2020.10.06 Tuesday
コロナ禍によりパフォーマンスの機会を奪われたアーティスト/DJがやる事と言えば、何を差し置いても楽曲制作になる事は容易に想像され、事実bandcamp等でのレーベルを介さない自主リリースが非常に増えている。特にbandcampによる手数料免除デーの影響で、正直に言うと公式にリリースするには質が揃っていない物や本来はリリースする予定の無かった未発表曲を纏めた物も含めて玉石混交であるのは否定出来ず、リスナー側からの思いではややリリースラッシュに疲弊も感じている。勿論そんな状況でも普段と変わらずに高い品質やコンセプトを持ってリリースを行うアーティストもいて、例えばサイエンス・フィクションをベースにしたテクノを制作するJack HamillことSpace Dimension Controllerは、今回もあるコンセプトを基に新作をbandcampからリリースしている。何と新作ではデトロイト・エレクトロの真髄であるDrexciyaの、その片割れであった故James StinsonによるソロプロジェクトであるThe Other People Placeに触発され制作を行ったそうで、事実この新作全てがエレクトロと呼ばれるものだ。今までの作風でもエレクトロの要素は十分に見受けられたものの、今回はコンセプトからしてDrexciya/The Other People Placeなのだから、エレクトロへの愛も一際強く表現されているのも当然だ。しかし本作には例えばDrexciyaの闇や怒りに反骨精神といった攻撃的な音楽性ではなく、むしろ安らぎや平穏、それどころか愛さえも感じられる落ち着いたエレクトロで、SDCらしいスペーシーな感覚と上手く融合を成している。コンセプトが決まっているだけに作風の統一感があって、余り多くを説明する余地は無いのだが、TR-808 の簡素なハイハットやスネアに拠るエレクトロ・ビートが剥き出し感を演出する"Ryukin"は、そこに淡いシンセのシンセパッドを配置してデトロイトらしい情緒も織り交ぜ、終始穏やかな展開ながらも切なさを誘うコズミックなシンセも現れたりと、未来的なSF感覚や宇宙のロマンに浸らせる。ややアップテンポな"Cobomba"はエレクトロながらも軽快にスキップするようなビート感が心地好く、余りメロディーを強調させずに躍動するベースラインを打ち出して、ファンキーさを前面に出している。最もSDCらしいロマンティシズムを感じさせるのが"Vivaria"で、広大な宇宙に星が瞬くような幻想的なシンセの響きとキレのある4つ打ちによって、鞭打つようなビート感ながらもぼんやりと宇宙遊泳を楽しむかのような浮遊感の中で一時の白昼夢に溺れていく。他にもバージョン違い等含めて5曲、どれもこれも間違いなくDrexciya経由のエレクトロであると同時に、慈愛や希望といったエモーショナル性も発揮されていてデトロイト好きなら間違いなく垂涎の的だ。
Check Space Dimension Controller