2019.08.30 Friday
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2018年には8年ぶりのアルバムとなる『Los Lagos』(過去レビュー)やTerrence Dixonとの共作アルバムもリリースし、また久しぶりの来日ライブも行うなど、 老いてなお盛んに精力的な活動を行うベルリンのThomas Fehlmann。ジャーマン・ニューウェーヴの変異体であるPalais Schaumburgの元メンバーという肩書きから始まり、ベルリンとデトロイトの橋渡しも行いつつThe Orbの片割れとして長く活動も続けるなど、ドイツに於けるダブやアンビエントさえも包括するテクノ音響職人としての才能はトップクラス。そんな精力的な活動の中で2018年3枚目となるアルバムをリリースしていたのだが、本作は1929年のベルリンをテーマにしたドキュメンタリーの為のサウンドトラックだ。1929年は世界恐慌もありドイツ経済が壊滅的な状況になる中で、アドルフ・ヒトラーが政権を握り、その後第二次世界大戦前へと続いていく暗黒の時代、そんな時代を切り取ったドキュメンタリーという事もあり、音楽自体も普段の作風に比べると幾分かどんよりとしており決してクラブでの刺激的な高揚感とはかけ離れている。特にモノクロ映像も用いたドキュメンタリーに意識したのだろうか、音の響きからは色彩感覚が失われダークかつモノトーンな雰囲気が強く表現されている。曲名には各チャプター名とその時のムードを表したであろうタイトルが付けられており、それもあってどの曲もヒスノイズ混じりのダブやドローンの音響を用いたアンビエント性の強い作風はより抽象性を高めて、中にはリズムの入る曲があっても全体的に映像の邪魔をしない高揚感を抑えた曲調になっている。勿論だからといって本作からFehlmannらしさが失われているかと言えばそうではなく、古ぼけたように霞んだ音響にもぬめりのあるダブ音響を披露しミニマルな構成やシャッフル・ビートも織り交ぜて、Fehlmannらしく繊細かつ精密な音響職人らしいこだわりのある音が活きている。シーン毎に曲が並べられているため普通のアルバムに比べると何となく断片的な流れに受け止められるが、映像と合わせて聞いてみると、不安な時代感がより強く伝わってくる音楽性だ。Fehlmannらしい美しい音響がありながら、退廃美的に感じられるダーク・アンビエント。
Check Thomas Fehlmann