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Chris Coco - Music As A Foreign Language (Grand Gallery:XQKF-1091)
Chris Coco - Music As A Foreign Language
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今ではバレアリック/チルアウト系のDJ/アーティストとして認知されているChris Cocoは、調べてみるとDJ Magazineの編集者/創始者でもあったり、元々は80年代後半のアシッド・ハウスに触発されてDJを始めたりと、その他にも色々な経歴を持っているようだが、しかし90年代の地中海イビサ島での音楽体験はそれまでの音楽観をガラッと変える程のインパクトがあったのだろう。そこでの体験を機にバレアリック/チルアウトへと踏み出すと、Cafe Del MarやCafe Mamboでのレジデントも務めるようにまでなり、そのシーンを代表する一人となっている。勿論DJとしてだけでなくアーティストとしても積極的に活動しており、2018年末にMusic Conceptionから発売された『Indigo』(過去レビュー)は、比較的ビートレスな構成で汚れのないピュアな電子音が揺蕩うオプティミスティックなアンビエントへと向かった作風で、放心状態になれるような心地好さが素晴らしかった。あれから一年弱で送り出されたこの新作は、イビサ録音ではあるものの前作とは異なりギタリストやサックスプレイヤーにドラマー、そして複数の歌手も起用した事で人間臭い温かさやオーガニックな響きもあるバレアリックなダウンテンポへと変化している。初っ端の"Aurora"から荘厳で聖歌隊のようなコーラスと瞑想的なアルペジオがどんよりともしてるスピリチュアルな世界を築いており、前作に比べると随分と内省的なのが伝わってくる。続く"Your Dream"では生ドラムがざっくりとライブ感あるダウンテンポを刻んでいるが、切ない心情を吐露するメランコリーな歌や儚さを発する電子音のコードもあって、イビサ島で体験する夢のようなバレアリックな曲と捉えるべきか。"A Suitcase Full Of Stars"では微睡んだシンセのドラマティックなコードと語りかけるようなスポークンワードがまるで映画の一場面を体験しているようで、星降る夜空のシネマティックな風景が喚起される。再びドラマーを起用した"Repeater"ではブレイク・ビーツのように脈打つ力強いリズムを刻みつつ、センチメンタルで咽び泣くようなシンセも加わりぐっと激情を強めながら胸を締め付けるダウンテンポとなり、続く"Music As A Foreign Language"は夜の官能的なムードを生むサックスも加わった高揚感を得るバレアリックな4つ打ちハウスで最もダンスフロア性の強い曲。前作のIndigo=藍色をイメージした清々しい作風から一転、本アルバムでは湿り気を帯びた感傷的かつ内省的な作風でぐっと沈み込んでいく瞑想的な性質があり、一口にイビサと言っても享楽的なダンスフロアだけでなくこういった落ち着いて安寧を得る場面もあるのだと再認識させられる。



Check Chris Coco
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Motohiko Hamase - ♯Notes Of Forestry (We Release Whatever The Fuck We Want Records:WRWTFWW0034CD)
Motohiko Hamase - ♯Notes Of Forestry
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半ばインフレ的になりつつある日本のニューエイジ/アンビエントの世界的再評価のムーブメントは、しかしその勢いはまだまだ止まりそうにもない。その中でも多くの作品が再発に至っているのがジャズベーシストの濱瀬元彦で、先ずは和モノの再発掘をコンセプトとしたStudio Muleから『Intaglio』(過去レビュー)や『Reminiscence』(過去レビュー)の再録(権利上再発ではなく、再度制作し直している)をリリースすると、2018年には日本のSilent River Runs Deepがこの『♯Notes Of Forestry』の初アナログ化を達成し、濱瀬の再評価を決定的なものとした。