Iori Wakasa - Give Me Yourself EP (Dessous Recordings:DES135)
Iori Wakasa - Give Me Yourself EP
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Steve Bug主宰、Poker Flat Recordings傘下のDessous Recordingsから、何と日本から期待のIori Wakasaの新作が到着。ここ暫くその名を見かける事が無かったものの、遂にシーンへとカムバック。2010年にデビューをしてからは都内各所クラブでプレイし経験を養いつつ、作品毎にやや黒目のディープ・ハウスから繊細な美しさを放つテック・ハウスなどの楽曲性を披露し、DJとしてもアーティストとしても期待を背負っていた。一時は子育てなどにより音楽活動を休んでいたものの、ようやく音楽活動を再開し目出度い事にDessousからの再始動となる。音楽的にはテクノと言うよりはハウス・グルーヴが強いからこそ、Poker Flatではなく幽玄なディープ・ハウス寄りのDessousからとなるのは相応しく、そして音数を絞ったミニマルな構成にブラックネスとソウルを織り込んだハウスは本作でより進化している。A面に収録された"Be There"は大きな展開は用いられておらず、終始滑らかな4つ打ちキックのハウスが続く。しかし軽快に響くパーカッション、幻惑的なシンセのリフのミニマルな構成の中に朧気なボーカル・サンプルも用意し、音の抜き差しによってぐいぐいと伸びていくような機能性の高い作りになっており、秘かに情熱を燻すような渋いディープ・ハウスだ。裏面に移ろう。太いキックで骨太さもありながらシャッフルするようなハイハットでリズミカルなビートを刻む"Give Me"も吐息のようなボーカル・サンプルを用いる事で艶っぽさや黒さを添加しているが、A面よりも内向的で奥へ奥へと深みに落ちていきつつ途端に呟き声が溢れ出す事で困惑的な酩酊感がある。最後の"Feel It Dizzy"もやはりじわじわと持続するディープ・ハウスだが、ここでは金属的なパーカッションがインダストリアル感もある響きで用いられ、様々な鳴りをしながら埋め尽くす事で展開を作る。本作のどれもアーティスト性を主張するように作風が纏まっているが、無駄を削ぎ落とした機能性高いミニマル寄りのハウス感や控えめながらも甘美なエモーションを込めており、フロアで聞いても酔いしれるように恍惚に浸れるに違いない。カムバック作品としていきなりの充実した内容は、今後の活動に更なる期待が掛けられるだろう。



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| HOUSE12 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mr. YT - Brand New Day (Apollo Records:AMB1703)
Mr. YT - Brand New Day
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近年はRon Trentが主宰するFuture Vision RecordsからのMissing Soulのリイシューによって再び注目を集めているYuji Takenouchi。TECHNOuchi名義ではゲームミュージックの作曲家としても知名度は高いが、Mr. YTやMissing Projectに前述のMissing Soulでは豊かな感情性を持ったジャジー・ハウスな音楽性でApollo Records等から作品をリリースしており、90年台後半の隠れた存在だ。昨今のジャパニーズ・ハウスの再評価の一貫でTakenouchiの音楽の掘り起こしに繋がったのだろうか、この度Apollo Recordsが「Brand New Day」と「Parfum E.P.」と「Southern Paradise」の3枚のEPをコンパイルし、新たにリマスター済みのアルバムとして目出度くリイシューを行っている。音楽的には2000年前後に流行っていたジャジー・ハウスそのもので、現在ではこの手の音楽はやや廃れてしまい決して流行の真ん中にあるものでもないが、しかしこのMr. YTの軽快なハウスグルーヴや美しい鍵盤のラインを活かした楽曲性はエヴァーグリーンと呼べるもので、時が経とうと色褪せるものではない。幕開けは朝の幻想的な霧が満ちたようなアンビエンスが漂う"Morning"、ビートレスな作風がこれから始まるダンスへの期待を高めていくような流れ。