2019.11.26 Tuesday
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2019年もジャンル問わず日本産音楽がちょっとしたリバイバルというか、日本の外にある世界から脚光を浴び続けた一年であったように思われるが、その中でハウス・ミュージック方面から注目を集めたのは島田奈美。彼女の話をすると一にも二にも"Sun Shower"をガラージの伝説的DJであるLarry Levanが1991年にリミックスしたという奇跡的な出来事が真っ先に挙がり、今も尚ディスコやハウスのパーティーでその名曲をDJがプレイする事は珍しくない。そのきっかけを作った人こそ今再度注目を集めるジャパニーズ・ハウスの始祖的なSoichi Teradaで、当時から彼女のポップスをハウスに解釈したリミックスが日本のハウスを先駆けていたわけで、それを体験出来るのが本作。元々1989年にリリースされていた島田の曲のTetadaによるハウス・リワークである『Mix Wax - Nami Non Stop』を、2019年にTeradaが再度リエディット&リマスターし直して再発したのである(CD盤には1989年のオリジナルバージョンも収録している)。当たり前と言えば当たり前だがどれもハウス・ミュージックとしてダンス化された曲、そしてそれらがノンストップ・ミックスとなる事で、いかにもクラブ的な感覚で生まれ変わっているのは新鮮だ。ゴージャスで賑やかな幕開けとマーチ的なグルーヴ感でノリノリになった"I'm Angry!"は、軽快な4つ打ちにスクラッチ的な効果音も混ぜたりとパーティー感を強めつつ原曲の愛らしいポップス感も共存させ、島田のアーティスト性を損なう事なく自然とハウス化している。そこからガラッと真夜中の暗さもある"Sun Shower"へ転換すると、快楽的なシンセベースが前面に出ながらどっしりとした安定感のあるハウス・グルーヴを刻み、すっきりと無駄を省いた上でレトロ・フューチャーなロボットボイスや哀愁のあるシンセの旋律を印象的に聞かせ、これがどれだけ時代を経ようとも揺るぎないクラシックとしての存在感を漂わせる。ラップ的な掛け声の入った"Here I Go Again"は90年代のハウスとヒップ・ホップが同列な時もあったヒップ・ハウス的なノリが聞ける瞬間もあるものの、まあ島田の歌が入るとどうしても耳馴染みの良いポップス性も出てくるが、妖艶なシンセのリフやアタック感の強いキックを強調した跳ねたハウスのリズムが爽快な"Tokyo Refresh"、ゴージャスなシンセブラスが弾ける眩さに包まれながらキュートな島田の声に胸キュンする"Dream Child"と、跳ねるような定間隔で刻まれるのハウスのリズムがやはりキモだ。最後の"Where Is Love?"だけはビートレスな構成で、切なく伸びるパッドとしっとりしたシンセのシーケンスを軸に島田の悲哀に満ちた歌を強調したバラード調だが、こういった曲でもTeradaのシンプルながらも感情を刺激するシンセワークが効いている。今回新たにリエディットされたという事だが筆者はアナログの方しか聞いていないため、過去のバージョンとの違いを比べる事が出来ず作風の違いも気になる所だが、取り敢えず2019年バージョンだけ聞いてもハウスとポップスが両立した魅力は十分に堪能出来るだろう。ハウス化される前のオリジナルを聞いてみたいという方には、島田自身が選曲したベスト盤である『Songs Selected By Naoko Shimada』(過去レビュー)も聞いてみて欲しい。
試聴
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