Various - Wishes & Memories Vol.2 (TH Pressing:THPVS 03)
Wishes & Memories Vol 2

トラックメーカーとしてその才能に知名度も追い付きつつある東京在住のTominori Hosoyaが、2014年に始動させたレーベルがTH Pressing。2016年までに2枚のEPのみしかリリースしておらず決して活発とは言えないが、その分だけHosoya自身もクオリティーには細心の注意を払っており、2016年にリリースされた『Wishes & Memories Vol.1』でも4人のアーティストがピュアで透明感あるサウンドや清々しいエモーションを放つ音楽性を展開し、Tominoriが共感し目指す音を示していた。そしてそのシリーズの第二弾が到着したが、ここには日本からエモーショナルな音楽性でCadenzaにも取り上げられたTakuya Yamashita、デトロイト・フォロワー系の音楽性で注目されるLife Recorder、エジンバラのディープ・ハウサーであるBrad P、スペインからはErnieと単に有名なだけのアーティストを集めたコンピレーションとは一線を画す内容重視の作品となっている。Life Recorderによる"While She Dreams"は正に期待通りだろう、透明度を保ちながらすっと伸びていく上モノと乾いたパーカッションの爽やかなグルーヴによって、青々しい空の中へと飛翔するような浮遊感溢れるディープ・ハウスでエモーショナルと呼ぶ音に相応しい。Ernieによる"Dynamic Workflow"は逆にリラックスしたビートがしっかりと地に根を張っており、仄かに情緒的なパッドの下では刺激的でダビーなパーカッションが鳴り響く事で広がりを感じさせる。一方Brad Pは最もテクノ的なダークさと無駄を排したミニマル色の強い"Grey Blue Passion"を提供しており、闇の中に恍惚を誘う電子音を配置しながら暗闇を潜行するようなトリップ感を演出。そして最も意外だったのはTakuya Yamashitaの"Somewhere"で、ノンビートのアンビエント・スタイルを披露したこの曲は夜空に瞬く星の煌きの如く美しい旋律を奏でて、広大な宇宙の無重力空間で遊泳をするような感覚に包まれる。どれもこれも作風は異なれどエモーションや美しい響きに軸が置かれTominoriの目指す音楽性と共振するのだから、もしTominoriの音楽に惹かれている人ならば是非とも聞いてみるべきだろう。

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Pop Ambient 2017 (Kompakt:KOMPAKT CD 135)
Pop Ambient 2017
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夏の陽気も迫るこの頃、既に季節外れではあるものの年初の厳寒におけるテクノの風物詩にもなったKompaktが送るアンビエント・シリーズの『Pop Ambient』、その2017年度盤を紹介しておきたい。このシリーズに関してはKompaktの元オーナーでもあるWolfgang Voigt(最近Gas名義を復活させた)が選曲を担当しており、アンビエントに対しての特別な審美眼を持つ彼だからこそ、毎年リリースする事で金太郎飴的な内容にはなりつつもその質の高さが保証されている信頼の置けるシリーズだ。本作でもKenneth James GibsonやLeandro FrescoにAnton KubikovやJens-Uwe Beyerなど新旧Kompakt関連のアーティストが曲を提供しているが、注目すべきは珍しく邦人アーティストであるYui Onoderaが参加している事だ。広告や建築空間への、または映画や舞台の音楽制作も行うクリエイターだそうで、クラブ・ミュージック側からは見えてこない存在ではあったが、本作では2曲も収録されるなどVoigtもその実力を認めているのだろう。アルバムの冒頭に用意された"Cromo2"は、透き通るようなシンセのドローンに繊細なピアノの音一つ一つを水玉のように散りばめて、美しさと共に神聖な佇まいを含ませた幻想的なアンビエントで、正に『Pop Ambient』シリーズに相応しい雰囲気を持っている。もう1曲はScannerとの共作である"Locus Solus"、こちらも柔らかく優しいピアノ使い聞こえるが、シンセのドローンが揺らぐ事でハートビートのような躍動感も体感させる。さて、Voigtはというとリミキサーとして参加して”Hal (Wolfgang Voigt Mix)”を提供しており、オーケストラを思わせる荘厳なストリングスやピアノによって重厚感に満ちたアンビエントを作り上げ、そのスケール感の大きさはVoigtらしい。Leandro Frescoは"Sonido Espanol"と"El Abismo"のどちらも吹雪を思わせるノイズ風のドローンが何処までも続く音響アンビエントで、雪が降りしきる極寒の地を思わせるところは『Pop Ambient』の季節にぴったりだろうが、逆に他のアーティストは音数を絞りながら有機的な響きでほんのりとした温かさを表現しており、Popという言葉が馴染み易さに繋がる一般的な意味であれば、そのタイトルはあながち間違ってはいないだろう。春が来るまでの寒い季節に、眠りに落ちるためのBGMとしてやはり聞くべきか。