とその流れに乗ったのかどうかは分からないが、今度は日本のニューエイジ/アンビエントの発掘を先導するWe Release Whatever The Fuck We Want Recordsが本作を含む濱瀬の複数アルバムの再発に漕ぎ着けており、結果的にこれにより全てのアルバムがリイシュー完遂となるとは何という僥倖だろう。濱瀬はソロデビューするまでにはシティポップやソウル等の他アーティストの録音に参加、またはプログレッシヴなジャズ・バンドの「Jazz」の一員としても活動していたが、ソロ活動へと移行するとエレクトロニクスに可能性も見出しながらジャズの定形を逸脱するように、現代音楽としてのミニマルやコンテンポラリー・ミュージックの要素を取り込む事で、実験と自由な創造力を存分に活かしたアンビエント・ジャズとでも呼ぶべき音楽性を確立した。それが前述の2枚のアルバムなのだが、それを経ての3枚めとなる本作では吉村弘とも関わりの深い柴野さつきがピアノとして、またパーカッショニストとして高い評価を得ている山口恭範が参加し、そして共同プロデューサーにはVisible Cloaksとの共作も話題になったアンビエントの先駆者である尾島由郎を迎えた事で、結果的には現代のニューエイジ/アンビエントの方面からも評価されるべき音楽性を構築したのだろう。"#Notes Of Forestry"は序盤こそピアノの段階的ながらも実はミニマル的なフレーズと不定形な打楽器が現代音楽を思わせるが、次第に柔らかくてアタック感の無いフレットベースが優しくうねりグルーヴ感を刻みつつ、マリンバや笛らしき音色が汚れのない透明感溢れた牧歌的な雰囲気を作っていく。"Pascal"はよりミニマル的と言うか電子音楽性の強いアンビエントと言うか、終始意味を込めない無垢な電子音のループと笛の音色のような上モノが引っ張っていくのだが、その配下では燻るようなフレットレスベースが穏やかに躍動していて、やはり元ジャズベーシストだけあって衝動的なインプロビゼーションを抑える事は出来ないのだろう。"Spiral For Multipul Instruments"では舞い踊るように優美なピアノがフレーズを、一方で重みのある低音が安定感を生み、中盤以降になると滑らかなベースが前面に立って瞑想的なフレーズを、そして迫力ある打楽器も踊るように加わって緊張感のあるアンビエンスへと没入していく。圧巻は17分超えの"Nude"、シンセによる笛っぽい音色の重層的でミニマルなコードをずらしながら執拗に繰り返す展開は現代音楽的で、次第にメロディーも加わり少しずつ肉付けされながら金属的なパーカッションが加わると山奥の仏閣の中で鳴っているようなスピリチュアルな空気も立ち込めたり、佳境に入るとまたもやまろやかながらも大胆に躍動するベースがメロディーを奏でるように主張して、程好い緊張感を保ったままドラマティックな盛り上がっていくミニマル×ジャズ×アンビエントな曲だ。いやはやバブルに沸いた80年代にこんな音楽が日本にあったとは驚きを隠せないが、それがこの2020年という時代の中でも全く古びてないどころか、野心に満ち溢れた前衛的な姿勢と楽園が広がるような牧歌的なムードが同居した音楽は刺激的で、現在のアンビエントにも全く負けないどころか鮮烈な印象を残している。



Check Motohiko Hamase
| ETC5 | 22:00 | comments(0) | - | |
G.S. Schray - First Appearance (Last Resort:LR003)
G.S. Schray - First Appearance
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アンビエントやバレアリックは今こそ最盛期と言わんばかりの状況ながらも、そのムーブメントが少なからず秘蔵音源や過去のリイシューにも依存している点は否めない。そういった掘り起こしは再評価という点においては有用だが、より重要なのはやはり新しく生まれる音楽で、そんなムーブメントの流れに乗って本作のようにいつの間にか存在感を示すアーティストも稀にだがいる。ロンドンのネットラジオ局・NTS Radioの番組の一つであるLast Resortは、2017年からはレーベルとしても活動をし始め、その第一弾に抜擢されていたのがこのG.S. Schrayだ。