2019.11.21 Thursday
Amazonで詳しく見る(US盤) Amazonで詳しく見る(MP3)
9年ぶりのアルバムという事でちょっとした話題になっているみたいなMarcos Valleの新作。普段クラブ・ミュージック中心に聞く筆者にとっては余り縁の無さそうなアーティストだが、2015年には"1985"をTheo Parrishがリミックスをして話題になっていた事もあり、この新作も軽く試聴してみたところアーバンかつブギーなディスコ/ラテンな作風が直ぐに耳に馴染んだので購入した次第。Valleは60年代から活動するブラジルのアーティストで、ボサノヴァから始まりMPBにディスコ、そしてジャズやファンクにAORやソウルと様々な要素を咀嚼する事で結果的に時代に適合しながら生き抜いてきているように思われるが、過去の作品を聞いてみるとどの時代にもポップなソングライティングが発揮されておりその音は実に懐っこい。そして注目すべきは90年代後半以降はダンス系のブラジリアン・ミュージックでは筆頭格のFar Out Recordingsから作品をリリースしている事で、その点からも少なからずクラブ・ミュージック的な方面からも違和感無く聞けるダンスなグルーヴ感も存在しており、クロスオーヴァー性はここでも発揮されている。そこからのこの新作、Pat Metheny Groupに参加していたパーカッショニストのArmando Marcal、Azymuthのベースプレイヤーとして活動していたAlex Malheirosといった様々なアーティストが参加しているが、特筆すべきはIncognitoのリーダーであるJean-paul Maunickの息子であり、ハウス・ミュージックのアーティストであるDokta VenomことDaniel Maunickがプロデュース&プログラミングを担当しており、その影響として大きくブギー&ディスコな性質が打ち出されている事だ。冒頭の"Olha Quem Ta Chegando"からいきなりファンキーなギターカッティングにトランペットの情熱的な響きが聞こえ、ドタドタとした生っぽいドラムが躍動するディスコな曲で、しかし熱くなり過ぎずにサマーブリーズな爽快な涼風が舞い込んでくる。"Odisseia"では実際に生ドラムを用いた臨場感あるリズムに豊潤なフュージョン風のシンセや甘美なエレピを重ねて、派手さのあるラテンファンクかつサンバながらも哀愁も込み上げる切ない一曲。バラード風なスローテンポの"Alma"では光沢感のある優雅なシンセやしみったれたギターメロディーが活きており、AORで大人のアーバンな雰囲気には余裕たっぷりな円熟味が。そして再びディスコ・ファンクな"Vou Amanha Saber"、ズンズンと力強い生ドラムがリズムを刻み、ギターやベースがうねりつつ豪華さを彩るホーンが響き渡る、陽気さに溢れ肉体感を伴う熱いダンス・ミュージックを聞かせる。音楽的な新しさは皆無ではあるものの色々なスタイルが元からそのままであるように馴染みながら、エネルギッシュに脈動するダンスからしっとりと聞かせるリスニングまで丁寧なソングライティングが耳馴染みよく、取り敢えず老獪なベテランに任せておけばOKみたいな安心感のあるアルバム。真夏は過ぎてしまったけど、蒸し暑い時期にも体感温度を下げる爽やかなブラジリアン・フレーバーが吹き込んでくる。
Check Marcos Valle