Liquid Canoe - Liquid Canoe (Growing Bin Records:GBR025)
Liquid Canoe - Liquid Canoe
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Basso率いるGrowing Bin Recordsは近年のアンビエントやニューエイジに於いて先進的な存在であるが、前述の音楽性のみならずハウスやディスコ、クラウトロックやジャズ等垣根を越えて実に様々な要素が含まれている。それはジャンルではなくBassoの内に存在する深遠なる審美眼によって、選び抜かれた音楽がカタログに並んでいるのが実情だろう。流行や売れ行きといったものに全く左右されない音楽だからこそ信頼に足るのだが、この全く名前の聞いた事のない未知なるアーティストのデビューアルバムも、文句無しにこれぞGrowing Binらしい内容で素晴らしい。このプロジェクトはカナダ人のマルチ奏者であるWolfgang Matthesが中心となっているようだが、過去の経歴を調べても殆ど情報が出てこず、ほんの僅かに他アーティストの制作に参加しているのが見つかる位だ。本作はガリアーノ島の人里離れた改造された馬小屋にて、友人達とのセッションから生まれたとの事で、自身はシンセサイザーを弾きつつギターやベース、ドラムやパーカッションの奏者も加わってバンド的に録音されており、純然たるダンスミュージックではなくディスコやアンビエントも吸収した今風のクラウト・ロックやスペース・ロックと説明すればよいだろうか。"Mizionics"は弦をタップしながらぼんやりと艶めかしいベースに合わせ、カリンバのトロピカルな旋律やシロフォンのような素朴な響きが現れては消え、そこに恍惚感のある電子音のリフレインも加わり、サイケデリックなアシッド・フォークと呼べばいいのか、辺境の地の陽気なアンサンブルは自然志向のトリップ・ミュージックだ。"Down To The Feelgate Of Surrender"ではドラムによるリズムも入るが、奇妙に唸る電子音に共にギターやベースは何処か土着的な雰囲気を作り、アフロやトロピカルな感覚も覚えるが現在地の分からない謎めいた世界が続く。"Sum Sum"はダブやディスコの要素が打ち出ており、潰れたような4つ打ちのキックに拠るスローモーなビート、広がりのあるギターサウンド、残響が心地好いダブエフェクトが紫煙が揺らぐようなサイケデリックを生み出している。基本はサイケなロックなのだが"Aquariam Dragrace"もねっとりと絡み付くディスコビートが前面に出て、大空へと飛翔するエコーギターや快楽的なアシッド・サウンドも織り交ぜて、電子音楽の没入する前のManuel Gottsching的なジャーマン・プログレ×ディスコな曲だ。荘厳な寺院の中で繰り広げられるようなどんよりとした電子音響アンビエントの"Morning Trip To Colony One"を通過し、トロピカルなディスコビートながらも淡い色彩のサイケデリックなギターや覚醒的な電子音によって内なる精神世界へ没入させるプログレ・ディスコな"Go Leonard"や、最もテクノ風な電子音のシーケンスが活躍しながらも柔らかい打楽器等によって牧歌的な安らぎを得るバレアリックなスローモー・ディスコの"Ant Parade"と、全編に渡りなかなか形容のし難い奇抜なバンド・サウンドを展開している。一般的に想像するダンス・ミュージックの分かり易さからは離れているが、このねっとりしたサイケデリアが通底するディスコ/クラウト・ロックは間違いなく一部のDJにとっては即戦力なるような魔力を秘めており、勿論現在のニューエイジ/バレアリックなムーブメントの視点からも評価すべき内容だ。



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| ETC(MUSIC)5 | 12:00 | comments(0) | - | |

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