TC80 - Vestiges Of Fools (Cabaret Recordings:CABARET 010)
TC80 - Vestiges Of Fools

日本から世界へ、アンダーグラウンド性の高いミニマルな楽曲性を追求して確かな評価と人気を獲得しているCabaret Recordings。dj masdaとSo Inagawaによって運営されているこのレーベルは、アナログでのリリースに拘り配信も一切行わないが、多くのテクノ系のDJを魅了してこのご時世にもかかわらず比較的多めにプレスされながらも販売から直ぐに売り切れになる程の人気だ。基本的にはDJが使うためのツール性の高い音楽である為にアルバムよりもEPに力を入れているが、珍しくフランス人DJのTC80が手掛けた本アルバムが2016年にリリースされた。しかし単にミニマルなだけのアルバムと思っていたら、そんなレーベルに対する思い込みは誤りであったと気付かされる。実際にCabaretのパーティーに参加している者であればエレクトロやブレイク・ビーツもプレイされていた事を身をもって知っている筈で、そこからの流れで本作を聴くとあぁなる程と納得するようなレーベルの多様性を感じ取れるだろう。タイトル曲である"Vestiges Of Fool"からして端的にそれを表現しており、音の数を絞りミニマル性を強調しながらもリズムは変拍子を刻み、ベースの動きや情緒的な上モノによって雰囲気を作っていくミニマル・ハウスは、確かな機能性とそれだけではないリスニングとしての面を兼ね備えている。"Seed"も微かな上モノや奇妙な効果音が漂っているものの、リズムは更に複雑かつ鋭角的になり刺激的なエレクトロ調を強め、"Shadhahvar"でもつんのめるようなブレイク・ビーツに怪しさ漂う電子音のエレクトロで闇を誘う。エレクトロとブレイク・ビーツの探求が最も強く出た"Interfaces"は、そのピコピコな電子音や生々しいビートからデトロイト・エレクトロさえも思わせるが、それでも尚ミニマルなトラックとの親和性を持っているのがCabaretらしい。アルバムの中で唯一の端正な4つ打ちを刻む"Chrono Trigger"、そのスタイルもあってすっと流れるようなすっきりしたグルーヴと控え目にメロウな上モノによって、朝方のフロアにもはまりそうな穏やかな響きをするミニマル・ハウスだ。フロアを意識したツールとしての機能性は前提にありつつ、しかし曲そのものを聞くリスニングとしての質もあり、アルバムとしてリリースされたのは適切だろう。Cabaretのレーベル性を理解するに相応しいアルバムだ。



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| TECHNO13 | 11:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Harvey Sutherland - Harvey Sutherland (Music 4 Your Legs:MFYLR002)
Harvey Sutherland - Harvey Sutherland
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日本への再来日ライブが間近に迫っているオーストリラリアはメルボルンのHarvey Sutherland。何と言っても2015年にMCDEからリリースされた『Bermuda』でのシンセブギーな作品でその知名度を一気に高めて、今や世界各地でDJではなくライブアーティストとしてツアーを行う程になっている。残念ながらアナログ中心でのリリースのため聞く機会が少なかった人もいたであろが、ここ日本では幸いな事に今までにリリースされたアナログから8曲を纏め、更に未発表曲2曲を追加して本アルバム化された。本人はキーボードをプレイする演奏家であり、最近ではドラマーや弦楽器奏者とのセッションも行う事でより昔のブギーなディスコ色を強めて、現在の機能的なダンス・ミュージックとの親和性もありながらソウルフルな感覚を生み出している。特に近年の曲になればなる程その楽曲性の豊かさは増しており、生ドラムを導入した"Bravado"はヴィンテージなアナログ・シンセの艶のある音色も気持ち良いものだが、途中からゴージャス感を強めてシンセ・ファンクやディスコのバンド風な一体感を見せて盛り上がっていく展開は実に華々しい。MCDEからリリースされら"Bermuda"も光沢のあるシンセに耽美なエレピにストリングスなどふんだんに艶のある音を用い豊かな色彩を見せ、ジャジーなドラムが軽快なグルーヴを生み、うきうきとしたブギーな雰囲気に包まれる。ただプレイヤーではありながらも過剰に広げ過ぎない事も現在のダンス・ミュージックに沿う点であり、"Bamboo"でも美しい電子ピアノやざっくりした生のドラムを用いたジャジーな要素はあるが、シンセやドラムにしても基本は程々にミニマルな展開であり、そこからドラマティックに盛り上げていく構成の上手さがある。また未発表曲の"Lovenest"はいつ頃の作品かは不明だが、昔のディスコのダブ的要素も用いて他の作品とはやや毛並みが異なっており、落ち着いた空気の中にしんみりとした切ないシンセを加える辺りはHarvey Sutherlandのエモーショナル性が発揮されている。どれもこれも演奏家としての作曲性に裏打ちされたメロディーや構成と展開があり、当然ライブでこそ聞きたくなる豊かな音楽性を秘めているからこそ、こうしてアルバム化されて纏めて聞く事が出来るのはありがたい。素晴らしい企画作品である。







