Blue Closet - To The Ocean Floor (Mojuba Records:Mojuba 027)
Blue Closet - To The Ocean Floor

毎週毎週大量のEPがリリースされるダンス・ミュージックの業界においてその中から良質な作品を掬い上げるにはそれなりの時間と労力を要すわけだが、しかし特定の質の高いレーベルからリリースされた作品は太鼓判を押されたようなもので、比較的レーベル買いを安心して行う事も出来る。本作はBlue ClosetによるデビューEPで、これでデビューしたばかりなのだからアーティストについての詳細も経歴も何もかも分からないものの、ドイツの深遠なる電子音楽の探求に務めるMojubaからのリリースという事で購入に至った。作風はいかにもMojubaらしいやや謎めきながらもディープでダビーな音響、そしてひんやりとしながらも奥には叙情を隠し持ったような慎み深さもあり、例えばデトロイトの叙情性とも共鳴する(それよりはより洗練されているが)。"To The Ocean Floor"は11分越えの大作で、すっきりと細く軽いビートを刻む4つ打ちが淡々と響きながらも、そこに乗ってくる朧げで幻想的なパッドやヒプノティックなパルスのようなループによって非現実的な夢の世界へと誘われるような、長い時間をかけて意識を融解させて深く溺れさせていく。更に変則的なキックとリバーブを強調したダビーな音響によって奥深さが聞こえる"Dreaming Of Paradise"はこれぞMojubaとでも呼ぶべきディープな美しさが光るダブ・ハウスで、オーロラの如く揺らぐパッドや繊細な電子音響の美しさが素晴らしい。感情を吐き出すような歌がこのレーベルにしては珍しいが、それはテクノ・ソウルを打ち出す事にも貢献している。そしてレーベル主宰者であるDon WilliamsことOracyがリミックスを行った"Dreaming Of Paradise (Oracy's Leaving Eden Dub)"、こちらは原曲から直球ダンスへと作り変えて太いキックがパワフルな4つ打ちだが、圧力はありながらも全体は音の間を活かしたクリアな響きで、軽くダビーさも残しつつ無駄を削ぎ落としながら硬いテクノ仕様となっている。どれもダンスな作風ではあるがじっくりと耳を傾けて、その深遠なる音響に耽溺したくなる音楽で、今後を期待させてくれるアーティストになりそうだ。



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| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Lay-Far - War is Over (In-Beat-Ween Music:NBTWN011S)
Lay-Far - War is Over
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ブロークン・ビーツからフューチャー・ジャズ、ディープ・ハウスからディスコ、ダウンテンポからヒップ・ホップへ、様々な音楽性を匠に操り言葉通りにクロスオーヴァーな音楽性を体現するLay-Farは、今やロシア勢の筆頭格の一人と呼んでも過言ではない程に実力と人気を兼ね備えている。Local TalkやSoundofspeedといった実力派レーベルからのリリースと共に、この日本においても若きパーティー・グループであるEureka!の積極的な後押しもあり正当な評価を獲得しているように思われるが、この3枚目となる2018年リリースのアルバムでその評価は盤石となるに違いない。アルバムの音楽性は前作である『How I Communicate』(過去レビュー)から大きく外れてはいないが、前作がサンプリング性が強かったのに対し本作ではより艶かしい生音も多くなり、これまで以上に多様性がありながらも円熟味という味わいで纏め上げている。始まりはPhil Gerusのローズ・ピアノをフィーチャーした"Sirius Rising"、比較的ハウスマナーに沿った曲ではありローズの耽美な響きが美しく、実に上品かつ優美に舞い踊る。続く"Decentralized Spiritual Autonomy"はダブ・ユニットのRiddim Research Labとの共作で、確かにダブの深くスモーキーな残響とずっしり生っぽく湿っぽいキックを活かした訝しい世界観が広がっている。そしてディスコ・バンドのThe Sunburst BandのシンガーであるPete Simpsonをフィーチャーした"Be The Change"、力強くソウルフルな歌と熱が籠もりファンキーな躍動のあるディスコ・ハウスと、アルバム冒頭3曲からしてLay-Farらしく様々な表情を見せている。"The Pressure"ではデトロイトの鬼才・Reclooseも参加しているが、それは相乗効果となりトリッピーながらも優美な音使いに変化球的にしなやかなブロークン・ビーツを刻んで、本家西ロンのアーティストにも負けず劣らずなリズムへのこだわりも見せる。