Various - Street Soul Brasil (1987 - 1995) (Hello Sailor Recordings:HSR 006)
Various - Street Soul Brasil  (1987 - 1995)

筆者にとっては全く造詣のないブラジリアン・ミュージックをコンセプトにした本作、タイトル通りに1987〜1995年のブラジル・アーティストによって制作された音楽を纏めたコンピレーションだが、これが心の中に眠った懐かしさが込み上げる至極サウダージな音楽ですこぶる良いので紹介したい。編集を担当したのはブラジルのエクスペリメンタルかつコズミックな秘蔵音源のリイシューに力を入れるSelva Discosを主宰するSelvagemやTrepanadoの名義でも活動するAugusto Olivaniで、前述のレーベルが少々特異性が際立つブラジリアン・ミュージックを手掛けているのに対し、本作ではそういった実験性よりも素直にブラジル音楽の表現に一般的に用いられやすいサウダージを前面に打ち出しており、その意味では多くの人に馴染みやすい感情性に溢れている。実際に本作ではひとえにブラジル・ミュージックと言っても、ディスコやファンク、ソウルにヒップ・ホップなどジャンルは多様ながらもどれもポップなりメロウなりの要素があり、そしてダンス・ミュージックとしてのグルーヴ感はありながらもただ熱狂的に踊る事よりもそれをクールダウンさせるしっとりした情感が強い。"Fora De Mim"はフルートの朗らかなメロディーとエレクトロニックな打ち込みを活かしたシンセ・ポップ調の曲だが、甘ったるく優しい歌はR&B調で、一聴して泣きを誘う実にドラマティックな曲だ。"Ladroes De Bagda"はレイドバックしたディスコかダウンテンポか、まったりした打ち込みのリズムにピアノやギターが簡素に装飾したすっきりした作風で、それが故にポップながらも何とも言えない侘び寂びも感じさせる。"Guarde Minha Voz"なんからSoul II Soulを思い起こさせるヒップ・ホップのスタイルで、ずっしりねっとりした重心の低いビートに合わせてぐっと胸を締め付ける感傷的な歌は正にサウダージそのもの。"Coisas Do Amor (Trepanado Edit)"は元は3分にも満たない曲をOlivaniがこのコンピレーションの為にエディットしたもので、ギターのファンキーなカッティングが切なくもポップさを演出し、陽気な歌が心を躍動させるポジティブなラテントラック。一転"Jeito De Ser (Menina)"は甘いセクシーさが際立つR&Bやヒップ・ホップの系譜にあり、切なくも美しいシンセが伸びる中にしっとりした打ち込みのビートが心地好く、ぐっと心に染みる一曲。喜びや悲哀、切なさといった心象が込み上げる本作は基本的にはどの曲もポジティブな響きで通底しており、ブラジル・ミュージックに詳しくない人にとってもジャンルに対し身構える必要はなく、すっと耳に自然と入ってくる非常に馴染みやすいポップ・ミュージックなのだ。アナログのみの販売だがダウンロードコードが封入されており、その点でもありがたい一枚。



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Hnny - 2014.12.31 (Omena:OM027)
Hnny - 2014.12.31
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2014年設立の新世代で頭角を現すスウェーデンはストックホルムのOmenaは、ディープ・ハウスからダウンテンポにニュー・ディスコやトライバルと多様な要素をクロスオーヴァーし、これからを期待させる多種多様なアーティストを擁している。同郷のJohan CederbergことHnnyはそのレーベルの主力アーティストの一人であり、レーベルの特にダンスの枠を越えた方面の音楽性を担っている。Hnny自身は過去にLocal TalkやLet's Play HouseにStudio Barnhus等からモダンなエレクトロニック・ハウスやディスコ・サンプリングなハウスといったダンスフロアを意識した曲をリリースしているが、その一方でOmenaからはリスニングへと傾倒したダウンテンポやアンビエントな作風で多彩なアーティスト性を発揮しており、本作はOmenaからということもありその後者の音楽性を披露している。タイトルは自らのキャリアのターニングポイントとなった日だそうで、また各曲名は世界各地の地名を現しており、これらは彼にとっての旅の表現なのだろうか。