BEST OF 2019
今年も一年間当ブログを御覧頂いた読者の皆様、どうもありがとうございました。今年は昨年以上にBandcamp等の配信での購入量が増え、聴き込めていない音源がどんどん溜まっていくなど、もはや配信地獄と化している状況。音楽業界自体が決して栄えているわけではないにも関わらず、配信のおかげでリリースが容易になり世に放たれる音楽の量は増え、素晴らしい音楽に出会える機会は過去以上に思う事も。ただクラブへと足を運ぶとフロアの隙間が大きく寂しい状態だった事も少なくはなく、特に真夜中に出歩いてパーティーへ赴く人が減っているのは、健全なのか活気が無いのか。当ブログの以下に紹介したベストでもテクノ/ハウスは殆どなくリスニング系が中心ではありますが、それでもクラブへ遊びに行った時の高揚感は別物で、パーティーでのDJによる素晴らしい音楽の世界と仲間との出会いはやはり現場に行ってこそだと思います。また来年もパーティーで踊りつつ、引き続き素敵な音楽を紹介出来たらと思います。それでは、来年も良いお年を!
続きを読む >>
| BEST | 09:30 | comments(0) | - | |
Various - 環境音楽 = Kankyō Ongaku (Japanese Ambient, & New Age Music 1980 - 1990) (Light In The Attic:LITA 167)
Various - 環境音楽 = Kankyō Ongaku (Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980 - 1990)
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
これ以上にない位にど直球なタイトル、そして時代のニーズに応えた内容、それこそ日本の1980〜1990年に生まれたアンビエントや環境、そしてニューエイジを編纂した『環境音楽』なるCDでは2枚組のコンピレーション・アルバム。ここ数年日本の過去のハウス・ミュージックが、日本のシティポップが、そして日本のアンビエントやニューエイジが世界的にも見直されている状況で、色々な作品のリイシューやコンピレーションが雨後のタケノコのごとく生まれていたが、その中でも最も発売前から注目を集め集大成とも呼べる作品が本作だ。編集者は現代アンビエントで頭角を現したVisible CloaksのSpencer Doranで、10年以上前に来日した際に日本の音楽に触れてはまっていったようだが、そこら辺の詳細については『日本の「環境音楽」はいかにして発見されたか/Visible CloaksとLight In The Attic』にかなり濃密に記載してあるので是非読んで頂きたい。

さて、Doranによる選択は如何なものかというと、アーティスト単体でリイシューに至っている芦川聡、尾島由郎、久石譲、深町純、小久保隆、日向敏文、イノヤマランド、吉村弘らに加え、環境音楽で名を馳せるパーカッショニストの越智義朗にニューエイジの系譜に名を連ねる伊藤詳、またはジャズ界から鈴木良雄に、そしてYellow Magic Orchestraや細野晴臣まで、特定のジャンルでカテゴライズするには一見幅が広そうでもあるが、収録された曲の雰囲気としての統一感はある。それは特に日本古来の簡素な趣を重要視する侘び寂び的なモノにも感じられ、無駄を回避するミニマリズムなシンプルさや派手さを削ぎ落とした静謐な響きが、それが意図的だったのか分からないにしてもアンビエントやニューエイジという音楽に上手く作用したのだろう。例えば土取利行の"Ishiura (Abridged)"、これが当時ニューエイジと呼ばれていたとは思えない音楽で、サヌカイトという石を用いてぽつんぽつんとした単音の連なりが、間が広がり静けさが強調されたこの曲は今ならばアンビエントになってしまうのだろうか。また芦川による"Still Space"はシンセサイザーを用いているが、極力無駄を排したミニマルな構成によってのんびりとした時間軸が感じられ、さながら色味の失せた水墨画のような風景を喚起させる。また、この手のジャンルにまさか久石の音楽が選択されるとは予想も出来なかったが、"Islander"は彼らしいアンビエントな電子音の響きに有機的で土着的な打楽器を組み合わせ、それをミニマルな現代音楽にも寄せて反復させる展開で、収録されたのも納得させられる。ニューエイジ面が強調された曲であれば、宮下富実夫の"See The Light"や深町の"Breathing New Life"に小久保の"A Dream Sails Out To Sea - Scene 3"辺りが特にそうで、美しく清らかなシンセの響きによってうっとりと甘美な夢の微睡みを誘う音楽はスピリチュアルや癒やし系とも呼ばれてしまう可能性もあるが、俗っぽくはならずにただひたすら心を洗うように静謐な空気に満たされる。アルバムのラストは細野が無印良品のBGMとして制作した温かいシンセが牧歌的で長閑な地平を何処までも広げる"Original BGM"で、今では入手困難なこの曲は店舗の空気に自然と馴染む正に環境音楽、つまりはアンビエント・ミュージックを体現している。一口にアンビエントやニューエイジと言ってもそれぞれの曲にはアーティストの個性もあり、それがCD盤では23曲(アナログでは25曲)も収録されているのだから、このジャンルに初めて手を出す人にとっても本作は非常に役に立つ素晴らしいコンピレーションだ。なお、豪華ブックレット仕様の中にはDoranによる詳細なライナーノーツも記載されており、全て英語だが解説という面からも価値を持っている。惜しむらくは、日本の音楽であるのに日本のレーベルがこういったコンピレーションを誰も手掛けない事である。



Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| ETC(MUSIC)4 | 19:00 | comments(0) | - | |
Waajeed - Detroit Love Vol.3 (Planet E:PEDL003CD)
Waajeed - Detroit Love Vol.3
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
Planet Eと!K7による共同企画、デトロイト・テクノの重鎮であるCarl Craigが世界各地でデトロイトの音楽を体現すべく開催しているパーティー「Detroit Love」を、家でもその雰囲気を体験出来るようにとMIXCDとしてシリーズ化している。第一弾にはデトロイトからSilent PhaseことStacey Pullen、そして第二弾には本人Carl Craigが登場し、この最新作である第三弾は何と全く予想だにしていなかったWaajeedが担当している。元はSlum Villageのメンバーだったそうでデトロイトのヒップ・ホップの界隈で活躍していたようだが、2012年頃に自身で設立したDirt Tech Reckからの近年の作品は完全にハウス化しており、2018年にはPlanet Eからも煙たくもあるソウルフルなテック・ハウスのEPをリリースするなど、ヒップ・ホップからハウスへブラック・ミュージックを繋がりとしながらもスムースな転身を果たし成功している。なのでその意味ではこのシリーズに選抜されたのも意外でも何でもなく、現在デトロイトで特に旬なアーティストを起用したのであり、先ず話題性からして十分だろう。では果たしてDJとしての手腕はどうだろうかというところだが、これが実に手堅く癖の少ない滑らかな流れのハウス中心とした選曲で、ベテラン的というか横綱相撲というか安定感のあるミックスだ。始まりはキリッとしたハウスビートと陽気なシンセに気持ち昂ぶる"We Out Chea"からすっきりしたバウンス感はありながらもムーディーなパッドが伸びるディープ・ハウスの"Higher"、そしてデトロイト産の凛とした煌めきのある繊細なソウルフル・ハウスの"Coffee Room"から同じくデトロイト系の耽美なピアノと望郷の感情を呼び覚ますパッドが絡むディープ・ハウスな"The Detroit Upright"と、幕を開けてから暫くは心地好いハウスのグルーヴが疾走りながらも落ち着きもある非常にムーディーな展開。中盤に入っても激しく上げるような事もせずに、滑らかな4つ打ちのグルーヴ感を持続させテッキーな上モノからソウルフルな歌を活かしたりとハウスというスタイルを軸に振れ幅を展開しつつ、しかしフラットな感覚が快適だ。そこから土着的なパーカッションがエキゾチックなトライバル・ハウスの"Mermaid Blues"、ブロークン・ビーツ風な角張ったリズムがしなやかに跳ねる"Overbite"、更に鋭いリズムがヒップ・ホップ的ながらも浮遊感もある"Minimariddim"と、その辺りはリズムに変化をもたせる事で一辺倒な流れにならない工夫も見受けられる。そして再度フラットで浮遊感のあるディープ・ハウスやぐっと大地を踏みしめる力強いハウスへと戻り、陽気なファンキーさやデトロイトの叙情性といった要素を丁寧に聞かせて、全体を通して大人びた余裕のある流れがしっとりとしたミックスとなっている。クラブのパーティーの雰囲気を再現したというシリーズにしてはおとなしいのでは?と感じるが、激しく揉まれるダンスフロアではなく和やかで笑顔が溢れる賑やかなダンス・パーティーといった雰囲気があり、だからこそホームリスニングとしても空間に馴染む丁寧なミックスとなっている。大胆に揺さぶりをかける展開は少ないが、タイムレスなハウス・ミュージックの魅力が詰まっている。



