2020.08.04 Tuesday
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オランダ屈指のレコード屋/レーベル/ディストリビューターであるRush Hourは、2018年から一アーティストが監修するコンピレーション・シリーズを立ち上げ、その第一弾にはレーベルを代表するDJであるHuneeによる『Hunchin' All Night』(過去レビュー)が抜擢され、アーティストのキャリアを垣間見せるような幅広いダンス・ミュージックを紹介していた。そしてその第二弾はスイスからSassy Jが担当しているが、地元スイスはベルンで14年にも渡りパーティーである「Patchwork」を主催し、その一方でDekmantelや日本のRainbow Disco Clubにも出演するなど、制作を殆どする事なくDJのみで評価を獲得している生粋のDJのようだ。アルバムには自身が主催するパーティー名が冠されている事からも分かる通り、そのパーティーも含めて彼女がセレクターとして紹介し続けてきた音楽の方向性が示されているようで、テクノやハウスにブロークン・ビーツやネオソウルにアフロ・トライバルなど、Hunneの前作に負けず劣らず幅の広さを持ちながらも、並んでいるアーティストを見る限りではブラック・ミュージック志向な統一感があるように思われる。最初の曲である"Mother Of Mantras"のみ、Farrah Bouleによる正に母の祈りのような呟きなのだが、これがアルバムの幕開けを告げる如くで良いアクセントになっている。続くWarmによる"Blue Sunrise"、実はRon Trentの変名による未発表曲なのだが、透明感や眩きを含む綺麗なシンセの流れとダビーなリズムによって甘い情熱を生むバレアリック寄りなハウスは素晴らしく、このコンピレーションの目玉と言っても過言ではない。続くDegoを含むユニット・2000Blackの"Plastic Jam"は、西ロンのブロークン・ビーツの流れを汲みながらもブギーな4つ打ちへと接近し、メロウ&ファンクなマシンソウルを奏でている。USハウスのベテランであるWarren HarrisことHannaの"Spaceland"はメランコリーな古典的なディープ・ハウスであるが、躍動するスラップベースもあって非常に艶かしい人間臭さを発している。また前述のように4 HeroからDegoが曲を提供していたが、4 Heroの片割れであるMarc MacによるNu-Eraも"Mirror Images"を提供しているが、これはアルバムの中では一番テクノやレイヴの雰囲気が強く、けたたましいローファイなリズムを刻みつつ流麗なピアノがエモーショナル性を加えている。そして終盤、Mr. Fingersによる初期名曲、余りにも慎み深く慈しみを感じずにはいられないジャジーなディープ・ハウスの"Survivor"から、Georgia Anne Muldrowのによる熱が込み上げるように感情を吐露するヒップ・ホップ〜ソウルな"Always"へと至り、気分を穏やかにさせるようにトーンを落としながらアルバムは締め括られる。Hunneの選曲に比べるとダンス・ミュージックの前提は変わらないものの、全体的にレイドバックしていて優しく包み込むような穏やかさが心地好く、特にリラックスして聞きたいリスニング系として最適だ。そして何よりも未発表曲が多いのには驚きだが、これも彼女が長年DJを行いパーティーを主催しながらアーティストや音楽を紹介する事で出来上がったアーティストとの絆によるもので、本アルバムが単なるコンピレーション以上の価値を持つ事になっている。
Check Sassy J
Tracklistは続きで。