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Pepe Bradock - Baby Craddock (Atavisme:ATA003)
Pepe Bradock - Baby Craddock
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ハウスかテクノかという区分けさえ無意味に感じられる独特で奇抜な作風は唯一無二、奇才と言う表現が嘘偽り無く相応しい存在であるPepe Bradockが、自身で主宰するAtavismeから久しぶりの新作をリリースしている。理由は分からないが欠番だったカタログナンバー3が振られており、3500枚限定でのリリース(むしろ今のご時世ではかなり多いように思うが)とちょっとした話題性もあるが、それを抜きにしても相変わらずのネジがぶっ飛んだ音楽性はそれだけで魅力的だ。1曲目となる”Yazuke”からしてどんなジャンルなのかも不明確なダンス・ミュージックで、土着的な芳香にジャズやファンクも思わせるムードが混ざり込み、そこに奇妙なSEを多数用いながら未開の呪術的な奇祭を喚起させるようなトライバル・グルーヴが圧巻だ。奇妙な笑い声らしきサンプリングも交えながらどたどたとしたけたたましいグルーヴが暴れる"Grodno"、コラージュ的な展開でエキゾチックでトリップ感溢れる旅へと出かけるようなノンビートの"Sainte-Maure"と、これらも一体何処の国の音楽なのかと惑わせられる無国籍感がPepe以外の音楽ではない事を示している。シャキシャキとしたリズムが刺激的で、そこにカットアップしたようなサンプリングを用いたフィルター・ハウスの"Underground Monongahela"も相当にぶっ飛んでおり、一方で展開を抑えてミニマルなグルーヴの"Boom Boom Crash"はツール的にも思えるが、歪なリズム感はやはり普通ではない奇妙な鳴りをしている。6曲を収録しながらもどれも全く同じではない個性的かつ強烈な、そして当然ダンス・フロアで聞いてこそな踊れる内容で、トラック・メーカーとして非凡なる才能をこれまた証明する会心の一枚だ。



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Vakula - A (Bandura:Bandura005)
Vakula - A

ウクライナの才人・Vakula、変名も用いてFirecrackerやLelekaにDekmantelなど多数のレーベルからディープ・ハウスにビートダウンやミニマル・テクノにヒップ・ホップ、果てはニューエイジからサイケデリック・ロックまでリリースし、その音楽的な多彩性は現在のダンス・ミュージックの中でも随一だろう。クラブで効果的なツール性の高い楽曲のみならず、アルバムとしてのリスニング仕様な豊かな音楽性での表現力にも長けており、DJとしてよりはやはり制作面での評価が特に高い。そんなVakulaの新展開が自身で運営するBanduraからは3年ぶりとなる本作『A』で、実はこの後には『B』も予定されている事から、アルファベット順に作品がリリースされるのだろう。音楽的にもまた変化を促しており、端的に言ってしまえばBasic CnannelやRhythm & Soundを継承する深い音響系のミニマル・ダブを展開している。この手の音楽は既に作風が確立されほぼ完成形を成しているが故にVakulaが手を出そうとも革新性というものは無いのだろうが、だからこそ中途半端な作品を出す事いもいかない訳で、どんな音楽でも自分のモノとしてしまうVakulaの力量を以ってして水準の高いミニマル・ダブを鳴らしている。A面には14分にも及ぶ"Aberration"を収録しており、ゆらめき引いては寄せる波の様な残響が官能的な響きをなしており、間引かれたダブのリズムの隙間をしっとりと埋めていくBasic Channelスタイルのアブストラクトなになっている。裏面には3曲収録されているが、より湿ったダブのリズムが強調されたRhythm & Soundスタイルのミニマル・ダブと呼べる"Apperception"、"Quadrant Dub"を継承するもやもやしたリヴァーブに不鮮明なハウスの4つ打ちを組み合わせた”Agglomeration”、電子的なキレのあるリズムと呻き声のような低音によるオリジナリティーあるダブ・テクノな"Assertiveness"と、これまたどれも異なるタイプのダブを披露しておりVakulaのアーティストとしての底の深さはまだまだ計り知れない。



