2016.10.13 Thursday
Amazonで詳しく見る(日本盤)
今ではダンス・ミュージックにおいて日本のアーティストが海外で注目を集めるのも珍しくはなくなってきているものの、それでも尚この新生代を代表する一人のKeita Sanoの注目度は、特に海外でこそ高いのは稀有な事だろう。2012年頃から作品のリリースを始めたものの、デジタル/アナログ問わずに忙しない程のリリースを続け、Mister Saturday NightやHolic Traxを始めとした著名なレーベルのカタログに並ぶなど、今や時の人と言っても間違いではない。その作品の多作さは音楽性の幅広さ - それはある意味では纏まりの無い - に繋がっていて、錆びたロウ・ハウスやアシッド・テクノ、陽気なディスコ・ハウスに捻れた電子音が鳴るテクノなど、作品毎に姿を変えつつも踊る快楽を表現したダンス・ミュージックという点に於いては揺るぎない信頼を持っている。そして、待ちわびたニューアルバムは日本のダンス・ミュージックの秘境・Crue-l Recordsからと、また何か期待せざるを得ない蜜月の出会いとなった。何でもCrue-lのボスである瀧見憲司のDJを聴いたSanoが衝撃を受け、それを契機にほぼ一週間で衝動的に作った曲を纏め上げたのが本作だそうで、アルバムではありながら今までと同様に多彩な作風がダンス・ミュージックを軸に展開している。幕開けとなる"Babys"で既に勢いはトップへと達しており、迫り来る強迫的なリズム帯と躍動するベース、そして快楽的な上モノによって多幸感が爆発するハウスに一気に引っ張られていく。続く"The Sun Child (Album Version)"ではボイス・サンプルのループを用いて徐々に快楽へと上り詰めるようなDJ仕様で、過去にリリースしたディスコ・ハウスの作風を踏襲する。と思えば冷気漂い勢いが抑制されたミニマルやテック・ハウスの系譜上にある"Airport 77"、アシッド・ハウスとディスコ・ハウスが邂逅した"Dance (Album Version)"、視界も揺らめくサイケデリックなギターが咆哮するスローモーな"The Porno King"など、想像していた通りに作風は収束する事なく拡散するように曲毎に姿を変えている。しかし"Acid Romance (Album Version)"は底辺で蠢くアシッドのラインやコズミックな電子音によって官能と倒錯で包み込むニューディスコで、非常にCrue-lらしい奇妙な恍惚やトリップ感があり、そしてロマンティックでもある。本作では過去に見られたロウ・ハウスの質感は存在せず、以前よりも荒唐無稽ではっちゃけた雰囲気は抑えられており、アルバムというフォーマットを意識したのは当然だろう。EPに於ける爆発力とは異なるダンス・ミュージックとしての魅力があり、アーティストとしての可能性を示す事に成功している。
Check "Keita Sano"