Max Graef & Glenn Astro - The Yard Work Simulator (Ninja Tune:ZENCD227)
Max Graef & Glenn Astro - The Yard Work Simulator
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長らくビート・ミュージックを引率するNinja Tuneから放たれたアルバムは、なんとハウス・ミュージックを軸にしている。手掛けたのは以前から交流があったMax Graef & Glenn Astroで、それぞれがTartelet Recordsから生演奏やサンプルを用いてディスコやファンクにジャズにその他諸々を吸収したハウスのアルバムをリリースしており、多様なビートへの拘りを強く感じさせる新世代だ。Ninja Tuneのハウスへの接近は何となく流行っているようにも思われるハウスへの迎合…ではなく、そこにはモダン・ファンクやジャズやR&Bなどの要素があるからこそ、レーベル性を失う事なく新たな音楽性を得る事に成功している。事実、2015年には同レーベルはRomareによる『Projections』(過去レビュー)でハウスへの接近は既にあったわけで、その流れは本作へと続いているのだ。二人は本作において最近のダンス・ミュージックではよく使用される機材は使わずに、トラックリストや曲順を決めた上でコンセプチュアルな制作を進めたそうで、詳細は分からないもののサンプリングではなく基本は生演奏やマシンビートによる構成に聞こえる。幸いな事に手段が目的化する事はなくライブ感はありながらも、演奏の技巧を見せびらかすような内容ではなく、彼等のファンクやジャズと言った嗜好がラフさもある音として上手くハウスに馴染んでいる。冒頭の"Intro"ではカットアップしたような演奏がサンプリング・ミュージックにも聞こえるが、やはり音は生々しく迫る。続く"Where The Fuck Are My Hard Boiled Eggs?!"はジャズのようなリズムの響きに、途中から優雅で豊潤なシンセがうねるようにコード展開し、ロウなビートダウン・ハウスの風合いがある。"The Yard Work Simulator"に至ってはほぼブレイク・ビーツで、鋭利に刻まれる弾けたグルーヴに豊潤なシンセのなめらかな旋律は、豊かなコズミック感さえも纏っている。そしてけたたましいブラジリアン風なパーカッションが炸裂する"Magic Johnson"は、突如としてしっとりとメロウなジャズ・ハウスへと変化する情緒的な一曲で、続く"Jumbo Frosnapper"ではビートは落ちてざっくりしたヒップ・ホップ的を更にぶつ切りにしたような奇怪な展開をする。何だかアルバムの構成としては忙しなく方向性は目まぐるしく変わるのだが、それもNinja Tuneの身軽な自由さ故と考えれば不自然ではなく、彼等の影響を受けた音楽が明確に表現されているのだ。



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Sven Weisemann - Interlace Jitter (Mojuba Records:Mojuba 025)
Sven Weisemann - Interlace Jitter
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複数の名義で活動をしている為に実はそんなに久しぶりではないものの、メインとなるSven Weisemannとしての作品は一年ぶり。ベルリンは深遠なディープ・ハウスのMojuba Recordsの中心的存在であり、そして幾つかの名義を用いてディープ・ハウスという枠組みを越えて芸術的にまで昇華した優美なサウンドを鳴らすアーティストとして、確固たる地位を築いている。古巣と呼べるMojubaからは3年ぶりの新作となってしまったが、蜜月の関係に変わりはなくレーベル性も自身の作風も損なう事なく、両者に期待されている音楽性を正しく表現している事を先ず喜びたい。タイトル曲の"Interlace Jitter"は彼にしては比較的鋭く重いビートが強くスピード感のあるテクノとハウスの中庸だが、肝である奥深さを生むダビーな音響や幻惑的なシンセの使い方は馴染んでおり、途中からしなやかに伸びる美しいパッドや女性のウイスパーボイスも加われば、そのエレガントさを極めたダンス・ミュージックは正にWeisemann固有のものとなる。"Sparkling"はより彼が得意とするゆったりとした流れに美しい音響を込めたディープ・ハウスに近いが、膨らむように浮かび上がるシンセや微睡むようにドリーミーな世界観は90年代風のアンビエントな味わいもあり、ブレイク・ビーツなリズムが下地にあっても幽玄な情緒は全く失わない。裏面の"Motion Capture"も当然ダビーなディープ・ハウスではあるものの、目立つのは力強く弾ける刺激的なパーカッションとミニマルなシンセのメロディーで、その単純な構成ながらも深みのある音響と相まって陶酔感は一番だろう。そのダブ・バージョンである"Motion Beats"は更に抜けの良い乾いたパーカッションによるファンキーなハウスへと生まれ変わり、DJツールとしての要素を高めたディープかつミニマルな作品だ。基本的に金太郎飴のように作風が出来上がっているので驚きは少ないものの、その水準が高く毎回安心して買えるアーティストであり、だからこそ次のアルバムが待ち遠しい。