続く"Reve"では透明感と光を含んだピュアなシンセと図太いキックの4つ打ちによって早速心地良いハウスで踊らされるが、瑞々しさもある綺麗な電子音の使い方が懐かしくもあり、しかし清流に洗われるような清々しさだ。再び"Souvenir"ではビートが消えつつ引いては寄せる波のように感傷的なパッドが現れメロウなバレアリック感を演出し、そこから一転して"Afternoon"は昼下がりの木漏れ日の明るさに満ちたような嬉々としたジャジー・ハウスで、透明感のある薄いパッドやリフレインするシンセは涼風を巻き起こし、跳ねるようなリズムが心も軽くする。アルバムの中で最も力強い4つ打ちを刻みポジティブな活力に溢れたハウストラックの"Evening"、そしてそこから夜へと時は移ろい落ち着いた優雅な時間帯を演出するアンビエント・テイストな"Nite"と、各時間帯をコンセプトにした曲調もしっかりと表現されている。終盤の正に天国の海を遊泳するかのふわふわとした多幸感が続くジャジー・ヴァイブス溢れる"Ocean In Heaven"も、朝方の光が溢れてくるフロアで聞きたくなる爽やかな曲だ。全体的にリマスタリングのおかげかボトムも厚めになりしっかりとフロア対応になりつつも、やはり上モノの透明感やピュアな響きが特徴で非常に耳に心地良いメロディーが通底しており、捨て曲は嘘偽り無く一切無し。当時は注目を集める事が出来なかったジャパニーズ・ハウスの名作が、今ここに蘇った。

| HOUSE12 | 15:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2017/6/23 Akirahawks Asia Tour 2017 @ WWW
今でこそようやく海外のビッグクラブやフェスティバルでもプレイする日本のDJが出てきているが、勿論日本に於いては目立っていないながらも早くから海外を拠点に活動を行っていた邦人DJ/アーティストがおり、それこそ今回アジアツアーを行うAkirahawksもその一人だ。ドイツはベルリンにてHouse Mannequinなる変異体ディスコ/ハウスのレーベルを主宰し、その音楽性に共感したMr. TiesによるHomopatikとも繋がったりと、日本にいる環境からは感じ取れない程に海外では高い評価を受けているようだ。この度久しぶりに日本への凱旋ツアーを行うが、今回は同じく海外でも高い評価を獲得したGonnoも出演と、本場を知るDJによる経験に裏打ちされたプレイに期待が高まる。
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| EVENT REPORT6 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
The Incredible Adventures Of Captain P - Escapism (Soul People Music:SPMBLP003)
Fred P - The Incredible Adventures Of Captain P (Escapism)
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USテクノ/ハウスの中でも快進撃を続けるFred PeterkinことFred P.は別人格のように多数の名義を用いてEP/アルバム共に量産体制を行いつつも、夢の中にいるようなアンビエント感溢れるテック・ハウスからジャジー・ヴァイブス溢れるリスニング志向の作品までそのどれもが高い品質を保っており、アーティストとして全幅の信頼を寄せる。本作の「The Incredible Adventures Of Captain P」名義は彼がかつて2010年にFred P.名義でリリースしたアルバム名であったものが、ここではプロジェクト名へと変化している。最早その名義毎に音楽的な差異は無いのではあるが、本人によれば「最も個人的、かつスタイル的に多様なレコードのうちの1つ」だそうで、フロアで用いられるべきダンス・トラックを中心にインタールードも挟んだアルバムとしての豊かさを表現した作品だ。機械的な持続音によってSF映画の始まりのような不安と興奮を掻き立てるような"Entry Point"で始まると、続く"These Times"では早くもキックやパーカッションが端正なリズムを刻んでその中を緩やかに上げ下げするパッドが浮遊しながらFred P.らしい幻惑的なテック・ハウスを聞かせる。"NYC"では一転してぐっとテンポを落としたヒップ・ホップへと変化するが、これにしてもデトロイトらしいスモーキーかつ叙情性があり、勢いのあるアルバムの中でしっとりとした感情を誘う事でアクセントになっている。アルバムの中盤は正にFred P.らしい疾走感溢れるテック・ハウスが並んでおり、硬めのリズムが刺激的で美しいラインを描くパッドに魅了される"All I Want To Say"や、太く重いベースやキックで低重心からぐいぐいと攻め上げる機能的な"Get Ready"など、霧のようなぼやけたシンセが大気に満ちながら幻想的な世界の中を爽快に駆け抜ける。そこから再度2曲のインタールードを挟んで、終盤には波のように揺らぐパッドと端正な4つキックによる爽快さと官能が入り組んだディープーなテック・ハウスの"Escapism"で一気にドラマティックのピークへと達し、最後には全てが終わった後の静けさのみが続く"To Be Continued"によってサントラを思わせる静謐な終わり方を見せる。多くの曲は真夜中のダンス・フロアで機能するのだが、単純なダンス・トラックだけの羅列にはならないストーリー性がアルバムとしての役目を成しており、そして勿論彼らしいアンビエンスやスピリチュアルな要素がふんだんに詰まっている。まだまだFred P.の躍進は一向に止まる事はないだろう。



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| HOUSE12 | 13:00 | comments(0) | - | |
Outro Tempo : Electronic And Contemporary Music From Brazil 1978-1992 (Music From Memory:MFM016)
Outro Tempo Electronic And Contemporary Music From Brazil 1978-1992
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『1978〜1992年のブラジル産電子音楽と現代音楽』という分かり易い直球タイトルのコンピレーションを手掛けたのは、アムステルダムを拠点とし現代バレアリックや失われた遺産の発掘に勤しむMusic From Memoryだ。特定のジャンルで言及される活動ではなく、実験的精神とバレアリックな雰囲気の融和の方向に向かい歴史の狭間に埋もれてしまった良質な音楽の再発見を続ける重要かつ人気レーベルであり、まだ活動期間が長い訳ではないものの間違いない審美眼は信頼の置けるものだ。勿論本作もブラジルをコンセプトにしているからと言って素直なサンバやボサノヴァが収録されている筈もなく、タイトル通りに一般的なブラジルのイメージからは想像も付かない現代電子音楽がこれでもかと紹介されており、ブラジル音楽に対するイメージを一新させる事は間違いない。筆者には当然ながら収録されたアーティストについて全く知識を持ち合わせていないが、しかしだからこそイメージに左右される事なく素直に音そのものを聞き入れる事が出来て、ブラジル音楽の新たな魅力に触れる事が出来た。Piry Reisによる"O Sol Na Janela"は煌めく電子音と爽やかなアコギに色っぽさもある歌が絡むフォーキーな曲で、確かにブラジルの涼風が吹き抜けつつもラウンジ・ミュージック的だ。Nando Carneiroの"G.R.E.S. Luxo Artesanal"は軽快なリズム感や哀愁のアコギからはブラジリアンな要素が発見されるが、そこに入ってくる遊び心もあるような電子音が印象的だ。と思えばFernando Falcaoの"Amanhecer Tabajara (A Alceu Valenca)"は不思議な音色と打楽器を中心とした現代音楽×ミニマルのような作風でジャングルに迷い込んだようなスピリチュアルな雰囲気もあり、Anno Luzによる"Por Que"では無重力なシンセを用いたアンビエントな幕開けから悲哀のピアノやアコギによってぐっと切なさに染まっていく情緒的な響きもあり、電子音楽のユニークさとブラジルの空気が見事に一つとなっている。その他にもバンジョーを用いてエキゾチック感を含ませつつカリンバやハープ等の多くの生楽器を用いて瞑想へと誘うニューエイジ風の"Gestos De Equilibrio"、そして世界各地の民族楽器の人力演奏によって15分にも及ぶ大地との交信を図ったかのようなサイケデリックかつサウダージなワールド・ミュージックの"Corpo Do Vento"と、陽気な雰囲気の中にも霊的な世界観さえも持っているのはアマゾンという原始の森があるブラジルだからこそからか。面白いが決して難解ではなく、様々な民族・文化が溶け合ったようなブラジルの混合性があり、そして何よりも馴染みやすいロマンティックな響きがあり、またしてもMusic From Memoryのレーベルカラーを見せ付けた選曲が素晴らしい。



