2022.03.28 Monday
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エディンバラにてカルト的な存在としてあり続けるFirecracker Recordingsの主軸アーティストであるNick MooreことLinkwoodは、初期のミステリアスで深遠なるブラックなディープ・ハウスから、現在では他アーティストとの共同制作を行いながらエレクトロやジャズにまで手を広げ、アーティストとして進化を成し遂げている。本作はそんな動向が顕著になり始めた2020年のアルバムで、レーベルメイトでもありPrime Numbers等のレーベルからもファンキーなディープ・ハウスをリリースするFudge Fingasの変名であるアンビエント・プロジェクトのOther Landsとの共同制作したものだが、面白い事に過去の二人の音楽性を越えてハウスのみならずバレアリックやブギーにエレクトロと多彩な音楽性を含んでいる上に、今までよりも随分と晴れ晴れしく陽気なムードに心が温まる作品となっている。レーベルの紹介ではOther Landsは主にギターとボーカルを、Linkwoodがリズムやシンセ等を担当したようだが、特に本作においてはポップでキラキラとしたシンセが活躍する事でシンセ・ファンク的な感覚も獲得している。アルバムの開始を告げる"Theme For City"を聞けばそれは分かるだろうが、ゴージャスな電子音が前面に打ち出されリズムもアタック感の強いこの曲はシンセ・ファンクかエレクトロ・ハウスかといった趣きで、またほのぼの穏やかでメロウなシンセの旋律が牧歌的でもありバレアリック感も醸している。よりビートを落としてざっくりテンポなビート感に気怠さに包まれる"First Take"は、透明感のあるパッドと子洒落たシンセソロがジャズっぽくもあり、もはや真夜中の鮮烈なパワーが満ちるパーティーの感覚よりは昼下がりの落ち着いたホームミュージック的か。安っぽいリズムマシンを用いたような簡素なビートを刻むエレクトロでバレアリック調な"Porty"、または変則ビートにモジュラーシンセ風な奇妙な電子音を絡ませて遊び心に溢れた"3VSR"、更にゆったり広がるダビーなアフタービートと開放感のあるギターがトロピカルな陽気さを生む"Meet in the Middle"と、今までの両者からは感じられないリラックスした朗らかな世界観は、この暗雲立ち込めるコロナ禍に対してタイミング良くフィットしているようにも思われる。本人達が意識的であるか否かは分からないものの、本作は最早ダンスフロアというものへのこだわりが無いように感じ、寧ろパーティー後の疲れ果てた心と身体を癒すためのBGM的にも思われるのだ。熱心なファンであればある程本作の変化に驚きを禁じ得ないが、しかしここでの多彩な音楽性は予想以上の魅力として結実しており、これ以降のコラボレーションも期待したくなってしまう。
Check Linkwood & Fudge Fingas