Alton Miller - Infinite Experience (Local Talk:LT 96)
Alton Miller - Infinite Experience
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デトロイトの伝説的クラブであるMusic Instituteの創始者の一人…という経歴だけでも強い存在感を放つデトロイトのディープ・ハウス方面の大ベテラン、Alton Miller。ジャジーでソウルフルかつエモーショナルな、新鮮さよりは古典的なディープ・ハウスを追求する伝道師的な存在は、時代の流行に関係なく自身の揺るぎない音楽性によって聞く者を魅了する。暫くアルバムは出ていないもののEPに限って言えばここ数年量産体制を継続しており、Sound SignatureやNeroliにMoods & GroovesやSistrum Recordings、その他多くの実力派レーベルに作品を提供しており、前述のようにクラシカルな作風がぶれないからこそ色々なレーベルから信頼を寄せられているのだろう。さて、勢いに乗ってリリースされた新作はスウェーディッシュ・ハウスを引率するLocal Talkからとなるが、レーベルがジャジーなりクロスオーバーなりの音楽性に理解があり、その意味ではMillerの音楽性との親和性は抜群である事は説明不要だろう。クラブ・トラックである事は前提としても単に打ち込んだ機能性に特化しました…という作風ではなく、鍵盤弾きであろう豊かなメロディーラインやオーガニックな響きを前面に打ち出したソウルフルな作風がMillerの特徴で、"Afro Grey"でも弾けるパーカッションが爽快なリズムを刻み豊かなパッドの伸びに合わせて、光沢感あるフュージョン風なシンセが優雅に舞い踊るテッキーながらも温かみのあるディープ・ハウスは、エレクトロニックとオーガニックの実にバランス感の良い曲だ。"By The Way She Moves"はテンポを抑えて緩やかでざっくりとしたリズムが生っぽくもあるハウスで、勢いを抑えた分だけテッキーなシンセのリフと切ない鍵盤のメロディーがより湿っぽく感情的に迫ってきて、ジャジーなMiller節をより堪能出来るだろう。また配信限定で"One Way Back"も収録されているが、これはスキップするような軽快なアフロ・パーカッションが跳ねる躍動感溢れるハウスで、古典的なオルガンのコード展開に煌めくようなシンセソロが彩りを施して、優美にピアノの鍵盤も加わってくれば実に華麗なクロスオーバー系のダンストラックとなる。曲調としては過去から続く切なくエモーショナルなハウスを得意とするMillerの音楽そのもので、目新しさは皆無なもののこういった音楽こそが流行にかかわらず聞かれるべきものだ。



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| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Nightmares On Wax - Back To Nature (Ricardo Villalobos Remixes) (Warp Records:WAP432)
Nightmares On Wax - Back To Nature (Ricardo Villalobos Remixes)
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30年近くに渡りダウンテンポの探求を行うGeorge EvelynことNightmares On Wax、そして現在のミニマル・ハウスへと道を開拓してきた奇才・Ricardo Villalobos、そんな二人の邂逅が再び。2014年にも1990年作である初期の名作をVillalobosとMax Loderbauerがリミックスを施した『Aftermath (Ricardo Villalobos & Max Loderbauer Remixes)』(過去レビュー)をリリースし、滑り気を帯びた不気味な迷宮的ミニマル・ハウスへと上塗りしオリジナルからある意味ではVillalobosの新作と呼べるまでの変化を披露し、流石の手腕を発揮していたのも懐かしい。今回はVillalobos単独でのリミックスとなるが、しかしその手腕に陰りは全くなく流石のミニマル・ハウスの求道者たる才能を発揮したリミックスで、今回も殆ど新作と呼べるまでの変貌を遂げている。オリジナルの"Back To Nature"は優雅なストリングスが彩りねっとりしたレゲエ調のアフタービートとソウルフルな歌を活かした甘く切ないダウンテンポだったが、2つのリミックスは完全にフロアを深い沼に嵌めていく呪術的なミニマル・ハウスで、催眠性の強い魔力を発している。"Lobos On Wax House Mix"は比較的一般的なミニマル・ハウスのスタイルと呼んでいいだろう、湿り気を帯びながらもカチッと芯のあるキックと不気味なボイス・サンプルのループで始まるが、無駄な音を削ぎ落としてスカスカな構造が如何にも彼らしい。そんなリズムが削り出されたトラックにオリジナルにあったストリングスとエレピのコードが交互に現れるも、余り感情性を打ち出さずに淡々としたミニマルなリズムが引っ張っていく催眠的な流れで、優美さはありながらも非常に機能性に特化されたクールなミニマル・ハウスだ。そしてVillalobosnの異才が際立つのが"Ricardo Villalobos Back To Earth Mix"の方で、生っぽさを増したキックやスネアと崩れてつんのめったリズムによって生臭さを増してずぶずぶ泥沼へと沈んでいくようなビートを軸に、エレピやストリングスは抑制され代わりにくぐもって不明瞭な呟きやポコポコした民族的なパーカッションと怪しい電子音を繊細に織り交ぜた土臭い音響が生まれ、ねっとりずぶずぶと足を取られる。途中からはリズムは整った4つ打ちのミニマル・ハウスへと変化するが、A面のリミックスよりは太さよりは繊細なグルーヴ感が打ち出され、Villalobosらしい妙技が感じられる。という事でこのリミックスも完全にVillalobos節全開な、つまりはVillalobosのほぼ新作みたいなもので、ミニマル好きは必聴。