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| ETC(MUSIC)4 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Local Talk 5 1/2 Years Later (EUREKA!:ERKCD-003)
Local Talk 5 1/2 Years Later
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Blazeの大名盤『25 Years Later』からタイトルとジャケットを見事にサンプリングした本作は、スウェーデンのハウス・レーベルでは代表格であるMad Matsらが主宰するLocal Talkの正しく活動5年半を記念したコンピレーションで、実は『25 Years Later』とは特に音楽的な繋がりはない。しかしMatsによればそんな大名盤には色々なハウス・ミュージックが入っているそうで、そんな音楽性をこのコンピレーションで表現したかったそうだ。確かに様々なアーティストの曲が収録されている本作、大胆なジャケットのインパクトに魅了された方は是非この機会に、Local Talkの音源に触れてもきっと損はしないだろう。有名どころではハウスとヒップ・ホップをクロスオーヴァーさせるDJ Spinnaも参加しており、跳ねるリズムと耳に残るしなやかなシンセのメロディーがエレガントに舞う"Tie It Up"を提供しているが、中盤以降の美しいシンセソロの優美さはLocal Talkらしい。フランスの新鋭、Local Talkを始め様々なレーベルから引っ張りだこのS3Aはお得意のサンプリングをフル活用した"Bob Morton Track"を手掛け、荒々しく黒いファンキーさ爆発のモータウン・ハウスは本場USにも全く引けを取らない。その一方でUKはブリストルのSean McCabeが手掛けた"It's My Life (Sean's 6am Dub)"は、かつての西ロンのブロークン・ビーツ隆盛を思い起こさせるような曲で、ざっくりとしかし小気味良いリズムと多層になるエモーショナルなシンセに情熱的な歌を合わせて特に洗練された美しさを放つ。更に異彩を放つのがYoruba RecordsやInnervisionsからヒットを飛ばすToto Chiavettaで、テッキーながらも何処か妖艶で呪術的かつアフロな魅力を秘めた"Approval"はサイケデリック性が抜群だ。その他にもArt Of TonesやMarcel LuneといったLocal Talk組、フランスのディープ・ハウサーであるHugo LX、そして日本からはKyoto Jazz Massiveが強烈なベースが炸裂するブギー・ハウスを提供しており、一口にハウスと言っても実に音楽性豊かに様々な要素がこのアルバムには存在している。ファンクやソウルにジャズ、激しさからメロウまで、Local Talkのハウスはただ単にフロアで踊らせるだけの音楽ではなく、リスニングに耐えうる素質があるのだ。




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| HOUSE12 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2017/6/16 THE OATH -every 3rd friady- @ Oath
青山にあるOathは今では珍しいレジデントパーティーを毎月開催しているクラブ。クラブとしては非常に小規模なもののリーズナブルなエントランスや出入り自由な気軽さ、またその規模以上の音響の良さもあって今では毎週末多くの外人客が訪れる人気の場所になっている。さて、第三金曜を担当しているのが日本において特にシカゴ・ハウス愛を強烈に打ち出したプレイを行うRemiで、その骨太で厳つい音楽を中心としたプレイはファンキーで喧騒としたパーティー感満載だ。そして今回ゲストには意外にもFuture TerrorのメンバーであるHarukaが呼ばれる面白い組み合わせであり、またこのパーティーには何度か参加しているMilkmannもサポートに加わっている。
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| EVENT REPORT6 | 20:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mark Barrott - Music For Presence (International Feel Recordings:IFEEL060)
Mark Barrott - Music For Presence
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モダン・バレアリックの筆頭、享楽的なイメージが先行するイビサの中でもそれとは真逆の平穏な田園地帯が広がるようなイメージを持つInternational Feelは、正に太陽光の降り注ぐ開放的な地中海バレアリックを体現する。そんなレーベルを引率するのがMark Barrottで、既に2枚のアルバムとイビサの空気を取り込んだコンピレーション・アルバム等をリリースしており、新緑が生い茂る自然との調和を目指したようなバレアリック性を開花させている。しかしこの久しぶりとなる新作のEPは侘び寂びのある落ち着いたジャケットからも推測出来る通り、何でも日本の秋の風景や夜をイメージしだそうだ。それは結果的に、今までの作風がカラフルな総天然色の木々に覆われた島のトロピカル感満載だったのに対し、ここでは内省的でより喧騒から離れた寂静の世界のアンビエンスが強く出ている。"Schopenhauer's Garden"は70年台のエレクトロニクスを大胆に用いたジャーマン・プログレかニューエイジのような瞑想的な電子音楽性があるが、そんな中にもギターやサクソフォンの生演奏も導入してリラックスした温かみのある色彩を帯びて、無駄な装飾が省かれた中にも豊かな響きが地平の果まで続いていく。"Emile"でもギターやサクソフォンのプレイヤーを起用しているが、ビートも無くふわふわとした無重力状態の響きは開放的に広がり、夕暮れ時の風景が広がる従来の野外向けなイビサ・バレアリック的である。何処かアジアや日本を感じさせる笛の音が印象的な"Mokusho"、のっそりとしたダウンテンポのビートを刻む中でのどかな笛や電子音が戯れるドリーミーな曲で、桃源郷の世界を散歩するようだ。最後は可愛らしい丸みを帯びた電子音がリフレインして先導する"Lysander"、そこに耽美なピアノやトランペットが控えめに哀愁の感情を吐露するノンビートの曲で、ひっそりと音が消失していき本EPは幕を閉じる。確かに今までのBarrottのイビサ的な作品とは異なり青々しい空や緑の自然といった感覚は後退し、日本や東京の雰囲気であるかはさておき内へ内へと入っていく思慮深さが伝わってくる。勿論International Feelらしい安らぎのフィーリングはあるが、自分の作風を乗り越えていくように進化している点で面白い。



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| HOUSE12 | 11:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
David Alvarado - Machines Can Talk
David Alvarado - Machines Can Talk
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前のアルバムから実に13年ぶり、通算4枚目となるアルバムを完成させたDavid Alvarado。近年はOvum Recordings等から極僅かながらもEPをリリースする程度の活動で日本への来日も過去に一度だけと、少々地味な存在のために注目される事は少ないが、DJ/アーティストとしてもっと評価を受けてもおかしくはない。かつてPeacefrog RecordsやNRK Sound Divisionからリリースしたアルバムは深い残響と弾けるパーカッションが爽快で、ミニマルな展開を軸にしたダビーなテック・ハウスとして実にフロア受けの良い楽曲性があり、また数枚のMIXCDでは前述の音楽性からプログレにデトロイトからソウルフルなハウスまで使い分けてグルーヴィーなプレイを披露している。海外では幾らかは日本よりも評価は高いのだろう、事実彼が手掛けた曲は多くのMIXCDに用いられている。さて、それはさておき久しぶりのアルバムは、どのレーベルに属す事もなく配信のみでリリースされている(極限定でアナログもあったようだが)。その意味ではレーベル性に束縛されずに自身が本当に作りたい音楽であろうと推測出来るが、過去の音楽に比べるとやや変化は感じられる。始まりの"Translat"こそ静謐さが広がるアンビエントかつダビーな音響に、静かな中にも壮大なテック感が感じられるが、続く"Gabriel's Run"も確かに奥深い残響やパーカッシヴなリズムは息衝いているが、ギラギラした上モノはプログレッシヴ・ハウス的にも思われる。颯爽と小気味良いグルーヴに浮遊感があり幻想的な上モノに覆われていく"Hope Between The Lines"はかつての作風にも近く、エモーショナルと言うかドラマティックと言うかスケール感の大きさが際立っている。一方で"Language"はリズム感が平坦に続く展開に、光沢感あるシンセのシーケンスでじわじわと盛り上げていく構成で、流れを適度に抑制しながら持続感を打ち出す事で既存の作風からの変化が汲み取れる。"Machines Can Talk"も同じタイプの曲で快楽的なシンセのフレーズはほぼプログレッシヴ・ハウスであり、重いキックは弾けるパーカッションで揺らすのではなく、耳に残るメロディーで恍惚を誘うタイプだ。そういった点で以前よりも浮遊感や開放感よりもシンセのメロディーや響きに重きが向いているように思われ、また全体的にダビーな残響に頼り過ぎる事なく躍動感を程よくコントールして落ち着いた雰囲気も持たせた点には、ある意味ではアーティストとして丁寧に聞かせるタイプへの成長と捉えられなくもない。ここまで随分と待たされ過ぎた感は否めないが、大人びたDavid Alvaradoの今がここにある。



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| TECHNO13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Shed - The Final Experiment (Monkeytown Records:MTR069CD)
Shed - The Final Experiment
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Ostgut TonやDelsin等からのテクノ、自身で主宰するPower HouseからはWK7やHead High等の変名を用いてブレイク・ビーツを基調にしたレイヴサウンドを披露し、DJではなくライブアクトとして名を馳せるRene Pawlowitz。そこにはデトロイト・テクノからアンビエント、ベース・ミージックからダブ・ステップにドラムン・ベースまで飽くなき欲求の如く様々な音楽を実験的にも取り込み、フロアを震撼させる曲を創り出してきた。元々多くの変名を用いて活動しているだけに作品数も多いのだが、この数年は過去に比べるとやや生産性は鈍っていたように思う。そんなところにShed名義としては5年ぶりに通算4枚目となるアルバム『The Final Experiment』が届けられたのだが、この自身で立ち上げたレーベル名を冠した点からも何か意気込みのようなものは感じられる。ノンビートを軸に壮大なシンセを用いてシネマティックに仕立て上げた"Xtra"からアルバムは始まり、その後の爆発的な展開を予感させる。事実そこに続く"Razor Control"からして撹拌させられるような荒々しいブレイク・ビーツを用いつつ、揺らめくようなスペーシーな上モノが抒情性を発し、この時点で溜まったエネルギーが爆発しそうだ。そしてローリングする厳ついブレイク・ビーツが走る"Outgoing Society"は、しかし一旦勢いを抑えるように穏やかなパッドに包み込まれて、ふわふわと揺らぐような心地良いダンス・トラックだ。アルバムというフォーマットを活かして中間には"Extreme SAT"のようにビートが消え去り、その代わりにIDMを思い起こさせるインテリジェンス・テクノ的な洗練された曲もあり、実に展開にそつがない。そこからも弾けるビートが連打されるツール的な"Flaf2"や、剥き出し感のあるリズムに叩かれながらもデトロイト・テクノ的なエモーション炸裂するシンセが展開する"Taken Effect"など、あの手この手で全く飽きさせる瞬間がない。他にもアンビエントやベース・ミュージックにレイヴ風まで、つまりは既存のShedやHead Highとしての音楽を踏襲するものであり、その意味ではファンが安心して聞けるアルバムになっている。4つ打ちではなく変則的なビートによる揺らぎ、感情を秘めるのではなく前面に押し出したメロディー、肉体を刺激するグルーヴなど、最早Shedの十八番と呼んでもよいくらいだ。しかし様々な名義を持つ彼にとって、WK7やHead HighとこのShedとの違いは一体何処にあるのかという疑問と、また作風がおおよそ確立された事で新鮮味は薄くなってきているのも事実だ。アーティストとして期待しているからこそ、もっと前進出来るのではという思いもある。



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| TECHNO13 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |