Linkwood & Other Lands - Face The Facts (Athens Of The North:AOTNCD 042)
Linkwood & Other Lands - Face The Facts
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エディンバラにてカルト的な存在としてあり続けるFirecracker Recordingsの主軸アーティストであるNick MooreことLinkwoodは、初期のミステリアスで深遠なるブラックなディープ・ハウスから、現在では他アーティストとの共同制作を行いながらエレクトロやジャズにまで手を広げ、アーティストとして進化を成し遂げている。本作はそんな動向が顕著になり始めた2020年のアルバムで、レーベルメイトでもありPrime Numbers等のレーベルからもファンキーなディープ・ハウスをリリースするFudge Fingasの変名であるアンビエント・プロジェクトのOther Landsとの共同制作したものだが、面白い事に過去の二人の音楽性を越えてハウスのみならずバレアリックやブギーにエレクトロと多彩な音楽性を含んでいる上に、今までよりも随分と晴れ晴れしく陽気なムードに心が温まる作品となっている。レーベルの紹介ではOther Landsは主にギターとボーカルを、Linkwoodがリズムやシンセ等を担当したようだが、特に本作においてはポップでキラキラとしたシンセが活躍する事でシンセ・ファンク的な感覚も獲得している。アルバムの開始を告げる"Theme For City"を聞けばそれは分かるだろうが、ゴージャスな電子音が前面に打ち出されリズムもアタック感の強いこの曲はシンセ・ファンクかエレクトロ・ハウスかといった趣きで、またほのぼの穏やかでメロウなシンセの旋律が牧歌的でもありバレアリック感も醸している。よりビートを落としてざっくりテンポなビート感に気怠さに包まれる"First Take"は、透明感のあるパッドと子洒落たシンセソロがジャズっぽくもあり、もはや真夜中の鮮烈なパワーが満ちるパーティーの感覚よりは昼下がりの落ち着いたホームミュージック的か。安っぽいリズムマシンを用いたような簡素なビートを刻むエレクトロでバレアリック調な"Porty"、または変則ビートにモジュラーシンセ風な奇妙な電子音を絡ませて遊び心に溢れた"3VSR"、更にゆったり広がるダビーなアフタービートと開放感のあるギターがトロピカルな陽気さを生む"Meet in the Middle"と、今までの両者からは感じられないリラックスした朗らかな世界観は、この暗雲立ち込めるコロナ禍に対してタイミング良くフィットしているようにも思われる。本人達が意識的であるか否かは分からないものの、本作は最早ダンスフロアというものへのこだわりが無いように感じ、寧ろパーティー後の疲れ果てた心と身体を癒すためのBGM的にも思われるのだ。熱心なファンであればある程本作の変化に驚きを禁じ得ないが、しかしここでの多彩な音楽性は予想以上の魅力として結実しており、これ以降のコラボレーションも期待したくなってしまう。



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| HOUSE15 | 22:00 | comments(0) | - | |
Pepe Bradock - Dactylonomy I (Dumb Thumb Count De Finger) (Atavisme:ATA 021)
Pepe Bradock - Dactylonomy I (Dumb Thumb Count De Finger)
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今となっては数少ないヴァイナル・ジャンキー、安定した人気を博しながらもデジタルでのリリースは一切行わずに、ヴァイナルというスタイルに徹底的に拘りを持つフランスのディープ・ハウスの奇才・Pepe Bradock。流行も何のその、サイケデリックかつ深遠で奇妙なハウス性を自分の個性として確立させ、マイペースにリリースを続けるのは揺るぎない信念や自負があるからこそだろうが、そうだとしても毎度毎度レコードを即座に売り切ってしまう人気はカルト的だ。そんな彼が新たに取り組んでいるシリーズが5枚に渡る『Dactylonomy』で、2020年3月にリリースされた本作はその初作となるEPだ。