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Mr Fingers - Cerebral Hemispheres (Alleviated Records:ML-9017)
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ダンス・ミュージックという移り変わりの早い業界の荒波に飲み込まれる事なく、常にマイペースに自分の世界観を守り続けてきたその活動もいつかは終わりを迎えるように、2012年に聴覚障害を理由に一旦はDJ業から身を引いたLarry Heard。それと共にリミックス業以外では作品のリリースも停止し、淡々としながらも真摯に音楽に向き合ってきた音楽の道も停止してしまうのかと心配していたが、なんと2016年のDimensions Festivalでのライブを皮切りに復活を果たす。そう、やはりHeardの音楽性が最も発揮されるのは自身で制作した曲をライブで表現する事であり、それは彼が作曲家としての帰還を表明した瞬間だったに違いない。事実、本作はMr. Fingers名義での24年ぶりとなるアルバムで、わざわざこの古い名義を用いたのには何か音楽活動に対する決意表明のような意味合いが込められているように感じずにはいられない。とは言っても時代に取り残されたように、しかし全く風化しない思慮深いディープ・ハウスの作風はHeardらしい柔らかい優しさがありつつも、普遍的な強度が貫いている。開始となる"Full Moon"も囁くような優しいHeardの歌に静謐な美しさを際立てるピアノの旋律が落ち着いた叙情を生み、淡々としたハウスの4つ打ちと相まって、いわゆるクラブミュージックにありがちな押し付けがましい興奮は一切ない。"Urbane Sunset"では枯れた味わいのあるギターと繊細なピアノを合わせ、そこに手数の多いパーカッションも加えてジャズやフュージョンのセッションしているような、実に歳を重ねたからこその円熟味のある曲だ。もちろん"Sands Of Aruba"のようにしっとりしながらも軽快なハウス・ビートを刻む曲もあるが、それにしても温かい感情を吐露するようなサックスや透明感のあるキーボード使いが、耳に優しく吐息を吹き掛けるように響いてくる。CDで言うと2枚目に当たる方は比較的フロア寄りの曲が多く、遂になった"Outer Acid"と"Inner Acid"の二曲は、どちらもダークでじわじわと精神を侵食するようなアシッド・ベースを用いたフロア向けのハウスだが、これにしてもアッパーで強迫的に踊らせるようなものでもなく、聞き手にダンスともリスニングとも解釈を委ねる大らかさがある。"Stratusfly"ではTikimanことPaul St. Hilaireをフィーチャーし、時間を経て味わいを増した哀愁が枯れた感もあるボーカル・ハウスを形成し、この俗物にまみれた世の中から距離を置くようにただただ自分の内面を見つめ直している感さえある。そしてこれぞHeardな揺蕩う浮遊感のある叙情的なディープ・ハウスの"Aether"から、最後はNicole Wrayを歌手に迎えてややポップで可愛らしくもある歌と親しみのある明るい基調のトラックから成る"Praise To The Vibes"で、深い深い内面旅行を終えて現実へと戻ってきたかのように明るさを取り戻して終わる。音楽的な面でMr. Fingers名義だから特別だという事は全くなく、スムースなディープ・ハウスにジャズやR&Bのスパイスも加えて、つまりLarry Heardとしての集大成のようにも感じられるメランコリーで深く優しい世界観は時代に左右されない完成されたスタイルなのだ。寡黙ながらも音楽に対して誠実なHeardの性格が伝わってくるような、そんな心温まるアルバムだ。



Check Larry Heard
| HOUSE13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
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