Check Waajeed

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Space Dimension Controller - Love Beyond The Intersect (R & S Records:RS 1916)
Space Dimension Controller - Love Beyond The Intersect
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
音楽はただ音楽そのものが良ければそれでよいとも思う一方、信条やポリティカルを内包する事もあり、または音楽で物語を演出する場合もある。そしてJack HamillことSpace Dimension Controllerは音楽でサイエンス・フィクションや銀河の旅を語るアーティストであり、Hamillの分身であるMr.8040が24世紀から現代にタイムスリップし故郷へと帰還する話を題材としたのが、2013年作のデビューアルバムであった『Welcome To Mikrosector-50』(過去レビュー)だ。その後、2016年には2枚めとなるアルバムの『Orange Melamine』(過去レビュー)をリリースしたが、こちらはデビュー前に作られた未発表音源かつNinja Tuneからの作品という事もあり、SDCの本筋からはややずれた内容であった。そして2019年、遂にR&Sへと帰還してリリースされたこの最新アルバムは、デビューアルバム路線の銀河での冒険をコンセプトにしており、Mr.8040が宇宙空間で座礁し奇妙な惑星に衝突した事からその未知なる土地に降り立ち…という話を基に音楽が作られている。また、これまでにリリースされたEPでは基本的にはSFの世界観はありつつもフロアを意識したダンス・トラックが中心だったが、やはりアルバムでは完全に世界観を重視してエレクトロにシンセ・ファンクやシンセ・ポップにアンビエントといった要素をブレンドしながらじっくりと聞かせて想像力を喚起させる内容で、それによって壮大な宇宙やレトロフューチャーに遭遇する事になる。宇宙絵巻の始まりは抽象的なドローンだけによる"Burnout (Dawn)"で静謐なアンビエントがこれから待ち受ける冒険を予感させ、続く"PVLN"ではネオンライトのような光沢感を放つシンセやエレクトロのベース、そしてボコーダーを通した語りを用いてデトロイト・テクノの望郷を感じる空気にも似たエモーショナル性も携えたテクノとなり、宇宙や近未来の風景が浮かび上がってくる。続く"Voices Lost To Empty Space"では軽快で小刻みなビートによって加速しつつ、幻想的なパッドや情緒的なシンセの旋律と共にブイブイとしたベースがファンクを奏でて、シンセ・ファンクによってうっとりロマンティックな世界観を投影する。未知なる土地での孤独を表現したような淋しげで淡いシンセが広がるアンビエント・ハウス調の"Alone In An Unknown Sector"、ここでもMr.8040やロボットによる語りが入る事でSFの雰囲気を纏い、アルバム中盤にはインタールード的な"Intersect Encounter"でノンビート状態にドローンが覆いコズミックなシンセが散りばめられれファンタジーな景色が広がる。デトロイト・テクノと共鳴する望郷への思いが馳せるような感情を呼び起こすしっとりダウンテンポな"Gifted Sentience"、アシッド風なシンセベースが強調されロボットボイスが喋り近未来の風景を映し出す"Slowtime In Reflection"、そして最後は感動的なエンディングを演出する切ないゆっくりとしたシンセポップの"Love Beyond The Intersect"で、Mr.8040は不時着した惑星から遂に脱出しメランコリーな感情のままフェードアウトしながら消えていく。物語仕立てのコンセプチュアルなアルバムはとてもロマンティックで美しく、以前よりもアンビエント性が強まりリスニング志向が更に進んでいるが、これはアルバムとEPで音楽性を分ける事が上手く作用している一例だろう。音楽自体が素晴らしいのは当然として、そこに付随するストーリー性も音の響きと実にマッチしており、宇宙空間を支配するアーティスト名は伊達ではない。