このシリーズに対するレーベルからの説明も特にないため、どういったコンセプトであるかは不明なものの、聞けば分かるように基本的にはフロアで効果を発揮するサイケデリックかつスリージーなダンストラックである事は明白だ。"Audio Jewels"は擦り切れたようなロウな響きのビートが淡々と刻まれ、そこに奇妙な効果音や不気味な呟きといったいつもの如くサンプリングを配し、壊れた鍵盤的なコードやジャズっぽいサンプリングを重ねてゴチャゴチャとアブストラクトな構造を成しており、出口の無い迷宮へと誘われるのかのよう。ダンストラックとは言いながらも高揚感よりは酩酊感、熱狂的に盛り上がるのではなく深く沈み込む、そんな精神へと作用する曲調だ。もう1曲の"Mattithyahu"はすっきりとしながら跳ねるビート感が軽快で、サイン波のようなループや優美なサンプリングを交えつつイコライジング処理で展開を作るフィルター・ハウスが如何にもBradock的である。ビート感にキレのあるファンキーさがより一層フロア向けにも思われるが、終盤では一旦ビートが消えた後にコラージュ風な奇妙な展開を挟みつつ、そこからTB-303やTR-808によるアシッディーなダンスへと様変わりする予想も出来ない展開が待ち受ける。たった2曲のみだがそこに込められた個性は唯一無二のもので、流石に有無を言わさぬ説得力を持っている。



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| HOUSE15 | 12:00 | comments(0) | - | |
Celebrity BBQ Sauce Band - Celebrity BBQ Sauce (Mahogani Music:MM46)
Celebrity BBQ Sauce Band - Celebrity BBQ Sauce
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MoodymannことKenny Dixon Jr.が主宰するMahogani Musicは濃密なファンクネスと煮え滾るソウルを兼ね備えたブラック・ミュージックのレーベルで、Dixonの審美眼で選りすぐられた音源におおよそ外れはなくレーベル買い出来るといっても過言ではない。そんなレーベルから2020年の終わりに届けられた新作はCelebrity BBQ Sauce Bandなる初めて耳にするユニットに依るものだが、これもP-FUNKのようなねちっこくて濃密なブラック・ミュージックを好むのであれば、間違いなく買いだろう。彼等は何とUnderground Resistanceの一派でありLos Hermanosの中枢でもあるGerald Mitchellと、デトロイト・ハウスの伝説的なユニットであるMembers Of The Houseの一員でもありSound Signature等からもリリースを行うボーカリストのBilly Loveから成るユニットで、結成に至った背景は分からないもののデトロイトのコミュニティの中で長い付き合いがあったそうで、そんな彼等が聞かせる音楽は正にモーターシティー・ソウルと呼びたくなる。本作ではデトロイトの仲間も集まりギターやベースにドラムの生演奏、そして複数のボーカリストも参加して、MitchellのDJではないアーティストとしての面が思い切り打ち出されたバンド・サウンドが魅力的で、Loveの感情を絞り出すようなソウルフルも歌も加われば、確かにMahogani Musicという熱量高く生々しい音楽性に沿ったものであったのだ。あのデトロイト・ハウスにはお馴染みのParis Greyを起用した"Please Don't Fail Me"は正にハウス・ミュージックなのだが、Mitchellの小気味良いエレピのコードに合わせドライブするドラムや唸るギター等肉体感が迸る迫力ある演奏が発揮されており、マッチョな骨太さと熱を帯びたソウルが入り交じる。"Formula of Passion"は逆にMitchellの打ち込み中心に余り展開をいじらずにLoveのナレーション風な歌を活かしつつMitchellが控えめにエレピを加えて、しっとり落ち着いたビートを整然と刻んでビートダウン・ハウス的か。そんな中で"Make Me Feel"はドラムのビートは一切入れずMitchellの一歩引いたように抑えめながらもメロウな鍵盤に、スモーキーなスキャットや甘美な歌を重ねたシンプルなソウルがアルバムにぐっと情緒を加えている。