2019.09.08 Sunday
Amazonで詳しく見る(アナログ盤) Amazonで詳しく見る(MP3)
Francis Harris主宰のブルックリンのScissor and Threadの新作は、ここ数年作曲家としてワールドワイドで知名度を獲得しているTominori Hosoyaによるもの。今作では別名義となるTomi Chairの作品も収録したスプリット盤で、リスナー側からはこの名義の違いを正確に把握する事は出来ないものの、ここでは『Tropical Imagination』というタイトルが示唆するように熱帯の鮮やかな色彩に満ちた豊かな世界観を彼らしいエモーショナルかつ美しいサウンドで表現している。透明感と爽快感を伴うパッドから優雅なピアノが沸き立つ開始の"Tropical Imagination"は、そこからフラットな4つ打ちと水飛沫のようなパーカッションも加わって、ひたすら流麗な電子音が複数絡み合う中を縫うようにピアノが展開し、これとHosoyaと呼ぶべきエレガントなディープ・ハウスだ。このEPで注目すべきは特にピュアなアンビエント性が打ち出されている事で、"Tropical Imagination (Dream Version)"はビートを抜いてピアノや電子音を浮かび上がらせる事で、途端に微睡みのアンビエント性を獲得した正に夢に溺れるバージョンで、一際美しい世界観が創造されている。"Heat Exhaustion"は完全にアンビエントへと振り切れており、蒸気のようなドローンが満ちながらその中に点々とした電子音を散りばめて静謐な雰囲気を作り出し、最終的には静かに霧散する。本EPで唯一となるTominori Hosoya名義の"We Are Here"もアンビエントだが、鳥の囀りなどのフィールド・レコーディングに厳かなパッドを合わせ、そして爽快に抜けるダビーなパーカッションが大きな空間性を演出し、ゆったりとビートが胎動しながらスケール感の大きさに包まれる。またレーベルオーナーであるHarrisも"Heat Exhaustion (Francis Harris Reform)"を提供しているが、ビートレスだった原曲にゆったりとしながらもパーカッシヴでダウンテンポなリズムを加え、濃霧によって視界も揺らめくような幻惑するレフトフィールドなハウスへと生まれ変わらせている。かなりアンビエントへと向かった本作は意外ながらもしかし情緒的なメロディーやムードを尊重するHosoyaの音楽性があるからこそ、このアンビエントも自然と馴染んでおり忙しない現実から一時でも離れる白昼夢へと浸らせれくれる。
Check Tominori Hosoya