2016.04.21 Thursday
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ノルウェーはOsloからのニュー・ディスコ旋風を盛り上げた一人でもあるPrins Thomasの新作は、何と KLFやThe OrbにThe Black Dogなどから影響を受けたというアンビエント寄りの作品だと聴いた時に、衝撃を受けた者は少なくないだろう。当然筆者も何故に彼がアンビエントと言う思いはあったが、しかしパワフルな弾け具合と大仰な煌きを纏った彼のDJプレイとは対照的に、彼が制作していた音源はスペーシーな浮揚感を伴うクラウト・ロックの要素を盛り込んだものもあったわけで、その行き着く先としてテクノ化したものを想像するならアンビエント・テクノであったとしても間違いではないだろう。アルバムは2枚組でどの曲も10分前後の大作志向であるが、特にアンビエント寄りなのはCD1だ。レトロなシンセのアルペジオで始まる"A1"は、徐々に光沢を含むシンセに飲み込まれ、表層的なビートは無いもののダイナミックをうねりを見せるような爽やかなアンビエントを展開する。シームレスに続く"A2"では序盤に動きが落ち着きながらも、再度瞑想へと誘うようなどんよりとしたシンセのフレーズに透明感のあるパッドが覆い被さり、90年代アンビエントの指標の一つでもあるGlobal Communicationのイマジネーション溢れるアンビエントを思わせる点も。陰鬱でサイケデリックなギターを導入し、そこから混沌としたシンセが胎動する”B”は奇妙な電子音の鳴りをユーモアと多幸感に費やした70年代のジャーマン・プログレの延長だろう。そして最も幻覚性を放つアンビエントの極みはCD1のラストに待ち受ける"D"で、環境音らしきノイズの中からコズミックな電子音や官能的なシンセが浮かび上がり、電子の仮想空間に意識が溶け込むようなトリップ感を誘発する。対してCD2は普段のThomasの作風の延長線上であり、ざっくりと生っぽいドラムによる緩やかなビートにコズミックなシンセが反復するコズミック・ディスコの"E"、光り輝く星が降り注ぐようなドラマティックで多幸感いっぱいの躍動するニュー・ディスコの"Gなど、端的に言えばフロアで浴びれば祝祭感に繋がるであろうダンス・トラックが中心だ。それはそれで十分に魅力的なのだが、やはりThomasの新たな才能が萌芽したCD1の瞑想じみて心地良い夢想に浸れるアンビエントは、合法的な安眠剤として効果抜群なのである。
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