対してタイトル曲の"Celebrity BBQ Sauce"は多くの演奏家と歌手が参加したP-FUNK直系の曲で、土臭くどっしり重いドラムに支えられながらゴリゴリとエネルギッシュに唸るギターや歌の掛け合いもあり、ゴチャゴチャと音が混ぜ込められながらもパーティーの賑わいを感じさせるなど、アルバムを象徴する曲であるのは間違いない。スラップベースが印象的な"Music is My Hustle"はズンドコなハウスビートを刻みLos Hermanos的でもあるが、より生演奏を主体とした荒々しさや無骨なファンクさが際立っており、やはりバンドと名乗っている事が音にも現れている。有名なバーベキューソースのバンドとは、正にデトロイトの様々な実力者が集まったバンドを意味しており、そんな才人らが現在のダンス・ミュージックでありながらデトロイトの音楽のルーツを掘り下げたプロジェクトだからこそ素晴らしいのも当然だろう。久しぶりにデトロイト関連では胸が熱くなる一枚だ。



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| HOUSE15 | 21:30 | comments(0) | - | |
Theo Parrish - Special Versions (Sound Signature:SV001)
Theo Parrish - Special Versions
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2020年にはアルバム『Wuddaji』(過去レビュー)をリリースしたデトロイト・ハウスのTheo Parrishだが、その勢いを全く止める事なく同年の年末には『Special Versions』なる新作EPをまたしてもリリースしていた。何がスペシャルなのかというと、アルバムへの布石となった『This Is For You』(過去レビュー)に収録されたMaurissa Roseをボーカルに起用した"This Is For You"のスペシャルバージョン、またParrishのバンド体制であるThe Unit名義で過去に手掛けたSkyeのカバーである"Ain't No Need"のエディット版を収録しており、その意味で特別な一枚という事なのだろう。"This Is For You"はアルバムの中でも最も美しくメランコリーで内省的な曲であったが、スペシャルバージョンでも大きく手を加える事はなく原曲をほぼなぞっているように思う。擦り切れてくすんだロウな響きのビートに対し情緒的で湿っぽい感情の鍵盤ワーク、そこにソウルを吐き出す情熱的な歌を合わせたハウス・スタイルだが、音色としての変化はなく曲尺を2分程伸ばしつつ構成もやや変更したエディット的な内容で、終盤がゆったりと消えていくようにしみじみとした余韻が続く展開へと変わっている。Amp Fiddler、Mr.Mensah、Duminie Deporres、Myele Manzanza、そしてデトロイトのシンガーであるIdeeyahが集結したデトロイト・プロジェクトのThe Unitが手掛けた"Ain't No Need"は、このSound Signature盤ではエディットという体になっているが、以前にリリースされた"The Unit Version"よりは音が鮮明で綺麗になっているがエディットのおかげだろうか。それでも各プレイヤーが呼応し合うセッション性は十分に発揮され、分厚く蠢くベースや土臭い無骨なドラムのビートに支えられつつ、ひっそりと甘美さを奏でる鍵盤やエモいギター演奏に加えて感情爆発な歌も加わり、ソウルやディスコにジャズやフュージョンといったブラック・ミュージックが溶け合い渦巻く強烈なダンス・ミュージックとなっている。どちらの曲も元々が素晴らしい事もあったが、このスペシャル盤ではその両者が纏めて収録されている点でも非常にお買い得だろう。



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| HOUSE15 | 21:00 | comments(0) | - | |
Theo Parrish, Lori, Silentjay, Perrin Moss, Simon Mavin, Paul Bender - What You Gonna Ask For (Sound Signature:SS077)
Theo Parrish, Lori, Silentjay, Perrin Moss, Simon Mavin, Paul Bender - What You Gonna Ask For
