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所謂ベテラン達が新作をなかなかリリースしない事もあり業界的にはかつての求心力を失いつつあるテクノの聖地とまで呼ばれたデトロイトだが、だからといってデトロイト・テクノの魅力が失われたわけでもなく、例えばここ日本は福岡のレーベルであるBlue Arts Musicはその音楽の復権を後押しするように、積極的にデトロイトに関連する音楽のリリースをしている。2019年の上半期にはデトロイト第二世代の中でも特に美しいアンビエント性を武器とするJohn Beltranのアルバム『Hallo Androiden』
(過去レビュー)をリリースし、そのアーティストにとっても第二の春を迎える如く素晴らしい音楽を知らしめたが、2019年末もレーベルの勢い止まずBeltranのコンピレーション・アルバムをリリースしている。00年代初期から2019年のEP、またはコンピレーション・アルバムからの曲を集めたタイトル通りの内容で、その間にはややオーガニックな路線へ向かったり迷走していた感も無かったわけではないが、ここでは比較的フロアに根ざしたビートを刻むテクノ寄りの曲を纏めており、その意味では初期の幻想的なアンビエントとしなやかなリズムを刻むテクノが一体となった彼の十八番とも呼べる作風が発揮されている。冒頭の"Israel"は2016年作、全盛期の作風が戻ってきた頃の曲で、ざくざくとやや生っぽいリズムは刻むもののダンスフロアに根ざしており、そこにぼやけた水彩画の色彩のような幻想的なパッドを重ねて、アンビエンスな感覚もある叙情的というかエモーショナル性で包み込んでいくドラマティックな曲だ。続く"Norita"も同じように滲んだようなシンセや美しいストリングスを用いているが、チャカポコした抜けの良いパーカッションが爽快なビートを叩き出し、一時期Beltranが傾倒していたラテンな感覚もある。Indioでリリースされた"Winter Long"は爽快なラテン・パーカッションとブレイク・ビーツ風のリズムが力強く躍動するダンス・トラックだが、そこに物哀しいメロディーが加わってくると途端に情緒的なアンビエント性も出てくるなど、このダンスとリスニングのバランス感覚は流石だろう。"Safardic"も跳ねるような4つ打ちを終始刻みつつ夢のような幻想的な上モノで覆い尽くして甘い世界観のテクノながらも、中盤のブレイクを挟んでからはデトロイト・テクノお約束のシンセストリングスの感情的な旋律が浮かび上がり、これでもかと切ない心情を刺激するエモーショナル過ぎる一曲だ。流石にEP等から選りすぐりの曲が纏められているだけあり、捨て曲は皆無でこれ以上ない位にBeltranの素朴でセンチメンタルなテクノ×アンビエントを体験出来るアルバムとなっており、まだBeltranを見知らぬ人にとっても是非ともとお薦め出来るアルバムだ。
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John Beltran