2018.05.16 Wednesday
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ダンス・ミュージックという荒波に揉まれる業界において、彼ほどマイペースで自然体という言葉が似合うアーティストはそう多くはないだろう。George EvelynによるNightmares On Waxは求道者としてダウンテンポを追求してきたアーティストで、ダブやレゲエにソウルやファンクなどのエッセンスも咀嚼しながら、溶けるように甘美でメロウな音楽を制作してきた。特にWarp Recordsという革新的なレーベルの最古参でありながら、その最新を切り開くレーベルの音楽性とは相反するように流行の波はそっちので心身共にリラックスさせるダウンテンポを追い続ける姿勢は、アーティストとして強い信念に基づいた事を考えると信頼の於ける存在だ。人気アーティストでありながらこの新作も前作から4年半と随分と長い時間が経過するほどにのんびりとした活動ではあるが、それだけの時間が経過しても多少のムードの移り変わりはあっても音楽的に大きな変化は見られない。アルバムは先行EPである"Back To Nature"から始まるが、しっとりとしたピアノや物哀しいストリングスに深みのあるボーカルも導入したダブ寄りのダウンテンポは正にNightmares On Waxのクラシカルな作風だが、前2作品の開放的で陽気なムードに比べるとじめじめと湿り気を帯びて内向的だ。続く"Tell My Vision"はもう少し小気味良いリズムにゆらゆら揺れるがしっかりと低音が支えとなり、二人の掛け合いのような優しいMCによって心地良いグルーヴを作っている。タイトル曲の"Shape The Future"はメロウの極みだろう、闊歩するようなシャッフル調のリズムに力強いピアノや幻想的なストリングスを配し、ゆったりとしながらも確実に身体を揺らす湿り気を帯びたR&B調のダウンテンポだ。"Tomorrow"辺りも彼等の古典的とも呼べる気怠く生温いダブ・サウンドでじめじめとしながらも甘美な空気が滲み出ているが、もう一つの先行EPである"Citizen Kane"は力強いゴスペル・コーラスをはじめ優雅なストリングスや躍動感に満ちたドラムのリズムも一体となり最早ダウンテンポではなく祝祭感もあるソウルと言った趣だ。どの曲も基本的にはリラックスしていてメロウなムードである事に変わりはないが、全体的にはシルキーな優しい響きがありメジャーなR&Bにも接近したよう作風で、良い意味でポピュラーな印象だ。驚くべき斬新性がある訳でもないが、日常的に聞きたくなるしとやかな音楽は正にダウンテンポとして機能している。
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