Brawther - Transient States (Negentropy:NGYLP1)
Brawther - Transient States

活動初期にはBalanceからリリースされた優雅に大らかな海を揺蕩うようなディープ・ハウスで注目を集め、その後はMy Love Is UndergroundやCabinet Recordsからミニマル性の強いディープ・ハウスでよりフロアを意識した方向性も見せ、実際に近年はFumiya TanakaのChaosにもゲストとして招かれるなどミニマル・グルーヴを武器に名声を高めているBrawther。その一方で日本の古き良き時代のハウス・ミュージックをこよなく愛し、その思いは『ハウス Once Upon A Time In Japan...』(過去レビュー)というコンピレーションで結実を果たすなど、ジャパニーズ・ハウスの再興を担うDJ/アーティストという側面も持っている。さて、そんな彼による2018年にリリースされた3年ぶりとなるアルバムは、1stアルバムである『Endless』(過去レビュー)が編集盤としての意味合いで寄せ集め的な感覚が強かったのに比べると、ここでは近年のミニマル・グルーヴを実直に盛り込みながらもDJユースにこだわらずに変化球的な作風も用いてより深い表現力を発揮している。遠くでディレイによる残響が鳴っているようなアンビエント・ダブの"Flow"によってアルバムは幕を開けてドラマ性のある演出だが、そこに続くダブな残響を活かしながらも音の間を活かしたミニマル・ハウスな"Another Dub"は如何にもBrawtherらしい曲で、ずっしりシンプルなキックの4つ打ちに繊細でか弱いギターも用いてファンキーな要素を付け加えている。しかしスクラッチやトランペットも導入した"Theme From The Dungeon"では一転してヒップ・ホップやダウンテンポの流れを組んでおり、もっさりとしたロービートながらも艶っぽく官能的なメロウネスがアルバムに豊かな演出を加える。"I Can't Explain"では近年活躍中のJavonntteがボーカルとして参加しているが、しっとりとしたソウル性の強い歌と優美なエレピのコードが情緒を添える実に洗練されたブロークン・ビーツとなっていて、今までのBrawtherの作風からすると意外ではあるが決して小手先には陥っていない。そして本人がシカゴ・ハウスから影響されたと述べる"Jaxx Freaxx"、ここで骨太なキックを打ちながらもスカスカな構成のミニマルを極めたハウスによって再度ダンスフロアへと振り戻される。"Hazy Groove"も音を削ぎ落としミニマル性がありながら、薄っすら耽美な上モノや色っぽいボイス・サンプルが用いられたオールド・スクール調のハウスで、そこから最後は勢いは弛緩しながらも残響心地好いダブ・ハウスのグルーヴに妖艶なギターが空虚に響く"Pickney"で静かに幕を閉じていく。アルバムは想像よりもバラエティーに富んでいて、ミニマルというスタイルを軸に他のスタイルも盛り込んだ事で単調さを回避し、単にDJツールとして提供する以上に聴き込める内容となったのはアルバムとして適切だろう。クラシカルな風格さえあるハウス・ミュージックだ。



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| HOUSE14 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |

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