Sam McQueen - Dreams In Sepia (Blue Arts Music:BAMCD006)
Sam McQueen - Dreams In Sepia
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正に怒涛の勢いという表現が相応しく、2019年からデトロイト周辺のアーティストに焦点を絞ってアルバムをリリースしている福岡のBlue Arts Music。移り変わりの早いダンス・ミュージックの業界は流行に合わせる事を前提とすると兎角EPでのリリースになりがちだが、DJではなくアーティストとして隅々まで自身を表現するのであればアルバムでこそと思う事は多々あり、その点に於いてアルバムを意欲的にリリースするBlue Arts Musicは当然ながらじっくりと聴き込める音楽も重要視しているように感じられる。2019年の末には複数枚アルバムがリリースされたが、その内の一枚がこのSam McQueenによるものだ。最初耳にした事のない名前だと思っていたのだが、実はデトロイト古参のJohn BeltranとIndioというユニットを組んでいた人であった事を知り、単純にその経歴のみを当てに購入した次第である。最近(といっても9年前だが)ではIndigo AeraからもEPをリリースしており、デトロイト・テクノを手掛ける事は保証されていたものの、このアルバムは期待を軽く越えていくエモーショナルなテクノとなっている。アルバムは美しいシンセを用いて懐かしさを誘うビートレスな構成のアンビエントで"Dreams In Sepia"で始まり、浮遊感のあるパッドと神秘的なシンセが絡み合いながらメランコリーに包み込む"Wicker Park Sunrise"、そしてうねるように複雑なブレイク・ビーツに合わせてパットとコズミックなシンセが舞う幽玄ながらも弾けるようなグルーヴ感を持つ"8000km to Amsterdam (Narita Mix)"と、序盤から4つ打ちにとらわれる事なくダンスとリスニングの境界を進んでいく。朝靄に包まれ太陽が昇り始める時間の静謐な、しかし爽快な空気が広がっていくような瞑想のアンビエントな"Soulmates"、キックレスながらも穏やかなシンセがビートを刻むように用いられて心地好い浮遊感に包まれる"Fathoms"と、これらもフロアを強烈に揺らす曲ではないかもしれないが感情性に満ちたメランコリーな曲調は正にファンが期待するデトロイト・テクノだ。比較的ダンスのしなやかなリズム感を持っている"Promitory Beach (Alternate Version)"は、幻想的なシンセがSF的な未来感を匂わせて例えば90年代前半の脱4つ打ちでダンスに依存しないArtificial Intelligenceを思い起こさせたりもして、John BeltranやKirk Degiorgioが好きな人の心にも引っかかるだろう。90年代のファンキーで躍動感のあるデトロイト・テクノよりは随分とソフトで繊細な音楽ではあるが、深遠なる宇宙のように広がる叙情性では負けず劣らず、いや穏やかにチルアウト出来るリスニング性では優れている。海外では本年度末にMojuba傘下のデトロイト系を推すa.r.t.lessからのリリース予定らしく、それも納得の出来だ。



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| TECHNO15 | 12:00 | comments(0) | - | |

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