Check Space Dimension Controller
| TECHNO14 | 12:30 | comments(0) | - | |
Yutaka Hirose - Soundscape 2: Nova + 4 (We Release Whatever The Fuck We Want Records:WRWTFWW028CD)
Yutaka Hirose - Nova + 4 (Extended Version)
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
現在の世界的なジャパニーズ・アンビエントやニューエイジの再評価を著者がその当時に予見していたかまでは知る由もないが、2013年発刊の『Obscure Sound : Chee Shimizu (著)』(過去レビュー)には既にここ数年でリイシューされた前述のムーブメントに関わる重要な作品が掲載されており、結果的には筆者の審美眼は正しかった事を証明している。そして本作もその本に掲載された一枚でリイシューされる事が判明してからは話題となっていた重要作、それこそ広瀬豊による1986年制作の『Nova』だ。ミサワホーム総合研究所が住宅展示場で流す音楽として、日常住む上での快適な空間演出の為にと立ち上げた「Soundscape」シリーズの2作目であり、アンビエント/ミニマル/コンテンポラリーミュージックを含むサウンド・デザイン。本作制作時に広瀬が聞いていた音楽は当時のアンビエントの指標ともなったBrian Enoよりは、Obscure RecordsのDavid ToopやGavin Bryars、またはTangerine DreamやFaustらのジャーマン・プログレ、そしてECM等だったそうで、少なからずそれらから影響を受けた本作はフィールド・レコーディングやサンプリングを駆使しながらも確かに一言で環境音楽とだけで呼ぶ事は出来ない。水滴の落ちる音から始まる"Nova"、川のせせらぎや虫の鳴き声や透明感のあるシンプルなピアノやチャイムも加わると、鍾乳洞の空間が眼前に広がるサウンド・スケープを描き出しエレクトロニクスと自然の融合を果たす。"Slow Sky"も鳥の囀りの虫の鳴き声といったフィールド・レコーディングを用い、しかし音自体はスムースに繋がっていくのではなく点描のように散らばせながら、透明感のある単音として一つ一つの音が綺麗に主張するようだ。森の中で営まれる虫の生命の音から始まり、現代音楽のミニマリズム的なシンプルなシンセやチャイムの反復を行う"In The Afternoon"は長閑な田舎風景が想起され、間を活かした音の構造によってそこにイメージの膨らみを持たせるのだろう。水の流れる音が強調された"Humming The Sea"はピュアながらも何だか可愛らしく思われる電子音の反復に懐かしい子供時代のノスタルジーが感じられ、海で波と戯れる子供の姿が浮かんでくる。そして最後の"Epilogue"はアルバムのコンセプトである「自然音を用いたサウンドスケープ」に基づいた曲で、最初に自然音のサンプリングを組み立てそこにアコースティック/電子音を重ねていくという他の曲とは逆の工程で作られているが、これは最も雰囲気としてはアンビエント的であるだろう。そして今回の再発で特筆すべきは、『Nova』と同時期に制作された未発表音源が収録されている事で、4曲で約50分の長尺なアンビエントは『Nova』の打ち込み制作から自らの演奏に変える事で、メロディーやコードの制約から解放され音を追加しては消去し、音の彫刻を行っていくように制作されたと言う。その結果、より抽象性を増して空間に溶けて馴染んでいくようなサウンド・スケープやアンビエントのとしての性質は強くなっているように思われるが、また一方で寺院や仏閣の中で鳴っているような非日常の神秘性も獲得している。オリジナル音源、そして未発表音源どちらも正に言葉通りのSoundscapeで、イメージ力を沸かせる快適なBGMとなる。



Check Yutaka Hirose
| ETC(MUSIC)4 | 17:00 | comments(0) | - | |
Andres - D.ATLien EP (NDATL Muzik:NDATL 021)
Andres - D.ATLien EP

