Inner City - We All Move Together (Armada Digital:ARDI4262)
Inner City - We All Move Together
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今や世界各地に細分化して広まったテクノの起源、それはデトロイトのベルヴィル・スリーと呼ばれる3人が発明した音楽であり、テクノという音楽を軸にそれぞれが異なるスタイルによってその礎を築いた。その3人の中で売上的な面で最も貢献したのがKevin Saundersonで、彼が中心となって活動していたユニットのInner Cityはどちらかというとボーカルとキャッチーなメロディーを武器にしたハウス・ミュージックによって、その派手で大仰ながらもソウルフルな音楽性はある意味では大衆的でヒットしないわけがなかった。しかし正直に言うと金太郎飴的な作風どころか自身のネタの使い回しもあったりと、発展的な面は少なく生産性の無かった点も事実で、ベルヴィル・スリーの他の2人に比べるとメジャー志向過ぎるきらいもあった。と、前置きは長くなってしまったが、そんなInner Cityの1992年のアルバムから28年ぶりとなるニューアルバムが発売されたのだが、本作では息子であるDantiez、そして新たなるボーカリストのSteffanie Christianがメンバーに加わり制作されのだが、これが過去のInner Cityの音楽性と大差はなく、ある意味ここまでポジティブでソウルフルなハウスは清々しい。ナレーションを交えながらサウンドトラック的な荘厳な始まり方の"We All Move Together"でアルバムは幕を開けるが、曲の途中からヒプノティックなテクノ的なリフと分厚い4つ打ちキックによるぶんぶんベースが唸るダンスへと突入し、初っ端からKevinらしいド派手な展開だ。そして続く"SoundwaveZ"ではぐっと熱い女性の歌とメランコリーなピアノ×綺麗なシンセを生かしたソウルフル・ハウスを聞かせ、これぞ現在に蘇ったInner Cityと言わんばかりの情熱的な曲だ。"Your Love On Me"は出だしが完全に"Good Life"のリサイクルネタで苦笑してしまうが、跳ねるように勢いのあるリズム感に官能的な歌とゴージャスなシンセのリフを合わせたキャッチーな作風は、有無を言わさぬポピュラー性を得ている。基本的にはどの曲もアッパーな4つ打ちハウスのリズムに派手な装飾の如くピアノやシンセを用いて、魂を揺さぶるソウルフルな歌も被せながら、聞く者をハッピーに鼓舞させるような曲調で金太郎飴的な内容だが、中には"I Can Feel My Heart Again"のように荘厳なストリングスで彩りながらしっとりとした情熱を帯びたR&B調の曲もあり、アルバムの中でアクセントも付けている。どの曲も3分前後と非常にコンパクトな作りで、それぞれがノリの良い事もあって勢いに乗ってサクサクと聞き通して、ぐっと感情が熱くなりながらも爽快感に満ちたアルバムは、良い意味でのコマーシャル性に長けている。本人もInner Cityをやり直したと説明している通り、往年のInner Cityそのものな音楽は新鮮味には欠けるものの、ファンがデトロイトに求める音楽としては適切であるのも事実。現在の世界を覆い尽くす不安やどんよりした空気を吹き飛ばすような、非常にポジティブなアルバムだ。



Check Kevin Saunderson
| HOUSE15 | 12:00 | comments(0) | - | |

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