2020.08.02 Sunday
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数年前からテクノシーンの中でも異彩を放ちながら一躍人気アーティストの一人となったDaniel Avery、アシッドなダンスからArtificial Intelligence的なリスニングまで90年代リヴァイヴァルなテクノを実践しながらも、その存在感は単なる模倣に陥らず強烈なインパクトを纏う。2018年の『Song For Alpha』(過去レビュー)ではブレイク・ビーツやドローンも駆使しながらダンスフロアとベッドルームの溝を埋めるようにクラブの枠を超えていくものだったが、この最新作ではAlessandro Cortiniと共同制作を行う事でフロアの闇を感じさせる衝動がありながらもスタイルとしてはよりリスニングへと向かう事になった。しかしCortiniについて知らなかったので調べてみると、実はNine Inch Nailsのギター/キーボードを担当するアーティストで、特にモジュラーシンセへの造詣が深くソロでもシンセやギターのドローンを用いたダーク・アンビエント〜エクスペリメンタルな作品をリリースしており、NINの単なるサポーターと言うよりは一アーティストとして個性を確立しているようだ。そんな二人の数年に渡る共同作業により、Cortiniの風合いとしてドローンも用いた全編ビートレスとながらも破壊的なインダストリアルな響きもあり、まだAveryによるAIとしての瞑想感や内省的な感覚もあり、両者の魅力を損なわずに相乗効果となって一つの音楽が出来上がっている。先行のEPからの"Sun"はヒスノイジ混じりの破壊的で荒廃したドローンがゆったりと胎動しているが、そんな中にぼんやりと流れる浮遊感に溢れたアンビエントなシンセは幻惑的で、朽ち果てた世界観ながらも何処か心の拠り所となるような安堵が存在する。タイトル曲の"Illusion Of Time"はAveryを語る際に引用されるAphex Twinの無垢で牧歌的なアンビエント・テクノの流れで、ザーッと淡いノイズがバックに流れ続けそこにピュアで優しさに溢れたシンセの微睡んだループがまるで子守唄のように心を落ち着かせるが、次第にノイズは大きくなり相反する音響は破滅的でもある。そして雪がこんこんと降り積もるような厳寒の世界が広がる零下のドローン・アンビエントな"Space Channel"を通過すると、待ち受けるのは混沌から生じたようにノイズ混じりの重厚感溢れるドローンが胎動する"Inside The Ruins"で、衝動に身を任せたようなライブ感溢れるモジュラーシンセの響きは破滅的な闇を演出している。その先に待ち受けるのは闇を切り裂き光で照らし出すようなディストーションギターが伸びるシューゲイザー風なアンビエントの"At First Sight"で、この光と闇の切り返しがアルバムをぐっとエモーショナルなものとしている。アルバムは大雑把に言えばアンビエントになるのだろうが、ただ聞き流してしまうのを可とする空気に溶け込んだ音楽ではなく、寧ろ刺々しく荒れ狂うシンセの音響が生む衝動的な美しさや優美さを楽しむもので非常にインパクトのある内容だ。コロナで外出を楽しみづらい時期だからこそ、こんな音楽を聞いて部屋に籠もって空想に耽けて内なる世界に没頭するのも悪くない。
Check Daniel Avery & Alessandro Cortini