2017.05.08 Monday
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UKはロンドンにて昔の埋もれた奇妙な電子音楽を掘り起こすカルト的な活動をするAstral Industries。基本的にはヴァイナルに拘った制作も前提で、そんな事もありちょっとした注目を集めているであろうレーベルが次に掘り起こしたのは、1995年にKim CasconeことHeavenly Music Corporationが手掛けた『Lunar Phase』。何でもこちらは日本衛星デジタル音楽放送のSt. Giga用に制作されたアルバムだそうで、24時間環境音を流し続けるという正にアンビエントを体現していた放送局だったようだ。そんな局の為に制作された音楽なのだから当然内容は全編アンビエントやニューエイジと呼ばれるもので、特に『Lunar Phase』というタイトルからも分かる通り宇宙空間や無重力感を連想させる曲が中心で、トリップする為の音楽としては最適だろう。アナログ化に際し曲順には手が加えられており、A面には10分越えとなる"Energy Portal"と"St. Giga"が収録されているが、川のせせらぎや鳥のさえずり等の環境音に人の声も用いながら天の川の中を遊泳するような電子音が漂うドリーミーなアンビエントの前者、星が瞬くような電子音を散りばめて広大な夜空を表現したような無重力アンビエントの後者、どちらも地球の重力から解き放たれ宇宙遊泳に没頭するようなトリップ感が溢れている。一方でB面には6分前後の曲が4曲収録されており、遠くまで広がっていくような電子音のリフレインが心地良い"Lunar Phase"、光の粒子のような音がアルペジオをなぞり上昇気流にのって宇宙空間を飛翔するような"Cloudless Light"、最後には空間が捻れるような電子音の奥でアシッドが蠢く不気味なジャーマン・プログレ風の"Orgone"と、A面に比べると何だか躍動感も多少は感じられる。地球から浮上し自らが月となって地球や宇宙を見渡す如くの何処までも広がりのある揺蕩うアンビエント、決して今聞いても古臭さは感じさせずに十分にインナートリップを誘発するには十分過ぎる程の内容だ。本作のリイシューはAstral Industriesというレーベルの評価を高める事にも寄与するに違いない。
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