2019.04.18 Thursday
今だからこそ正直に言えるがここ数年の作品はエレクトロニカやニュー・エイジ、または優しく包み込む有機的な響きの作風を軸にしたアンビエント作が多く、予てからファンであった人にとっては物足りなさがあったのも否定は出来ないだろう。デトロイト・テクノ第2世代のJohn Beltranは90年代前半から活躍するベテランであり、そしてその世代の中では数少ない今も尚新曲を作り続ける貴重な存在だ。だからといって手放しに全ての作品を称賛出来るわけでもなく、近年はややリスニング志向になり過ぎていたと思う。変化の兆しは2017年リリースの『Moth』(過去レビュー)位からだろうか、アンビエントな雰囲気の中に明確なダンスビートが現れるようになり、ファンが期待しているであろう音楽性が戻ってきたのだ。そして2018年、更に復活を決定付ける動きがあったのだが、それこそ秋から始まり一年の中に流れる各季節をコンセプトにしたシリーズで、その第1弾は秋。幕開けとなる"Lustrous Orb"からして初期の躍動感溢れるグルーヴとセンチメンタルなメロディーが広がっていくアンビエント・テクノな作風で、ファンからガッツポーズをしたくなる程の期待に応えた曲だ。この曲はキックは入ってないものの荒々しい質感のスネアがけたたましくビートを刻み、そこに重層的なシンセがデトロイト・テクノばりばりな叙情的な旋律を描き出して、じわじわと感傷的なムードを高めていくドラマティックな流れで、特に中盤以降の美しいシンセの絡みはこの上ない至福の世界だ。"Beautiful Things Cry"も全くキックは用いずにハイハットやスネアの軽やかなビートを活かしつつ、弦楽器らしき音のミニマルなリフに透明感のあるシンセの上モノを被せて、清涼感たっぷりに浮くような感覚で快活に疾走する。キックを用いないのは本作の特徴だろうか、"Pumpkin Skies (Jordi's Song)においても同様でその代りにブレイクビーツ風なスネアが軽快に躍動感あるビートを叩き出し、多層的に覆い被さっていくような朗らかなメロディーによって淡くドリーミーな世界観を演出する。"Autumn's Key (What Will You Be)"も作風としては前述の曲と一貫しておりスネアやハイハットの爽やかなビート感があり、そしてディレイも用いた清涼な上モノによって開放感を打ち出したメロウなアンビエント・テクノで、遂に最後の"Lose You"は完全にビートレスになり振動するように細かいシンセが躍動して壮大さを生むパッドと相まって物静かに感動を高めていく。秋の雰囲気の一つに哀愁があるが、正にそんな季節に思いを馳せる切ないアンビエント・テクノはコンセプトを的確に表現している。自身のBandcampのみで販売されている事からも分かる通りパーソナルな作品でもあり、非常にBeltranのエモーショナルな性質が打ち出されたこのシリーズ、ファンならば必聴だ。
Check John Beltran