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デトロイト・ハウスの巨匠・Theo Parrishは確かにハウスDJ/アーティストであり、サンプリングを駆使した音の彫刻を武器とするが、その枠に留まらずに殻を打ち破ってブラック・ミュージックによりルーツ回帰的に真摯に取り組む事も進めている。本作は2019年リリースのEPだが、ここではメルボルンのネオソウル・バンドであるHiatus KaiyoteからベースにPaul Bender、ドラムにPerrin Moss、鍵盤にSimon Mavinを迎え、またRhythm Section Internationalからもリリース歴のあるSilentjayをサックスやピアノに、Laura Christoforidisをボーカルに起用し、Parrishはプロデューサーとして全体を纏めながら一大ジャムセッションを繰り広げたようなライブ感溢れるディープ・ハウスを完成させた。元々ラフな音響を活かして生々しさ溢れる音楽性を含んでいた事は言うまでもないが、ここではそれを生演奏により実現させており、制作方法がどうであったかは知る由もないものの何だかセッション一発録りのような不完全さがParrishのロウな音響に上手く適合している。ざっくりとラフながらも落ち着いたビートを刻み下部を支えるドラムと、控えめに存在しつつも艶めかしいラインをなぞるベースはジャジーで、そこに自由にインプロビゼーション的なピアノの演奏がスペーシーさを加え、熱い感情的を吐き出すような歌が入ってくると、正にソウル全開なディープ・ハウスとなる。時折入るふらふらと酔ったようなサックスも情熱的で、わざと構成に曖昧さを残してセッション性を打ち出した事で、ParrishのDJ視点的なミニマル性に終始する事なく広がりを持った作品になっている。そして裏面には近年Sound Signatureにも接近しているUK屈指のブラック・ミュージックの才人、Degoがリミックスを提供している。だたそのネームバリューからの期待には届かない仕事だろうか、折角のリミックスなのにDegoの優雅でモダンなブロークン・ビーツ性は抑えられており、ビート感をややパーカッシヴにして軽やかなハウスビートを強く打ち出した位で、原曲との大きな違いは見受けられない。ややモダンで洗練されているかなと思う程度で、折角ならもっとDegoぽいリズムの多様性も聞きたかったのだが。それだけParrishの圧倒的な存在感が強いとも言えるかもしれないし、やはり本作では原曲が見事である。



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| HOUSE15 | 20:30 | comments(0) | - | |
Theo Parrish With Maurissa Rose - This Is For You (Sound Signature:SS078)
Theo Parrish With Maurissa Rose - This Is For You
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もう20年以上の活動歴があるにもかかわらず、全く停滞する事もなく継続的に新作をリリースするその様相はそれが最早マイペースにも思われるが、その変わらない速度は絶対に揺らぐ事のない圧倒的な自負や自信に依るものだろうか。デトロイトのハウスの絶対的なレジェンド、Theo Parrishによる2019年のこのEPはその後の来たるべくアルバムである『Wuddaji』(過去レビュー)への布石となった作品だ。デトロイトのソウル・シンガーであるMaurissa Roseを起用したこの曲は、アルバムの中でも唯一となるボーカル曲であり、歌が入っているせいもあるのかとりわけソウルという感情性が強い曲でもある。安っぽいリズムマシン的にスリージーでざらついたリズムとカラッとしたパーカッションが空虚に響く中、微熱が伝わるような鍵盤やひっそりとした存在感ながらも美しいローズ・ピアノが内省的なムードを醸し、そこにRoseが体の中から感情を絞り出す如くソウルフルな歌を混ぜ込んでいく。大きな展開は無く執拗に何度も何度も同じ繰り返しを続けるが、長い時間をかけてふつふつと感情が熱せられ、また途中からはホイッスルやカウベルも加わり応援か鼓舞かの如く盛り上がっていき、ロウなビートと生々しい演奏によるブラックネス溢れるずぶずぶと沈み込むハウスを展開している。レコードの裏面にはインストバージョンが収録されているが、歌が無いだけで随分と地味というか抑制された感があり、それはダンスミュージックとしてのミニマルな構成が顕著に感じられ、ParisshのDJ的視点によるDJツールとしての側面を浮かび上がらせている。実質1曲だけのEPではあるものの、そのたった1曲だけでも孤高の存在感を放っており、流石と言わざるを得ない。



Check "Theo Parrish"
| HOUSE15 | 11:00 | comments(0) | - | |
H2H - 98 Years (Logistic Records:LOG76)
H2H - 98 Years
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数年前にVillalobosとの合体プロジェクトであるVilla H2Hで催眠的なミニマル・ハウスをリリースし話題になったユニット、H2Hはシカゴ・ハウスの巨匠であるChez Damierとフランスのミニマル系のBen Vedrenから成るユニットだ。どういう経緯かは不明なものの畑の異なる二人が手を組んで活動しているのは意外だが、過去作からも分かるようにガラージな雰囲気とミニマルな構成を巧みに融合させて、二人の個性を両立させたディープ・ハウスはこのユニットだからこそとも言える内容だ。そんな彼等の最新作である本作は機能的なミニマル・テクノを得意とするLogistic Recordsからのリリースで、それもやや意外には感じるものの実際に曲を聞いてみると、確かにビート感は間違いなくハウスではあるが構成は催眠的でドープなミニマルで、ここでもH2Hの個性が見事に表現されている。主題曲は2つで、"98 Years (Main Mix)"は分厚く低音が効いたキックを用いて粘り気のあるビート感を打ち出しつつ、くぐもってフニャフニャした電子音が続くトリップ感のあるミニマルかつディープ・ハウスだが、中盤から煌めくようなサンプリングループが入ってくるとディスコフレイバーも纏って、Damierのファンキーな面も現れてくる。対して"98 Years (Club Mix)"はカラッとしたパーカッションも用いて重くもすっきりしたビート感が跳ねるようでもあるが、やはりサンプリングループが入ってくるとMain Mixと似たような構成になるので、思っていたよりは大きな違いは無いだろう。"Kokoro Kara (remix by Days in Orbit)"はそもそもオリジナルがあるのかも分からないのだが、日本語女性ボーカルを用いつつアンビエントな上モノを用いた幻想的な空気と共に、スウィングするリズム感や生っぽくて湿り気を帯びたベースもあってジャジー・ハウス色が強く、やや異色なものの官能的なムードに包まれてしっとりした夜に合うだろう。H2Hとしてはここ数年、毎年新作をリリースしているので今後の活動にも期待したい。



Check Chez Damier & Ben Vedren
| HOUSE15 | 09:00 | comments(0) | - | |
Various - Wishes & Memories Vol. 3 (TH Pressing:THPVS05)
Various - Wishes & Memories Vol. 3

東京在住、清らかで透明感のある響きを活かしたエモーショナルなテクノやハウスを持ち味とするTominori Hosoyaは、海外の著名なレーベル、例えばdeepArtSoundsやSoul Print Recordingsからのリリースもあり、コンポーザーとして確固たる地位を築き上げている。その一方で自身の音楽性を反映させたレーベルとしてTH Pressingを2014年に設立しており、その場においては『大切な人・モノ・想い出等に捧げる楽曲』をコンセプトにした『Wishes & Memories』というコンピレーションもシリーズ化している。2016年に第1段、2017年に第2段とリリースしてRai ScottやLife RecorderらHosoyaの音楽性と共鳴するアーティストをピックアップしてきたが、しかしその後第3段として予定されていた作品はコロナ禍の中で一旦中止を余儀なくされてしまった。結局、前作から4年は空いてしまったがなんとか2021年7月に第3段である本作は無事リリースされたのだが、待たされた分もあってかより一層深い慈しみや情緒が感じられるディープ・ハウス性が感じられ、Hosoyaが掲げるコンセプトが強く伝わってくるようだ。