飛行場内の雑踏のフィールド・レコーディング風で空港を表現したような23秒のインタールード的な"Arlanda"で始まり、オルゴール風の可愛らしいメロディーと生っぽいジャジー・リズムによりエレクトロニカ風の"Dolores Park"、落ち着いたハウス・ビートと共に素朴な鍵盤音に優しく癒やされる"Frankfurt"と、しっとりと繊細なメランコリーが通底している。"Dublin"ではビートレスな構成に愛くるしいメロディーの鍵盤ワークでアンビエント性を披露し、"Rue De Bagnolet"でヒスノイズ混じりのアンビエント×エレクトロニカを、そして最後の"Hemma"ではドリーミーなダウンテンポによって旅の終着点となる家(Hemmaはスウェーデン語でHome)へと帰着したのだろうか。各曲は短く全体で15分と随分コンパクトな作品だが、逆にそのおかげで全体を通して一つの流れとなるような正に感覚があり、Hnnyらしい繊細でメランコリーなサウンド・スケープを体験出来るだろう。



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Seb Wildblood - Sketches Of Transition (All My Thoughts:AMT010)
Seb Wildblood - Sketches Of Transition
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テクノ/ハウスの境界を越えていくモダンなChurchにAll My ThoughtsとCoastal Hazeと、3つの勢いを増す注目すべきレーベルを並行して運営するSeb Wildbloodは、音楽への審美眼を含めてA&Rとしての才能は疑うべくもない。では自身をプロデュースする手腕について、つまりは自身のアーティスト性の確立についてはどうだろうか。勿論その才能についてもまごうことなきもので、目下最新EPである『Grab The Wheel』(過去レビュー)では彼らしいバレアリックやアンビエントの感覚に、テクノやエレクトロの要素を加えてダンスな性質を強めた方向性も見せて、現在もアーティストとして進化中である事を示していた。そして4枚目となるこのニューアルバム、決してダンスではないとは言わないがリスニング志向が強く、そして何よりも多彩なリズム感とムードによる音楽性の拡張を果たしつつ温かみのあるオーガニック性や純朴なバレアリック性が通底している。チャカポコとした抜けの良いパーカッションと切ないシンセのメロディーが印象的な生っぽくスローモーなハウスの"Sketches"で始まり、ディレイをかけたギターや生っぽいベースを用いて広大な開放感を感じさせるダウンテンポの"Twenty Eight"、繊細ながらも耽美なエレピや甘ったるく気怠い歌が陶酔させられざっくりとしなやかなにうねるリズムを刻むネオ・ソウルの"Thought For Food"と、アルバム冒頭3曲からしてまったりメランコリーな雰囲気が充満している。"Small Talk"はアルバムの中では比較的一般的なディープ・ハウス色が強く、すっきり端正なグルーヴと透明感のあるパッドや電子音によって、快適な浮遊感に包まれながら優雅さに酔いしれるだろう。また力が抜けて気怠い歌とポップなサウンドで懐かしさを呼び覚ますシンセ・ポップ/ニューウェーブ寄りの"Amelia"、電子音が抽象的に揺れ動き空間を満たしながら微睡み状態が続くビートレスなアンビエントの"One For Malcolm"まで、アルバムには実に様々な要素が混在しながらバレアリックなムードで統一されている。パーティーの派手派手しい華やかさや喧騒とは無縁で決して熱狂的な興奮を呼び起こすような音楽ではないが、心の中からしみじみとしたメランコリーを呼び覚まし現実ではない何処かへ連れて行ってくれるこの音楽は、安らぎを提供するセンチメンタル・ドリームだ。10曲で40分とコンパクトな構成ながらも、逆にすっきり気軽に聞けてリラクゼーションにも最適である。



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Hidden Spheres Ft Oscar Jerome - Words Can't Explain (Church:CHURCH014)
Hidden Spheres Ft Oscar Jerome - Words Cant Explain
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Seb Wildblood率いるロンドンのChurch、テクノ/ハウスのみならずジャズやダウンテンポと手を広げて面白い作品をリリースする近年注目すべきレーベルで、そこからの新作もジャズからの影響が滲むハウス作で興味深い。手掛けているのはRhythm Section InternationalやMoods & Groovesからも作品をリリースしているTom HarrisことHidden Spheresで、そういったレーベルからの曲もベースは勿論ハウスながらもジャズの要素を散りばめて艶かしく情緒豊かな作品をリリースしており、本作でもその流れは更に強まっている。ロンドンのジャズ・グループであるKokorokoからOscar Jeromeをフィーチャーしている事からもジャズへの傾倒は感じ取れるだろうが、実際に"Words Can't Explain"は湿っぽく仄かにエモーショナルなフェンダー・ローズや大人びてソウルフルな歌が洗練されたニュージャズの延長線上にあり、小気味良いブロークン・ビーツ調なドラムに生き生きとしたシンセ・ベースやギターが躍動を生み出して、実に耳を惹き付けるアーバンでモダンなハウスだ。甘く感情を吐露する歌が入っているバージョンも良いが、"Words Can't Explain (Dub)"のインスト・バージョンの方を聞いてみると、より黒い音楽性の強いハウス/ディスコのミックスの流れの中に違和感無く組み込まれるように思われる。そして本作で特筆すべきはSecond CircleやArcaneからのエクスペリメンタルかつバレアリックな作品で一躍注目を集めている中国生まれのYu Suがリミックスを提供している事で、寧ろこのYu Suの名があったからこそ購入したようなものだ。ここでの"Words Can't Explain (Yu Su Remix)"は奇を衒う事はなく原曲を尊重してジャジーな雰囲気は残しつつも、ざっくりロウな響きのリズムがクラブ・ミュージック色を増して軽くも弾けるグルーヴ感を獲得している。元のしなやかなジャジー・グルーヴではなく直線的で4つ打ちへと接近し、全体をエレクトロニックな質感で滑らかに染め直して、一見クールなテクノ/ハウスながらもローファイ感が微熱を感じさせる点はYu Suらしい。



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Culross Close - Forgotten Ones (Esencia:ESC003)
Culross Close - Forgotten Ones

まだ決して知名度があったわけではない2014年、2枚組EPの『Insecurities』がKyle Hall主宰のWild Oatsからリリースされた事が起爆剤となり、一躍人気アーティストの仲間入りを果たしたロンドン出身Kieron IfillことK15。ハウスからヒップ・ホップ、フュージョンからネオソウルまで横断した自由自在なリズムと美麗なメロディーを武器とするこのアーティストは、実際にHenry WuやKuniyuki Takahashi等のアーティストと共同制作を行っている事からも分かる通り、00年代前後に繁栄した西ロンのブロークン・ビーツを現在に継承する存在だ。そんなK15が新たに立ち上げたレーベル・Esenciaにおいて力を入れるプロジェクトがCulross Closeで、これはK15名義よりも更にジャズへと傾倒しているそうで、実際に本作でもIfill自身はピアノや歌も披露しつつ、他アーティストがドラムにパーカッション、ベースやシンセにサクソフォンまでプレイするバンド形態となり、クラブ・ミュージックの枠を越えて果敢にも本格ジャズへと挑戦しているのだ。だからこそフリーフォームで曲毎に異なる姿があり、冒頭の"Fractured"では耽美なフェンダー・ローズとコズミックなArpシンセが咽び泣くような応酬を見せ、終盤に入るとけたたましく野性的なドラムが暴れる繊細さと激しさが交錯するジャズを披露。続く"Forgotten Ones"では落ち着いたフェンダー・ローズと愛らしい鉄琴がメランコリーを奏でつつ、落ち着きながらも切れ味のあるジャジー・ドラムが仄かに跳ねたビートを刻み、人肌の温もりを感じさせる音がしっとりと耳に入ってくる。ヒップ・ホップやブロークン・ビーツの要素がある"Acceptance"で00年代前後のクラブ・ジャズ黄金時代の雰囲気があり、ピアノとドラムとベースと歌のすっきりした構成はだからこそ逆に各パーツがはっきりと際立つ誤魔化しようのないもので、シンプルさを強調させながらアーバンかつメランコリーなジャズになっている。奇妙なシンセや変幻自在なドラムのビートがスピリチュアル性を醸す"Mood"はインタールード的な短い曲だが、そこから5/4の変拍子を刻む"The Tiniest Lights Still Shine"はアルバム中最も躍動感に溢れた曲で、ムーグの奇抜なコズミック・サウンドとサクソフォンの情熱的なメロディーや中盤以降ではアフロ・パーカッションが炸裂しパワフルなグルーヴを発揮するなど、一気に熱量を増して盛り上がる。そしてArpやムーグのシンセにピアノが前面に出て大人びた優雅さで舞う"Healing"で、ラストを飾るに相応しいモダンでエレガントなフュージョン/ジャズによって平穏へと還るように、うっとりとする余韻に包まれて締め括る。K15がクラブ寄りだとすると、このCulross Closeは恐らくK15のルーツ志向を実践するジャズの場であるのだろうか、しかしこの後者が単に懐古主義なのではなく両者が表裏一体としてアーティストの成熟を促す関係に違いない。Culross Close名義も注目すべきプロジェクトなのだ。



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Lay-Far - War is Over (In-Beat-Ween Music:NBTWN011S)
Lay-Far - War is Over
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ブロークン・ビーツからフューチャー・ジャズ、ディープ・ハウスからディスコ、ダウンテンポからヒップ・ホップへ、様々な音楽性を匠に操り言葉通りにクロスオーヴァーな音楽性を体現するLay-Farは、今やロシア勢の筆頭格の一人と呼んでも過言ではない程に実力と人気を兼ね備えている。Local TalkやSoundofspeedといった実力派レーベルからのリリースと共に、この日本においても若きパーティー・グループであるEureka!の積極的な後押しもあり正当な評価を獲得しているように思われるが、この3枚目となる2018年リリースのアルバムでその評価は盤石となるに違いない。アルバムの音楽性は前作である『How I Communicate』(過去レビュー)から大きく外れてはいないが、前作がサンプリング性が強かったのに対し本作ではより艶かしい生音も多くなり、これまで以上に多様性がありながらも円熟味という味わいで纏め上げている。始まりはPhil Gerusのローズ・ピアノをフィーチャーした"Sirius Rising"、比較的ハウスマナーに沿った曲ではありローズの耽美な響きが美しく、実に上品かつ優美に舞い踊る。続く"Decentralized Spiritual Autonomy"はダブ・ユニットのRiddim Research Labとの共作で、確かにダブの深くスモーキーな残響とずっしり生っぽく湿っぽいキックを活かした訝しい世界観が広がっている。そしてディスコ・バンドのThe Sunburst BandのシンガーであるPete Simpsonをフィーチャーした"Be The Change"、力強くソウルフルな歌と熱が籠もりファンキーな躍動のあるディスコ・ハウスと、アルバム冒頭3曲からしてLay-Farらしく様々な表情を見せている。"The Pressure"ではデトロイトの鬼才・Reclooseも参加しているが、それは相乗効果となりトリッピーながらも優美な音使いに変化球的にしなやかなブロークン・ビーツを刻んで、本家西ロンのアーティストにも負けず劣らずなリズムへのこだわりも見せる。かと思えばサンプリングを打ち出してややレイヴなブレイク・ビーツ感もある"Market Economy VS Culture (The Year Of The Underdog)"では切り込んでくる小気味良いビートに毒気のあるベースサウンドがB-BOY的だが、アイルランドのシンガーであるStee Downesが参加した"Over"はビートはエレクトロニックながらもそのうっとりと艶を含んだ声もあってネオソウルにも聞こえ非常にエモーショナルだ。曲毎のリズムやメロディーのバリエーションの豊富さはありながら、アルバムとしてそれらはばらばらにならずにLay-Farの洗練されたモダンなダンス・ミュージックとして一つの世界観となっており、表現力に更に磨きをかけている。なお、日本のみでCD化されているがオリジナルの倍近くである15曲収録となっており、アナログよりもCDの方が一層楽しめる事だろう。



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The Far Out Monster Disco Orchestra - Black Sun (Far Out Recordings:FARO 202CD)
The Far Out Monster Disco Orchestra - Black Sun
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ブラジリアン・ミュージックのオーソドックス - 例えばジャズやサンバにボサノヴァなど - そしてモダンなダンス・ミュージックまで、過去と未来を紡ぐように展開するFar Out Recordingsは、この類に造詣は無い人にとってもレーベル名は聞いた事がある位に著名な存在だ。そんなレーベルの15周年の活動として2008年頃に始まったプロジェクトがThe Far Out Monster Disco Orchestraで、その中心にいるのがレーベル設立者であるJoe Davis、Incognitoの息子であるDaniel Maunick(=DJ Venom=Dokta Venom)、そしてAzymuthのプロデュースも手掛けるDavid Brinkworthらで、その周りをブラジリアン・ミュージックの実力者が固めるというだけあって音楽的な素養の高さは保証されたプロジェクトだ。2014年には初のアルバムである『The Far Out Monster Disco Orchestra』(過去レビュー)でソウルやディスコにファンクも咀嚼したブラジリアン・ミュージックを豊かに聞かせていたが、それから4年を経て遂に2ndアルバムが完成した。ここでも前述のアーティストが中心となりながら、他にはブラジリアン・ミュージックの女性ボーカリストであるHeidi VogelやAzymuthの元キーボード担当であったJose Roberto BertramiにベーシストのAlex Malheirosなど、その他大勢のアーティストを迎える事でゴージャスな響きを生み音楽に豊かさを込めている。アルバム冒頭の"Step Into My Life"からしてゴージャスで華麗な音が鳴っており、ストリングスやホーン帯も加わった生演奏を主体とした流麗なサウンド、ギターやベースのファンキーな響き、そしてうっとりする程に甘くそしてソウルフルな歌が一つとなり、晴々とした涼風が吹くようなブラジリアン・ディスコだ。"Black Sun"は動きの多く力強いベースや切れのあるギターカッティングがファンキーで、そこに情熱的な歌やコズミックなシンセにサックスやトランペットの豪華な音が加わり、次第に熱量を増して盛り上がっていく。一転して"Flying High"は落ち着いたテンポでしっとりと甘い女性の歌を聞かせるバラード的なディスコで、微睡みを誘う優美なピアノのコードや豊潤な響きのシンセのメロディーを軸にして、胸を締め付ける切なさに満たされる。フェンダー・ローズの繊細で美しいソロから始まる"The Two Of Us"もミッドテンポでしっとり系の曲で、晴れやかで和んだ歌と甘いコーラスに優しいピアノやフェンダー・ローズでメロウネスが込めて、じっくりと甘い世界に浸らせる。アルバム12曲の内5曲はインスト・バージョンなので実質7曲になるが、ノリの良いブギーなダンスからメロウに聞かせる曲までどれも耳に残る魅力的なメロディーや生楽器の富んだ響きが活かされており、流石実力者揃いのバンド・プロジェクトによる本格ディスコだ。



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Harvey Sutherland - Amethyst (Clarity Recordings:CRC-03)
Harvey Sutherland - Amethyst
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2013年にデビューを果たしたオーストラリアはメルボルンの新星は、しかしかのMCDEからのジャズやファンクも咀嚼したディープ・ハウスのリリースが起爆剤となった事は事実であるものの、その後は自身でClarity Recordingsというレーベルを設立しよりセッション性の高いジャズへと向かい自身の音楽性を確立させ、MCDEからのリリースがハイプでなかった事を証明している。その人こそMike KatzことHarvey Sutherlandで、DJだけではなくJuno 60などアナログシンセを用いセッションを組んでのライブも積極的に行うなど、資質としてはDJとしてよりは演奏家/作曲家の方にあるのだろう。Clarity Recordingsから作品をリリースするようになってからはよりセッションを行いながらジャズ/ファンク色を強く打ち出した音楽性が顕著だが、そのレーベル3作目も同様に演奏する人達の風景が眼前に浮かぶようなライブ感に溢れている。本作でもギターやダブルベースにドラムとサックスらの奏者を迎え、そしてSutherland自身はキーボードを演奏し、完全にハウス・ミュージックの影も残さずに昔のジャズの偉人のようなスピリチュアル・ジャズへと向かっている。繊細ながらも優美なエレピとざっくり変則的なドラムから始まる"Amethyst"、直ぐに艷やかなサックスと温かみのあるベースも加わって完全なジャズそのものな曲で、確かにクラブ・ミュージックの反復とは異なりどんどん自由に展開するセッション性と各楽器が交互に見せ場を作りながらも一体感のある演奏と、統制はとれながらも溢れ出してくるテンションは情熱的だ。そこからストリングスがエレガントに舞う後半への展開の変化して、グルーヴはしなやかに躍動するなど自由な構成ながらもジャズの統一感が全体を包括している。"I Can See"は素早く激しく打ち付ける変則ドラムがまず印象に残るが、光沢のある伸びやかなシンセやギターなどは逆にゆったりとしたメロディーで哀愁を奏でていて、高速ビートから一旦力が抜けて小刻みで繊細なビートに変化したところにしみじみとした心情を吐露するギターソロのパートは特に感情的だ。そこから再度ドラムの振動するビートは力強さを増して、ラストへと向かってキーボード等含めて全体が一枚岩の音の層となって盛り上がっていく展開は圧巻だ。
そしてリミックスで参加しているのは同じくメルボルンのDan WhiteことRings Around Saturnで、Firecracker傘下のUnthank等のレーベルからリリースした作品ではAI系テクノを思い起こさせるレトロ・フューチャーな響きが特徴のアーティストだ。ここでリミックスした"I Can See (Rings Around Saturn Remix)"はしかし完全にアートコア系のドラムン・ベースへと正に生まれ変わっており、強烈なグルーヴという点はオリジナルと同様だがサンプリングによるクラブの雰囲気に染まった鋭利で跳ねるリズム感が素晴らしい。そして揺蕩う如く浮遊している透明なパッドが揺らいで甘い香りを発するその響きは、AIテクノらしい近未来的なSF感もあり何処までも意識を遠くへと飛ばしていく。そう、きっとGoldieの"Inner City Life"を思い起こす人も決して少なくはないだろう。ルーツ志向ながらも古典に陥らずに今っぽさのあるSutherland、そして強烈なドラムン・ベースを披露したRings Around Saturn、どちらもお見事な手腕を披露しておりお勧めな一枚だ。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 21:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
SofaTalk - Scissors And Shapes EP (Omena:OM024)
SofaTalk - Scissors And Shapes EP
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2014年にストックホルムにて設立された新興のOmenaはハウスを軸にしながら、トライバルやニューディスコにシンセ・ポップやフュージョン等の多彩な振り幅を持ち、そして既に有名なアーティストではなくこれからを担うであろう若手の後押しを積極的に行うレーベルだ。新作はイタリアのアーティストであるPiero PaolinelliことSofaTalkによるものだが、SofaTalkもディスコやファンクやジャズに影響を受けながらそれらをハウスの中で咀嚼した豊かな音楽性があり、例えば2017年作の『Diforisma』(過去レビュー)でもジャズやファンクのリズムや響きといったものが目立っていた。本作でもその傾向は変わらずにその意味ではアーティストとしての一貫性が感じられ、"Balancing Acts"ではブロークン・ビーツなざっくりと生っぽいリズムに耽美なエレピや麗しくメロウなキーボードワークを合わせて、そしてコズミックなSEも加える事で未来的でジャジーなビートダウンを聞かせている。とは言ってもデトロイト・ハウスのあのどす黒く粗野なビートダウンと言うよりは、それをもっと洗練させたモダンに仕上げていて、小洒落た感もあるのはカフェでかかっていてもおかしくはない。同様に情緒的なエレピが控えめに彩り小気味良いブロークン・ビーツのリズムが躍動する"Scissors And Shapes"では、ドラムに同調したようにベースも躍動しファンキーなギターカッティングも刻まれ、もはやクラブのダンス・ミュージックと言うよりはバンドがセッションをしているかの如く生々しいライブ感さえもある。"Jazz Book"はもうタイトル通りにジャズフレーバー全開に渋いサックスや自由な旋律を描く湿っぽいエレピが存在を主張しており、躍動感に溢れたリズムが続きながらもブレイクでは大胆にリズムも切り替わって展開するなど、SofaTalkのジャズやファンクに対する思いが伝わってくる曲だ。そしてリミキサーとしてRhythm Section InternationalやLocal Talkで活躍するPrequelが手掛けた"Balancing Acts (Prequel's Reimagining)"は、原曲のジャジーな雰囲気は残しつつグルーヴ感はハウスのそれでスムースになっており、全体的に抑揚を抑えて控えめに手を加えた原曲を尊重したリミックスになっている。SofaTalkの音楽性について言えばDJと言うよりはアーティスト性が強く引き出しも多いので、こういった作曲能力の高さであればやはりアルバムでのより大きなコンセプトをもった作品を期待したいところで、今後も要注目だ。



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Angelo Ioakimoglu - The Nireus Years (1995-1997) (Into The Light Records:ITL007)
Angelo Ioakimoglu - The Nireus Years (1995-1997)
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時代に埋もれてしまい過去には注目されなかったギリシャ音楽に焦点を当てるというコンセプトで運営されるInto The Light Recordsは、しかしバレアリックやニューエイジが再燃するこの流れに自然と合流し、今になって日の目を見るように過去の音楽を現在のシーンに共存させる審美眼を持っている。本作もアテネのアーティストであるAngelo Ioakimogluが1995〜1997年に、しかも何とそれは彼が14〜16歳の時に録音したとされる内容で、これが単に若かりしアーティストが作ったという目新しさ以上に何故今まで未発表だったのかも不思議な程に素晴らしいバレアリック/アンビエントな音楽なのだ。それも敢えて何か大きな枠に当てはめれば前述のジャンルになる位で、ジャズからドラムン・ベースにR&Bやダウンテンポなど断片的に様々な要素がアルバムの中に同居しており、若さが故に色々とチャンレジしたようにも思われる。清々しい日の出を望むような、それはタイトル通りに宗教的なスピリチュアルさもある"Easter Theme"は荘厳なエレクトロニクスに笛や弦の音色などオーガニックな響きも混在し、アルバムの始まりに相応しく厳かな幕開けだ。続く"Kuwahara Ride"に変わると物哀しいドラマの一場面を見ているようなしんみりメランコリーなサントラ風で、ここでも麗しい弦楽器や生き生きとしたチョッパベースの生音がライブ感を作っている。"U220sax2"は今風のバレアリックなモードに相応しく、ピアノや管楽器の朗らかな響きが牧歌的なムードに繋がっており、最近制作されたと言われても全く違和感の無い現代的な曲だ。そして柔らかくしなやかなビートがジャジーで浮遊感を醸す"Slide Break"から、同様にしなやかなビート感ながらも畳み込むようなドラムン・ベースのしなやかなリズムとメランコリックなシンセのフレーズで90年代のドラムン全盛期を思わせる作風な"Alonissos"、西ロン系のブロークン・ビーツにも近い柔らかく弾けるリズムと豊潤なフュージョン風なシンセの響きのフューチャー・ジャズな"77 Bus Trip"と、後半はリズムがより自由度を増しながら豊かな色彩を帯びている。この幅の広さは一枚のアルバムの為に制作されたのではなく恐らくその時に出来上がった曲を集めたと思われるが、しかし全体の雰囲気として決して纏まりが無いわけでもなくバレアリックやニューエイジの流れで聞くとしたら、それはジャンルではなくスタイルという観点から全く違和感は感じない。清楚で透明感のあるメランコリーが通底しており、部屋を彩るBGMとして非常に機能的だ。



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