Schrayはオハイオ州アクロンのギタリストで、分かる範囲では2012年にアルバムデビューを果たし、それ以降はbandcampで散発的に作品をリリースしていたようだが、2017年には前述のようにLast Resortから『Gabriel』をリリースし、そしてそれに続くアルバムが本作だ。レーベル紹介ではThe Durutti Columnを引き合いに出しているが、それも納得な淡い水墨画を描くような残響を活かしたギターサウンドがSchrayの特徴のようで、アンビエント/バレアリックの流れで紹介するものの豊潤さを削ぎ落とした素朴な響きが彼の持ち味だろう。水滴が落ちてゆっくりと波紋が広がるようなピアノと空気に溶け込んでいくようなドライなギターが静けさに美を込める"Gabriel At The Prewindow"は、飾り気を削ぎ落とした茶の侘び寂びの美意識にも似た世界観と呼べばよいだろうか。乾いたドラムがリズムを刻む"District Lizards"はリバーブの効いた重層的なギターによって幻想的な響きを作り、そこに透明感のある純朴なシンセも加わって感情を高ぶらせる事はないが落ち着いたメランコリーが通底する。"In Unsmiling Homage"では簡素な響きのドラムはもはやダブ的で、咽び泣くような質素で感傷的なギターもあって何だか空虚な気持ちに染まってしまう。"The Cruel Psychic"も音の数は少ないながらも残響を用いたギターが空間の奥行きを演出しつつ、そこに静謐なシンセストリングスも加わり夢のようにうっとりと陶酔した甘いアンビエンスを聞かせるが、派手さを削ぎ落とした美しさに俗物的な印象は全く無く何処までも孤独で隠遁としている。最後の"Several Wrong Places"は艶のありながら無機的なシンセが前面に出ており何だかジャーマン・プログレの無意味な楽天的なムードが感じられ、そこに乾いたギターが被さる事で牧歌的な穏やかさも加わり、自然志向なアンビエントかニューエイジかといった趣きでアルバムの中では随分とオプティミスティックである。とは言えども全体としては質素さを追求し飾り気の無い静謐な美しさを表現しており、それは例えばECMが提唱する静けさに存在する美とも共鳴するもので、アンビエントのファンだけでなくジャズやコンテンポラリー・ミュージックの方向にも訴求出来る普遍的な音楽性を兼ねている。



Check G.S. Schray
| ETC5 | 18:30 | comments(0) | - | |
Jonny Nash / Suzanne Kraft - Framed Space : Selected Works 2014 - 2017 (Melody As Truth:MAT12)
Jonny Nash  Suzanne Kraft - Framed Space Selected Works 2014 - 2017
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2000年代にニュー・ディスコの流れにも呼応していた日本のコズミックなバンドのDiscossessionの一員でもあったJonny Nashは、その後拠点をアムステルダムに移しLand Of LightやGaussian CurveにSombrero Galaxyといった複数のユニットでの活動によりダンス・ミュージックの枠組みを越えてニューエイジやアンビエントへと接近し、その自身の音楽性を表現する場として2014年にMelody As Truthを設立している。レーベル初期の活動は自身の作品と共に、ロサンゼルス出身でアムステルダム在住のDiego HerreraことSuzanne Kraftの作品で占められており、2013年の邂逅以降互いの音楽性に共感した彼等は2020年の現在に至るまで度々コラボレーションも果たすなど、音楽的な相性の良さは言うまでもないだろう。両者のバイオグラフィーについてはライナーノーツに詳細が記載されているので、是非本作を購入した後に読んで頂きたいが、さてこのアルバムはそんなレーベルにとっての第一章を締め括るような内容だ(2017年以降レーベルはニューカマーも送り出している)。Nash側からは『Phantom Actors』と『Exit Strategies』に『Eden』(過去レビュー)、Kraft側からは『Talk From Home』と『What You Get For Being Young』(過去レビュー)からそれぞれ選りすぐられ、かつ未発表曲も加えたMATの初期のマイルストーン的な内容で、現在再評価が著しいアンビエント/ニューエイジにおいても現在形のという意味で非常に重要なコンピレーションだ。