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| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Jovonn - Timeless (Body 'N Deep:BND003)
Jovonn - Timeless

ブルックリン生まれ、ニューヨークとニュージャージーを結ぶ王道ハウス・ミュージックのベテラン、Jovonnによるなんと『Spirit』(過去レビュー)以来の16年ぶりのアルバム。1990年頃から活動するこのアーティスト、今までにもGoldtone RecordsとNext Moov Recordsというレーベルを運営し活動を続けていたが、2016年からはBody 'N Deepを設立し90年代初期のディープ・ハウス〜テック・ハウスに注力しているようで、このアルバムもこれ以上はない位に直球ハウスな内容だ。父はギター/ベース奏者、母は鍵盤奏者という環境で育った事はJovonnの音楽性にも当然影響を及ぼしており、このアルバムが昔の作風に比べるとややミニマルというかソウルフルな方向よりはツール性へと傾倒しているのだが、それでも鍵盤の手弾きを感じさせる風合いもあり、それがジャジーさや温かみにも繋がっている。それは開始の"Keep On"から端的に現れており、跳ねるような太いキックのリズムから始まると耽美なピアノのコード展開とオルガンの感情的なソロが疾走り、熱くなり過ぎる事もないがクールなソウルフル性を発揮する。キレのあるリズムとボーカル・サンプルのループでファンキーさを打ち出した"Affection"は、中盤まではあまり展開を広げないがそこから感情を吐露する歌が入ってくる辺りは、やはりハウス・アーティストらしく込み上げる思いは抑制出来ないのだろう。"Hesperia Soul"では生っぽいざらついたリズムに麗しいヴァイオリンの旋律が舞い踊り、いかにも90年代の高らかに喜びを歌い上げるような直球ハウスだ。と思えば"Party In My House"ではダークなシンセとドラッギーな呟きによって不穏な空気に支配され、"Turnin Me Out"では低音が目立つ太いキックと図太いグルーヴとマイナー調のコード展開でディープに潜っていき、真夜中のフロアの中で黒光りするようなツール寄りなハウスもある。と終盤まではずっしり腰にくるダンス・グルーヴでしっかりと躍らせる曲が中心で、しかし最後の"Timeless"ではテンポをダウンさせて、綺麗なパッドを伸ばしつつ麗しい管楽器のソロを被せて実にしっとりとした大人の余裕を感じさせるスローモー・ハウスを聞かせるのが心憎い。ベテランアーティストがハウスに正面から向き合った横綱相撲的なアルバムは、驚くべきというよりは聞いていて安心感があり、これだよこれっ!というベテランらしいクラシカルな作風なのだ。



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| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Jan Schulte - Sorry For The Delay (Wolf Muller's Most Whimsical Remixes) (Safe Trip:ST010)
Jan Schulte - Sorry For The Delay (Wolf Mullers Most Whimsical Remixes)
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Young Marco主宰のバレアリック系レーベルSafe Tripから、Jan SchulteことWolf Mullerによるリミックス集が2018年末にリリースされている。SchulteといえばMuller名義でInternational FeelやGrowing Binといったバレアリックやニューエイジ方面で随一のレーベルからCass.やNiklas Wandtと共同でアルバムをリリースしたり、またはBufiman名義では不思議なハウス/ディスコを手掛けて、更に他の名義ではより民族的かつトライバルな作品も制作したりと、多角的で富んだ音楽性を持っているアーティストだ。この度そんなMuller名義で行った7年分のリミックスがコンピレーションとして纏められており、有名なところではバレアリックを先導してきたJose Padilla、他に土着ハウスユニットのAfricaine 808にエレクトロニカ系のTolouse Low Traxや自身変名のBufimanといった今では入手困難になってしまったリミックスが、一同に揃ったありがたいコンピレーションだ。バラエティーに富んだアーティストのリミックス集だが、しかしMullerがリミックスを行っただけにトロピカルやトライバルといった有機的な響きの統一感はあり、レーベルインフォの言葉を借りるとMullerの故郷であるデュッセルドルフとイビサのバレアリックな実験的な電子音楽との事だ。"Oceans Of The Moon (Wolf Muller Donkey Kong Beach Dub)"は口琴による不思議な響きや木の響きがする打楽器などを用いて深い森の中を感じさせる土着感を生み出すが、そこに朗らかで明るいシンセや弦楽器風の旋律を被せて極楽浄土へと足を踏み入れたかのようなドリーミーなバレアリック系で、甘美な世界観に脱力してしまう。"Rhythm Is All You Can Dance (Wolf Muller Remix)"も弛緩した原始的な響きのリズムが大地と共鳴するようで、そこに奇妙な電子音のメロディーやトリッピーなSEに雄叫びサンプルを盛り込んで、トライバルかつアフロなサイケデリック・ディスコを展開。金属的なベルや膨らみのあるパーカッションを用いた力強いグルーヴを生む"Jeidem Fall (Wolf Muller Remix)"はリズム重視で、奇妙なボーカル・サンプルも用いて肉体的で生々しいポリリズムを生み出している。"Ba Hu Du (Wolf Muller's Unreleased Version)"は未発表曲(この後シングルカットされた)で、Bufiman名義なので当時の自身の新作だったのだが、ディジリドゥらしきエキゾなループにチャカポコとした民族的パーカッションから粘性の高いグルーヴで始まり、次第に桃源郷まっしぐらなバレアリックな上モノが降りてきて、快楽的ながらもファンクやアフロにディスコが一体化した強烈なスローモー・ダンス曲。全体的にBPMは遅めながらも有機的なパーカッションのリズムを活かした肉感溢れるグルーヴが力強く作用し、そこに牧歌的かつバレアリックな響きも取り込んで、Wolf Mullerお得意の音楽性に纏まったリミックス集として期待通り。ちょっと変わったダンスを探している人にもお薦めだ。



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| HOUSE14 | 18:00 | comments(0) | - | |
Waajeed - Detroit Love Vol.3 (Planet E:PEDL003CD)
Waajeed - Detroit Love Vol.3
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Planet Eと!K7による共同企画、デトロイト・テクノの重鎮であるCarl Craigが世界各地でデトロイトの音楽を体現すべく開催しているパーティー「Detroit Love」を、家でもその雰囲気を体験出来るようにとMIXCDとしてシリーズ化している。第一弾にはデトロイトからSilent PhaseことStacey Pullen、そして第二弾には本人Carl Craigが登場し、この最新作である第三弾は何と全く予想だにしていなかったWaajeedが担当している。元はSlum Villageのメンバーだったそうでデトロイトのヒップ・ホップの界隈で活躍していたようだが、2012年頃に自身で設立したDirt Tech Reckからの近年の作品は完全にハウス化しており、2018年にはPlanet Eからも煙たくもあるソウルフルなテック・ハウスのEPをリリースするなど、ヒップ・ホップからハウスへブラック・ミュージックを繋がりとしながらもスムースな転身を果たし成功している。なのでその意味ではこのシリーズに選抜されたのも意外でも何でもなく、現在デトロイトで特に旬なアーティストを起用したのであり、先ず話題性からして十分だろう。では果たしてDJとしての手腕はどうだろうかというところだが、これが実に手堅く癖の少ない滑らかな流れのハウス中心とした選曲で、ベテラン的というか横綱相撲というか安定感のあるミックスだ。始まりはキリッとしたハウスビートと陽気なシンセに気持ち昂ぶる"We Out Chea"からすっきりしたバウンス感はありながらもムーディーなパッドが伸びるディープ・ハウスの"Higher"、そしてデトロイト産の凛とした煌めきのある繊細なソウルフル・ハウスの"Coffee Room"から同じくデトロイト系の耽美なピアノと望郷の感情を呼び覚ますパッドが絡むディープ・ハウスな"The Detroit Upright"と、幕を開けてから暫くは心地好いハウスのグルーヴが疾走りながらも落ち着きもある非常にムーディーな展開。中盤に入っても激しく上げるような事もせずに、滑らかな4つ打ちのグルーヴ感を持続させテッキーな上モノからソウルフルな歌を活かしたりとハウスというスタイルを軸に振れ幅を展開しつつ、しかしフラットな感覚が快適だ。そこから土着的なパーカッションがエキゾチックなトライバル・ハウスの"Mermaid Blues"、ブロークン・ビーツ風な角張ったリズムがしなやかに跳ねる"Overbite"、更に鋭いリズムがヒップ・ホップ的ながらも浮遊感もある"Minimariddim"と、その辺りはリズムに変化をもたせる事で一辺倒な流れにならない工夫も見受けられる。そして再度フラットで浮遊感のあるディープ・ハウスやぐっと大地を踏みしめる力強いハウスへと戻り、陽気なファンキーさやデトロイトの叙情性といった要素を丁寧に聞かせて、全体を通して大人びた余裕のある流れがしっとりとしたミックスとなっている。クラブのパーティーの雰囲気を再現したというシリーズにしてはおとなしいのでは?と感じるが、激しく揉まれるダンスフロアではなく和やかで笑顔が溢れる賑やかなダンス・パーティーといった雰囲気があり、だからこそホームリスニングとしても空間に馴染む丁寧なミックスとなっている。大胆に揺さぶりをかける展開は少ないが、タイムレスなハウス・ミュージックの魅力が詰まっている。



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| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Andres - D.ATLien EP (NDATL Muzik:NDATL 021)
Andres - D.ATLien EP

ここ数年暫くは自身で立ち上げたLa VidaからのEP作が続いていたヒップ・ホップとハウスをクロスオーバーするデトロイトのAndres。2019年にも新しいEPと、そしてMahogani Musicから待望のアルバムがリリースされているが、その前に2018年暮れにリリースされた本作も素晴らしいので、随分とレビューが遅れてしまったものの漏れずに紹介したい。こちらはKai Alceが主宰するNDATL Muzikからのリリースとやや意外ではあるものの、それもあってかいつものヒップ・ホップを下地にしたハウスではなく、キューバのパーカッショニストでありラテン・ミュージシャンである父のHumberto "Nengue" Hernandezの影響を受けたのだろうか、ラテンやアフロの陽気なグルーヴが炸裂するハウスを前面に出した異色な内容だ。A面の「Latin Side」の"Ensolardo (Sunny)"は燦々とした太陽光が降り注ぐ屋外の雰囲気のブラジリアン・ハウスで、激しくも爽快で跳ねるようなラテン・パーカッションの力強いグルーヴ感と情熱的な女性の声に先導され、ジャズやファンクを思わせる管楽器やキーボードの生々しいメロディーが色彩豊かに彩り、その音楽によって大勢の人達が踊り狂い全身で喜びを表現しているような風景が浮かび上がる圧倒的に楽天的な雰囲気だ。そして細かく歯切れの良いコンガのパーカッション乱れ打ちビートから始まる"Cafe Con Leche"はそこからブロークン・ビーツ風に鋭くもしなやかなリズムを叩き出し、優美なエレピやスペーシーなキーボードの甘くも艶のある響きがフュージョン的でもあり、クラブ・ジャズとの親和性の高さを伺わせるモダン性がある。B面の「Northwest Side」へと移るとこちらはいつものAndresといった音楽性で、"D-Town Connection"はデトロイトというモーターシティーのディープ・ハウスで、生っぽいざらつきのある歯切れ良いハウスのグルーヴにムードのある管楽器や艶めかしいシンセによって落ち着きながらも燻したような湿っぽさを感じさせる。そしてざっくりラフなヒップ・ホップ感のあるリズムが切れる"I Can't Hear You"は彼らしいサンプリング重視なファンキーなハウスで、軽く跳ねるようなグルーヴとブギーな煌めきや芳醇さのあるシンセが陽気で、古典な佇まいを纏った作風だ。"Come 2 Me (Instrumental)"はMoodymannのアルバムに収録された曲のインストバージョンで、色っぽくも卑猥な歌が削除されてヒップ・ホップとディープ・ハウスが溶けあった粘り強いグルーヴ感が強調されて聞こえる。とまれA面いつものビートダウンやヒップ・ホップを元にした曲と比べると、本作では随分と陽気かつ開放的でエネルギッシュな勢いがあるが、やはりサンプリングをベースにしたファンキーかつソウルフルな作風はこれぞAndresでファンであれば当然買いな内容である。



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| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Moodymann - Sinner (KDJ:KDJ 48)
Moodymann - Sinner
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2018年にリリースが予定されていたKenny Dixon Jr.ことMoodymannの『Untitled LP』は極少数が本人周辺のみに配布され、結局は公式リリースはお蔵入りとなりファンをやきもきさせていたのはもう一年も前の事。そんなファンのがっかりした気持ちを埋めるように突如として2019年の夏頃にリリースされた本作は、アナログでは2枚組ながらも5曲のみとミニアルバム的な扱いの新作で、『Untitled LP』とは全くの別物だ。量的な面からは一見物足りなさを感じる事は否定出来ないが、逆に一曲一曲の濃密なブラックネス溢れるハウス・ミュージックを聞けば、十分にファンの期待に応えた内容である事を理解するに違いない。"I'll Provide"は典型的なMoodymannの曲で、彼らしい霞んでがやがやとした呟き風のボーカルを披露しつつ、生ドラムだろうか湿ったキックの生き生きとしたドライブ感や艶めかしく臨場感のあるベースラインが蠢いて時折ギターが咆哮するこの曲は、サイケデリック性と妖艶さが入り組んだブラック・ハウスだ。"I Think Of Saturday"は更に跳ねたキックやスネアが躍動感のあるビートを刻んでいるが、すかすかの骨組みだけの構成の中をMoodymannの感情を吐露するような霞んだ歌がソウルフルながらも侘びしくもあり、しかし途中にがらっと変容するブレイクも織り交ぜてフロアで機能するダンス・トラック性も兼ね備えている。やけにセクシーな歌から始まる"If I Gave U My Love"はディスコが根底にありながらも淀んだというかくぐもった音響で、ゴスペルを思わせるオルガンと生ドラムの湿っぽさが燻るようなソウルを鳴らし、悲しく泣くようなエレピも加わって、これもMoodymannの古典的な作風に当てはまる。そしてテンポを落とした"Deeper Shadow"はディープ・ハウスにも近いが、R&Bの色っぽいソウル性やヒップ・ホップのざっくりとしたリズム等の要素も織り交ぜ、更にテンポを遅くしたラフな響きのリズムがヒップ・ホップ調の"Sinnerman"では、ソウルフルで官能的な女性の歌に合わせてファンキーながらも酩酊したギターや甘美なキーボードを合わせて、本作の中で最も艶かながらもエモーショナルな世界観を見せる。単なるDJトラックではないバンドが織り成すようなライブ感ある曲調、しかしフロアでもファンを沸かせるダンストラックとしての質を伴い、ファンクやソウルにディスコといった音楽性がサイケデリックに混じり合うアルバムは、素晴らしいが故にこんなボリュームでは余計に物足りないと渇望してしまう程だ。尚、デジタル版では以前のEPに収録されていた"I Got Werk"のライブバージョンや"Got Me Coming Back Rite Now"等追加曲があり、あれだけヴァイナルラブでデジタルへの嫌悪を示していたMoodymannにしては、随分とデジタルに対しサービス精神旺盛なのも、これも時代という事なのだろう。



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| HOUSE14 | 11:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
ROTLA - Trasmissioni (Edizioni Mondo:MND010)
ROTLA - Trasmissioni
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Running Back傘下で架空のライブラリー・レーベルとして運営されるEdizioni Mondoから、2019年のベストアルバム級の作品が登場。手掛けたのはローマのMario PierroことROTLAで、元々Raiders Of The Lost ARP名義ではコズミックなシンセ使いとブギーなマシン・グルーヴでイタロ・ディスコの系譜に並ぶ音楽を制作し、デトロイトのアーティストとも共鳴するエモーショナルな性質が魅力であった。近年はEdizioni Mondoから作品をリリースしており、以前にも増して有機的な響きを強めてリスニング性の強いバレアリックな方向へと向かっていたが、その決定打となったのが2018年の後半にリリースされた『Waves』(過去レビュー)。ギターやベースの生楽器も大幅に導入し豊かな情熱が広がるその音楽は最早サウダージとも呼べるバレアリック・ディスコで、ROTLAにとってのこれまでにない最高の曲になった。そしてその路線が発展して完成したのが本作なのだが、先ずジャケットの裏面を見ると制作に使われた機材が記載されており、ミニムーグやJuno 60にTR-808といったヴィンテージなアナログ機材、そしてギターやベースにローズ・ピアノといった生楽器も並んでいるが、そんな楽器を用いた手作り感に溢れた音楽を思い浮かべるだけで胸の高鳴りを抑える事が出来なくなってしまう。アルバムは夜空を星が飛び交うようなシンセのアルペジオとしみじみとしたギターが咆哮するビートレスな"Progressi Della Scienza"で始まり、幕開けに相応しい希望と高揚に満ちたバレアリック感が伝わってくる。続く"Telemusic"では生っぽさを意識したロウなディスコのビートに合わせて、清涼で淡い色彩感のあるパッドが伸びつつフュージョン的なコズミックなシンセが華麗に躍動するブギー系。と思いきや"Esterno Neve"では快楽的なシンセのミニマルなフレーズがテクノ的で、そこにか細いギターや繊細な電子音を被せて、ジャーマン・プログレにも似た不気味な高揚感を放つ。途中リッチなシンセサイザーがSF感を煽る短いインタールードの"Delta Sound"を経由し、透明感あるシンセが鳴る中を穏やかなで爽やかなピアノが引率する微睡んだディスコ・スタイルの"Nightlife"から、最後には颯爽としたリズムを刻みながらコズミックなシンセやギターが一つとなってじわじわとオプティミズムの頂上へと上り詰める"Timing"が感動的なエンディングを演出する。全ての演奏を一人でこなしたDIY性がライブ感にも繋がっており、所謂クラブミュージックにありがちな(全てがとは言わないが)無機質な音とは対極的な、温かく生き生きとした臨場感さえ感じられる音からは多幸感が溢れ出している。ディスコやジャーマン・プログレにアンビエントやイタロといった要素を含む過去から現在までのROTLAの音楽を網羅する折衷主義な内容で、そしてそれらはバレアリックというスタイルに包括されており、ここに一先ずアーティストの完成形が感じられる文句無しのアルバムとなった。尚、配信では前述の『Waves』EPから含め3曲が追加で収録されている。



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| HOUSE14 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mark Barrott - Sketches From A Distant Ocean (International Feel Recordings:IFEEL070)
Mark Barrott - Sketches From A Distant Ocean
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現在のバレアリック・シーンを先導するアイコン的レーベルであるInternational Feelの主宰者として、そして自らもクラブシーンとの繋がりを保ちつつ自然豊かな響きを持つバレアリック・ミュージックを手掛け、このジャンルを象徴する存在のMark Barrott。しかし2017年の「The Pathways Of Our Lives」を最後に暫くリリースが無かったのは、忙しない活動のせいだったのかどうやらそれ以降音楽を制作する意欲が無くなってしまったいたそうだ。そこで故郷であるウルグアイへと帰郷し束の間の休息をとっていたのだが、植物園を散歩している時に音楽が自己表現である事に気付き、音楽制作へと戻ったと言う。そこから出来上がったのが本作、島シリーズの続編と捉えるべき遠い海の風景だ。遠くまで広がる海洋の上という事もあり、以前の南国感は残しつつも緑が生い茂る土の香りではなく、青々とした爽快感や開放感に優れたバレアリック性が何となくではあるが感じられる。"Galileo"では以前にも制作に参加したギタリストのJordan Humberをフィーチャーしているが、この曲は穏やかな波が何処までも続く遠洋をクルージングするような緩い正にバレアリック系で、朗らかで陽気な南国ムードのギターと流麗なストリングスが緩く長閑な空気を生み、明るいシンセやカラッとしたパーカッションが爽やかに響いて、大人の余裕に満ちたリゾート感に包まれる。一転"Low Lying Fruit"では民族的な打楽器やフルート、そしてエキゾチックな弦楽器が海ではなく土着的なリズムを刻んでいるが、それでも太陽光が砂浜から照り返す海辺の近くのような陽気なトロピカル感があり、有機的な響きに生命を感じさせる音楽性が自然を愛するBarrottらしい。"The Rowing Song"では豊かな色彩感のあるシンセに残響豊かなギターが広がっていき、トリップ・ホップ的な崩れたリズムでついつい足取りも軽くなり、広大な海洋で全身に太陽光を浴びるような快適性。最後はやや内面志向的なアンビエント性がある"Xarraco"、情緒的なシンセストリングスとマイナー調のコード展開、そこに祈りのような切ない歌も合わせて物哀しさが込み上げるビートレスな曲で、陽気な曲にしろこういった曲にしろ人間の豊かな感情をそのまま音像化したような作風が彼にとっての自己表現なのだろう。久しぶりの新作でも自然との共生を果たすオーガニックな世界観は変わらず、しかし現在のバレアリックを代表する存在感は衰えるどころかより一層大きくなり、Distant Oceanが新たなシリーズとなるであろう事に喜びを隠せない。



Check Mark Barrott
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Nami Shimada - Re-Mix Wax 〜Nami (Non) Nonstop〜 (Jetset:JS12S125)
Nami Shimada- Re-Mix Wax 〜Nami (Non) Nonstop〜
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2019年もジャンル問わず日本産音楽がちょっとしたリバイバルというか、日本の外にある世界から脚光を浴び続けた一年であったように思われるが、その中でハウス・ミュージック方面から注目を集めたのは島田奈美。彼女の話をすると一にも二にも"Sun Shower"をガラージの伝説的DJであるLarry Levanが1991年にリミックスしたという奇跡的な出来事が真っ先に挙がり、今も尚ディスコやハウスのパーティーでその名曲をDJがプレイする事は珍しくない。そのきっかけを作った人こそ今再度注目を集めるジャパニーズ・ハウスの始祖的なSoichi Teradaで、当時から彼女のポップスをハウスに解釈したリミックスが日本のハウスを先駆けていたわけで、それを体験出来るのが本作。元々1989年にリリースされていた島田の曲のTetadaによるハウス・リワークである『Mix Wax - Nami Non Stop』を、2019年にTeradaが再度リエディット&リマスターし直して再発したのである(CD盤には1989年のオリジナルバージョンも収録している)。当たり前と言えば当たり前だがどれもハウス・ミュージックとしてダンス化された曲、そしてそれらがノンストップ・ミックスとなる事で、いかにもクラブ的な感覚で生まれ変わっているのは新鮮だ。ゴージャスで賑やかな幕開けとマーチ的なグルーヴ感でノリノリになった"I'm Angry!"は、軽快な4つ打ちにスクラッチ的な効果音も混ぜたりとパーティー感を強めつつ原曲の愛らしいポップス感も共存させ、島田のアーティスト性を損なう事なく自然とハウス化している。そこからガラッと真夜中の暗さもある"Sun Shower"へ転換すると、快楽的なシンセベースが前面に出ながらどっしりとした安定感のあるハウス・グルーヴを刻み、すっきりと無駄を省いた上でレトロ・フューチャーなロボットボイスや哀愁のあるシンセの旋律を印象的に聞かせ、これがどれだけ時代を経ようとも揺るぎないクラシックとしての存在感を漂わせる。ラップ的な掛け声の入った"Here I Go Again"は90年代のハウスとヒップ・ホップが同列な時もあったヒップ・ハウス的なノリが聞ける瞬間もあるものの、まあ島田の歌が入るとどうしても耳馴染みの良いポップス性も出てくるが、妖艶なシンセのリフやアタック感の強いキックを強調した跳ねたハウスのリズムが爽快な"Tokyo Refresh"、ゴージャスなシンセブラスが弾ける眩さに包まれながらキュートな島田の声に胸キュンする"Dream Child"と、跳ねるような定間隔で刻まれるのハウスのリズムがやはりキモだ。最後の"Where Is Love?"だけはビートレスな構成で、切なく伸びるパッドとしっとりしたシンセのシーケンスを軸に島田の悲哀に満ちた歌を強調したバラード調だが、こういった曲でもTeradaのシンプルながらも感情を刺激するシンセワークが効いている。今回新たにリエディットされたという事だが筆者はアナログの方しか聞いていないため、過去のバージョンとの違いを比べる事が出来ず作風の違いも気になる所だが、取り敢えず2019年バージョンだけ聞いてもハウスとポップスが両立した魅力は十分に堪能出来るだろう。ハウス化される前のオリジナルを聞いてみたいという方には、島田自身が選曲したベスト盤である『Songs Selected By Naoko Shimada』(過去レビュー)も聞いてみて欲しい。

試聴

Check Nami Shimada
| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(1) | |