本作でも当然Hosoyaと関わりを持つアーティストが集められており、Soul Print繋がりのUKのMark HandにUSのTrinidadian Deep、またファンク/ディスコ性の強いハウスを得意とするShakaが曲を提供しており、実力者が揃っている点においても説得力を持っている。Mark Handによる"Questions I Never Asked"はコズミックなシンセの旋律と透明感のあるパッドを用いて天空へと上り詰めるような高揚感を持った曲で、からっと乾いたリズム感もあって爽やかで清々しい叙情性を持っており、デトロイト・テクノへのUKからの回答的な希望に溢れたディープ・ハウスだ。軽やかなパーカッション使いが持ち味のTrinidadian Deepは"Personal DUB Expression"においても同様だが、それはより太くダビーで残響が空遠くまで伸びていくようで心地好く、それに幻想的なシンセコードやダビーなボイス・サンプルを合わせて空間性を強調したレゲエ/ダブの要素も取り込んだ新機軸で魅力する。Shakaの"There We Go"は他の曲と比べるとビート感は淡々として控えめで、しかしキラキラと綺麗な電子音や叙情的なパッドを丁寧に構成しつつファンキーなベースがShakaっぽくもあり、落ち着いていてしっとりした情緒が持続するメロウなハウスを聞かせている。さて、本作では立案者のHosoyaも楽曲提供をしているが、これは2018年のアルバム『Halfway』(過去レビュー)に収録されていた曲のオリジナルである"Cycling (Original Version)"だ。疾走感のあるパーカッシヴなビートが刻む中を美しいピアノが天井から降り注ぐように差し込まれて、ノスタルジックな切なさと未来への希望を心に呼び起こす非常にエモーショナルな曲は、正にこのシリーズのコンセプトを表しているのではないだろう。この曲だけではなく他の曲もそうだが、何か大切な人やモノへの思いが込められているからこそどれも全てがドラマティックで、ノスタルジーを誘う感情性に溢れており、コンピレーションながらも非常に纏まりのあるEPとなっている。

| HOUSE15 | 21:30 | comments(0) | - | |
Fuga Ronto - Greatest Treasure (Phantom Island:PHI-19)
Fuga Ronto - Greatest Treasure
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Lexxを中心にモダン・バレアリックをリリースしているスイスはチューリッヒのPhantom Islandから、一聴してリスナーを魅了するアルバムがリリースされた。手掛けているのはFuga Rontoなるユニットだが、実はレーベルを運営しているメンバーでもあるRon ShillerとTobi Schweizerの二人組で、それぞれは別の名義でも10年以上の活動歴があり、新人どころか既にベテランの粋にいるアーティストのようだ。Fuga Rontoとしては2016年に同レーベルより『Invisible Escape』でデビューしており、清涼感のあるシンセを前面に出しニューディスコやブギーにダウンテンポを織り交ぜたモダン・バレアリックな作風がいきなり好評を得ていたようで、そこから5年も間は空いてしまったものの満を持してのアルバムが完成した。二人は演奏も得意とするようでシンセサイザーやピアノにパーカッションやベースも弾き、またプログラミングも手掛けるなどオーガニックと電子を巧みに操り本作を制作したが、更には外部からギターやコンガの奏者や歌手も招く事でより一層バンド演奏らしさを強調しつつ、アンビエンやトロピカルにハウスやシンセ・ファンクなど音楽性も豊かにアルバムの世界観を広げる事となった。清々しく流麗なシンセコードに様々なスポークンワードを重ねてドリーミンなバレアリック調の"Random Escapade"で、高らかに船出を告げるようにアルバムは開始する。続く"Greatest Treasure"は豊潤なシンセサウンドを前面に打ち出しニューディスコなビート感が軽快なブギーかつシンセ・ファンクな曲だが、懐古的なディスコに陥る事もなく爽やかで綺麗な響きが大海原を航海するようなバレアリックな爽快感も生んでおり、現在のダンスシーンにも適合している。キレのあるギターカッティングや膨らみのあるベースが主張する"Falling Star"は汗が滲むような肉感溢れるファンクを色濃く感じさせるが、どたどたとしたディスコなビート感が腰を揺らし、また透明感のあるシンセのシーケンスを駆使しつつ美しいイタロ的なピアノを配した"Columbo De Domingo"は、清涼なアンビエント感を含みつつ何処か南国のリゾートビーチのような楽園トロピカルなムードがあり、曲毎にやや異なるスタイルを用いながら豊かな世界観を作り上げている。揺れるシンセから始まりアンビエンス調かと思われる"Mirror To Water"は、そこからシャッフルしつつも遅いビートが入ってきてアルバムの中で最も湿っぽく情緒的なダウンテンポとなっており、こういったスローモーな曲だとより一層Fuga Rontoのメランコリーな旋律が伝わってくる。そして残響の効いたパーカッションがレゲエやダブからの影響を滲ませてビーチサイドの黄昏時の切なさを表現したような"Wobble In The Pool"から、最後は波のサンプリングから始まり情緒的なシンセコードや耽美な鍵盤を軸にじんわりと感動的に盛り上がっていく余りにもメランコリーなバレアリック・ディスコの"Mystery Of Zambio"で終わりを迎えるが、何だかいつか何処かで体験したようなノスタルジーが余韻となって感じられる。7曲30分程なのでミニアルバムといった規模だが、DJ/リスニングの両面から非の打ち所のないストーリー性さえも体験出来るような叙情的なバレアリック・アルバムで、その見事な統一感を持った世界観に没入してしまう。



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| HOUSE15 | 16:00 | comments(0) | - | |
Takecha - 120A EP (Holic Trax:HT028)
Takecha - 120A EP
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寺田創一や横田信一郎、近年再評価著しいジャパニーズ・ハウスの流れの中で、過去に埋もれてしまったアーティストが再度最前線へと返り咲いているが、忘れてはならないのが福島武司 aka 武茶(Takecha)だ。90年代半ばにGWM名義でNYハウスに影響を受けたハウスを手掛けており、その時の曲はジャパニーズ・ハウス黎明期の名作を集めた『ハウス Once Upon A Time In Japan...』(過去レビュー)にも収録されるなど、そのシーンの成長に貢献したアーティストの一人である事は疑いようもない。近年は自身のBandcampから積極的に新作をリリースする傍ら、他レーベルからもアナログをマイペースに発表しており、特にHolic Traxとは蜜月の関係になりつつあるようでここからは複数の作品をリリースしている。本作は2020年の暮れにリリースされたEPで、良い意味で変わらずに90年代の空気を纏ったオールドスクールなハウスを収録しており、その意味では時代に左右されずに非常に普遍性の強い楽曲性を表現している。ローファイな響きのリズムはドスドスとしつつシャッフルするようなビート感が巧みな"120A"、次第に透明感のあるパッドも薄く入ってきて、そこに手弾きであろうジャジーなエレピを重ねてファンキーな様相を呈するが、比較的展開は抑えめでミニマルな構成は現在のハウスシーンも意識したのだろうか。対して"M1502"はゆったりと闊歩するような心地好いビート感にポップで朗らかな鍵盤のメロディーを加えて随分と可愛らしくあり、耳を惹き付けるメロディーやコードを活かした曲調はTakechaの特徴を端的に表しているが、NYハウスでもなくヨーロッパのハウスでもない「和」のハウスがここにはある。"Duration Rhyme"もすっきりとタイトで端正な4つ打ちを下地に控えめに小洒落たエレピやシンセのハーモニーやメロディーを聞かせ、長閑に寛いでいるようなリラックスしたハウスに親近感を覚えるが、Jazzy CouscousやMCDEでの活躍でも注目集めるHugo LXがリミックスした"Duration Rhyme (Hugo LX Re-Interpretation)"は、リズムやベースが生っぽい響きへと変化する事で粗い質感を打ち出したファンキーな方向へと進んだハウスとなっており、同じハウスでも作風の違いは明らかでアーティスト性の差もはっきりと感じられるのが面白い。クラシカルなハウスミュージックの趣きが詰まっており、タイムレスと呼んでも差し支えない音楽性は、良い意味で金太郎飴的で素晴らしい。



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| HOUSE15 | 18:30 | comments(0) | - | |