュージョン/シティポップで人気の高い佐藤博やカシオペア、演歌歌手の長山洋子、ファンク・バンドのChocolate Lips、シティポップのシンガーの国分友里恵やAOR性の強い岩崎宏美など、その他当方も全く知識を持ちあせていないアーティストが名を連ねており、程好くダンス・グルーヴと心に染みるポップなリスニング性を伴ってスムースな流れのミックスで気持ち良く聞かせてくれる。勿論ミックスはされているものの曲の性質上、テクノやハウス等におけるクラブでの4つ打ちガンガンで持続性というものではなく、あくまで曲自体が主体でそのものの魅力を主張するミックスなので、じっくりと各曲を堪能する事が可能だ。優雅なファンク、それはそれでこの作品から受ける印象は間違っておらず、曲がポップスであろうとフュージョンであろうとアタック感の強い打ち込みキックに透明感や煌めきを感じさせる豪華なシンセの響き、ファンキーなギターカッティングや肉体感あるベースで共通点があり、確かに音自体は古臭い筈なのにそれがださくなく洗練されて聞こえる(それは当時これらの音楽を体験していなかったため、逆に新鮮に感じられるのか?)。賑やかで華々しい雰囲気は勝手なイメージでは80年代のバブルで熱狂する日本のゴージャスな時代感さえもあり、ポジティブで輝きのある音楽は今聞いても眩しい位だ。屈指のディガーにより纏められたバブルな雰囲気を持った音楽、しかしそれは少しも下品ではなく永遠の輝きを放っている。

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Leon Vynehall - DJ-Kicks (!K7 Records:K7377CD)
Leon Vynehall - DJ-Kicks
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ストリーム配信により最新のMIXが無料で聞けるようになった今、敢えてMIXCDをリリースする意義は薄れつつあり、数多くあったMIXCDシリーズも時代と共に消えつつある現在。しかし恐らく現在残っているMIXCDシリーズでは一番古いであろう『DJ-Kicks』シリーズは、テクノ/ハウスに限らない音楽性と多種多様なジャンルからのDJを起用する事で、まんねりを回避しながら時流の音楽も掬い上げてMIXCDの存在感を示している。その新作はUKの新世代の中でも評価の高いLeon Vynehallによるものなのだが、このMIXCDシリーズがコンセプトとしてDJにとって自由でありパーソナル性が強い事を前提としても、このVynehallによるMIXは自由気ままである意味ではミックスというよりはコンピレーション的な雰囲気さえもある。ここではディープ・ハウスのアーティストというイメージはがらっとひっくり返され、幕開けは自身の新曲であるドローン・アンビエントな"Who Loved Before"により静粛な始まり方で、しかしそこからダンスホール・レゲエな"Genie"やノイズ混じりのアバンギャルドな"Giant Bitmap"、そして何と細野晴臣によるカントリー調の気の抜けた"Rose & Beast (薔薇と野獣)"まで幅広い音楽性を見せる事で、ミックススキルに拘るのではなく音楽そのものの表現力を主張しているようだ。ここまでの流れだけを見てもダンスフロアからは離れており何か統一感があるでもなく、本当にDJがかけたい音楽をただかけているという印象だ。ソウルかつファンキーな"Set Me Free"、アンニュイなシンセ・ポップの"August Is An Angel"、破壊的なインダストリアル調の"Moving Forward"、刺激的なエレクトロの"Nuws"など、全く予想もつかなければスムースな流れに乗って踊らされるでもなく、もしかしたら私的なホームリスニングの選曲という事なのだろうか。序盤は少々虚を突かれる展開ながらも、中盤のざっくりブレイク・ビーツとエモーショナルな旋律で一気に雰囲気を塗り替える"Mellow Vibe"以降はダンスフロアへと突入し、IDM調の鋭利なリズムが弾ける"Fushigi"や"Lapis Lazuli B2"、硬質なミニマル・テクノの"Ploy"、幻想を見るようなドリーミーなディープ・ハウスの"Ducee's Drawbar"と踊れるトラックを滑らかに繋いで、一気に高揚感を増してDJMIXらしい展開に一安心。終盤には更に激しくリズムは暴れ出して細かいリズムが刻まれるジャングルの"Unsung Hero Of Irrelevance"、そして余りにもアンビエントな浮遊感が心地好い名作ドラムン・ベース"Deep Rage"等のハイエナジーな時間を通過して、最後はピアノ演奏だけによる優雅ながらも静けさへと回帰する"Music For Piano"によって喧騒の後さえも消し去りMIXは終了する。一般的なMIXCDを想像していると確実に予想や期待は裏切られる、その意味では非常にユニークな内容で、Vynehallによる選曲重視としたアプローチによる音楽性は家で聞くMIXCDのホームリスニング性に適ってもいる。前半のばらばなら音楽性はやや違和感を感じなくもないが、こういった挑戦的なアプローチが『DJ-Kicks』が存続する理由の一つなのかもしれない。



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