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Joaquin Joe Claussell - Thank You Universe (Sacred Rhythm Music:SRM.1003)
Joaquin Joe Claussell - Thank You Universe
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実に8年ぶりとなるアルバムのタイトルは「Thank You Universe」、Joe Claussellによる無限の可能性を秘めた宇宙からインスピレーションを受けた意味合いが込められている。Joeはダンス・ミュージックを根底にしながらも創造性や霊的な力を頼りに、ハウスだけでなくアフロやジャズにサウンド・トラック的なもの、またはパンクやロックにまで枝分かれするほど幅広い音楽性を開拓し、その名義の多さもあって熱心なファンであっても全ての音源を把握するのは困難だ。そこに届けられた本作は近年のベスト盤と言うべきか、レア・バージョンやリミックスに未発表曲などを纏めた内容になっており、Joeの深い精神世界が体験出来る内容になっている。一言で表現するならばスピリチュアル・ハウスで、彼が得意とする温かみのあるアコースティック・ギターや爽快なパーカッションを用いたハウスが中心で、恐らくファンが最も好んでいるであろうスタイルが多くを占めている。1曲目の"Agora E Seu Tempo (Acroostic Percussion Mix)"は最早クラシックとさえ呼んでいい名曲で、オリジナルよりも頭のパーカッションを強調し生命力の躍動を表現したような展開から、そっと入ってくる美しいスパニッシュ・ギターのフレーズで優しさや希望に満たされるこの曲は、正にスピリチュアル・ハウスを体現する。Mental Remedy名義の"Heloise (Pt. One)"は初披露の曲で、ピアノとストリングスの音色を前面に打ち出し旋律の美しさを強調したインタールード的な趣きだが、ハウス中心のアルバムの中で安堵の場所を提供している。幾つかあるバージョンがある中でもレアな物が収録となった"The Sun The Moon Our Souls (Electric Voices Mix)"は、Joeもきっとお気に入りのバージョンであろうと思われ、2014年のBody & Soulでも夕日でオレンジ色に染まった背景の下でプレイしていたのが記憶に残っている。物哀しいアコギの旋律と層になって伸びるダビーなパーカッション、そしてゴスペルの祈りにも感じられる歌などが一つなり、今生きている事に感謝の念を述べるような儚いディープ・ハウスは永遠のクラシックだ。また盟友であるKuniyuki Takahashiの曲をリミックスした"All These Things ( Joaquin's Cosmic Arts For Otto Version)"は、7つのパートに分かれ22分にも及ぶ大作で、KuniyukiとJoeの相乗効果によって思慮深くも包容力に満ちた慈愛を体感するであろう。そして最後の目玉でもある"Most Beautiful (Joaquin's Sacred Rhythm Version)"、これも2014年のBody & Soulでプレイしフロアを沸かせていた曲で、爽やかなラテンビートと情熱的な歌による感情の起伏をもたらすソウルフル・ハウスは、ギミック無しにメロディーやリズム感の良さを打ち出して心と肉体を躍らせる。どれもこれも人間の内に秘めた感情を刺激し、そして肉体を鼓舞する躍動があり、Joeの祈りにも似た音楽は生命力をもらたすダンス・ミュージックなのだ。



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Motor City Drum Ensemble - Selectors 001 (Dekmantel:DKMNTL-SLCTRS001)
Motor City Drum Ensemble - Selectors 001
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デトロイトの音楽性も咀嚼し黒い芳香と粘性の高いディープ・ハウスやビートダウン・ハウスを完成させ、一躍時の人となったDanilo PlessowことMotor City Drum Ensembleは、作曲家としてでだけでなくDJとしての評価も一際抜きん出ている。5年前のMIXCDである『DJ Kicks』(過去レビュー)においてもテクノやシカゴ・ハウスのみならず、懐かしいディスコやコズミックなジャズに湿地帯を匂わせるダブもミックスし、ブラック・ミュージックを根底に置きながら単に踊る為だけ以上の豊かな音楽性を披露した。そこに当然必要となるのが各DJ毎のネタ、つまりはレコードとなる訳だが、デジタル配信が増えた現在に於いてもまだデジタル化されない貴重な音源は数多く、それらを如何に入手するかがDJにとっての一つの仕事である事に異論はないだろう。だがしかし、Plessowはそういった秘密兵器を隠す事なく、多くの人と共有する事を躊躇わない。そんな背景もあってDekmantelからリリースされた本作は、正に彼の秘密兵器を公開し、そして他の若いDJ達にも使って欲しいという思いも込められた正に「Selectors」としての内容だ。古くは1978年のファンクから最も新しいのでは1997年のディープ・ハウスまで、しかし一般的には恐らく知れ渡っていないであろうレアな曲が収録されている。アルバムの前半は主にハウスで、DJ Slym Fas(知らなかったのだが何とTony Ollivierraの変名だ)の"Luv Music"の耽美なエレピの旋律やコズミックなシンセの使い方が特徴の野暮ったいディープ・ハウスは、例えばMCDEの新曲だと言われても気付かない位に音楽性に類似点が見受けられる。House Of Jazzによる典型的な90年代のUSハウスである"Hold Your Head Up"の甘くもゴスペル的な歌、20 Belowの弾力性のあるファットなベースがうねりシンセが優雅な芳香を匂わせる"A Lil Tribute To The Moody Black Keys"など、これらもMCDEのDJセットに入るのもその音楽性を理解すれば極自然に思われる。アルバムの後半は更に時代を遡り、Lickyによるアフロな熱さもある陽気なファンクな"African Rock"、RAhzzのテンション沸騰で血が滾るゴージャスなディスコの"New York's Movin"など、ファンク/ソウル/ディスコといったよりルーツ的な選曲だ。ミックスではなく敢えてコンピレーションとしたのは当然DJとし使って欲しいという気持ちの表れだが、そのおかげでリスニングとしても各曲の魅力をそのままに体験出来るに事にも繋がっており、DJにもリスナーにもありがたい作品なのだ。MCDEのルーツを探る意味でも、面白さもある。



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Bing Ji Ling & Alex From Tokyo Present... (World Famous:WF-003)
Bing Ji Ling & Alex From Tokyo Present...

かつて日本に腰を据えて活動をしていたAlex From Tokyo、現在はNYにて拠点を移しつつWorld Famousも主宰しDJのみならずアーティストとしても活動を継続している。本作はAlex From Tokyoの盟友であるBing Ji LingによるWorld Famousからの新作で、Lil' Louisの名作である"Club Lonely"のカバーを収録している点でも注目だが、その上Alex From TokyoのユニットであるTokyo Black Starのリミックスも収録するなど、話題に事欠かない。先ずは新曲となる"Not My Day"だが、以前にアコースティック・カバーのアルバムを手掛けたBing Ji Lingのイメージからはかけ離れ、ダビーな電子音が揺らぐような効果を生み出すバレアリック気味なハウスになっている。肩の力が抜けた大らかなリズム感に広がりを演出するダビーなシンセのメロディーに生っぽいベース音など、全体として温かく微睡むような雰囲気はレゲエぽさもあり、これから暑くなる真夏のシーズンに最適だろう。そして前述したカバーとなる"Lonely People"、これはカバーアルバムに収録されていた物の再録だけあり、確かにリズムはスカスカで艶っぽい歌と湿っぽい演奏による簡素な構成が清潔感を漂わせている。一方でそれら2曲をTokyo Black Starがリミックスした曲は、間違いなく真夜中のダンスフロア向けのディープ・ハウスになっており、グルーヴの強度を増して闇にはまる仕様だ。鋭利なパーカッションや硬いリズムにトリッピーなシンセを加え、ズブズブと深く潜っていくような覚醒感を伴う"Not My Day (Tokyo Black Star Remix)"、カバーの独特な旋律を残しながら重い低音がカチッとしたリズム感を作る事でファンキーに仕上げた"Lonely People (Tokyo Black Star Club Retouch)"、どちらも過度に装飾をし過ぎる事はないが重厚感や壮大さは増してダンスフロアを刺激する。その意味で野外向けか屋内向けか、また昼夜で分けて使えるような性質の曲が収録されており、使い勝手も良いだろう