二人の静けさが生み出す抒情的な美しさや淀みの無い牧歌的なムードなど音楽性に大きな乖離があるわけではないが、ギタリストでもあるNashはやはりギターサウンドが主張しており、Kraftの音楽は曲によってはクラブミュージック的なリズムも聞こえたりと、本作ではそれぞれの個性も聴き比べする事が可能だ。初期のNashの音楽は特に美しく、透明感のあるシンセのレイヤーとゆっくりと滴るように静謐なピアノを用いた"A Shallow Space"は後半では遠くで響くようなギターもゆったりと広がっていき、ここではない何処かへと連れて行く牧歌的なアンビエントにいきなり魅了される。時代によって音楽性にも変化はあり、ギターのコードとレイヤーを前面に打ち出して有機的な音色を強調した"Exit One"はコンテンポラリー・ミュージックとでも呼べばよいだろうか、気負わずに肩の力が抜けてリラックスした気分に心が落ち着く。そしてバリ島での録音に至った頃の曲である"Conversations With Mike"ではツィターやガムランのベルも用いられ、より深い木々が茂る自然世界から発せられるスピリチュアルなムードも強くなる事でニューエイジへと傾倒している。対してKraftは"Two Chord Wake"ではヒップホップ調のリズムと共に水彩画のような淡い響きが美しくあるが、メランコリーでありながら大空の下で陽気に戯れるような、ダンス・ミュージックの影響を残す曲調もある。勿論"Flatiron"のように胸を締め付けるような切ないギターと微かに響く繊細でジャジーなリズムで、内省的でしっとりとした抒情に染める曲もあれば、朧気なドローンによって抽象性を高めながらも生っぽいベースやギターがオーガニックな温かみを生む"Body Heat"など、静謐なアンビエントやニュー・エイジを軸に電子音とオーガニックを共存させて、深く深く内なる精神世界への瞑想へと誘うようだ。それぞれ元々はアナログで販売されていたものが、このようにCDで編纂されて纏めて聞く事でMATというレーベルの方向性を理解出来る点でも価値あるものだが、それを抜きにしても二人の静けさの間から生まれる素朴な美的感覚の魅力は昨今のアンビエントの中でも群を抜いている。



Check Jonny Nash & Suzanne Kraft
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Young Marco - Bahasa (Island Of The Gods:IOTG004)
Young Marco - Bahasa
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イタロ・ハウス/ディスコの発掘から現在形のアンビエントやバレアリックの展開など、自身で主宰するSafe Tripに於けるマネージャーとしての面、そしてソロ活動やGaussian Curveというユニットなどのアーティストしての面、このどちらで確かな才能を発揮しているYoung Marco。2014年にそんな音楽性を網羅したアルバム『Biology』(過去レビュー)から5年、遂に完成した2ndアルバムである本作は、バリのレーベルであるIsland of the Godsから。2014年に祖父のルーツであるインドネシアへ訪れた際に、バリ島を含む幾つかの島々へ足を運び現地の精神や雰囲気を得るべく、ガムランを演奏するThe Desa Babakan Gamelan Ensembleらとジャムセッションを行い、結果的には現在のアンビエント/ニューエイジのムーブメントに適合するように現代的なエレクトロニクスと伝統的なガムランが融合したアンビエント性の強いアルバムが完成した。いきなりエキゾチックな木管楽器の旋律、そして鳥の囀り等のフィールド・レコーディングから始まる"Kalapa Garden"からして木々が生い茂る深い森の神秘性が漂っており、そこに凛とした鉄筋や有機的な太鼓も加わり、都会の喧騒から離れた長閑で牧歌的な世界へと連れて行く。Aardvarckもフィーチャーした"All These Seas"では波を大々的に用い、そこにぼんやりと抽象的なシンセを重ねて、自然と同化する穏やかなアンビエントを展開する。"Moving Ornaments"ではガムランがディレイによって重層的に遠くまで響きながら、イタロ的な光沢感のシンセの伸びも相まって、爽快感のあるニューエイジ/アンビエント的だ。ぼんやりとゴング等が鳴りながらも抽象的で流動的に変化するシンセが手動する"Looking Back"はよりニューエイジ色が強く瞑想を誘い、そしてガムランやゴングの重層的な響きと水のような音のサンプリング等が脱力した酩酊感を生む"Time Before Time"はオーガニックなアンビエント色が強く、意識もさせない位に耳へとすっと入ってくる音楽はいつの間にか聞く者の心を癒やすようだ。最後の"The Beginning And End"は可愛らしいチャイムと流麗なストリングスがキラキラと響き、天界へと誘う如く全く汚れや闇の無い多幸感に満ちたバレアリックな響きによって、バリの神秘に溢れたアルバムは穏やかに終わりを迎える。当方はバリへ訪れた事は無いのだが、これが全てではないにしろバリの土着信仰や楽園や神秘といった雰囲気が伝わってきて、誰しも少なからずバリの魅力が感じられるアンビエント/ニューエイジに違いない。レビューが間に合わなかったものの、2019年のベスト候補の一枚であった位に素晴らしい。



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| ETC5 | 18:00 | comments(0) | - | |
Santilli - Surface (Into The Light Records:ITLINTL 04)
Santilli - Surface
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ジャンルレスにギリシャの辺境/秘蔵音楽に焦点を当てて活動するInto The Light Recordsも近年は「インターナショナル」シリーズとしてギリシャ外にまで範囲を広げ、しかし昨今のムーブメントであるアンビエントやニューエイジに寄り添う質の高い新たな音源の開拓をしているが、その一環となる本作はオーストラリアはシドニーで活動するMax Santilliのデビューアルバムだ。2018年にはAngophoraというユニットでエレクトロニック・オーガニックな土着アンビエントアルバムの『Scenes』を手掛けていたが、それ以外の活動は見受けられずまだ若手のアーティストなのだろうか。しかしある程度はこのレーベルが故にブランド的にまで高められた質の高さが保証されていたとは言え、実際に本作を聞いてみるとニューカマーによる音楽はInto The Lightというアンビエント/ニューエイジなレーベル性に沿いつつもエレクトロニクスとアコースティックの自然な調和が成すその素朴で穏やかな音楽は、雲一つ無い青空の下で太陽の光を全身で浴びるような気持ち良さだ。Santilliはマルチ・インストゥルメンタリスだそうでギターやシンセサイザーにパーカッションといった楽器も自身で演奏してアルバムを制作したようだが、その甲斐もあってか非常に有機的で温かみのある響きがメロウな世界観をより際立てている。冒頭の"Watching"からして遠くで鳴るような静謐なシンセに合わせ、切なく心に染みるアコギの旋律と空間を快活に抜けるパーカッションがリラックスしたムードを作り、土の香りを立たせながらもコンテンポラリー・ジャズのような作風だ。続く"Winter Breath"もしっとりしたベースとメロウなアコギのコード展開に軽やかなリズムを刻み打楽器が加わり、大地の芳香を漂わせながらも澄んで透明感のあるサウンドが心地好い。更にゆったりとしてテンポの"CRB"では膨らみのある大らかなパーカッションは逆に躍動感あるリズムを刻みつつ、そこに眠気を及ぼすようなトロリとしたシンセが薄っすらと伸びて穏やかな叙情を生み、アンビエント的な方向へも向かっている。その性質がより顕著なのが"Vision"で、朧気で抽象的なシンセのドローンで重厚感を出しつつバリのガムランようの密林系のリズムを重ねる事で、ゆったりと流体の如く変化しながら瞑想空間へと誘うこの曲は内なる世界へと落ちていくアンビエントだ。そしてアルバム最後の"Dawn"もやはり空間を抜けていくパーカッションとメロウなシンセのコードがじっくりと展開する清らかでピュアな構成で、豊潤な大地に囲まれた長閑な田園風景を思い起こさせるバレアリック/ニューエイジな曲は、最も切なくエモーショナルで最後を締め括るに相応しい。ECMのような静けさの中で輝くギターの響き、ゆったりと流れるエレクトロニクス、大地と共鳴するパーカッション群、それらはアンビエントやニューエイジにコンテンポラリー・ジャズといったジャンルをも汲んで日常の生活を潤すような音楽となり、BGMとしても非常に最適だ。勿論アンビエントやニューエイジの文脈からも、必聴と言わざるを得ない名盤だ。