かと思えばサンプリングを打ち出してややレイヴなブレイク・ビーツ感もある"Market Economy VS Culture (The Year Of The Underdog)"では切り込んでくる小気味良いビートに毒気のあるベースサウンドがB-BOY的だが、アイルランドのシンガーであるStee Downesが参加した"Over"はビートはエレクトロニックながらもそのうっとりと艶を含んだ声もあってネオソウルにも聞こえ非常にエモーショナルだ。曲毎のリズムやメロディーのバリエーションの豊富さはありながら、アルバムとしてそれらはばらばらにならずにLay-Farの洗練されたモダンなダンス・ミュージックとして一つの世界観となっており、表現力に更に磨きをかけている。なお、日本のみでCD化されているがオリジナルの倍近くである15曲収録となっており、アナログよりもCDの方が一層楽しめる事だろう。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Grandbrothers - Open (City Slang:SLANG50126)
Grandbrothers - Open
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2014年のデビュー作である『Ezra EP』(過去レビュー)はGilles Petersonを含む多くのDJに絶賛され、一躍時の人となったGrandbrothers。Erol SarpとLukas Vogelから成るこのデュオはリズミカルなプリペアド・ピアノとクラブ・ミュージック的なプログラミングを武器に、現代音楽やモダン・クラシックを咀嚼したハウス・ミュージック性のある音楽で注目を集めたが、その後のアルバムではそういったクラブ・ミュージック性を排除してよりクラシックな作風へと向かっていた。そして待望の2017年リリースのこの2ndアルバムもやはりというか前作の流れを引き継いで、打楽器的なプリペアド・ピアノや繊細な美しさの光るグランド・ピアノの音色を軸に、前作以上に静けさの間が際立つリスニング志向となっている。アルバムはプログラミングによる打撃音とプリペアド・ピアノの打撃音で幕を開ける"1202"で始まり、早速音の数を絞りながらも重厚感のあるグランド・ピアノが壮大さを演出し、これからのストーリの大きさを予感させるような雰囲気だ。バックにパーカッションが硬いリズムを刻む"Bloodflow"はややエレクトロニカ風でもあるが、ピアノのコードやメロディが重層的に被さってくると途端に悲哀が漂うミニマル性もあるクラシックな響きへと変貌する。"Long Forgotten Future"は比較的電子音が強く現れた曲で、ピアノが連打されながらも引っかかりのあるキックやパーカッションはダンスビートに近く、控えめながらも鈍い電子音が唸っていてピアノの美しさをより際立たせている。その一方で"Honey"ではリズム的なプリペアド・ピアノとメロディー的なグランド・ピアノを対比的に用い、"Alice"では両者が調和するようにそれぞれを異なるメロディーで被せて、ピアノのオーガニックな美しさを印象に刻ませる。アルバムは恐らく多くのファンが期待している通りの、つまりは1stアルバムの延長線上にあるピアノを軸にクラシックや現代音楽にアンビエントといった成分を含んだ音楽であり、ある意味では安心感を覚える。がしかし、1stアルバムの時にも感じたように彼らの音楽は個性的が故に完全に形成されてしまっているため、これから進化する先があるのだろうかという懸念を感じないわけでもない。



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| ETC(MUSIC)4 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
ROTLA - Waves (Inc Mark Barrott & L.U.C.A. Remixes) (Edizioni Mondo:MND009)
ROTLA - Waves (Inc Mark Barrott & L.U.C.A. Remixes)
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Edizioni Mondoというレーベルは公式でもライブラリーミュージックに触発されたと述べており、ハウス・ミュージックの特に有機的な側面やバレアリック性をアピールしながら、リスニング志向の強い音楽性も追求している。そのレーベルからリリースされる作品はどれも注目すべきではあるが、このイタリアのアーティストである
Mario PierroことRaiders Of The Lost ARPによる新作EPは特に目が離せない。ROTLAと言えば過去にはUnderground Resistance一派がリミックスを手掛けた時にも少なからず注目を集めていたが、それもコズミック感溢れるディスコな性質があったからこそURと共鳴する点もあったのだろう。近年はFar Out RecordingsやEdizioni Mondoからの作品を聞く限りではよりバンド風な演奏のあるオーガニックかつバレアリックな方向へと向かっており、最早ダンスでなくとよい聞き込める音楽性を重視しているように思う。その流れは本作でも同様で、タイトル曲の"Waves"はサウダージを匂わせる切ないシンセのメロディーやコードにギターカッティングやベースの生っぽい湿っぽさを合わせ、肩の力が抜けたミッドテンポで緩やかなビートを刻むバレアリック・ディスコは、そのオーガニックな響きも相まって非常に感情性溢れる曲調になっている。揺らぐ波の表面にオレンジ色の光が反射するようなキラキラとした、そんな真夏の夕暮れ時の海辺を換気させる爽やかながもメランコリーに満たされるバレアリック感に、感傷的にならずにはいられない。"Babashh"はInternational Feel、特にMark Barrottの作風を思わせるニュー・エイジ/アンビエント志向な曲で、スローなダウンテンポのビート感に大空をゆったりと広がっていくようなシンセのメロディーやアコースティックギターの朗らかな音色により、オーガニック感も打ち出して自然の中で息衝く。そして本作の目玉はそのMark Barrottがリミックスを行った"Waves (Sketches From An Island Healing Hands Remix)"で、キックレスにビートを削ぎ落としつつ彼らしいネイチャーサウンド宜しくなエキゾチックなパーカッションの響きや咽び泣くようなギターに青々しく爽快な声も加えて、トロピカル感爆発なイビサ・バレアリックへ生まれ変わり完全にBarrott色へと染まった見事なリミックスを披露している。またレーベル・オーナーであるL.U.C.A.(Francesco De Bellis)が手掛けた"Waves (L.u.c.a. Quirky Version)"は逆に原始的なアフロ・リズムが躍動するディスコ・サウンドで、大地と共鳴するような力強いグルーヴとファンキーなギターのうねりに揺さぶられながら、陽気なバレアリック感に包まれるこちらのリミックスも素晴らしい。全曲文句無しの出来でバレアリック好きなら当然必聴なEPだが、もうそろそろアルバムもリリースされる情報もあり、期待は高まるばかりだ。



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| HOUSE14 | 21:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Park Hye Jin - If U Want It (clipp.art:CLIPPV002)
Park Hye Jin - If U Want It
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レコードショップのウェブで試聴をしていると年に数回あるかないかではあっても、驚くべき輝く才能を持ったアーティストに出会う事があり、一聴して耳を惹きつけられてぞっこんになってしまう。この韓国の弱冠24歳のシンガーソングライターでありラッパーでありDJでもあるPark Hye Jinのデビュー作は、正にクラブ・ミュージックという大きな夜空に稀にしかない見つからない新星だ。メルボルンのclipp.artはほぼ毎週新作を出す事を心情としているが、逆にそのスピード感がために基本的には配信でのリリースとなるのだが、そんなレーベルから2018年末に配信された本作はその人気が故に2019年4月にはアナログ化されるという快挙を果たし、Jinに対するアーティストとしての評価が決定付けられたという事でもある。音楽的に何か新しいスタイルであるという事はないが、しかし曲そのものの出来が圧倒的に素晴らしい。ストレンジなシンセの鳴りから始まり、綺麗にトリートメントされたコード展開とすっきり硬めの4つ打ちハウス・グルーヴに入っていく"If U Want It"は、韓国語の歌が艶っぽくそれに合わせて抑えめにエモーショナルなコードで実にモダンな雰囲気を発しており、熱くならずにひんやりクールな感覚ながらも心に訴えかける。耽美なピアノが舞いパーカッシヴなリズムが爽やかなハウスの"ABC"は、英語での甘く誘うような歌が単純な言葉が故に耳に残り、言葉も曲の構成も単純な繰り返しでダンス・ミュージックのツールとしての面でも優れている。また"I Don‘t Care"は語り口調の気怠い歌が印象的で、シンセ・ポップのような可愛らしいシンセのメロディーで始まるが、対してどすどすと骨太なキックを刻みながらやや陰鬱で暗めのコード展開を用いる事で、内向的に心の内に潜っていくようなフロアを意識したディープ・ハウスだ。そしてメランコリーなピアノに揺られ、ロウでざっくりなビート感のヒップ・ホップ色が強い"Call Me"は、そのゆったりとしたテンポも相まって特に胸を締め付ける如く感傷的な曲。どの曲も雰囲気は異なれど彼女自身の歌が感情を吐露しながらとても艶っぽく印象的で、またベースとなる曲自体も時代に左右されないであろう耳を惹き付けるなメロディーやコードがある事で、流行云々の流れに依らずに普遍的な魅力を持つのだ。



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| HOUSE14 | 20:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
John Tejada - Dead Start Program (Kompakt:KOMPAKT CD 141)
John Tejada - Dead Start Program
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LAを拠点にするDJでありドラマーでもあるJohn Tejadaは、USテクノのベテラン勢が制作面で停滞している中でコンスタンスに作品をリリースし、またアシッド・テクノ狂のTin ManやボーカリストのReggie Wattsらとコラボーレーションする事で音楽性の幅を広げたりと、長きに渡り積極的に音楽制作を行う点だけでも十分に評価すべき存在だ。ここ数年はケルンは老舗レーベルのKompaktと関係を築き上げそこからのリリースが続いているが、この2018年の最新作は同レーベルから4枚目のアルバムとなる。Kompaktからのリリースとなって以降はTejadaの多彩な表現力はそのままにポップさやメランコリーといった性質が強く打ち出されていたが、このアルバムではややダンス・フロア寄りのミニマル性も伴う曲調へと戻っており、爆発力や強烈な個性を発するわけではないが多彩性がありながらもベテランらしく手堅く纏めた音楽性はより洗練を極めている。冒頭の"Autoseek"は不整脈のような歪なリズムを刻みややダブ・ステップらしく感じるところもあり、そしてプログレッシヴ・ハウス調な恍惚感あるメロディーにうっとりと陶酔させられる。メロディやコードの妖艶さは"Detector"でも際立っていて、そこに滑らかな4つ打ちのリズムが入ってくれば、機能的かつモダンなテック・ハウスとなる。しかし単純な直球テクノ/ハウスだけにならないのが彼の幅広い音楽活動によるもので、"Sleep Spindle"ではライブ感ある生っぽいブレイク・ビーツを披露したり、"Loss"における金属がひしゃげるような鈍いパーカッションが印象的なダブ・ステップ風など、ここら辺のリズムの豊富さは本人がドラムプレイヤーである事も影響しているのだろう。勿論そんな奇抜な曲だけではなく例えば"The Looping Generation"のようにすっきりと贅肉を削ぎ落としつつ、ミニマルのグルーヴを重視してヒプノティックな旋律のループや中毒的なアシッド・ベースによる恍惚感を打ち出して機能性に溢れたテック・ハウスにおいては、音圧や勢いに頼らずに洗練されたグルーヴを生むTejadaのセンスが現れている。他にもデトロイト・エレクトロのコズミック感にも似た感覚がある鈍いエレクトロの"Telemetry"や、小気味良いブレイク・ビーツにシンセパッドも用いた叙情感溢れるAIテクノ風な"Quipu"など、曲調は様々だがアルバムという枠組みの中でフロアに即したダンス・トラックとして纏まっている。海外ではさておき日本では不遇な程に決して知名度が高くはないのだが、非常に多くの作品を送り出しながらも聞き込める高い水準で毎回アルバムを作っており(だからこそKompkatからリリースされているのだが)、本作も粒揃いという表現が相応しい内容だ。



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| TECHNO14 | 11:59 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2019/5/18 FreedomSunset feat. Mixmaster Morris @ Oppa-la
90年代から長きに渡りアンビエント・シーンで活躍するThe Irresistible ForceことMixmaster Morris。2019年も4月末から日本各地を精力的にツアーとして回っているが、この度湘南を代表するクラブであるOppa-laに久しぶりに登場する。それもなんと湘南の夏の名物パーティーであるSunset Loungeの番外編的なFreedomSunsetに初登場となれば期待せずにはいられないわけだが、その周りを固めるのは過去にもMorrisと共演歴のあるDJ YogurtやRoundhouse等でも活躍するMEGUMILK、また焚火dub主宰のTyme.のshiba@FreedomSunsetをフィーチャーしたライブもありと、色々な音楽を浴びて楽しむ事が出来そうだと非常に楽しみなパーティーだ。
