2019.06.17 Monday
DJというスタイルが基本的には中心にあるダンス・ミュージックの業界、その中で自身で曲を送り出す事はある程度はプロモーション的な意味合いがありそれが本業でない事は多々あるが、逆にDJをせずにプロデューサー/作曲家として自身の音を生み出す事に専念するアーティストも多くは無いが存在する。東京を拠点にTomi ChairとTominori Hosoyaの名義を並行させて活動するこのアーティストは間違いなく後者に属するアーティストで、ここ数年はdeepArtSoundsやSoul Print Recordingsを含む様々なレーベルからアナログの形態で作品がリリースされ、それらの曲が世界中の有名なDJからもサポートされてきた実績も鑑みれば、彼がそういった創作能力の高いアーティストである事に異論は無いだろう。人気レーベルから引く手数多なHosoyaはこれまでに多くのEPをリリースしてきたが、2018年9月遂に自身のTH Pressingから自身の半生をテーマにしたアルバムを送り出した。先ず内容に関して言えば過去の作品の延長線、それは透明感や清涼感のある美しいシンセの響きとパーカッシヴなリズムを武器とした感情的なディープ・ハウスであり、つまりはHosoyaというアーティストを実直に表現したアルバムという点に於いてファンが期待している内容そのものだ。オープニングには2016年にリリースされた『Love Stories EP』(過去レビュー)から異なるバージョンとなる"We Wish 2 Cherry Trees Bloom Forever (Full Length Version)"が抜擢され、からっと乾いた抜けの良いパーカッションのリズムから始まり、じわじわと湧いてくる叙情的なシンセと天井から降り注ぐような耽美なピアノの旋律が湿り気を帯びた情熱となって、冒頭から実に感動的なディープ・ハウスを展開する。こういった作風はHosoyaの特徴であり、シンセの厚みのあるレイヤーが荘厳な景色を描き出す"Love You Again"やより疾走感のあるビートを活かしつつ薄くも美しく伸びるパッドと動きのあるシンセのメロディーで躍動感を出した"Beautiful Lives"なども、安定感のあるハウスの4つ打ちと感情性豊かなメロディーとコードによるテック・ハウスの作風が見事にアーティスト性を表現している。アルバムという形態だからこそ一辺倒にならない展開の工夫もあり、"Cycling (Sunday Evening Version)"ではリズム抜きの荘厳なパッドが覆う中をエレガントなピアノが滴り落ちるアンビエントを聞かせ、"Weekend Othello"ではぐっとビートを落とした事で複数のシンセの響きもじっくりと耳に入りメロウネスを増したダウンテンポを披露し、そして"Interlude Of Life"における子供の呟きもフィーチャした何処か童心に返ったような懐かしさも感じさせるチルアウトもあるなど、ただ勢いに任せただけのアルバムではない。そして終盤以降は再度クラブでも映えるパーカッシヴかつ情緒豊かな旋律に引っ張られる壮大なテック・ハウス/ディープ・ハウスを通過し、最後は深い濃霧のような叙情的なシンセの層の中で清らかなピアノが感情を揺さぶるアンビエント性の強い"Scenery From Halfway"でしっとりしながら霧散する。アルバムという形態を念頭に置いたであろう起承転結な構成があり、そして過去を振り返りつつも未来へと突き進むべくポジティブな感情に満たされた音楽は、決して抑圧的なグルーヴは無くとも感情性の強さが芯にあり心に響くものだ。一旦はキャリアにおける総決算と呼んでも過言ではない充実したアルバムとなったが、その歩みは2019年となった今でも全く止まっていない。
Check Tominori Hosoya