Earth Trax - LP1 (Shall Not Fade:SNFLP003)
Earth Trax - LP1
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Growing Binからの作品が特に現代ニューエイジにおいて燦然と輝きその分野では特別な存在感を放つポーランドのBartosz Kruczynskiは、しかしダウンテンポ寄りのPtaki名義やダビーなニューディスコ寄りのPejzaz名義など複数の活動を並行して行っているが、そのどれもが小手先ではなくどの分野においても確かな実力を発揮している。そんな彼の特にダンスへと切り込んだ名義がEarth Traxで、この5年間だけでもNewborn Jr.との共同作品を含めて10枚以上のEPをリリースしており、ここ数年リバイバルを見せている90年代のレイブを引き継いだ荒々しく激しいテクノでこの名義も注目を集めていた。レイブとは言えどもそこには毒々しいアシッド・サウンド、ギクシャクとした粗雑なブレイク・ビーツ、快楽的なトランス感、浮遊感のあるアンビエンスなど様々な要素が詰め込まれて、Kruczynskiらしい多方面で光る才能を一つのプロジェクトに纏めたような感覚さえあった。そして遂に完成した初のアルバムは当然の如くハイエナジーなレイヴを下敷きにしたダンストラックを中心として、アンビエントやエレクトロも有りとバラエティーに富んでいて、フロアで体験する事と部屋の中でのリスニングを上手く両立させている。アルバムの冒頭は強烈なブレイク・ビーツを刻みつつもメランコリックな上モノや色っぽい歌を組み込んだ"I'm Not Afraid"、荒々しくもムーディーな曲で、そこに続く"Deep Dive"も浮遊感のあるシンセのリフレインを活かした微睡んだディープ・ハウス調で、意外にもメランコリー性が強いがこれもKruczynskiの個性の一つだ。そして"Pandora's Box"では遂にレイヴ爆発なマシンガンのようなアシッドベースの連打がうねり、鈍い電子音を用いながらじわじわとハイエナジーに向かうアシッド・テクノを展開し、より弾性に満ちたブレイク・ビーツと覚醒感溢れるアシッド・サウンドを駆使して獰猛に攻め立てる"Full Throttle"で一気にピークへと上り詰める。アルバム中盤には快楽的なシンセがトランス的ながらも繊細なピアノも盛り込みムーディーな情緒のある"Adhocracy"や、インタールード的に用いられるビートレスでダビーな空間演出の"Denial"で静謐な美しさで一旦落ち着き、"Copies Of Copies"ではエレクトロな肉体的なビート感を打ち出してダークな叙情に染め上げ、アルバムはレイブを前面に打ち出しながらも決して画一的にはなっていない。そして最後のアナログ盤では最後の曲となる"Mechanisms"、ダビーな音響による空間性とミニマルな構造を活かした曲で、喧騒が過ぎ去った後の静けさを保ちながら締め括る。ここ数年のブレイク・ビーツを前面に打ち出したかつてのレイヴが戻ってきているのは肌に感じていたが、しかしアルバムとしてそれを豊かな表現力でここまで展開するアーティストはそう多くはなく、本作は一先ずレイブ再興の象徴的なアルバムに成り得るのではと思う。体の底から力が溢れ出すようなハイエナジーな音楽で、兎角塞ぎ込みがち現状において強力なカンフル剤となるだろう。



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| TECHNO15 | 17:00 | comments(0) | - | |

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