Ruins - Marea / Tide (Music From Memory:MFM043)
Ruins - Marea / Tide
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時代に適合せずに失われた音源や今では入手困難な秘蔵音源など、素晴らしくも世に知れ渡っていない音源の発掘に勤しむMusic From Memoryは、ジャンルの垣根を越えて良質な作品の発掘に成功し、その優れた審美眼は結果的には現在のニューエイジやアンビエントの再燃に貢献している。本作は元々は1984年にリリースされていたアルバムで、イタリアのPiergiuseppe CirannaとAlessandro Pizzinを中心としたニューウェイヴのバンドのRuinsに拠る物だ。当時は600枚がプレスされ300枚程度がイベントのみで放出され、残りはレーベルとの意見の相違により長き保管の後に破棄されて、最終的には本作は今までの間世から失われる事になっていたそうだ。そんな非常にレアな音源を一体MFMは何処から嗅ぎ付けたのかは定かではないが、2019年に復刻しているのだから驚かずにはいられない。さて、Ruinsはニューウェイヴ系のバンドであるとの事で実際にデビューアルバム等を聞いてみると確かにバンド体制のロックな内容なのだが、本作は画家のLuigi Violaとの映像作品のための音楽として制作されたようで、その為かロック的なノリは後退しエレクトロニクスを前面に出した事でMFMらしいニューエイジ/アンビエントの雰囲気を伴うようになっている。出だしの"Heavenly Tide"からして既にアンビエントの体を成しており、ビートレスな構成でぼんやりとした空気のような浮遊感のあるシンセが揺らぐドリーミーな曲は、曲名通りで正に天国的だ。続く"Tides"もエレクトロニクスを中心としながら煌めきのあるポップな世界観で、しかしそこに奇怪な電子音響も織り交ぜてエクスペリメンタルな面も垣間見せる。臨場感のあるリズムとメランコリーなメロディーに合わせ唸り声のようなものも聞こえる"Petit Portrait"はややニューウェイヴのポスト・パンク的な残影があるが、そこに続く"Dedicated To You..."はもはやテクノでいうチルアウトと呼べばよいのか、長閑な田園風景が何処までも広がる牧歌的なニューエイジにただただ癒やされる。そして荘厳なオルガンと祈りのような歌が荘厳な寺院の中で鳴っているレクイエム的な"The Love We've Shared"、パルスのようなシンセが不気味に響くプロトテクノ風な"Night Tide"などの前半に対し、中盤以降はニューウェイヴとしての側面が目立つ曲が多い。廃れたドラムのリズムも入りビリビリとした電子音やおどろおどろしい声が闇を感じさせる"Ground"、生ベースを前面に打ち出しながら魔術のような歌と奇怪な電子音がミステリアスに染める"Future Tides"、光沢感のあるシンセポップなメロディーの裏に雄叫びらしき声が入り乱れるエレクトロ風の"Tomorrow"など、一般的なロックを逸脱しながらローファイなエクスペリメンタルの要素を感じさせる。映像作品の為に制作された為だろうか各曲は1〜3分と短く、景色が早々と移り変わるように曲も進んでいき各曲をじっくり堪能する間も無く切り替わるが、その意味では非常にテンポ良く聞けるアルバムでもある。30年以上も前の音楽がしかし今の時代の中でも新鮮に輝くのには驚きだが、それもジャンルを限定する事なく良質な音楽を発掘するMFMの審美眼の賜物だろう。



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| ETC(MUSIC)5 | 12:00 | comments(0) | - | |

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