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KiNK & Fabrice Lig - Charleroi DC (Melodymathics:MMOS003)
KiNK & Fabrice Lig - Charleroi DC
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リリースしているアーティストだけを見れば比較的デトロイト系を意識しているであろうベルギーの新興レーベルのMelodymathics。その新作を聞けば予想は確信へと変わるに違いない。なんとベルギーからデトロイトフォロワーの前線にいるFabrice Ligとブルガリアから一躍有名になったKiNKによる共同で作品を手掛けているのだが、その上リミキサーにはブギーなディープ・ハウスで人気を博すDetroit Swindle、これまたデトロイト愛は随一のIan O'Brien、そしてレーベル主宰のMelodymannが迎えられており、話題性も抜群の内容となっている。先ずはオリジナルである"House Version"、メロディアスなシンセの旋律や多幸感溢れる電子音の散りばめ方は確かに両者のエモーショナルな個性が発揮されており、そこに黒くはなくともデトロイトのそれとも共振する爽快なファンキーさも持ち込んで、実にオプティミスティックなテクノになっている。"Detroit Swindle Remix"はパーカッシヴな打楽器を加えつつもビートはざらついており、やや鈍いリズムトラックや荒削りな音質によって派手さを抑えてシカゴ・フィーリングな仕上げ方をしているが、中盤では原曲のエモーショナルな旋律を浮かび上がらせて感動的な瞬間を作っている。そして久しぶりに作品を手掛けた事になる"Ian O'brien Remix"、この手の音楽との相性は当然抜群であり、パワフルで地響きのような4つ打ちに輝きを帯びたコズミック感が炸裂するシンセのフレーズを追加して、宇宙の果てまでも突き抜けていく濃密なハイテック・テクノなリミックスが素晴らしい。対して"Melodymann Remix"は逆にすっきりと情報量を減らした事でビートにキレが出ており、疾走感のあるビート感が目立つデトロイト・テクノ風になっている。元々の原曲がポジティブな希望溢れるものを更に各アーティストが自身の個性を上塗りして、どれも心が晴れ晴れしくなるテクノな作風だ。