ここ数年暫くは自身で立ち上げたLa VidaからのEP作が続いていたヒップ・ホップとハウスをクロスオーバーするデトロイトのAndres。2019年にも新しいEPと、そしてMahogani Musicから待望のアルバムがリリースされているが、その前に2018年暮れにリリースされた本作も素晴らしいので、随分とレビューが遅れてしまったものの漏れずに紹介したい。こちらはKai Alceが主宰するNDATL Muzikからのリリースとやや意外ではあるものの、それもあってかいつものヒップ・ホップを下地にしたハウスではなく、キューバのパーカッショニストでありラテン・ミュージシャンである父のHumberto "Nengue" Hernandezの影響を受けたのだろうか、ラテンやアフロの陽気なグルーヴが炸裂するハウスを前面に出した異色な内容だ。A面の「Latin Side」の"Ensolardo (Sunny)"は燦々とした太陽光が降り注ぐ屋外の雰囲気のブラジリアン・ハウスで、激しくも爽快で跳ねるようなラテン・パーカッションの力強いグルーヴ感と情熱的な女性の声に先導され、ジャズやファンクを思わせる管楽器やキーボードの生々しいメロディーが色彩豊かに彩り、その音楽によって大勢の人達が踊り狂い全身で喜びを表現しているような風景が浮かび上がる圧倒的に楽天的な雰囲気だ。そして細かく歯切れの良いコンガのパーカッション乱れ打ちビートから始まる"Cafe Con Leche"はそこからブロークン・ビーツ風に鋭くもしなやかなリズムを叩き出し、優美なエレピやスペーシーなキーボードの甘くも艶のある響きがフュージョン的でもあり、クラブ・ジャズとの親和性の高さを伺わせるモダン性がある。B面の「Northwest Side」へと移るとこちらはいつものAndresといった音楽性で、"D-Town Connection"はデトロイトというモーターシティーのディープ・ハウスで、生っぽいざらつきのある歯切れ良いハウスのグルーヴにムードのある管楽器や艶めかしいシンセによって落ち着きながらも燻したような湿っぽさを感じさせる。そしてざっくりラフなヒップ・ホップ感のあるリズムが切れる"I Can't Hear You"は彼らしいサンプリング重視なファンキーなハウスで、軽く跳ねるようなグルーヴとブギーな煌めきや芳醇さのあるシンセが陽気で、古典な佇まいを纏った作風だ。"Come 2 Me (Instrumental)"はMoodymannのアルバムに収録された曲のインストバージョンで、色っぽくも卑猥な歌が削除されてヒップ・ホップとディープ・ハウスが溶けあった粘り強いグルーヴ感が強調されて聞こえる。とまれA面いつものビートダウンやヒップ・ホップを元にした曲と比べると、本作では随分と陽気かつ開放的でエネルギッシュな勢いがあるが、やはりサンプリングをベースにしたファンキーかつソウルフルな作風はこれぞAndresでファンであれば当然買いな内容である。



