2020.07.30 Thursday
Amazonで詳しく見る(アナログ盤) Amazonで詳しく見る(MP3)
アンビエントやバレアリックは今こそ最盛期と言わんばかりの状況ながらも、そのムーブメントが少なからず秘蔵音源や過去のリイシューにも依存している点は否めない。そういった掘り起こしは再評価という点においては有用だが、より重要なのはやはり新しく生まれる音楽で、そんなムーブメントの流れに乗って本作のようにいつの間にか存在感を示すアーティストも稀にだがいる。ロンドンのネットラジオ局・NTS Radioの番組の一つであるLast Resortは、2017年からはレーベルとしても活動をし始め、その第一弾に抜擢されていたのがこのG.S. Schrayだ。Schrayはオハイオ州アクロンのギタリストで、分かる範囲では2012年にアルバムデビューを果たし、それ以降はbandcampで散発的に作品をリリースしていたようだが、2017年には前述のようにLast Resortから『Gabriel』をリリースし、そしてそれに続くアルバムが本作だ。レーベル紹介ではThe Durutti Columnを引き合いに出しているが、それも納得な淡い水墨画を描くような残響を活かしたギターサウンドがSchrayの特徴のようで、アンビエント/バレアリックの流れで紹介するものの豊潤さを削ぎ落とした素朴な響きが彼の持ち味だろう。水滴が落ちてゆっくりと波紋が広がるようなピアノと空気に溶け込んでいくようなドライなギターが静けさに美を込める"Gabriel At The Prewindow"は、飾り気を削ぎ落とした茶の侘び寂びの美意識にも似た世界観と呼べばよいだろうか。乾いたドラムがリズムを刻む"District Lizards"はリバーブの効いた重層的なギターによって幻想的な響きを作り、そこに透明感のある純朴なシンセも加わって感情を高ぶらせる事はないが落ち着いたメランコリーが通底する。"In Unsmiling Homage"では簡素な響きのドラムはもはやダブ的で、咽び泣くような質素で感傷的なギターもあって何だか空虚な気持ちに染まってしまう。"The Cruel Psychic"も音の数は少ないながらも残響を用いたギターが空間の奥行きを演出しつつ、そこに静謐なシンセストリングスも加わり夢のようにうっとりと陶酔した甘いアンビエンスを聞かせるが、派手さを削ぎ落とした美しさに俗物的な印象は全く無く何処までも孤独で隠遁としている。最後の"Several Wrong Places"は艶のありながら無機的なシンセが前面に出ており何だかジャーマン・プログレの無意味な楽天的なムードが感じられ、そこに乾いたギターが被さる事で牧歌的な穏やかさも加わり、自然志向なアンビエントかニューエイジかといった趣きでアルバムの中では随分とオプティミスティックである。とは言えども全体としては質素さを追求し飾り気の無い静謐な美しさを表現しており、それは例えばECMが提唱する静けさに存在する美とも共鳴するもので、アンビエントのファンだけでなくジャズやコンテンポラリー・ミュージックの方向にも訴求出来る普遍的な音楽性を兼ねている。
Check G.S. Schray