2015.06.19 Friday
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2010年にドイツはKompaktからデビューしたWalls - Alessio NataliziaとSam Willis -は、テクノを推し進めるレーベルの中ではシューゲイズやクラウト・ロックも取り込み、ダンス・ミュージックを中心としたレーベル性に新風を吹き込んでいた。例えば同レーベルに所属するThe Fieldも同様にシューゲイズを軸としたユニットではあるが、それに比べればやはりクラブ的と言うよりはロックのダイナミックなリズム感がWallsの特徴でもあり、ポップなサウンドやアンビエントの雰囲気に於いてはKompaktのレーベル性を踏襲しつつもWallsの存在は独特だ。そんなユニットにとって3枚目となる久しぶりのアルバム - しかし残念ながらこれが最後のアルバムになるとWallsは公言している - は、マスタリングに元Spacemen 3のSonic Boomが迎えられている事からも分かる通り、やはりダンス性はありながらもロック的なグルーヴやサイケな音響が強い。先行EPである"Urals"からしてベースラインはエレクトロ調でもあるが、サイケデリックなギターの音色やヒプノティックなシンセが加えられ、そして何よりもスネアやキックのリズムが生っぽいざらつきを残している。もう1つの先行EPである"I Can't Give You Anything But Love"は捻れたようなエグいアシッド・サウンドが強烈ではあるものの、やはり基礎となるキックやスネアの臨場感ある生々しさはロックの躍動がある。抽象的な上モノや発散するノイズは非常にトリップ感満載なのだが、それらを纏め上げて激しい一つの勢いへと巻き込むグルーヴ感は、以前のユーフォリアを漂わせていたWallsからは想像もつかないだろう。"Moon Eye"では執拗に反復するシンセの旋律が快楽的に狂おしくミニマルな展開を生み、"Altai"では牧歌的な上モノが淡い田園風景を喚起させながらもリズムは鈍く潰れてパンキッシュな刺激となり、このテクノとロックの狭間に位置する音楽はBorder Communityにも近似している。アルバムの最後はこの世の終焉を示唆するような重苦しいドローンなサウンドがうねるように変容する"Radiance"で幕を閉じるが、この瞑想的な音響はプロジェクトの終わりを飾るのに最適な荘厳な世界観を確立している。残念ながら本作によってWallsのプロジェクトは終了するが、これでやりきったと言わんばかりの内容なのだから、ある意味では清々しくもあるのだ。
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