Check Andres
| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Moodymann - Sinner (KDJ:KDJ 48)
Moodymann - Sinner
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
2018年にリリースが予定されていたKenny Dixon Jr.ことMoodymannの『Untitled LP』は極少数が本人周辺のみに配布され、結局は公式リリースはお蔵入りとなりファンをやきもきさせていたのはもう一年も前の事。そんなファンのがっかりした気持ちを埋めるように突如として2019年の夏頃にリリースされた本作は、アナログでは2枚組ながらも5曲のみとミニアルバム的な扱いの新作で、『Untitled LP』とは全くの別物だ。量的な面からは一見物足りなさを感じる事は否定出来ないが、逆に一曲一曲の濃密なブラックネス溢れるハウス・ミュージックを聞けば、十分にファンの期待に応えた内容である事を理解するに違いない。"I'll Provide"は典型的なMoodymannの曲で、彼らしい霞んでがやがやとした呟き風のボーカルを披露しつつ、生ドラムだろうか湿ったキックの生き生きとしたドライブ感や艶めかしく臨場感のあるベースラインが蠢いて時折ギターが咆哮するこの曲は、サイケデリック性と妖艶さが入り組んだブラック・ハウスだ。"I Think Of Saturday"は更に跳ねたキックやスネアが躍動感のあるビートを刻んでいるが、すかすかの骨組みだけの構成の中をMoodymannの感情を吐露するような霞んだ歌がソウルフルながらも侘びしくもあり、しかし途中にがらっと変容するブレイクも織り交ぜてフロアで機能するダンス・トラック性も兼ね備えている。やけにセクシーな歌から始まる"If I Gave U My Love"はディスコが根底にありながらも淀んだというかくぐもった音響で、ゴスペルを思わせるオルガンと生ドラムの湿っぽさが燻るようなソウルを鳴らし、悲しく泣くようなエレピも加わって、これもMoodymannの古典的な作風に当てはまる。そしてテンポを落とした"Deeper Shadow"はディープ・ハウスにも近いが、R&Bの色っぽいソウル性やヒップ・ホップのざっくりとしたリズム等の要素も織り交ぜ、更にテンポを遅くしたラフな響きのリズムがヒップ・ホップ調の"Sinnerman"では、ソウルフルで官能的な女性の歌に合わせてファンキーながらも酩酊したギターや甘美なキーボードを合わせて、本作の中で最も艶かながらもエモーショナルな世界観を見せる。単なるDJトラックではないバンドが織り成すようなライブ感ある曲調、しかしフロアでもファンを沸かせるダンストラックとしての質を伴い、ファンクやソウルにディスコといった音楽性がサイケデリックに混じり合うアルバムは、素晴らしいが故にこんなボリュームでは余計に物足りないと渇望してしまう程だ。尚、デジタル版では以前のEPに収録されていた"I Got Werk"のライブバージョンや"Got Me Coming Back Rite Now"等追加曲があり、あれだけヴァイナルラブでデジタルへの嫌悪を示していたMoodymannにしては、随分とデジタルに対しサービス精神旺盛なのも、これも時代という事なのだろう。



Check Moodymann
| HOUSE14 | 11:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Takayuki Shiraishi - Missing Link (Studio Mule:Studio Mule 22)
Takayuki Shiraishi - Missing Link
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)