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| HOUSE11 | 20:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Moodymann - DJ-Kicks (!K7 Records:K7327CD)
Moodymann - DJ-Kicks
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名門MIXCDシリーズのDJ Kicksにまさかこの人が参戦してくるとは、夢にも思っていなかったので衝撃を受けた人も少なくはないだろう。その人こそデトロイト・ハウスにおいてカリスマ的な存在感を放つKenny Dixon Jr.ことMoodymannだ。初期のフロアに即したキックの強いディープ・ハウスから徐々にジャズやファンクなど黒人音楽にルーツに向かった音楽性を強め、躍らせるDJと言うよりはアーティストとしての表現力を磨く方向性へ向かっていたここ数年を考えると、MIXCDという形態と向き合って彼のルーツを掘り下げるような選曲が成された本作は非常に貴重な物だ。但し彼のDJを体験した事のある者ならば理解はしているだろうが、上手くミックスを行い継続的なグルーヴと起伏を盛り込む一般的なDJをするような人ではなく、本作もやはり繋ぎさえしていない箇所もあり決してミックスの妙技を楽しむ内容ではない。その代わりと言っては何だが、ハウスやディスコのみならずファンクやダウンテンポ、そしてニューウェーブやフォークに最新のベース・ミュージックまで、実に様々な音楽性を盛り込んだ内容は前述した通りDJという立場からアーティストとしての表現力を発揮している。序盤の気怠くメロウなヒップ・ホップやダウンテンポ路線、少しずつ官能的なディスコやベース・ミュージックに移行する中盤、それ以降のハウスのグルーヴが目立ち始めるもフューチャー・ジャズなど躍動的なリズム感も弾け、更にはニューウェーブ等も交えて奇抜性を強める終盤と、展開は意外にも筋書き通りに感じられる。しかしMIXCDとは言いながらも決してスムースで違和感の無い繋ぎに拘ってはおらず、何だかMoodymannという人の中に秘めた一代絵巻を紐解くような音楽の羅列は、MIXCDとして聴くよりはやはりコンピレーションとしての意味合いが強いように思う。実際にミックスされていようがそうでなかろうが、本作の価値はそれ程変わらないだろう。Moodymannの汚らしくも甘美な猥雑さは見事に表現されており、単にデトロイト・ハウスという枠組みを越えた存在感を放っている。



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| HOUSE11 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Omar S - The Best (FXHE Records:AOS 4000)
Omar S - The Best
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若手アーティストでありながらギャラが高いとか、作品が高額であるとか、最近のデトロイト・テクノ/ハウスにありがちな傾向はOmar Sにも当てはまる。その上、3年ぶりとなる新作のタイトルは『The Best』と、特にベスト・アルバムでないにもかかわらずこの有様は、ふてぶてしいと言わざるを得ない。だがそんなタイトルも実際に作品を聴けば納得させられる点もあり、確かに彼の成熟したキャリアの既に辿り着いたモータウン・ミニマルの境地と呼びたくなる。新作にはベテランであるNorm TalleyやAmp Fiddler、Divinityに若手のKyle HallやBig Strickなど、デトロイト勢で塗り固めたようにゲストを招いており、その意味でアルバムは正にデトロイトの音を語っている。アルバムは錆びたように鈍い唸りを聴かせるかっちりしたビートの"Time Mo 1"で始まり、序盤からロウな質感を打ち出しつつも荒廃した街の中にもソウルを感じさせるような温もりが伝わってくる。続く"Take Ya Pick, Nik!!!!!"も不気味で悲しげなシンセに導かれるロウ・ハウスで、この虚無感さえ発する作風はOmar Sのアンダーグラウンドな音楽性だ。"Chama Piru's"なんかはKyle Hallにも通じるようなダブ・ステップ以降のロウ・ハウスと言った趣きで、しかしHallを掘り起こしたのはOmar Sなのだからそれも当然か。Amp Fiddlerを歌でフィーチャーした"Ah'Revolution (Poli Grip For Partials Mix'Nik)"、Big Strickをフィーチャーした"Seen Was Set"と、ボーカリストを招いた曲ではソウルやディープ・ハウス仕立ての作風もあり、心の芯から温めるようなエモーショナルな響きを聴かせるのもデトロイトらしい。かと思えばジワジワと不気味なアシッド・ベースが迫り来る"Bitch....I'll Buy Another One!!!"など、一転して退廃的でDJツール的としての機能を高めた作風もある。ハウスにミニマル、ファンクやソウルにR&Bなど曲毎に様々な姿を見せるアルバムは確かに多様性が詰まったベスト盤のようでもあるが、しかし実際にはその完成度の高さからベストである事もOmar Sは証明しているのだ。粗雑で汚らしく、しかし生々しくソウルフルで、野蛮の中にも存在する美しさがあり、喜怒哀楽が詰まった感情的なデトロイト・ソウル。The Bestのタイトルに偽りはない。



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Sai - Goes Into Space (Groovement:GR025)
Sai - Goes Into Space

日本は金沢在住のDJ/アーティストであるYohei Sai、2014年の「Flying With You EP」(過去レビュー)からおおよそ2年、久しぶりの新作が前作と同様にGroovementから届けられた。日本に於いても金沢を拠点としていた事もあり都内でも彼のDJを体験出来る事はレアではあるのだが、こうやって先ずはゆっくりとでも定期的に新作をリリースする事で、少しずつその存在感を示している近年。特に日本のレーベルではなく海外のレーベルからのリリースが中心である事から、恐らくは国内よりも海外での評価の方が正当と考えられるだろう。さて、この新作は前作と同じレーベルからであるからして、音楽性もうっすらと淡い情緒を漂わせる作風におおよそブレは少ない。フラットで伸びやかに疾走するリズムにすっと薄いパッドが張り付くように延びて行く"Around Focus"はその端的な例であり、ややアシッド気味なシンセのループとの相乗効果でひんやりとクールな情緒を感じさせる作風はテクノともハウスとも受け止められる。鈍く太いキックが低重心なグルーヴを生む"Room"も薄膜のようなパッドが浮遊しているが、そこにヒプノティックな音がループする事でやや覚醒感を煽るようなディープ・ハウスになっており、惑わせるような幻惑作用が感じられる。裏面の楽曲はもっと展開があり面白く、タム等も使用し変則的なビートで揺れながら幻想的な霧が噴出するようなサウンドと仄かなアシッド・サウンドで満たされるエモーショナルな”The Night Goes On”、オーロラのようにしなやかに揺れ動くようなドリーミーなシンセとシャッフルするリズムが小気味良い"Ms Lady"と、アーティストの世界観を壊す事なく似たり寄ったりにならない作風の豊かさが表現されている。どれもこれも熱くなり過ぎる事はなく一見ひんやりとしつつ、しかし内面に秘められた魂が燻るようなエモーショナルな作風は、Saiの作風として定着しこれからの更なる活躍を予感させているのだ。



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Kyle Hall - From Joy (Music 4 Your Legs:IMFYL079)
Kyle Hall - From Joy
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早熟の天才である事は周知の事実であるデトロイトのKyle Hall。2007年に15歳で作品デビューしたのは驚きだが、自身で運営するWild OatsのみならずThird Ear RecordingsやHyperdubにMoods & Groovesなど歴史と確かな質を持つレーベルにも見初められるなど、音楽的才能はデトロイト新生代の中で突出している。そんな彼が2013年には初となるアルバム『The Boat Party』(過去レビュー)をリリースしていたのだが、2015年末にリリースされた2ndアルバムとなる本作はResident Advisorの記事によれば何と2010年以前に制作された物だという。刺々しくロウな質感と荒いビート感が際立った鈍いマシン・ソウルの1stアルバムも驚愕モノだったが、しかしそれよりも更に前に制作された本作は勿論ダブ・ステップ以降のビート感を含めジャズやファンクを感じさせるモノがあるが、何よりも温かみが伝わる情熱的なソウルとメロウさを打ち出していた点に驚かずにはいられない。若さ故の荒々しさ…ではなく何だかより大人に成長をしたようにも感じられる包容力を伴う作品が実は過去に制作されたとは、RAの記事を読まなければ気付けやしなかったであろう。冒頭の感傷的なエレピがしっとりと滴る"Damn! I'm Feelin Real Close"は、しかしビートは鋭く軽快に弾け前のめり気味でもあるが、やはり情感たっぷりな旋律がメロウネスを前面へと打ち出す。途中からは狂気ではなくコズミック感を活かしたアシッドもさっそうと導入されるなど、1stで聞けた粗暴な面は適度に隠匿された上でデトロイトの熱きソウルが染み渡っている。大胆なパーカッションの粗さが目立つ"Inverse Algebraic"はその点では1st時を思わせる点もあるが、手弾きしたようなシンセやベースからはファンクの躍動感が発せられ、ある意味ではそれ程作り込まれてはいないように聞こえる作風からは確かに若さも感じられる。煌めくシンセと耽美なエレピによる甘いメロディーに鋭くタフなハウス・ビートが乗っかる"Dervenen"は正にデトロイト・ハウスだが、初期デトロイト・テクノを思い起こさせる近未来の音を鳴らしていたかのような"Strut Garden"のように青々しさも見受けられる。『From Joy』というタイトルを真に受けるのであれば、確かに本作は陽気なムードとリラックスしながらも多様性のある弾けたビートで満たされており、デトロイト・ハウス/テクノの根底にある黒人音楽のジャズやファンクにソウルへの敬意を反映させたようにも想像出来るだろう。暴力的でロウな音質であるオリジナリティーを完成させる前の、つまりは若さ故にルーツに寄り添った事でメロウなムードが強調されているのか。このような方向性で来た事に驚きつつ、長く聞けるデトロイト・ハウスの傑作と言えよう。



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Kez YM - Sandpit EP (Theplayground:PG08)
Kez YM - Sandpit EP

2015年もFaces RecordsやCity Fly Records、そして古巣Yore RecordsからEPをリリースする傍ら、既に移住済みとなったベルリンを含むヨーロッパ各地の大小のパーティーに出演するなど、音楽活動も日本にいた頃よりも盛んになっているように見受けられるKez YM。そして2016年もその活動の勢いは一向に衰えず、今年の初となる作品がUSはデンバーのアナログオンリーに拘ったTheplaygroundからリリースされている。基本的にはアーティストとしての作風が確立されているが故にどのレーベルからとなろうとも内容に大きな差はなく、その意味ではこの新作も非常にKez YMらしいというべきかデトロイト・ハウスに影響を受けたソウルフルでディスコ風味溢れるいつものディープ・ハウスとなっており、大きな驚きは無くとも抜群の安定感を誇っている。エモーショナルなパッドによる自然の流れのコード感とドライブするキックで爽快な流れを生む"Chase"は、本場デトロイト・ハウスのアーティストが作った作品と紹介されても気付かない位で、Kez YMお得意の弾けるような肉体的なグルーヴも込められている。"Throw Away"ではぐっとビートを抑えた分だけねっとりとした黒さもありながら、女性のボーカル・サンプルを効果的に用いてファンキーさを際立たせている。裏面へと続くとガヤ声のサンプリングを用いた"Built On Sand"が聞けるが、太めのキックが力強くビートを刻みつつマイナー調のコード展開でスムースな流れを見せるが、奥には微かにトランペットらしき音が隠し味として効いている。最後は膨れ上がったベースが迫り来るビートダウン・ハウスの"Thirsty Dream"で、ここではよりトランペットが官能的な響き方をしていて、ねっとりと纏わり付くような正にブラックネス全開の曲調だ。DJもそうだが制作する作品もデトロイト・ハウス、ファンキー・ディスコ、ビートダウンなどKez YMの好みが素のまま反映された点で、全くぶれない点は良くも悪くも金太郎飴ではあるのだが、眼差しはダンスフロアを向いており踊る為の音楽としての要素は十二分に詰まっている。



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