Anthony Nicholson - Gravity (deepArtSounds:dAS016CD)
Anthony Nicholson - Gravity
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シカゴのディープ・ハウスのアーティストとして堅実な活動を続けるAnthony Nicholson。Ron TrentやChez Damierの盟友であり音楽的にも共通点が多く、パーカッシヴなリズムやフュージョン的なメロウな旋律を活かした作風のハウスは、ディープでありながらも屋外に合うような開放感も伴っている。本作は前作に続きシカゴ系に特に力を入れているスイスのDeepArtSoundsからとなるが、元々は2016年にアナログのみでリリースされていたものが幸いにも2017年になってCD化された。基本的には既に前述の作風は確率されており近年の作品でもどれも大きな変化はないが、本作では殆どがボーカル・トラックとなっており、メロウな音楽性がより活かされているように感じる。スペーシーなシンセや耽美なローズ・ピアノにジャジーグルーヴ溢れる爽快なパーカッションが組み込まれた"Miquifaye El Tema"は、麗しい女性の声も伸び伸びと広がって、曲に更なる広がりや爽快感をもたらしている。"Imagine"はあのJohn Lennonのカバーであるが、当然原曲とは異なり爽やかで青々しいダンス・グルーヴが走っていて、アフロパーカッシヴな響きやメロウなピアノ等が織りなすジャジーハウスになっている。"Too Late"では以前から繋がりを持っているLars Bartkuhnがギターで参加しており、ダビーなパーカッションが水しぶきのように弾けつつも、優美なシンセやピアノの共にフュージョン性の強いギターが豊かな響きを加え、嬉々としたフュージョン・ハウスを聞かせている。大半が滑らかな4つ打ちを軸にしたディープかつジャジーなハウスではあるものの、"Discojazzfunkdelite"ではややその形式から外れた変則的なビートを叩き出しておりアルバムにアクセントを加えているが、生っぽい音を軸に情熱的なギターカッティングやメロウなローズ・ピアノに麗しいシンセのコード展開などそのどれもが溜息が出る程に美しい。どれもこれもメロウで自己陶酔してしまうような甘くも切ないハウスは、この手の音楽の中でも特にロマンティックな作風を得意とするNicholsonの十八番と呼べるもので、金太郎飴的になってきてはいるものの好きな人にとっては堪らないだろう。何より定期的にアルバムを制作し自身の音楽性を的確に表現するのだから、DJよりもアーティストとして評価されるべき存在なのだ。



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2017/5/27 Point G @ Vent
ラテンフレイバー溢れるハウスで人気を博したDJ GregoryはDefectedからもリリースをするなどややメジャー寄りの音楽性ではあるのだが、そのGregory Darsaが近年活動を活発化させているプロジェクトがPoint Gだ。前者に比べるとより単純な構成や流れを強調したミニマルかつファンキーなハウスを軸にしており、それ故にツール性の高さもあってミニマルシーンで評価を高く受けている。今回はそんなPoint Gによるライブでの来日が実現したが、同時にベルリンから一時帰国中のSTEREOCiTIやOathでDeck The Houseを主宰するDJ FGRらが出演する。
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Various - Best Of DKMNTL X Patta (Dekmantel:DKMNTL044)
Various - Best Of DKMNTL X Patta
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今やダンス・ミュージックのフェスティバルとして世界に名を馳せるアムステルダムのDekmantelだが、同時にレーベルとしても癖があり個性的なテクノやハウスのアーティストの作品をリリースしており、名実共にオランダのダンス・ミュージックの人気の高さを象徴する存在だ。2015年にはそのレーベルとファッション・ブランドであるPattaがコラボし、フェスティバル等で6枚のアナログを限定販売していたそうで、その中から3曲をベストとして抽出して一般リリースに至ったのが本作だ。現代バレアリックやイタロ・ディスコに造詣の深いYoung Marco、アムステルダムのアーティストであるTom Trago、近年途端に注目度が高まっているFatima Yamahaが選ばれており、流石に複数の曲の中から厳選された3曲だけにどれもアーティストの個性があり嘘偽りなく素晴らしい。何と言ってもYoung Marcoによる"The Best I Could Do (With What I Had)"の底抜けな多幸感、青々しい空が広がるような開放感に満ちたバレアリック・ハウスが一押しだ。疾走するグルーヴを生むキックやハイハット、そこに飛翔するように伸びていくシンセのコードが乗り、パーカッシヴな木琴系の音やメロディアスなシンセが彩っていく実に豊かな色彩感覚を持った曲であり、これは太陽光が降り注ぐ野外にぴったりな作風だ。対してTom Tragoによる"Brutal Romance"は真夜中の雰囲気が強く、ブリブリとしたベースラインが前面に出ながらドラッギーなシンセが妖艶なムードを発するエレクトロニックなハウスで、夜の熱狂的なダンスフロアさえも想起させる。そして最後はFatima Yamahaが彼らしいポップな電子音を用いて、メロウでスロウな哀愁の"The Creature From Culture Creation"を披露。どれも各アーティストの従来の音楽性が発揮されており、このシリーズのベストと銘打って纏められただけあり質も高く、パーティーの各時間帯で使えるようなお得な一枚だろう。

| HOUSE12 | 10:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Welcome To Paradise (Italian Dream House 89-93) (Safe Trip:ST 003)
Welcome To Paradise (Italian Dream House 89-93)
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バレアリックからイタロ・ハウスまで感情的なシンセを用いて多幸感に満たす音楽を制作するYoung Marco、2015年には自身のレーベルであるSafe Tripを立ち上げて自身の音楽性を反映させた音楽を送り出している。そしてそのルーツを掘り起こすようにリリースされたのが本作、日本語に訳すと「ようこそ楽園へ」と音楽性をそのまま端的に表したタイトルである。サブタイトルは「89〜93年のイタリアのドリーム・ハウス」、つまりはイタロ・ハウス/ディスコである事は間違いなく、そこに示された期間にリリースされたほぼクラシックと呼ばれるに近いイタロ・ハウスの名作をMarcoが自信を持って掻き集めた編集版だ。ではイタロ・ハウスとは一体何なのか、勿論その名の通りイタリアから生まれたハウス・ミュージックではあるのだが、やはりその特徴はピアノやシンセのハッピーなり多幸感なりが強いコード感を打ち出しつつ、他の作品から大胆にネタを(サンプリングする)パクる点だろうか。例えばNYの熱狂的なソウルフル・ハウスとも、または厳つく荒々しいファンキーなシカゴ・ハウスとも異なり、底抜けに明るく煌めく響きは燦々と陽が降り注ぐ空の下にいるような錯覚さえ体感させる。それを端的に表現しているのが始まりに用意されたKey Tronics Ensembleによる名作"Calypso Of House (Paradise Version)"で、綺麗で透明感のあるピアノと爽やかに伸びるストリングスを配し、地中海のバケーションにぴったりなバレアリック感に満ちた楽園的な世界を広げるこれぞイタロ・ハウスだ。伝説的なクラブであるハシエンダの定番でもある"Last Rhythm (Ambient Mix)"、耳に馴染みのある曲だろうが、ビートレスで引っ張っていくセンチメンタルなアンビエントミックスが収録されており、哀しげなシンセの旋律や泣きの笛の音色が胸を締め付ける程の郷愁を帯びている。意外なところではプログレッシヴ・ハウスで名を馳せるSashaの"A Key To Heaven For A Heavenly Trance"も収録されているが、確かに普段のプログレではなくもう少々穏やかながらものびのびとしたグルーヴ感があり、セクシーな女性の吐息も用いた官能的な雰囲気がイタロに適合している。こちらは生粋のイタロ・プロジェクトであるDon Pablo's Animalsによる"Paranoia"は、やや黎明期のメロウで素朴なシカゴ・ハウスを思わせる歌モノであるが、やはりトリッピーではありながらも爽快感や開放感を含む晴々しい世界観がイタロ的な所以だろう。Now Now Nowは初めて耳にするアーティストだが、こちらもイタリアのユニットだそうで、天上で聞けるだろう神々しい歌声を用いたドリーミーな"Problem (Abyss Version)"はもはやバレアリック・ハウスと呼んでもよい位に楽園的で、イタリアン・ドリームを体現する曲だと思う。この編集版に収録されたどの曲も基本的には闇よりも光、屋内よりも屋外、閉鎖的より開放的といった印象を持ち、激しく打ち付けるビートではなく快楽的なフレーズで多幸感に満たす前提があり、それが正に白昼夢に溺れる感覚に繋がっているのだろい。楽園へようこそ…というタイトルに嘘偽りはない。





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| HOUSE12 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Niko Marks - Day Of Knowing (Planet E:PLE 653781-2)
Niko Marks - Day Of Knowing
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特別な注目を集める事は多くはなかったが、デトロイト・テクノ/ハウスと呼ばれるシーンの中では特に楽曲制作を力を入れて大量に作品を残しているNiko Marks。自身のU2X ProductionsからはCDRや配信で毎年のようにアルバムを送り出し、Planet EやDelsin等からもEPのリリース歴があるなど、その知名度の低さとは逆に安定して音楽制作を行っている信頼に足るアーティストだ。本人はキーボードをプレイし歌唱も披露するなどDJ気質ではなく完全にアーティストであり、その為か音楽性もテクノやハウスのみならずジャズやファンクまでも網羅する、つまりはデトロイトのモーターシティーとしての音楽を十分に理解している事もあり、デトロイトのアーティストとしてはもっと注目を集めてもおかしくはない。ならばこそ、このPlanet-Eからリリースされたアルバムはその契機にも成りうる筈で、事実ここには前述の豊かな音楽性が閉じ込められている。アルバムの始まりである"Crank Shaft"からしてキーボードの華麗なコード展開を強調したハウスであり、背景にはコズミックなSEが散りばめられつつぶいぶいと唸るベースやシンセからはファンクの要素が感じられ、実にエモーショナルに展開する作風がアーティスト性を表している。本作で面白いのはリミックスも収録されている点で、Icanとしても活躍するSantiago Salazarがリミックスした"Day Of Knowing (Santiago Salazar Remix)"は情緒的なピアノの音色を活かしながらもスムースな4う打ちでぐっと熱量を増したソウルフル・ハウスを聞かせるが、 原曲の"Day Of Knowing (Original)"はぐっと勢いを抑えてジャジーなリズム感がある事でバンド風なアレンジが黒人音楽のルーツを掘り起こすようだ。本作には以前からコラボを果たしているCarlos Nilmmnsも制作に参加しており、その一つである"Elle Est Une Danseuse A Minuit"は快適なハウスの4つ打ちに合わせて流麗なシンセのコードの響きがのびのびと広がるような効果をもたらし、上下に軽快に弾けるグルーヴを刻む。また"Many Other Places"のように夜っぽい艶のあるダークなテック・ハウスや、耽美な音色を聞かせるエレピが軸になるジャジーファンクなハウスの"Thrill Of The Chase"など、曲毎にキーボーディストとしての力量を発揮しながらエモーショナルな要素を込めている。デトロイト・テクノ/ハウスが好きな人ならばこのアルバムはきっと気に入る事は当然として、これからデトロイトを聞く人にとってもそこにあるソウルやエモーションを感じるにはうってつけだ。



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| HOUSE12 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2017/5/20 Millennium People presents Kassem Mosse @ Unit
ベルリンのWorkshop、またはThe Trilogy Tapes等からの作品が変異体テクノとして注目を集めるKassem Mosse。ハードウェアを用いたライブには定評のある新生代が久しぶりに来日するが、今回はそこにどMosseと同郷の女性DJであるResomも参戦。ベルリンのクラブである:// about bankでレジデントを務めるそうで、幅広い選曲の形容のし難いプレイは国内外のDJからも高い評価を得ており、恐らく初来日となる今回は彼女の珍しいプレイを体験するレアなチャンスだ。そして何と今や世界的評価を獲得したFuture TerrorのDJ Nobuが、今回は元Future TerrorのKabutoと最初で最後?のB2Bセットを披露するなど、話題には事欠かないパーティーが今夜の「Millennium People」だ。
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| EVENT REPORT6 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Miruga - Atmospheric EP (Foureal Records:FOR001)
Miruga - Atmospheric EP.

デジタルのみで、そしてベテランから新鋭まで日本人のみに焦点を当ててリリースを行ってきたShinya Okamoto主宰によるFoureal Recordsが、遂にヴァイナルでの制作を始動させた。デジタル配信が拡大する時代の中で、一部のレーベルは逆にヴァイナルのみのリリースに拘るなどこれは制作側にとってはある種の憧れにも近いのだろうが、当然リスナーにとってもヴァイナルで出す事の意味はそれなりの期待や品質の保証と捉えており、Foureal Recordsにとってはここからが新たなるステージの始まりを示唆しているようだ。ヴァイナルの第一弾には過去に同レーベルからもリリース歴のあるMiguraが抜擢されており、Ethereal SoundやBalance MusicにRough House Rosie等著名なレーベルにも作品を提供した経歴がある実力者である。ややエレクトロニックでハード目のテクノから情緒的なディープ・ハウスにジャジーなグルーヴまで作品毎にややスタイルを変えるが、基本的にはどの曲にもエモーショナルな響きを込められている。本作はややテクノ寄りな質が強いだろうか、"Predic"は硬めでダビーなパーカッションが空間を切り裂くような刺激があり変則的なビートで揺れる曲だが、浮遊感を伴い薄く伸びるようなパッドや美しいシンセのサウンドはひんやりとしながらも情緒的で、胸の内にソウルを秘めたように慎ましくもある。"Nature Drop"もダビーなパーカッションが奥深い空間の広がりとハードな響きを感じさせるが、キックはどっしりと地面に食い込むような安定の4つ打ちを刻んでおり、音響系のダブ・テクノと叙情性のディープ・ハウスが混ざりあったような爽快な曲だ。膨らみのあるキックと激しく打ち鳴らされるパーカッションによって疾走感を得る"Circle"、これももやもやとした幻想的なパッドが淡い情感を感じさせ、激しさの中にもMirugaらしいエモーショナル性が込められたテクノだ。レーベルの紹介ではオープンエアの朝方からクラブパーティーの早い時間帯向けとなっているが、確かにピークタイムの狂騒の中でと言うよりは成る程じっくりと耳を傾けて聞いて欲しい音楽性がある。



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| TECHNO13 | 19:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Esteban Adame - Descendants EP ( Epm Music:EPM15V)
Esteban Adame - Descendants EP
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Galaxy 2 GalaxyやLos Hermanosなど伝説的なユニットの一員として、また自身が手掛けるプロジェクトのIcanやThee After Darkとして、鍵盤奏者の力量を発揮し活動を続けるEsteban Adame。当然彼が手掛ける作品も単なるツール的な音楽と言うよりは、鍵盤奏者としての才能を感じさせる展開の広さや流麗なメロディーを活かした作風が多く、テクノにしてもハウスにしても、またはフュージョン性を打ち出した音楽でもデトロイトのエモーショナル性を前面に出たものが多い。久しぶりとなる新作の"Descendants"も彼の作品にしては随分と弾けるようなキックやキレのあるパーカッションが疾走するテクノ色の強い曲だが、そこに入ってくる伸びのあるシンセやコズミックな電子音の煌めきが感情性豊かに広がり、デトロイト・テクノらしい希望に満ちた世界観を作り上げている。全く情報が見つからないTresilloなる新鋭による"Tresillo Remix"は、原曲の飛翔していくような感覚に比べるとしっかりと地に根を張るように重心は低く安定感があり、切り刻まれるような規則的なハイハットの下ではうねるベースラインが躍動し、ややダークな空気を纏った夜のテクノを匂わせる。しかし本作で多くの人が注目するであろうのはデトロイト・テクノの始まりであるJuan Atkinsによる"(Juan Atkins Remix)"であるのは間違いない。これこそ正にAtkinsが得意とするエレクトロ・スタイルであり、痺れるような重低音のベースに鋭利なキックやハイハットのリズム帯が強調された攻撃性があり、しかしそこには広大な宇宙の深さが広がるコズミックかつエレクトロなピコピコサウンドも大胆に導入され、古き良き時代のデトロイト・テクノの現在形としての形も成している。言われなければ分からない程に完全にAtkinsの作風に染まっており、近年の活発な音楽活動が実っているいる証拠だ。



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| TECHNO13 | 21:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Vangelis Katsoulis - If Not Now When (Utopia Records:UTA004CD)
Vangelis Katsoulis  - If Not Now When
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古典になっているハウス・ミュージックの掘り起こしから、現代的なジャズや電子音楽にまで影響を受けたダンス・ミュージックまで手掛けるUKの新興レーベルであるUtopia Recordsは、確かにカタログにLars BartkuhnやModajiが並んでおり、まだ作品数は少ないもののレーベルの方向性は窺い知れるだろう。そのレーベルにとって初のアルバム作品を提供したのがギリシャのシンセサイザー奏者であるVangelis Katsoulisで、1980年代前半からジャズを基調にニューエイジやフュージョンも融和させながら活動を続ける大ベテランだ。2015年には彼の曲を現在のダンス・ミュージックのアーティストにリミックスさせた『The Sleeping Beauties Remixed』(過去レビュー)も送り出し、ジャズや現代音楽からよりダンスへと接近するような方向性も示唆していたが、その結果としてこのニューアルバムは確かにジャズが軸にありながらも現代的なバレアリックやアンビエントの感覚も含んだモダンな作風になっている。始まりの"All The Blue Skies"から自由なビートを叩き出すジャズ色強めだが、オーガニックとエレクトロニックの調和や美しいサウンドスケープが広がっており、やはりジャズを提示すると言うよりは結果的にベースにジャズがあるもののコンテンポラリー・ミュージックと呼んだ方がしっくりくるか。続く"Zarrin"ではビートは排除しつつ女性の優しいボーカルを導入し、静謐で研ぎ澄まれたピアノの旋律を基に白昼夢を誘うかのようなアンビエント的な面も。そしてテクノの要素を取り入れた"Grand Delusions"では硬いビートがリズミカルに弾けるが、やはり温かくドリーミーな上モノはバレアリックの開放感があり、リスニングとダンスの程良い中庸を保っている。トランペットを導入した"Midsummer Tobago"もややジャズの匂いはあるものの、情緒的な雰囲気を生むシンセサイザーのな導入によってニューエイジ的な曲調になったり、深みのある音色を聞かせるフリューゲルホルンを用いた"It Not Now, When"もジャズに加えてダブの音響や透明感を作る電子音のヴェールが効果的に作用しており、単にジャズと呼ぶには難しい現代的な感覚が通底している。音楽的にはECMや昨今再評価の高いGigi Masinと近いだろうか、単に古典に留まらずに現代音楽ともコミットする拡張性があり、それでも尚クラシカルな響きもある実にリスニングとして心地良い現代音楽だ。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ2 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Akufen - EP (Karat Records:karat 57)
Akufen - EP

途中でHorror Inc.名義でも作品を出しているのでご無沙汰という訳でもないが、Akufen名義としては実に5年ぶりとなる新作をリリースしたMarc Leclair。00年代初頭のクリック・ハウス全盛時の牽引役としてマイクロ・サンプリングなる手法でぶつ切りサンプリングを用いたファンキーなハウスを開発したアーティストだが、精神面での悪化により一時期は全く音楽活動を行っていない時期もあった。しかし近年のHorror Inc.も含めて再度シーンへと返り咲くように良質な作風は戻ってきており、そしてこの最新作にてアーティストとして全盛時にも劣らない程のマイクロ・サンプリングを披露して完全な復活した事を示しているようだ。ここに収録された曲はネットでのライブ映像を見る限りでは2015年頃にはプレイされていたのだが、ようやくリリースされただけあってどれも実にAkufenの本領発揮と言わんばかりの作品だ。"U"かしてあちらこちらに飛散するような可愛らしいメロディーとボーカル・サンプルを用いてファンキーなグルーヴを生んでいるが、そこに荘厳なストリングスが入ってくると途端にぐっとエモーショナル性を強めたり、同じ曲の中での雰囲気の変化も面白い弾けるダンス・ミュージックだ。最もAkufenの典型的なぶつ切りサンプリングの妙技を楽しめるのは"Death Of A Mascot"だろうか、序盤からぐるぐるとロールするような奇怪な旋律が躍動し、そして跳ねたシャッフル系のリズム感と細かく刻まれた有機的なサンプルが現れると一気にファンキーさとコミカルさを纏って躍り出す。対して"Make Bagels Not War"も様々なサンプリングが登場するも、音調としてはマイナーで妖艶なベルの音が真夜中のムードに染めるようだ。そしておどろおどろしい上モノが不気味な"Seizure Salad"はやや前のめり気味な勢いがあり、コロコロとした転げ落ちるようなぶつ切りサンプリングと合わせて大胆な躍動感を感じさせ、フロアにおいて力強く揺さぶるのに適しているだろう。どれもこれもAkufenらしい大量かつ繊細なサンプリングの導入と、跳ねて弾けたリズム感が炸裂したとびっきりにファンキーなハウスで、文句無しにこれぞAkufenだと言えるだろう。



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| HOUSE12 | 21:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |