2016.07.28 Thursday
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長らくビート・ミュージックを引率するNinja Tuneから放たれたアルバムは、なんとハウス・ミュージックを軸にしている。手掛けたのは以前から交流があったMax Graef & Glenn Astroで、それぞれがTartelet Recordsから生演奏やサンプルを用いてディスコやファンクにジャズにその他諸々を吸収したハウスのアルバムをリリースしており、多様なビートへの拘りを強く感じさせる新世代だ。Ninja Tuneのハウスへの接近は何となく流行っているようにも思われるハウスへの迎合…ではなく、そこにはモダン・ファンクやジャズやR&Bなどの要素があるからこそ、レーベル性を失う事なく新たな音楽性を得る事に成功している。事実、2015年には同レーベルはRomareによる『Projections』(過去レビュー)でハウスへの接近は既にあったわけで、その流れは本作へと続いているのだ。二人は本作において最近のダンス・ミュージックではよく使用される機材は使わずに、トラックリストや曲順を決めた上でコンセプチュアルな制作を進めたそうで、詳細は分からないもののサンプリングではなく基本は生演奏やマシンビートによる構成に聞こえる。幸いな事に手段が目的化する事はなくライブ感はありながらも、演奏の技巧を見せびらかすような内容ではなく、彼等のファンクやジャズと言った嗜好がラフさもある音として上手くハウスに馴染んでいる。冒頭の"Intro"ではカットアップしたような演奏がサンプリング・ミュージックにも聞こえるが、やはり音は生々しく迫る。続く"Where The Fuck Are My Hard Boiled Eggs?!"はジャズのようなリズムの響きに、途中から優雅で豊潤なシンセがうねるようにコード展開し、ロウなビートダウン・ハウスの風合いがある。"The Yard Work Simulator"に至ってはほぼブレイク・ビーツで、鋭利に刻まれる弾けたグルーヴに豊潤なシンセのなめらかな旋律は、豊かなコズミック感さえも纏っている。そしてけたたましいブラジリアン風なパーカッションが炸裂する"Magic Johnson"は、突如としてしっとりとメロウなジャズ・ハウスへと変化する情緒的な一曲で、続く"Jumbo Frosnapper"ではビートは落ちてざっくりしたヒップ・ホップ的を更にぶつ切りにしたような奇怪な展開をする。何だかアルバムの構成としては忙しなく方向性は目まぐるしく変わるのだが、それもNinja Tuneの身軽な自由さ故と考えれば不自然ではなく、彼等の影響を受けた音楽が明確に表現されているのだ。
Check "Max Graef" & "Glenn Astro"