2020.10.01 Thursday
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南国の木々の向こうに見えるビビッドな青々しい空と緑の海、このトロピカルな楽園系のジャケットからしてアルバムの中身を示唆するようで、当方はそれに惹かれて試聴したところ予想通りなドリーミーかつバレアリックな音楽がドンピシャ。Pacific Coliseumはカナダ人のJamison Isaakの変名の一つで、この名義では過去には新興レーベルでは勢いのあるCoastal Hazeから既に2枚のアルバムをリリースして注目を集めていたようだ。他にもドリーム・アンビエントを展開するTeen Dazeなど複数の名義で10年以上の活動歴がありベテランではあるようだが、その中では最近はハウス・ミュージックを中心にしながらチルアウトやアンビエントにダウンテンポといった肉付けもしながら緩く和んだ音楽性のPacific Coliseum名義が特に注目を集めているように思われる。最初に述べた通りに閉塞的な闇の空間とは全く真逆の、屋外で太陽光が降り注ぐ楽園のような雰囲気の音楽性がアルバムの軸にあり、現在のコロナ禍に於ける閉塞的な気分を少しでも和らげるには最適なBGMと成り得るヒーリングの効果さえもある。軽やかでパーカッシヴな4つ打ちのハウス・グルーヴ、そこに繊細なエレピやメロウな笛に生っぽいベースを合わせたジャズ・ファンク的な"An Evening In"で始まり、同じくエレピの透明感に満ちた綺麗なメロディーがリードするアシッド・ジャズ調の"Relief"、そしてねっとり絡みつくベースと煌めく上モノにうっとりなスローモー・ディスコの"Really Gone"と、冒頭3曲からして生っぽい温かい音質と気怠くもあるレイドバックした世界観は軽く踊れながらもチルアウトを誘発し、日中のティータイムの寛ぎにも最適だ。しかし瞑想的な電子音のループで牧歌的な田園風景を想起させる"Floating Petals"はアンビエントやニューエイジ寄りの作風で、一時の白昼夢による現実逃避か。そして何だか忘れ去った昔の思い出が蘇るようなセンチメンタルなAOR調の"Closer Feel"、ビートを落としながらもブギーな爽快さのある心地好いパーカッシヴなハウスの"Turquoise"とゆっくりと散歩を楽しむように進み、"Endless Journey"では物哀しい重層的なシンセから発せられる夕暮れ時のようなメランコリーにより、再度深い慈しみに満ちたニューエイジが訪れる。最後は豊潤なドローン音響を用いいつつそこに清らかな鍵盤を重ねたニューエイジ調の"Water Movements"で、桃源郷の真っ只中な気分のままアルバムは穏やかな終わりを迎える。穏やかながらもダンスとしてのグルーヴも適度にありリスニング向けに抑制されたアルバムで、全編に通底する忙しない日常から開放されたリゾート感覚は、パーティー後の踊り疲れた体にも最適なオーガニックなチルアウトにもなる。ハウスの枠を越えて多様な作風を盛り込みつつ、その世界観はバレアリックに統一されて穏やかな時間を提供してくれるだろう。
Check Pacific Coliseum