2016.10.27 Thursday
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音楽により壮大な宇宙旅行や近未来のSFの世界を展開するJack HamillことSpace Dimension Controllerは、2009年のデビュー当時でさえ19歳であった近年稀に見る早熟のアーティストだ。しかしながらその音楽性は前述の趣向と共に、何処かノスタルジックな回帰志向さえもあり、2013年リリースの初のアルバムである『Welcome To Mikrosector-50』(過去レビュー)ではテクノ/エレクトロの中にPファンクやシンセ・ポップを盛り込んで、若い年齢にしては随分と過ぎ去りし時代への甘い夢に浸るような郷愁が込められていた。そこからの2年はSDC名義でよりフロア志向のテクノを打ち出した3部作をリリースし次のアルバムはその路線を踏襲するかと思っていたところ、意外や意外に3年ぶりのアルバムは何と奇抜な音楽性を発揮するNinja Tuneからとなり、その上Hamillが18歳であった2008年当時に制作された秘蔵音源集との事なのだ。今になって8年も前の音源がリリースされた経緯については謎なものの、確かに本作はまだロウで粗削りなビートと未完成的な部分さえ残す青々しいテクノが纏められている。基本的には規則正しい4つ打ちの曲はほぼなく、始まりとなる"Multicoloured Evolving Sky"からして既に金属が裂けたようなスネアの上に望郷の念が込められたような上モノが鳴っており、一昔前のIDMを思わせる作風も。そこに続く"The Bad People"は重苦しささえ漂うダークアンビエントな感があるが、やはりビートはひしゃげて刺激的なまでに暴れている。"Scollege Campus"では安っぽいボコーダー・ボイスも利用しシンセ・ポップの懐かしさを導き、"Gullfire"ではうねるチョッパーベースや熱量の高いシンセのメロディーを導入しPファンクのような躍動を生み、"Multipass"に至ってはAutechreのような支離滅裂な破壊的なビートに幻想的な上モノを用いた作風が正にIDMらしい。どれもこれも荒削りでドリルン・ベース的なリズム感と破壊的な電子音、そして淡い郷愁を放つシンセが懐かしさを誘い、90年代初期のAphex Twinを含むR&SやWarpからの影響が色濃く出たベッドールーム・テクノなのだ。肉体に突き刺さるような刺激的な音、それと対照的なメランコリーが共存し、若さ故の衝動が前面に出つつもHamillのSFワールドが見事に展開されている。
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