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| HOUSE12 | 11:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Vermont - II (Kompakt:KOMPAKT CD 114)
Vermont - II
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Motor City Drum Ensembleとして名を馳せるDanilo Plessowと、Innervisionsからの作品で高い評価を受けるMarcus Worgullによる異色タッグのプロジェクト、Vermontによる2枚目のアルバムがケルンはKompaktより到着。彼等が普段制作するエモーショナルでパワフルなディープ・ハウスとは異なり、ヴィンテージなアナログ・シンセ等を用いて抽象的で深い精神世界を探求するようなジャーマン・プログレやクラウト・ロックの系譜に連なる音楽性を展開し、直球のダンス・ミュージックではなく実験としての探究心を推し進めたであろうプロジェクトだ。路線としては前作から大きな変化はないが、しかしミニマルなアコースティック・ギターを用いた1曲目の"Norderney"は現代ミニマルのSteve ReichやManuel Gottschingを思わせる作風で、研ぎ澄まされたアコギの耽美な旋律を軸に瞑想的な電子音やコズミックなSEを散りばめて穏やかな宇宙遊泳を楽しむような感覚だ。"Gebirge"は70年代の電子楽器と戯れるジャーマン・プログレの延長線上で、半ばミステリアスささえ漂わせる電子音が闇の中で不気味に光るように響いて瞑想的なアンビエントの感覚も生んでいる。"Demut"や"Hallo Von Der Anderen Seite"もビートが入る事はなく強弱と旋律に動きのある奇妙な電子音を最小限用いて、その分だけ音の隙間が空間的な立体感を生んでおり、何か物思いに耽るような磁場が作られている。普段のDaniloやMarcusの音楽に慣れ親しんでいればいる程、肉体を刺激する音楽とは対照的なコズミックな電子音によって精神へ作用する音楽を展開するこのプロジェクトには意外に感じるだろうが、それが単なる小手先の音楽になっていないのは二人のジャーマン・プログレに対する理解の深さ故なのだろう。電子音との戯れはKompaktらしい実験的なアンビエントの響きもあり、異色さだけで注目されるべきではない深い精神世界を彷徨うリスニング・ミュージックとしてお勧めしたい。



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| TECHNO13 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Various - Wishes & Memories Vol.2 (TH Pressing:THPVS 03)
Wishes & Memories Vol 2

トラックメーカーとしてその才能に知名度も追い付きつつある東京在住のTominori Hosoyaが、2014年に始動させたレーベルがTH Pressing。2016年までに2枚のEPのみしかリリースしておらず決して活発とは言えないが、その分だけHosoya自身もクオリティーには細心の注意を払っており、2016年にリリースされた『Wishes & Memories Vol.1』でも4人のアーティストがピュアで透明感あるサウンドや清々しいエモーションを放つ音楽性を展開し、Tominoriが共感し目指す音を示していた。そしてそのシリーズの第二弾が到着したが、ここには日本からエモーショナルな音楽性でCadenzaにも取り上げられたTakuya Yamashita、デトロイト・フォロワー系の音楽性で注目されるLife Recorder、エジンバラのディープ・ハウサーであるBrad P、スペインからはErnieと単に有名なだけのアーティストを集めたコンピレーションとは一線を画す内容重視の作品となっている。Life Recorderによる"While She Dreams"は正に期待通りだろう、透明度を保ちながらすっと伸びていく上モノと乾いたパーカッションの爽やかなグルーヴによって、青々しい空の中へと飛翔するような浮遊感溢れるディープ・ハウスでエモーショナルと呼ぶ音に相応しい。Ernieによる"Dynamic Workflow"は逆にリラックスしたビートがしっかりと地に根を張っており、仄かに情緒的なパッドの下では刺激的でダビーなパーカッションが鳴り響く事で広がりを感じさせる。一方Brad Pは最もテクノ的なダークさと無駄を排したミニマル色の強い"Grey Blue Passion"を提供しており、闇の中に恍惚を誘う電子音を配置しながら暗闇を潜行するようなトリップ感を演出。そして最も意外だったのはTakuya Yamashitaの"Somewhere"で、ノンビートのアンビエント・スタイルを披露したこの曲は夜空に瞬く星の煌きの如く美しい旋律を奏でて、広大な宇宙の無重力空間で遊泳をするような感覚に包まれる。どれもこれも作風は異なれどエモーションや美しい響きに軸が置かれTominoriの目指す音楽性と共振するのだから、もしTominoriの音楽に惹かれている人ならば是非とも聞いてみるべきだろう。

| TECHNO12 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Michal Turtle - Phantoms Of Dreamland (Music From Memory:MFM011)
Michal Turtle - Phantoms Of Dreamland
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バレアリック、エクスペリメンタル、アンビエント等、そして国境を跨ぎながら世界各地の世に知られてない、または発売されてさえもいない音楽を掘り起こし、再評価のきっかけを作る事で高い評価を得ているMusic From Memory。そのレーベルが2016年に発掘したのはUKのドラマーであるMichal Turtleで、個人の作品としては1983年にアルバム『Music From The Living Room』だけの一枚を世に残している。本作はそのアルバムから一部と他に同時期に制作された未発表曲を纏めたコンピレーションで、実際には8割は未発表曲であるから、殆ど初お披露目のニューアルバムと呼んでも差支えはない。Turtleはドラマーではありながらギターやベースにキーボード、管楽器や打楽器までプレイするマルチプレイヤーで、ここに収録された曲でも殆どの演奏を自身で行うなど、頭の中にあるアイデアはDIYなるTurtleの手によって音となり形容のし難い実験的な世界観を構築している。始まりの"Loopy Madness II"こそ耽美なローズに美しい残響広がるギターなど用いた開放感ふんだんバレアリック系のインストだが、続く"Village Voice"から宗教的なボンゴのミニマルに般若心経を唱えているような歌による亜空間への誘いらしき曲で、Turtleの豊富なアイデアによるエクスペリメンタルな音楽性が広がっていく。と思えば"Maid Of The Mist"ではクラビネットの朗らかな響きと優しいアコースティック・ギター等を活かした長閑な昼下がりのイメージだったり、"Ball Of Fire"ではファンク調のベースに分厚いアナログシンセが酔いしれるような旋律を奏でてフュージョン性があったりと、曲毎にジャンル性は転調していく。そして、テープに録音したボンゴを用いて土着的なグルーヴと密林のような怪しさを感じさせる"El Teb"、調がずれたようなメロディーと不思議な電子SEが浮遊するニューエイジらしき"Spooky Boogie"、ポスト・パンクとダブの混合のようなひりついた緊張感のある"Phantoms Of Dreamland"、アルバムの中には試行錯誤か果敢なチャレンジかの判断はつかないものの多彩な音楽性に取り組んでダンスからリスニングまで楽しめるバラエティに富んだ内容になっている。Music From Memoryもよくぞこんな秘境の果てにあるような音楽を掘り起こしてくるものだと感嘆せずにはいられないが、確かにレーベルらしい実験的な要素と多少のバレアリック感もあり、Music From Memoryらしさが伝わる作品だ。



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| ETC(MUSIC)4 | 09:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2017/4/18 Gigi Maisn - balearic state - @ WWW
先日のpiano concertでピアノを強調したクラシック的な音楽性を披露したGigi Masin。東京ではbalearic stateなる異なるコンセプトのプレイもあると言う事で、その両者の差に興味津々で体験せずにはいられず、筆者は当然balearic stateの日にも参加する事にした。パーティーの趣旨をより明確にするようにこの日はDJにCOMPUMAやChee Shimizu、ライブではComatonseから素晴らしいアンビエント・ハウスをリリースしたWill Longや4人組アンビエント・ユニットのUNKNOWN MEらが参加するなど、方向性としてはクラブ寄りを明確に打ち出している。
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| EVENT REPORT6 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Pop Ambient 2017 (Kompakt:KOMPAKT CD 135)
Pop Ambient 2017
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夏の陽気も迫るこの頃、既に季節外れではあるものの年初の厳寒におけるテクノの風物詩にもなったKompaktが送るアンビエント・シリーズの『Pop Ambient』、その2017年度盤を紹介しておきたい。このシリーズに関してはKompaktの元オーナーでもあるWolfgang Voigt(最近Gas名義を復活させた)が選曲を担当しており、アンビエントに対しての特別な審美眼を持つ彼だからこそ、毎年リリースする事で金太郎飴的な内容にはなりつつもその質の高さが保証されている信頼の置けるシリーズだ。本作でもKenneth James GibsonやLeandro FrescoにAnton KubikovやJens-Uwe Beyerなど新旧Kompakt関連のアーティストが曲を提供しているが、注目すべきは珍しく邦人アーティストであるYui Onoderaが参加している事だ。広告や建築空間への、または映画や舞台の音楽制作も行うクリエイターだそうで、クラブ・ミュージック側からは見えてこない存在ではあったが、本作では2曲も収録されるなどVoigtもその実力を認めているのだろう。アルバムの冒頭に用意された"Cromo2"は、透き通るようなシンセのドローンに繊細なピアノの音一つ一つを水玉のように散りばめて、美しさと共に神聖な佇まいを含ませた幻想的なアンビエントで、正に『Pop Ambient』シリーズに相応しい雰囲気を持っている。もう1曲はScannerとの共作である"Locus Solus"、こちらも柔らかく優しいピアノ使い聞こえるが、シンセのドローンが揺らぐ事でハートビートのような躍動感も体感させる。さて、Voigtはというとリミキサーとして参加して”Hal (Wolfgang Voigt Mix)”を提供しており、オーケストラを思わせる荘厳なストリングスやピアノによって重厚感に満ちたアンビエントを作り上げ、そのスケール感の大きさはVoigtらしい。Leandro Frescoは"Sonido Espanol"と"El Abismo"のどちらも吹雪を思わせるノイズ風のドローンが何処までも続く音響アンビエントで、雪が降りしきる極寒の地を思わせるところは『Pop Ambient』の季節にぴったりだろうが、逆に他のアーティストは音数を絞りながら有機的な響きでほんのりとした温かさを表現しており、Popという言葉が馴染み易さに繋がる一般的な意味であれば、そのタイトルはあながち間違ってはいないだろう。春が来るまでの寒い季節に、眠りに落ちるためのBGMとしてやはり聞くべきか。



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| TECHNO12 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Suzanne Kraft - What You Get For Being Young (Melody As Truth:MAT5)
Suzanne Kraft - What You Get For Being Young
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Music From Memory等のレーベルによる静謐なバレアリック/アンビエントへの注目は今や疑いのないものだが、その流れに共振するレーベルとしてUKのMelody As Truthも注目して間違いはない。Crue-l RecordsのDiscossessionの元メンバーであるJonny Nashが2014年にUKにて設立したレーベルであり、基本的にはLPでのアルバム制作にてアンビエント〜ニューエイジにも近いリスニング志向の音楽性を突き詰めていて、静寂の中に美しい情景が浮かび上がるような耽美な音が特徴だ。そんなレーベルの5作目はアムステルダムを拠点に活動するSuzanne Kraftによるもので、2015年に同レーベルよりリリースされた『Talk From Home』も高い評価を得て注目されるべき存在になっている。活動の当初はRunning Back等からモダンなニューディスコをリリースしていたようだが、それにも黄昏時のメランコリーにも似た郷愁が存在しており、その路線を更にリスニングへと向けているのが現在の作風なのだろう。本作は朧気なドローンが伸びる中に淡いシンセが長閑な旋律をなぞる"Body Heat"で、極彩色の光が交じり合い幻想的な光景を生むような開始をする。続く"Bank"はアルバムの中でも最もリズムが強調された曲だが、芳香のように立ち上がるギターや光沢のあるシンセも導入して異国情緒も匂わせる原始的な響きも。"One Amongst Others"も尖ったリズム感があり軽快さを生んでいるが、牧歌的な鍵盤使いにほっと心がリラックスさせられる。そして"Fragile"はビートレスながらも動きの早いシンセが活発なリズムに繋がっていて、夢のようなアンビエントな心地良い響きの中にもグルーヴが感じられる。"Ze"は本作の中でも最も静謐な曲だろう。音を削ぎ落としながらピアノやシンセのディレイを用いたドローンによって引いては寄せる波のような揺らぎを生み、その反復が深い瞑想状態を導くような静けさの中に美しさが際立つアンビエントだ。最後も同様にアンビエントらしい"Further"だが、ここでは空間を埋めるようにぼやけた電子音が持続する中に鈍い金属音がアクセントを付けていく動きのある曲で、盛り上がりながら感動的なラストを迎える。ぼやけた電子音の中にちょっとしたオーガニックな響きが温かさを作り、さりげなく実験的でもありながらメロウでもあり、単なるイージーリスニングとは一線を画すアルバムだ。