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| ETC5 | 21:00 | comments(0) | - | |
Neil Tolliday - Music For Deathbeds (Emotional Response:ERS039)
Neil Tolliday - Music For Deathbeds
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2019年5月に180分にも及ぶ全く意味を込めないドローン状態のダークアンビエントなアルバム『Mallumo』(過去レビュー)を発表したNeil Tolliday。それから間髪入れず7月にリリースしたアルバムが本作。まさか90年代にはClassicやStrictly 4 GrooversからクラシカルなハウスをリリースしていたNail名義のその人が、全く方向性が異なるそのような音楽を制作した事は驚きであったが、何でも鬱病になった際にセラピーの一環としてアンビエントを手掛けるようになったそうだ。それは2000年頃に始まり様々な楽器や機器を元に何百ものトラックが制作され、ここ数年に渡りBnadcamp上で変名を用いてリリースされていたもののプレスに発表される事はなく、そして数週間でそれらは削除されるといった事を繰り返していたと、本作のプレスで述べられている。結果的にそれらの断片的な作品の中から一部纏められたのが本作で、当然というかこれも陰鬱で閉塞的なアンビエントが中心となっており、正にタイトル通り「臨終の為の音楽」というのも納得な内容だ。『Mallumo』と比べると元からアルバムとして制作された曲群ではないので作風が豊かというか散漫というかアンビエントでも幅は広くなっており、コンピレーション的な風合いが強いか。波の音に合わせてオーケストラや祈りのような歌を用いて荘厳な賛美歌を思わせる"Yearn"でアルバムは始まり、ぼんやりとしたドローンが続く不鮮明な音響の中に美しいオーケストラや電子音が混在する"Milky Less Milk"、サイケデリックな電子音が浮遊し不明瞭な音像のエレクトロニカ風な"Swipperb"と、序盤からアンビエントが根底にはありつつも作風はばらばらだ。パルスのように強烈に振動する電子音から壮大なアルペジオへと展開しビートレスながらも躍動感ある"Aftershave Pt.7"、対して静けさが広がる中に胎動のような電子音に美しいシンセのコードが被さり静謐さが際立つ"Specific Gravity"、繊細でか細いシンセのメロディーと荘厳なオーケストラ風のパッドによって神聖な雰囲気を醸すヒーリング系の"6:30"など、曲毎にアンビエントの姿も変えて時に刺激的に時に安らぎを誘い、鬱病の最中に癒やしとなるかどうかは別としても只々ぼんやりと音の中に意識を埋めるには最適なのかもしれない。催眠のような永続的なドローンの統一感の心地好さで言えば『Mallumo』が優れているのだが、本作はラフスケッチ的にTollidayの多彩な音楽性を堪能する事が出来て、これもまたアンビエントの豊かを体験する意味で面白い。



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Jonny Nash & Suzanne Kraft - MATstudio 2 (Melody As Truth:MAT-ss2)
Jonny Nash & Suzanne Kraft - MATstudio 2
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「MATstudio」、それはMelody As Truthのスタジオにおける即興や実験に偶然の出来事をコラージュした作品。DiscossessionやGaussian Curve等多くのユニットでも活躍するギタリストのJonny Nashが立ち上げたMelody As Truthは、昨今のニューエイジ/アンビエントのムーブメントの中でも特に穏やかな静謐が際立つ音楽性で注目を集めるレーベルだが、そこに加わるDJ/プロデューサーのSuzanne Kraftは同レーベルから度々Nashと共作として作品をリリースしており、音楽的な相性はこの上ないに違いない。