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Marcel Dettmann - DJ-Kicks (Studio !K7:K7340CD)
Marcel Dettmann - DJ-Kicks
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長きに渡りテクノ/ハウスに限らずダンス・ミュージックのリスナーを楽しませてきているMIXCDシリーズ『DJ-Kicks』、その最新作には遂にベルリンはBerghainでレジデントを務め、日本に於いてもその知名度を高めるのに貢献したMarcel Dettmannが登場。過去には『Berghain 02』(過去レビュー)、『Fabric 77』(過去レビュー)、『Conducted』(過去レビュー)とまた人気を博すMIXCDシリーズも手掛けているが、やはりこのDJ-Kicksシリーズはそれらとは異なり真夜中のダンスフロアを意識するよりはアーティストの個人的な好みを反映させたものが特色だろう。そう言った意味ではDettmannによる本作は比較的ダンスフロアにも適応しつつ、他アーティストのシリーズに比べると果敢なチャレンジ精神は少ないかもしれないが、オールド・スクールなテクノからエレクトロやニューウェーブまで取り込んでホームリスニングにも適した構成は、確かにピークタイムのダンスフロア的ではないが彼のパーソナリティーは如実に反映されている。スタートは90年代の古いテクノであるCybersonikをDettmannがリミックスしたバージョンで開始するが、ビートの無くなったリミックスによって静謐な立ち上がりとなっている。そこにOrlando VoornやDettmann自身の硬質でロウなテクノを繋げていき、更にはInfinitiによる古き良きテクノを自らリミックスした"Skyway (Marcel Dettmann Remix)"もセットする事で激しさだけではなく不思議なムードを纏ってリスニング性を保っている。しかし彼のミックスにしては意外にも展開の振れ幅は大きいだろうか、中盤までのMystic BillによるバウンシーなハウスやDas Kombinatによる鞭で打つようなエレクトロ、Clarence Gによるラップ等の流れはDJ-Kicksの特性を意識しているようだ。そこからも闇の陰鬱なムードを保ちながらもハードさを回避し、リズムやグルーヴを常に変容させながら普段の持続感とは異なる展開の多さによって耳を惹きつけ、終盤にはThe Residentsのユーモア溢れるニューウェーブから最後はデトロイトの叙情性もある"Let's Do It (Rolando Remix)"によってエモーショナルなラストを作り上げている。彼が今までに手掛けたMIXCDに比べると本作がベストであるとは言えないものの、しかし普段はプレイしない選曲や自身の特別なエディット/リミックスも多用した点にも興味深さはあり、DJ-Kicksらしさは十分にあるだろう。



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Takkyu Ishino - Euqitanul (Ki/oon Music:KSCL 2821)
Takkyu Ishino - Euqitanul
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2016年8月にリリースされた『Lunatique』(過去レビュー)は、前作から6年という空白の時間を埋めるには十分過ぎる程の官能的なテクノ・アルバムで、石野卓球のアーティストとしての才能を再度意識せざるを得ない会心の出来だった。アルバムとして高い完成度を誇るが故に手を加えるのは難しいのではと思っていたが、そこは卓球チョイスによる信頼足りうるアーティストをリミキサーに起用する事で、このリミックス・アルバムはテクノという音楽をまざまざと聞かせる内容になっている。盟友であるドイツのWESTBAMや電気グルーヴ繋がりで砂原良徳やagraph、日本のテクノシーンをリードするHiroshi WatanabeやGonnoにDJ SODEYAMAなど、確かな実力と正当な評価を得ているアーティストが集結しており、それぞれの音を武器に卓球の曲を作り替えているのを比較しながら聞くのは面白い。例えば"Amazones (A. Mochi Remix)"、日本のハードテクノをリードするA.mochiによるリミックスは原曲よりも更に硬めに、更に灰色に染めたツール性の高いハードテクノに見事に生まれ変わっており、無駄な音を削ぎ落としつつスリム化する事で逆に骨太なグルーヴ感が浮かび上がっている。近年再度TRを含むアシッド・ハウスの魅力に取り憑かれたワタナベヒロシによる"Selene(Hiroshi Watanabe Remix)"は、原曲の多幸感を活かしつつそこに明るいアシッド・サウンドも持ち込んで、疾走感を付加させながらワタナベらしい壮大な叙情性を展開するアシッド・テクノへと自然に作り替えている。DJとしてもアーティストとしても春真っ盛りなGonnoによる"Die Boten Vom Mond(GONNO Remix)"は、つんのめるようなリズムの序盤からスムースな4つ打ちへと展開する変化球的な技を披露するが、強烈なパーカッションやキックによる切迫感はフロアのリアルな空気を表現している。Westbamによるヒップ・ホップな雰囲気もやや含むゴリゴリのベルリン・テクノ的な"Lunatique(WESTBAM Remix)"や、Teiによる小洒落たラウンジムード溢れる"Rapt In Fantasy(TOWA TEI Remix)"等は想定内と言うかリミックスの妙技は感じれられない点で、良い意味で安定感、悪い意味では凡庸にも思ったりもするものの、そこにもアーティスト性は確かに存在しているだろう。多様なアーティストがリミックスしているおかげでアルバムとしての統一感は当然の如く無く、しかしそんなバラティー豊かな内容を無邪気に楽しめば良いと思わせるのは卓球の音楽性であり、曲順もタイトルもオリジナルを逆にしたユーモアも含めて受け入れれば良いのだろう。

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| TECHNO12 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Hiroshi Watanabe - Contact To The Spirits 3 (OCTAVE-LAB:OTLCD-2270)
Hiroshi Watanabe - Contact To The Spirits 3
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2016年は本人にとって新たなる局面へと突入した年であったに違いない。日本人としては初となる作品をデトロイトの老舗レーベルであるTransmatからリリースし、また過去の名義であるQuadraの失われたアルバムを復刻させるなど、過去と未来の両方を押し進めてアーティストとして実りのある一年になっただろう。そして本作もその一年の重要な要素であり、DJとしてのクラブで培った経験を作品化したMIXCDで、シリーズ3作目となる本作"Contact To The Spirits 3"だ。ドイツはKompaktとの関わりから生まれた1作目から彼自身を投影したと言う2作目を経て、4年ぶりとなる新作はこれまでと同様に精密な流れによる濃密なストーリー性を持ちつつ今まで以上に感情の起伏を誘発する内容で、ワタナベの激情が見事に音に反映されている。82分というCDの限界時間に21曲も使用した事で怒涛の展開によって熱き感情が激流の如く押し寄せるが、ミックスの最初は清らかな空気が漂い始めるアンビエントな"Sunrise On 3rd Avenue"を用いる事でこれからの壮大な展開を予期しており、そこからは聴く者を圧倒するドラマティックな展開が全く隙間なく続く。序盤にはYonenagaのプロジェクトであるR406による新曲の"Collapsar"がドラマティックな瞬間を作っており、デトロイト・テクノの叙情性がモダンに解釈されているが、中盤のKirk Degiorgio〜Ian O'Brien〜Rennie Fosterらの曲を繋げたデトロイト志向の流れは神々しいまでの光が天上から降り注ぐようで、勢いとエモーションが見事に融和している。また嬉しい事にR406の曲を用いたのと同様に、日本の隠れている才能を引っ張り出す事も意識しており、終盤に向かってjunyamabeによる幻想的な夢の世界に導かれるような"internal_external_where_is_my_body"をプレイし、ラストには7th GateのTomohiro Nakamuraによる"Memories Of Heaven"を配置して興奮と感動をピークに上げつつすっと余韻を残さず消えていくドラマティックな展開を生み出している。音の数や曲の数の密度の高さ、そして感情の込め具合は相当なエネルギー量で、聴く側も決して安易に聞き流せないような美しくも圧倒的な世界観はやや過度にも思われるが、それもワタナベの胸に秘めたるソウルを極限までプレイに反映させた結果なのだろう。魂と肉体を震わすエモーショナルなテクノに圧倒されるばかり。

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Tomi Chair - Warm Seasons EP (TC White:TCW 1)
Tomi Chair - Warm Seasons EP

ここ1〜2年で大きな飛躍を見せつけたTominori Hosoya、その美しい響きと清涼感や開放感あるディープ・ハウス〜テクノは世界のDJをも魅了している。また、2014年にはTH Pressingを立ち上げて自身の作品だけではなく世界各地の音楽的に共鳴をするアーティストの作品をコンパイルしてリリースするなど、他アーティストの背中を後押しする事でこのシーンへの貢献を果たしている。そんな彼の別名義としてTomi Chairの活動もあるのだが、恐らくその名義でのリリースが中心になるであろうTC Whiteを2016年に立ち上げており、その第一弾となる作品が本作なのだ。オリジナルはB面に3曲収録されており、EPのタイトルが示すように温かい季節をイメージして爽やかさや新鮮な空気が満ちる音楽性が展開されている。生命の目覚めの時である春、それを示す"Spring"では正に光が射し込み鼓動を刺激するドラマティックな始まりで、淡々と透明度の高い清水が湧き出るようなピュアな世界観だ。"Summer"ではゆっくりとしながらも力強く地面を蹴るような4つ打ちに爽快感溢れるパーカッションを組み合わせ、そこにHosoya得意の色彩豊かなシンセのアルペジオを用いて、夏の活動的な生命力が溢れ出す嬉々としたディープ・ハウスを披露。"Morning Bird"は一転してダウンビートと言うか控え目なグルーヴ感で、幻想的な霧に包まれた早朝の時間帯からの目覚めのようなアトモスフェリックな音響処理が心地良く、アンビエント感もある微睡んだ曲だ。ややリスニング向けであったオリジナルに対し、リミックスの2曲は完全にフロア仕様で真夜中のピークタイムにもしっかり嵌るタイプの曲だ。スイスの新鋭であるPascal Viscardiが手掛けた"Spring (Pascal Viscardi Mystic Juno Mixx)"は、透明感は残しつつも図太いボトムや軽いアシッド・ベースも加えて突進するような攻撃的なテクノへと変化させており、上手くバランスの取れたダンス・トラックだろう。そしてイタリアのシカゴ・ハウス狂のSimoncinoによる"Summer (Nick Anthony African Morning Mix)"、歪んだキックやダークなSEでがらっと悪っぽいシカゴ・ハウスの雰囲気へと変容させ、物哀しく郷愁も帯びたシンセのメロディーが暗さの中でよりエモーショナルに響く。原曲とリミックスの対比の面白みはあるが、ここでもHosoyaのメロディーへの拘りやアトモスフェリックな質感が個性と感じられ、アーティスト性の確立へと繋がっている。アルバムを期待せずにはいられない。



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| TECHNO12 | 07:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
YO.AN - Gnah EP (Hole And Holland Recordings:HOLEEP-005)
YO.AN - Gnah EP

東京にて活動するダンス・ミュージックのレーベルであるHole And Holland。ネット情報を確認してみると2006年に音楽家やデザイナーにスケーター達によって設立され、MIXCDやEPの他にも映像作品の為のサウンドトラックを制作するなど、決してDJの為だけではない幅広い活動によって独自の運営を続けているようだ。そんなレーベルの新作は今までにも同レーベルから複数のMIXCDを提供しているYO.ANによるEPで、これが初のソロリリースとなるようだ。ここに収録された新曲である"GNAH"はクラブフレンドリーなニューディスコで、アシッド気味な毒々しいベースラインが浮かび上がりつつもそれは明るさも伴うもので、所謂古典的なアシッド・ハウスの酩酊するような中毒感とは異なる多幸感を生み出している。グシャッとした生っぽいドラム・プログラミングと音の親和性もあってジャンル的にはニューディスコに分類されるのだろうが、奇妙なサウンドエフェクトや異国情緒が漂うシタールのような音色も導入する事でサイケデリックな感覚も生まれ、派手で賑やさが溢れるパーティーにも嵌りそうだ。"Stay Focus"は2012年にサウンドトラックに提供されていた既発曲であるが、OPSBのギターリストであるPONCHIもフィーチャーして有機的な響きを打ち出したアコースティック・バレアリックで、爽やかな青空の下で佇むような開放溢れる長閑さがタイトル曲とは真逆の緩んだ心地良さを体感させる。そして本作の目玉は言わずもがな今やDJ/アーティストの両面から世界的評価を獲得したGonnoによる"GNAH (Gonno Remix)"で、原曲のサイケデリックな雰囲気は残しつつもアシッドのうねりを活かしたテクノへと変換させる事で、疾走感や骨太さを増したピークタイム仕様なリミックスへと生まれ変わらせている。ユーモアから覚醒感まで幅広い効果を引き出すアシッド使いはGonnoの武器だが、ここではその後者の方がより発揮されており、リミックスという作品がGonnoの個性を主張するオリジナル的な曲になっている事は流石だろう。



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