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| ETC(MUSIC)4 | 10:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2017/4/12 Gigi Maisn - piano concert - @ WWW
待望の初来日、イタリアから御年61になるGigi Masinの日本ツアーが遂に開始する。1986年にデビューを果たしたピアノ演奏者であり作曲家でもあるMasinは、その当時には気が付かれる事のなかった名作『Wind』等をリリースするも、プレス数も少なかった事から不幸にも世に知られる事はなく知る人ぞ知る的なマイナーな時代を過ごす。しかし近年のMusic From Memoryによるコンピレーション『Talk To The Sea』を発端とした再発見により、特にダンス・ミュージック側からのバレアリックやアンビエントとしての再評価により一躍時の人となった。その結果、世界的にMasinのコンサートが開催されるまでになったが、その流れはようやく日本も辿り着いた。喜ばしい事に日本においては、piano concertとbalearic stateの異なる2セットが予定されており、この日はその前者のコンサートとなる。
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| EVENT REPORT6 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Tornado Wallace - Lonely Planet (Running Back:RBCD09)
Tornado Wallace - Lonely Planet
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にわかに注目を集めるオーストラリはメルボルンのダンス・ミュージック、その中でもバレアリックやディープ・ハウス方面で特に人気があるアーティストがTornado Wallaceだ。Delusions Of GrandeurやInstruments Of Raptureからは黒さも滲むディープ・ハウスを、Beats In SpaceやESP Instituteからはバレアリック的な開放感のあるハウスをリリースし、そしてまたアシッド・サウンドを用いた荒々しい曲も制作する傍ら手腕を買われJose Padillaのアルバム制作にも参加するなど、忙しない程に活況な音楽活動を見せている。初めてEPをリリースしたのが2010年なのだから初のアルバムまでに7年もかかってしまった訳だが、ようやく期待の作品が届けられた。7曲で36分とボリュームは少な目ではあるもののその内容は集大成として感じられ、今までに彼が展開してきた作風が一つのアルバムに纏まっている。始まりはアルバムタイトルである”Lonely Planet”からで、環境音らしきサンプリングを交えた壮大な旅を予感させるおおらかな展開で、土着的なドラムやパーカッションも加わったかと思いきやメランコリーなシンセによってバレアリック・ジャーニーへと誘い込まれていく。続くもダウンビートながらもロウなリズム感や残響広がるギターを用いてエキゾチック感をアピールした"Trance Encounters"は、音の伸びが開放感へと繋がりゆっくりと見知らぬ異国へと旅立つよう。"Today"はボーカリストのSui Zhenをフィーチャーした歌モノだが、何かパンチのあるキックやスネアに懐かしいアナログシンセ風サウンドは80年代風のポップスを思わせる面もあり、それが懐かしさを誘い出す。小気味良いグルーヴ感ながらもその上をゆったりと流れる大らかなシンセ、"Warp Odyssey"は典型的なバレアリック・サウンドであり、リラックスした空気が通底する。その流れに乗って感動がピークへと達するのが"Voices"で、尺八らしき和の音に哀愁のギターサウンドと透明感のある電子音が繰り広げる嬉々とした世界観、途中からはしっとりとしたドラムやアシッド・サウンドも加わって、ドラマティックな映画のサウンド・トラック的な流れも。アルバムを通して聞いてみた後にはニューエイジ的な思想も感じられ、現代から先祖返りしたような原始的なムードもあり、その懐古的な響きがバレアリック感を更に強めていたのだろう。昼間から現実逃避をして心地良い夢に浸れそうなアルバムである。



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