世界的な和モノの再発見・再評価の動きの中でそれに追随するMule Musiq傘下のStudio Muleから、まさかの全く予想だにしていなかった白石隆之の埋もれた作品が発掘された(この経緯は実は白石が過去に組んでいた「BGM」というユニットのアルバムのリイシューをStudio Muleが考えていたが、契約の問題で難航していて、それならばと白石の未発表曲をリリースする事になったようだ。尚、本作の後結果的には「BGM」のアルバムも同レーベルよりリイシューされている)。本人の説明では1987年から数年の間に作られた作品を纏めたようで、内容は完全なダンスでもなくしかし現在の電子音楽へと繋がっていくようなエクスペリメンタルやアンビエントの音楽性も伝わってきて、まだ初期衝動が残るテクノのプロトタイプ的な印象も受けるユニークな音楽だ。電子音楽やデトロイト・テクノに触発されてダンス・ミュージックへと没入した白石だが、本人の説明では元々ポストパンク/ニューウェーブに触発されて音楽活動を始めながらもその衰退を目にしつつ、新しい音楽であるテクノ/ハウス/エレクトロといった新しい音楽と出会いがこの作品に影響しているようで、ポストパンク/ニューウェーブの残香も含まれている点が30年も前の音楽ながらもより一層個性的な印象を植え付けるように思われる。当方も白石のファンで過去リリースされた多くの作品を所持しつつ、今でも気長に新作がリリースされるのを待つような人間なのだが、そんなファンにとってはこれはもう完全に新作と受け止めても問題は無いだろう。"Dark Sea"はタイトルがそのまま音を表し、どんよりと淀んで薄暗い海を漂流するようなエレクトロニカと呼べばよいか、今風に言うならば冷えた温度感のダークウェイヴだろう。パンキッシュなリズムが躍動感を生む"Eardrum"は、金属的でマシーナリーなパーカッションが刺激的な一方でジャーマン・プログレ風なコズミックなシンセが伸びるサイケデリック性があり、アルバムの中でもダンス性が強い。ノンビートの"Blue Hour"はアンビエントの体を成しているが、パルス風のヒプノティックな電子音が重力によって吸い寄せるような引力を感じ、決して軽々しくはないどころかどんよりとした重厚感が満ちている。やはりローファイながらもアナログ感覚のシンセがトリップ感に繋がっている"Dynamo No.2"は、リズムも崩れている事でアブストラクトな雰囲気へと繋がっており、90〜00年代のブレイク・ビーツやエレクトロニカの先駆けと言ってもあながち間違いではない筈だ。または金属的な響きのダビーな残響が奥深い空間演出となり、インダストリアルを思わせるようなダークなシンセが振動する"Dance In The Fog"は荒廃して凍てついた感覚があり、ニューウェーブの残像を見せる退廃的な電子音楽だ。途中で再度ぼやけたような持続音とディレイの効いたシンセが抽象的なイメージを作るアンビエント成分もある"360°"を通過し、最後はアタック感の強いスネアやキックを用いながらもスローモーなビートで粘性の高さを演出した"Gray Shadows"で、どろどろとした融解していくような酩酊感のある曲でこれまでの全てが消失する如く綺麗にすっきり切れよく終わりを迎える。作り込まれた作品ではない点が原始的でもあり、しかし完全なテクノ/ハウスに振り切れる前のニューウェーブからの影響を残した手探りな雰囲気が、逆に折衷主義的な音楽性へと繋がり今という時代の中で面白く聞こえるのはたまたまだろうか。勿論その後のアブストラクトなディープ・ハウスへと繋がっていく要素も散見され、白石隆之の情緒深くも渋い世界観は十分に堪能出来るだろう。



Check Takayuki Shiraishi
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Basso - Proper Sunburn - Forgotten Sunscreen Applied By Basso (Music For Dreams:ZZZCD0124)
Basso - Proper Sunburn - Forgotten Sunscreen Applied By Basso
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
デンマークきってのバレアリック・レーベルであるMusic For Dreamsが2017年から新たに立ち上げたシリーズであるThe Serious Collector Seriesは、ミックスではなく敢えて繋がないコンピレーションとしてDJがジャンルに執着せずに良質な音楽を提供するという趣旨が感じられる内容で、今までにWolf MullerことJan SchulteとMoonbootsが広義の意味でレフトフィールド/バレアリックな音楽性を披露している。その最新作を担当するのは今をときめくレーベルであるGrowing Bin Recordsの主宰者であるBassoで、このレーベル自体がジャズやフュージョンにクラウトロック、ニューエイジやバレアリックにアンビエントと軽々とジャンルを越えていくレーベルだからこそ、このシリーズにBassoが抜擢されたのは極自然な事だろう。これまでのシリーズ以上に自由奔放で一見纏まりがないようにも思われる選曲なアルバムは、Hans Hassによる1974年作の"Welche Farbe Hat Der Wind"で始まる。フォーキーな響きながらもメロウでポップなこの曲はシュラーガーと呼ばれるジャンルに属すようで、日本風に言えば演歌?みたいなものなのだろうか、実に人情味があり古臭くはあるが妙に懐かしさが込み上げる。そこに続くはDJ Foodの"The Dawn"といきなりトリップ・ホップに変わるが、柔らかいタブラと朗らかなシンセが清涼に響き穏やかなアンビエントの情景が浮かび上がる。3曲目はRVDSの"Minuet de Vampire"と2016年作で新しい音源も選ばれており、ロウなリズムマシンやアシッドの響きがありながらも内なる精神世界を覗くような瞑想系テクノは、アルバムの流れを崩さない。そこに繋がるのは現在のニューエイジにもリンクするHorizontの1986年作の"Light Of Darkness"で、弦楽器らしき音がオリエンタル感を奏でつつも神秘的なシンセが厳かな世界観に包む美しい一曲。中盤には情熱的なギターと乾いたパーカッションが心地好いラテン・ジャズの"Nosso Destino"、朗らかな笛の音色が爽快なパーカッションが地中海のリゾート地を思わせる甘美なジャズ・フレーバーの強い"Tempo 100"と、メロウなムードを打ち出してぐっと色気を増す。後半は再度エレクトロニック度を強めてヒップ・ホップやシンセ・ポップも織り交ぜつつ、終盤にはGhiaの快楽的なシンセベースやセクシーな歌や電子音が甘美さに溶けてしまうようなシンセ・ポップの"You Won't Sleep On My Pillow"が待ち受けており、最後のJean-Philippe Rykiel‎による"Fair Light"でスペイシーなシンセが歌いまくり楽園ムードが広がる牧歌的なインストで、心は晴ればとしながら穏やかな終着を迎える。それぞれの曲はコレクションとしての価値も高いのだろうが、それ以上に普段は全く聞かないようなジャンルの音楽なのに探究心を駆り立てる魅力があり、こういったコンピレーションがリスナーを新たな方面へ手を差し伸べる意味において価値のある内容だ。勿論ニューエイジやバレアリックの流れでも適合し、今という時代にぴったりとハマるジャストなコンピレーションだ。



Check Basso

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| ETC(MUSIC)4 | 07:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Fabrice Lig - That Blue Synth EP (R-Time Records:RTM010)
Fabrice Lig - That Blue Synth EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

テクノの聖地とまで崇められたデトロイトが、しかし今ではハウス・ミュージックはそうではなくとも特にテクノはかつての影響力は身を潜め、やや停滞期が続いているのは否定出来ない。その一方でそこから影響を受けた外部のテクノ勢は逆に精力的な活動を行っており、例えばベルギー屈指のデトロイト信者であるFabrice Ligも90年代半ばから複数の名義を用いて活動し、VersatileやF CommunicationsにR&S等のヨーロッパの著名なレーベル、Subject DetroitやPlanet EにKMSといったデトロイトのレーベルから大量の作品をリリースしてきた、強烈なデトロイト・フォロワーなアーティストの一人だ。本作はRekids傘下のR-Time Recordsからのリリースで、レーベル自体が名作のリイシューに力を入れている事もあり、ここに収録された曲も今の時代の新作ではなく20年間保管されていた未発表曲を引っ張り出したとの事。遂に日の目を見る曲はLigに期待するエモーショナルなシンセが爆発しヨーロッパから解釈したデトロイト的なコズミック感満載のテクノで、何故に今まで世に出なかったかが不思議な程の質だ。特に突出しているのは"The Meeting"だろう、9分にも及ぶ長尺ながらもビートは走らずに徹頭徹尾溜め感が続くのだが、少しずつ変化を見せるファンクネス溢れるシンセのラインが先導しながらそこにギャラクティックなパッドが覆いかぶさりながら壮大な宇宙空間を描き出す。アシッド・サウンドも飛び出して快楽性を煽りつつ、徐々にシンセのメロディーは生命が宿ったかのように暴れだして、ゆっくりとしたスピード感ながらも壮大な宇宙空間を旅するような感動的な曲だ。2015年録音の"Nebula 101"の奇妙なシンセの音色が効いた跳ね感のあるテクノもこれぞLigといった趣きで、荒々しいハイハットやキックのリズムは跳ねながらも微妙に変化していくシンセのミニマルな構成はツール性が強く、しかし何か金属が捻れるような音使いが独特で非常にファンキーなデトロイト影響下にある事を認識させられる。そしてよりツールに特化した1995年録音の"Noise's Revolt"は流石に活動の初期の頃だけあってまだまだ荒削りで初々しさも残るが、TR-909の安っぽくも生々しいリズムも相まって初期衝動のような勢いがあり、エグくシンセのミニマルなフレーズによって攻撃的な一面を見せる。それぞれ時代が異なる事もあり方向性の異なる曲が並んでいるが、どれも未発表にしておくにはもったいない位の良質なテクノで、ファンク×ミニマル×エモーショナルな音楽を十分に体験出来るだろう。



Check Fabrice Lig
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |