2019.10.31 Thursday
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ジャンルの枠にとらわれずエクスペリメンタルとロマンティシズムが交錯するGrowing Bin Records、そのレーベルからのデビュー作『69』(過去レビュー)がニューエイジやアンビエントの方面で称賛を集めたWilson Tanner。メルボルンの新世代を代表するAndras Fox/A.r.t. Wilson名義でも活動するAndrew Wilson、そして同じくオーストラリアのEleventeen Eston名義でもGrowing Binからヒットを放ったJohn Tanner、両者とも幅広い音楽活動をしながらも特にニューエイジやアンビエントにおいて輝く才能を発揮している実力者が組んだこのユニットは、共鳴する両者の音楽性が完全に融合し実験的ではありながらも自然派志向の心地好いアンビエントを奏でていた。あれから3年を経たこの2ndアルバムは1950年代のリバーボートに電子機器を載せてメルボルンの湾で録音したそうで、その意味では前作同様に自然環境にインスパイアされながら音楽にそれを反映させているのだろうが、前作のフラットな快適性よりはやや捻りが加えられ抽象性が高まっている。序盤こそ"My Gull"は牧歌的なピアノコードの奥には微かに鳥の囀りなどのフィールド・レコーディングが配され素朴な世界観があり、静けさの中に神秘的なピアノと存在感のあるウッドベースが響きながら素朴な電子音のメロディーが気怠い空気を生むニューエイジ寄りの"Loch & Key"と、以前の路線に倣った何処までもナチュラル・アンビエントな曲調だ。"Perishable"では穏やかな笛の音色に有機的なギターやベースも加わり、瞑想的なソフトロックかAORといった路線はTannerの音楽性が強いだろうか。しかし12分にも及ぶ"Killcord Pts I-III"から途端にがらっと雰囲気は切り替わり、鈍い電子音によるベースの不穏な動きに不気味なメロディーが先導する緊張感のある曲は、長い構成の中で様々な現代音楽的なミニマルな電子音のループや奇抜な効果音、逆にスピリチュアルで有機的なメロディーも現れ、一切のリズムは入っていないにもかかわらずグルーヴ感と緊張感を伴いながら抽象性の高い展開が持続する。同様に"Idle"も不思議な電子音がSE的に用いられ一般的な曲の構成を成さないものの、途中から入ってくるぼんやりとしたアンビエント的なシンセが何とか牧歌的な雰囲気を保っている。そして湿っぽいウッドベースが前面に出た"Safe. Birds."もパルスのような電子音の反復が続き、そこにローファイな電子音や生っぽい音が入り混じり、瞑想感はありながらもサイケデリックなエクスペリメンタル性が支配するなど、アルバムの曲調は前作の癒やしや快適性だけではなくより前衛的に混沌したニューエイジにまで拡張されている。しかし奇怪な音響を増しながらも、エレクトロニック・アコースティックによるノスタルジーを呼び覚ます心象風景は健在だ。
Check Andras Fox & Eleventeen Eston