そんな2人による即興による自由度の高い実験的シリーズの第2弾は、しかし前作が断片的な風景画を纏めてコラージュしたような抽象的かつサイケデリックな刺激的な作品だったのに対し、ここでは前作よりは物語的な流れがありより叙情性の強いニューエイジ/アンビエントへと向かっていて、穏やかな時間が過ぎる安寧なリスニング作品としてはこちらの方が優っているだろうか。"The Perishable Imagination"はディレイをかけたアコースティックギターの響きが層になり視界も揺らめくような音響を生み、何も無い空間の中で引いては寄せる波の如くギターが繰り返される。朧気な電子音のドローンも加わり、ギターは強く唸ったり霞となって消えるような処理が加えたりしつつ、途中から不思議な打撃音やクリックも混ざって偶発的なインプロビーゼーションのように衝動的な展開も見せるが、基本的にはそれ以上の大きな展開をする事はなく永続かと思われる長い持続の中で、全てが融解していく夢幻のアンビエントへとなっていく。"Maybe This Is Something You Should Think About"も残響の長いギターが奥深い空間を演出し、そこに静謐なアコースティックギターのメロディーやザワザワとした電子音が被さっていき、序盤は瞑想へと誘う穏やかな展開。中盤になると途端にノイジーな音響は掻き消され、静かな空間の中で叙情的なギターの響きだけが浮かび上がりNashの特徴であるメランコリーが強調されるが、そこにエレクトロニカ風なギクシャクとした歪なリズムが鼓動のように響いて緊迫感を生み出していく。それでも何処までも続く穏やかな風景は幻想的で、現実でない何処かへと逃避するような白昼夢は気怠くも快適だ。前作はかなり挑戦的な試みだったが、本作の方は即興的であっても一般的なニューエイジ/アンビエントとしては受け入れやすいだろうか、夢現なメランコリーが通底していて籠もりきりな最近の生活でもBGMとして最適だろう。



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Luke Abbott - Music From The Edge Of An Island (Float:FLOAT003LP)
Luke Abbott - Music From The Edge Of An Island
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かのBorder Communityからの作品によって一気に注目を集めたLuke Abbottの最新アルバムは、予想だに出来ない意外や意外のピアノアルバム。モジュラーシンセも駆使して色彩豊かなポップな音と破壊的なノイズを行き交い、長閑な田園風景の牧歌的な雰囲気から悪戯溢れるサイケデリアまで描き、ダンスフロアに依存しない音楽を送り出してきたAbbottが、何故かピアノアルバムだ。調べてみるとJessica Hynesによる映画「The Fight」のために依頼されて作ったのが元となり、そしてポストクラシカルシーンを代表するNils Frahmが始めた「Piano Day 2019」に合わせてリリースされたとの事。ピアノアルバムとは冒頭で述べたものの決して電子音が使われていないわけではないが、以前のアルバムに見受けられた即興的な不安定さを活かした事による実験的な音楽ではなく、ソフトウェアを用いて丁寧にクラシックの模範に沿って構成されたと言うべきか、メロディーとコードを尊重したモダン・クラシカルと呼ぶべきだろう。冒頭の"Sea"から悲哀のピアノのコード展開を静かに聴かせる飾り気の無い構成で、途中から荘厳なシンセのドローンも入ってきて重厚感は増すものの、やはり過剰な演出は無くピアノの響きが印象を残す。ワルツのリズムを刻むピアノのメロディーにチェロの有機的な組み合わせがしっとりする"Island"も、やはり非常にシンプルな音の構成で、だからこそ一つ一つの音の美しさが際立っている。"Tree"はピアノの早い連打がリズムにも聞こえるが、ストリングスも加わり厚みを増すとしみじみとしたメランコリーさが一層強くなっていく。ピアノや電子音もロングトーンを強調した"Waiting"は忙しなく展開する事もなく、内なる深層を省みさせられるようなドローン的なアンビエントだ。"Seed Change"なんかはピアノの流麗な演奏を活かした完全にモダン・クラシカルだが、ガムラン風のパーカッションとピアノの絡みによって爽快ながらも静謐な美しさを演出する"Moments"もあったりと単調ではない。Border Communityからのアルバムとは当たり前だが全く作風は異なるものの、こういったアプローチも出来るんだという驚きと共に、シンプルが故にピアノの繊細な美しさが際立つ音楽に安らぎを感じられる。



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Suso Saiz - Nothing Is Objective (Music From Memory:MFM040)
Suso Saiz - Nothing Is Objective
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ここ数年のニューエイジ/アンビエントの再燃を引率するレーベルの一つ、オランダはアムステルダムのMusic From Memoryは、特にその初期は時代の狭間に埋もれてしまった音楽の発掘に力を注いでいた。レーベルによって掘り出されたアーティストが注目を集め、そして活力を得た事で音楽活動へと復帰する例も珍しくはなく、スパニッシュ・ニューエイジの先駆者であるSuso Saizもその一人だ。2016年にMFMによって編纂されたコンピレーション『Odisea』(過去レビュー)によって一躍注目を集めると、2017年には同レーベルから新録となるアルバム『Rainworks』(過去レビュー)をリリースし、それ以外にも彼が参加したプロジェクトであるMusica EsporadicaやOrquesta De Las Nubesの作品もリイシューやコンピが手掛けられるなど、もしかしたら現在がSaizにとって一番春を迎えているタイミングなのではないか。そんな旬のSaizが2019年、更にMFMから16曲80分越えの大作となるアルバムをリリースしているが、路線として大きな変更はないもののエクスペリメンタルだった前世よりはやや響きはメランコリーなアンビエント性が強くなり、よりフラットな微睡みに包まれる心地好さが生まれている。冒頭の"Meccano"からして幽玄な電子音のドローンに奇怪なサウンドエフェクトとプリペアド・ピアノを用いたミニマルな反復が乗って、展開らしき展開は全くなく催眠を誘う持続性の中に、きっとリスナーはメランコリーを感じずにはいられない。続く"Anti-Stress For Babies And Families"はぼんやりとしたドローンが長く続き遥かなる地平線をイメージさせるいかにもアンビエント/ニューエイジな曲で、非常に時を遅く感じるゆったりとしたコードの展開のドローンから時折長いトーンの静謐なピアノも現れたりと、ぼんやりとしながらも夢現な叙情性が持続する。Saizの盟友であった故Jorge Reyesへと捧げた"Mexican Bells (For Jorge Reyes)"は、フィールド・レコーディングとエレクトロニクスが自然と調和したアンビエント調で、雑踏の響きの中でミニマルな鐘が空虚に鳴りつつ微かな電子音の持続が幽玄さを生む単純ながらも非常に覚醒感の強い一曲。Saizと言えば繊細で静謐なギターの音色も特徴で、"Minimal Distance"は殆どギターの音色のみで作り上げた徐々にメロディーがずれていく現代音楽のミニマル的な構成ながらも、そこにはSaizの神秘的な叙情性が現れている。本作は特にぼんやり淡い色彩感覚を持ったドローンの多用が顕著で、"Una Voz"や"Objective Void"でも抽象的ながらも静謐な電子音のドローンと線が細くか弱いギターによる幻惑的な響きが現実ではない何処か的な世界へと誘い、またChristian Fenneszをフィーチャーした"Dulce"では如何にもらしいアコースティックな響きと電子音の捻ねるようなドローン音響が粘性の高い液体の如く変化しながら、次第にシューゲイザー風に壮大な放射となり空間を心地好いノイズに満たしていく。何も目的ではないというタイトルが示唆するように、確かに本作は何か意味を持たせるよりはドローンによる微睡むようなアンビエンス性へと振り切れており、ジャケットの淡い色彩のような不明瞭な中に神々しい美しさが潜んでいる。如何にもアンビエント/ニューエイジのお手本的な音楽だが、しかしその深い精神世界の宇宙が広がるような神秘的な感覚は頭一つ抜けており、流石スパニッシュ・ニューエイジの立役者の一人だ。



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