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| EVENT REPORT7 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
The Far Out Monster Disco Orchestra - Black Sun (Far Out Recordings:FARO 202CD)
The Far Out Monster Disco Orchestra - Black Sun
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ブラジリアン・ミュージックのオーソドックス - 例えばジャズやサンバにボサノヴァなど - そしてモダンなダンス・ミュージックまで、過去と未来を紡ぐように展開するFar Out Recordingsは、この類に造詣は無い人にとってもレーベル名は聞いた事がある位に著名な存在だ。そんなレーベルの15周年の活動として2008年頃に始まったプロジェクトがThe Far Out Monster Disco Orchestraで、その中心にいるのがレーベル設立者であるJoe Davis、Incognitoの息子であるDaniel Maunick(=DJ Venom=Dokta Venom)、そしてAzymuthのプロデュースも手掛けるDavid Brinkworthらで、その周りをブラジリアン・ミュージックの実力者が固めるというだけあって音楽的な素養の高さは保証されたプロジェクトだ。2014年には初のアルバムである『The Far Out Monster Disco Orchestra』(過去レビュー)でソウルやディスコにファンクも咀嚼したブラジリアン・ミュージックを豊かに聞かせていたが、それから4年を経て遂に2ndアルバムが完成した。ここでも前述のアーティストが中心となりながら、他にはブラジリアン・ミュージックの女性ボーカリストであるHeidi VogelやAzymuthの元キーボード担当であったJose Roberto BertramiにベーシストのAlex Malheirosなど、その他大勢のアーティストを迎える事でゴージャスな響きを生み音楽に豊かさを込めている。アルバム冒頭の"Step Into My Life"からしてゴージャスで華麗な音が鳴っており、ストリングスやホーン帯も加わった生演奏を主体とした流麗なサウンド、ギターやベースのファンキーな響き、そしてうっとりする程に甘くそしてソウルフルな歌が一つとなり、晴々とした涼風が吹くようなブラジリアン・ディスコだ。"Black Sun"は動きの多く力強いベースや切れのあるギターカッティングがファンキーで、そこに情熱的な歌やコズミックなシンセにサックスやトランペットの豪華な音が加わり、次第に熱量を増して盛り上がっていく。一転して"Flying High"は落ち着いたテンポでしっとりと甘い女性の歌を聞かせるバラード的なディスコで、微睡みを誘う優美なピアノのコードや豊潤な響きのシンセのメロディーを軸にして、胸を締め付ける切なさに満たされる。フェンダー・ローズの繊細で美しいソロから始まる"The Two Of Us"もミッドテンポでしっとり系の曲で、晴れやかで和んだ歌と甘いコーラスに優しいピアノやフェンダー・ローズでメロウネスが込めて、じっくりと甘い世界に浸らせる。アルバム12曲の内5曲はインスト・バージョンなので実質7曲になるが、ノリの良いブギーなダンスからメロウに聞かせる曲までどれも耳に残る魅力的なメロディーや生楽器の富んだ響きが活かされており、流石実力者揃いのバンド・プロジェクトによる本格ディスコだ。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 11:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Luciano - Sequentia Vol.2 (Cadenza:CADENZA 119)
Luciano - Sequentia vol.2

チリアン・ミニマルのLucianoが2018年の夏頃にリリースした『Sequentia Vol.1』(過去レビュー)は、自身で主宰するCadenzaの15周年記念の一環としての作品で、ミニマルを踏襲しながらもLucianoらしいオーガニック性を前面に出しながら繊細さと優美さを兼ね備えた芸術的なダンス・ミュージックだった。Vol.1と冠されていたのでシリーズかとは思い込んでいたがどうやらそれは間違いなく、その続編であるVol.2が2018年12月に配信のみでリリースされている。このシリーズはレーベルインフォによれば一年の各季節に捧げられているとの事で、前作は夏で本作は秋が主題になっており、そのせいかVol.1よりも何となくしみじみとした郷愁を感じられなくもない。本作も大作揃いで冒頭の"Sphere"は15分にも及ぶが一切リズムは入らずに、物悲しい弦楽器らしきリフのループに合わせて悲壮感漂う繊細なピアノが展開する子守唄のような雰囲気の曲だが、Lucianoらしい美しさは光るもののダンス・トラックの快楽的な持続間もなく展開も殆どなくやや冗長ではないだろうか。それに続く"Idilicia"は湿っぽいドラムがジャジーなリズムを刻んでおり、そこに艶のあるエレクトロニックなリフに分厚いシンセが胸を締め付けるように情緒的な旋律を聞かせるメランコリーなダウンテンポで、秋のしんみりとした切ない雰囲気と重ねられる。"Aether"もゆったりと大らかでオーガニックなリズムが入っており、点描のような耽美な電子音の装飾や仄かに温かいシンセのメロディーを音の隙間を活かして用いて、その構成もあって随分と開放感も感じられるオーガニック・バレアリックといった印象を植え付ける。最もLucianoらしいダンス・トラックはスイスのシンガーソングライターであるBastian Bakerをフィーチャーした"My Fantasy"で、情熱的で軽やかなラテン・パーカッションに合わせて感情的な歌やメランコリーなギタフレーズを重ねて、線の細さを活かして優美な装飾のような音響を浮かび上がらせたラテン・ミニマルは機能性と芸術性が両立している。真夜中のパーティーで使える曲は最後の曲位なもので全体としては随分とリスニングに傾倒しているので、やや物足りなさは残るもののそれでもLucianoの芸術性と秋という季節感は伝わってくるので、コンセプト自体は正しく表現されているのだろう。



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Kode9 & Burial - Fabriclive 100 (Fabric:fabric200)
Kode9 & Burial - Fabriclive 100
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ロンドンのクラブ兼レコードレーベルであるFabricが2001年から長きに渡り送り出してきた4つ打ち中心のFabric、そしてブレイク・ビーツ等を中心にしたFabricliveというMIXCDシリーズも、それぞれ丁度100作目をもって完結した。20年近くにも及ぶこれらの作品はクラブ・ミュージックのこの20年の歴史を体験出来ると言っても過言ではないが、その最後の作品もリリース前から話題沸騰。というのもベース・ミュージックやダブ・ステップのパイオニアでもあるKode9、そしてそのミステリアスな存在もあって特別な存在感を放つBurialがDJを担当しているのだから、普段この方面に馴染みの無い人達にとっても興味を惹かれるのは極自然な事だ。特にBurialにとっては販売されるMIXCDとしては初の作品であり、また普段DJを披露する事も無いわけだから、その意味でも非常に特別な作品である。そしてその音楽はある意味では愉快痛快、また一方では支離滅裂で、ダブ・ステップからドラムン・ベースにグライムやジューク、テクノからアシッドにハードコアからエレクトロなどを用い、ジャンルの壁を壊しながら縦横無尽に暴れまくる展開はFabricliveというシリーズを総括しているようでもある。正直二人がどの選曲を担当しどのようにミックスしたのかという事は伝わってこないが、持続性を無視した変幻自在で激しいビートの変遷がただただ衝動的に体を突き動かし、しかし陰鬱でダークな世界観の中にはひっそりとメランコリーが紛れ込んでいる。ちらほらと微細なノイズも聞こえるのはいかにもBurialらしい演出で現実が霞んで消え行くような感覚も覚えるが、獰猛に切り込んでくるレイヴ全開な激しいビートに目を覚ませられ、猥雑とした音楽観を目の前にすれば踊らずにはいられないだろう。特に中盤のレイヴを象徴するハードコア・ジャングル・クラシックの"Drug Me"からどぎついアシッド・トランスの"Black Acid"へと繋がる快楽的なハイエナジーの瞬間は、このMIXCDの中でも最も印象に残る場面だ。半ば理性的な展開も無視した圧倒的な勢いの最後には、何も残らない焼け野原が広がっているようでもあるが、それはFabricシリーズの終焉を迎えた事を示唆する如くでもある。個人的な思いではこのMIXCDを聞いた上で彼らがDJとして来日したとしても恐らく聞きに行く事はない。というのもやはり展開が唐突過ぎてテクノやハウスの永続的に続くグルーヴを感じられないからではあるが、しかしまあ長く続いたMIXCDシリーズの最後に花火を打ち上げる的な派手な作品としては面白いと思う。



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Tracklistは続きで。
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| ETC(MUSIC)4 | 11:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |