G.S. Schray - First Appearance (Last Resort:LR003)
G.S. Schray - First Appearance
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アンビエントやバレアリックは今こそ最盛期と言わんばかりの状況ながらも、そのムーブメントが少なからず秘蔵音源や過去のリイシューにも依存している点は否めない。そういった掘り起こしは再評価という点においては有用だが、より重要なのはやはり新しく生まれる音楽で、そんなムーブメントの流れに乗って本作のようにいつの間にか存在感を示すアーティストも稀にだがいる。ロンドンのネットラジオ局・NTS Radioの番組の一つであるLast Resortは、2017年からはレーベルとしても活動をし始め、その第一弾に抜擢されていたのがこのG.S. Schrayだ。Schrayはオハイオ州アクロンのギタリストで、分かる範囲では2012年にアルバムデビューを果たし、それ以降はbandcampで散発的に作品をリリースしていたようだが、2017年には前述のようにLast Resortから『Gabriel』をリリースし、そしてそれに続くアルバムが本作だ。レーベル紹介ではThe Durutti Columnを引き合いに出しているが、それも納得な淡い水墨画を描くような残響を活かしたギターサウンドがSchrayの特徴のようで、アンビエント/バレアリックの流れで紹介するものの豊潤さを削ぎ落とした素朴な響きが彼の持ち味だろう。水滴が落ちてゆっくりと波紋が広がるようなピアノと空気に溶け込んでいくようなドライなギターが静けさに美を込める"Gabriel At The Prewindow"は、飾り気を削ぎ落とした茶の侘び寂びの美意識にも似た世界観と呼べばよいだろうか。乾いたドラムがリズムを刻む"District Lizards"はリバーブの効いた重層的なギターによって幻想的な響きを作り、そこに透明感のある純朴なシンセも加わって感情を高ぶらせる事はないが落ち着いたメランコリーが通底する。"In Unsmiling Homage"では簡素な響きのドラムはもはやダブ的で、咽び泣くような質素で感傷的なギターもあって何だか空虚な気持ちに染まってしまう。"The Cruel Psychic"も音の数は少ないながらも残響を用いたギターが空間の奥行きを演出しつつ、そこに静謐なシンセストリングスも加わり夢のようにうっとりと陶酔した甘いアンビエンスを聞かせるが、派手さを削ぎ落とした美しさに俗物的な印象は全く無く何処までも孤独で隠遁としている。最後の"Several Wrong Places"は艶のありながら無機的なシンセが前面に出ており何だかジャーマン・プログレの無意味な楽天的なムードが感じられ、そこに乾いたギターが被さる事で牧歌的な穏やかさも加わり、自然志向なアンビエントかニューエイジかといった趣きでアルバムの中では随分とオプティミスティックである。とは言えども全体としては質素さを追求し飾り気の無い静謐な美しさを表現しており、それは例えばECMが提唱する静けさに存在する美とも共鳴するもので、アンビエントのファンだけでなくジャズやコンテンポラリー・ミュージックの方向にも訴求出来る普遍的な音楽性を兼ねている。



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| ETC(MUSIC)5 | 18:30 | comments(0) | - | |
Joris Voorn - \\\\ (Four) (Spectrum:SPCTRM004CD)
Joris Voorn - (Four)
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3枚目のアルバムであった2014年作『Nobody Knows』(過去レビュー)から2019年時点で早5年、オランダ随一のテクノ・アーティストであるJoris Voornがそのタイトルまんまに4枚目のアルバムを送り出した。その間にもこの名義やまた別のDark Science名義も合わせて複数のEPをリリースしていたのでそれ程には待った感は無かったものの、前作においてメランコリーではあるが極端にリスニングへと傾倒していた事もあって、新しいアルバムへは期待と不安が入り乱れて待たされていた。前のアルバムではフロアでの鳴りを前提としたEPとは異なりアーティストとしての懐の深さを見せ付けるように、メロウなリスニング性を深堀りしそれはそれでVoornの表現力を褒め称えるべきだったのだが、ファンが期待する方向性とはやや乖離があったのも事実だ。しかし本作は蓋を開けてみればメランコリーなムードはそのままに再びダンスへの回帰も見受けられ、一大絵巻のように壮大な世界観で展開しながら、今までの集大成的にも思われる完成度を誇っている。本人の話では「ここ数年の音楽の旅を反映したもので、自分の音楽の原点を探り、新たな境地を切り開いた」との事で、テクノにハウスやトランスにブレイク・ビーツやダウンテンポなど色々と取り組みながらも、メランコリーかつドリーミーなムードで統一されてVoornのメロディー・センスが遺憾なく発揮されている。幻想的なシンセのレイヤーと可愛らしい鍵盤のメロディーが一つとなりながら、ビートを適度に抑えながらじわじわと高揚感を増していく冒頭の"Never"から圧倒的な叙情性に飲み込まれ、続く"District Seven (Broken Mix)"ではブレイク・ビーツを用いて腰に来るグルーヴを作りつつ、壮大なスケール感を持つプログレッシヴ・ハウス調のゴージャスなシンセで覆い尽くし、メランコリーな大河に飲み込まれる。先行EPの一つである"Ryo"はヒット作の"Ringo"を思い起こさせる物憂げなテクノで、美しくも消え入るようなシンセのリフレインとオーロラのようなパッドによってこれでもかと涙を誘うサウダージなテック・ハウスは、滑らかなグルーヴを刻みながら何処までも感動の高みに連れて行く。また"Polydub"では妖しくも美しいピアノのメロディーやシンセループを重層的に活かして、ミニマルなディープ・ハウス調に毒気のある妖艶さを放ち、アルバムに持続性をもたらしている。そして特筆すべきは本作では強烈な個性を持つアーティストをフィーチャーしており、"Too Little Too Late"ではUnderworldを共作に迎えているが、元となる艷やかなテック・ハウス調の曲にKarl Hydeの機械的で淡々とした歌が加わる事でニューウェーブ調へと染まり、予想外に相性の良さを発見する事だろう。そしてロンドンのトリップホップ・ユニットであるHaelosをフィーチャーした"Messiah"は、分厚く豊かなシンセのリフレインと揺れるブレイク・ビーツを用いて何処か90年代的な懐かしい感覚を持つが、ソウルフルなのにトランシーな快楽性が今風だろうか。そして終盤にはピアニストのMichiel Borstlapを迎えた"Blanky"で、哀しみにも近い切ないピアノが清らかに挿入されたドリーミーなダウンテンポを展開し、終わりへと向かう如くテンションを落ち着かせてアルバムは穏やかに幕を閉じていく。想定していた以上にダンス性を増しながらも全体としてはシンセのメロディーやコードを尊重し、アルバムらしく様々なスタイルを披露しながらもある一つの統一感を持っている。それは、幻想の濃霧が立ち込める如くメランコリーなムードであり、ともすれば装飾過剰な音楽になってしまいそうなぎりぎりのラインを保ちながらも、アルバムは感動的なまでの壮大な流れで聞く者を魅了するだろう。



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| TECHNO15 | 12:00 | comments(0) | - | |
Jazz N Palms - Jazz N Palms 01 (Jazz N Palms:JNP01)
Jazz N Palms - Jazz N Palms 01

突如届いたJazz N Palmsなるプロジェクトの一枚のEPが、しかし何も情報が無いにもかかわらず一回試聴しただけで耳を魅了し、即座に購入を決意させられてしまった。レコードの盤面にもクレジットも無いため全くこのプロジェクトについて分からないのだが、ウェブに散見される情報を集めた限りでは、イビサのPikes Hotelで開催されているRonnie Scott'sのライブ公演のウォームアップを務めているようで、Hell Yeah Recordings等からも作品をリリースするRiccioが絡んでいるようだ。ラテンやファンクにロックが一つとなった音楽は正にフュージョンで、イビサの自然溢れる長閑で穏やかな日常を映し出しているような、リゾート感がありながらも享楽とは無縁な大人びた音楽は注目の的だ。出だしの"Coastal Highways"はスティールパンの優しく爽やかな響きが行きたジャズ・フュージョンで、軽やかにスウィングするリズムに哀愁のなギターや艶めかしいベースなど生音中心に、徐々に感情の昂ぶりを誘うように熱狂的な流れも見せる。"Going East"は躍動するオルガンとムーディーなギターカッティングを軸に、ラテンなグルーヴで飲み込んでいく情熱的なジャズ・ファンクで、ホテルのラウンジで客もフロアで踊り出す光景を換気させる。バレアリック側からお勧めなのは"Chira"だろうか、軽いパーカッションを用いた緩やかなリズムに透明感のあるシンセやエレピを重ねて優雅さを演出しており、青空の下で長閑な海原の航海へと出発するようなイージーリスニングで快適さは抜群。アフロ・キューバンな"1492"は大胆に静と動が切り替わり躍動するドラム・パーカッションが印象的で、そこに艷やかなギターや官能的な管楽器が彩っていく熱量の高い情熱的な曲で、特にライブ感溢れる一曲だろう。それに対し"St. Martin"はフラメンコ・ギターが清涼感いっぱいに響き渡り、爽快で軽く疾走するドラムのリズムも相まって、開放感溢れる屋外で太陽を全身で浴びるような喜びに満ち溢れている。僅か6曲、全く未知のアーティストのEPながらもその存在感とインパクトは十分で、ホテルのプールサイドで演奏されたものが発展したこのEPは確かにトロピカルでラグジュアリーでもあり、イビサの京楽的なクラブからは離れたまた異なるイビサの一面を映し出している。とても素晴らしいEPなのだが、ヴァイナルオンリーであるので気になる人は早めに入手を。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 10:00 | comments(0) | - | |
Kaito - Nokton (Cosmic Signature:CSCD1001)
Kaito - Nokton
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2019年4月、突如としてHiroshi Watanabeがbandcamp上でKaito名義による『Nokton Vol.1』を発表した。2013年の4枚目のアルバムである『Until The End Of Time』(過去レビュー)以降、Kaitoの目立った活動はなかったのだが、見えない所でギタリストやベーシストをフィーチャーしたKaitoの本来は5枚目となるアルバムは制作中とは伺っていたので、スケジュールとは異なり『Nokton Vol.1』が配信された時にはやや驚きもあった。実はその予定されたアルバム制作中にある大きな出来事が発生した事で制作を止める事となり、しかし再度歩みを始めるべく新たに取り掛かって生まれたのが前述の『Nokton Vol.1』であり、それを更に展開しアルバムとして纏めたのがこのCDである。夜の風景、夜のドライブをイメージしたという本作は、基本的にはYAMAHA reface CSというシンセにフィルターを施しながらシンプルに制作されているそうで、今までのダンスの前提があるテクノという音楽や何度も構成を積み重ねるよう作られた曲調とも異なり、飾り気がなくある意味では非常に泥臭い本作はより一層喜怒哀楽という感情が渦巻く衝動的な音楽になっている。全編ビートレスでほぼ前述のシンセのループとインプロビゼーションによる手弾きで構成されていると思われるが、逆に一つの楽器を舐め尽くすようにいじり倒した事でWatanabe氏の激情が溢れ出る作品となったのだ。冒頭の"The NeverEnding Dream"から既に激しい慟哭をあげるようにトランス感にも近いシンセが唸りを上げて、活を入れ衝動に突き動かされるように脈動するシンセが歌っている。続く"Passing Through Darkness"は例えばkaitoのビートレス・アルバムにも見受けられるように、しんみりと切ない気持ちを投影したシンセが淡い水彩画を描くように広がり、前述の激しさとは逆に心の平穏を誘うように優しさに包み込む。一方で"Follow Me"は比較的整然とした流れのあるコード展開のループを用いているが、そこに悲しみにも近いシンセの装飾を重ねて、穏やかさを保ちながらも自己の内面へ意識を向けさせる深さがある。全体的にはやや内向的な印象の強いアルバムだが、"Become You Yourself"はそんな中でも喜びに満ち溢れて外へ外へと飛び出していこうとするポジティブな心情が感じられ、澄み切った青空の下でシンセが喜々として踊っているような、いやもしリズムが入っていれば以前の情熱的なテクノを体現するKaitoそのものだ。全てがビートレスという構成なので昨今の流行りのアンビエント・スタイルと予想する人もいるかもしれないが、全くそんな事はないどころか表面的にリズムは無くとも強いうねりのような躍動は感じられ、寧ろ込められた感情が魂の源泉からどくどくと溢れ出す如く非常に熱量の高い作風は、以前にも増してマシンソウルを体現している。今までのダンスの枠組みに沿ったKaitoのアルバムから一歩踏み出して、やりたいようにやった本作は丸裸のKaitoであり、だからこそ一層Watanabe氏に潜む感情性が実直に感じられるのだ。



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| TECHNO15 | 17:30 | comments(0) | - | |
Planetary Assault Systems - Plantae (Ostgut Ton:o-ton123)
Planetary Assault Systems - Plantae
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UKにおいてツール性の強いファンキーかつハードなテクノを90年代から開拓し続けてきたLuke Slaterは、現在ではベルリンはテクノの中心であるBerghainに於いても活動し、同クラブが主宰するレーベルのOstgut TonからはPlanetary Assault Systems名義でこの10年で3枚のアルバムをリリースしている。幅の広さを持つSlater名義よりはPASでは直球ダンスフロア寄りでツール度と強度を高めたミニマルなテクノを突き詰めており、硬派なBerghainとの親和性が良いのだろうが、それにしてもBerghainでの経験に影響されたという本作が繰り広げる世界は真っ暗闇の中に狂乱が吹き荒れるダンスフロアそのもので、その場所を体験した事のない者にさえ現場を風景を想起させるようだ。2019年の初頭には自身のMote Evolverから『Straight Shooting』(過去レビュー)をリリースしていたが、本作もほぼその路線の踏襲で、全てがフロアのひりつよくような緊張感と膨張するエネルギーが込められている。"Red"は不気味なボイスサンプルとパルスのような電子音のループが印象的で、感情を排したように冷たいマシングルーヴが淡々としたグルーヴを作っており、単純なループと音の抜き差しで展開を作る構成はDJツールそのものだ。"Whip It Good"の緊張感と溢れるエナジーは目を見張るものがあり、スリージーなハイハットの連打やアシッド風な覚醒感溢れるループ、シャリシャリした金属的なパーカッションなどが現れては消えてを繰り返し、ひたすら猪突猛進な怒涛のグルーヴ感に踊らない事は許されない。それに比べると"Kamani"は音の密度は低く線の細いパーカッシヴなリズムが引っ張っていくが、金属が擦れるような電子音や催眠的な上モノのループによって、大きな揺さぶりをかける事なくじんわりと引っ張っていく構成もミックスの中でこそ映える曲だろう。"Mugwort"は近年のJeff Mills風のスペーシーなミニマルで、浮遊感のある揺らぐ上モノのループと上げもしない下げもしない正確な4つ打ちで、終始淡々とした流れから永遠かのような持続感を生み出している。怒涛のハードな要素だけでなくファンキーさアンビエンスもありベテランらしい深みのあるテクノだが、どれも徹底的に機械的で熱を感じさせない冷えたテクノはこの蒸し暑い夏の温度感さえ下げるようで、言葉通りにクールなDJツールとなってフロアに響き渡るに違いない。



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| TECHNO15 | 12:00 | comments(0) | - | |
Santiago Salazar - Cloud Iridescence LP (Not On Label)
Santiago Salazar - Cloud Iridescence LP

停滞と言っては失礼かもしれないが、テクノやハウスの歴史の中で燦然と輝く経歴を持つレジェンド達が一向に新作をリリースせず、そういった大き過ぎる存在の穴を埋める存在がなかなか現れてこないデトロイト。勿論新世代が全く台頭していないわけではなく、例えばUnderground Resistance一派に属しLos Hermanosの一員でもあったチカーノ系のSantiago Salazarは、グループを離脱してからはツール向けのテクノ寄りなHistoria y Violenciaを設立したり、そしてデトロイト外のレーベルからも積極的に作品をリリースし、その活動の幅を広めている。2019年にはデトロイト・マナーに沿ったアルバム『The Night Owl』(過去レビュー)もリリースしていたが、それから間を空けずにリリースされたのが本作のミニアルバム。Bandcamp上でのみの販売でセルフリリースとなるが、僅か6曲ながらもバラエティーに富んだ構成でデトロイトという音楽をベースにしながらも、それだけに収束しないようにと発展も目指しているように感じられる。ビートレス状態を1分程持続させアンビエントなコードで始まる"1"は、途中からダウンテンポなリズムも入ってきてコズミックな電子音も絡めながらも、終始ドリーミーな瞑想を続けるかのような内向的な曲だ。"2"では浮遊感のあるパッドと華麗なシンセが絡み合いながら、ハイハットを強調した疾走感のある4つ打ちも加わり、壮大な叙情性と吹き抜ける爽快感のあるテック・ハウスで、古典的ではあるがファンが望むであろう作風だろう。"4"はつんのめって野蛮なリズムは土着的で、そこにコズミックなシンセのループを用いてスペーシーに展開するが、これにはLos Hermanosの残像が見受けられる。更には朧気なギターも用いてサイケデリックなローファイ・ハウスに仕上げた"5"、コズミックに躍動するシンセにスウィングするジャズ・ドラムを合わせた艷やかなフュージョン風の"6"など、アルバムの世界観としては確かにデトロイトらしさがありながらも曲それぞれは異なる魅力を持っている。相変わらず流行とは無縁な、それどころか古典的でさえもあるが、得てしてデトロイト・テクノとはそういうものだしファンが期待するものだろう。



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| TECHNO15 | 11:30 | comments(0) | - | |
Fred P. - Reaching For The Stars (Neroli:NERO 046)
Fred P - Reaching For The Stars

イタリアのNeroliはハウスを基軸にしつつブロークン・ビーツやネオソウルにテクノまで、いうなればクロスオーバーな音楽性を2000年代序盤から先取りしているレーベルで、エレクトロニックとオーガニックを匠に共存させながら非常に優雅な世界観を持っている。多種多様なアーティストがカタログに名を連ねており、非常に豊かな音楽性を持っているが、しかしまさかUSの人気絶頂にあるテック・ハウサーのBlack Jazz ConsortiumやFP-Onerなど複数の名義を持つFred.Pがそこに加わるとは、予想だに出来なかった。確かにFred P.は深遠なるディープ・ハウスから壮大なテック・ハウスに、またはジャジーな要素に瞑想的なアンビエントまで正にクロスオーバーという点においてはNeroliとの親和性が無いわけではないのだが、それでも同レーベルの他のアーティストに比べるとやはりテクノ/ハウス色が強く毛並みが違っていたように思われる。しかしそこは流石Fred P.でNeroliというレーベルを意識した作風でレーベルカラーに寄せてきたEPになっており、DJとしての腕は勿論作曲者としても非常に優れた才能を発揮している。タイトル曲の"Reaching For The Stars"は正にタイトル通りに星へと接近するような叙情的なテック・ハウスで、幻想的なパッドを配した上に踊るように躍動する流麗なシンセソロを被せて宇宙の中に溶けてしまうようなドリーミーさがあるが、しかしリズムは崩れたブロークン・ビーツでしやかに疾走感のあるグルーヴを生み出しており、ハイテック・フュージョンと呼びたくなるフロアでも圧倒的な感動を呼び起こす曲だ。"Moonlight"の方がよりレーベルカラーを表現しており、生音風のドラムマシンによるジャズ調のリズムを下地に耽美で繊細なエレピと流麗なストリングスを用いて、迫力のあるビート感を叩き出しつつも非常に優雅なアンビエンスで包み込むなど、過去の『Sound Destination』(過去レビュー)上にある作風だ。"Riverside Drive"も非4つ打ちのブロークン・ビーツ寄りだがそれよりは荒々しく太いグルーヴ感があり、なのに上モノはエモーショナルなパッドと優美なピアノが溶け合うようにアンビエンスを作り出しており、激しさと静謐さという対照的な性質が同居している。"Moonlight"と同様に"New Ways"もレーベルカラーに寄せた作風で、生音強めでざっくりジャジーなリズムにエレピを大胆に用いたメロウかつエモーショナルな曲はフュージョン・ハウスと呼ぶべきか、DJツールではなくただ単一の曲としても魅力を発揮する。Neroliというレーベルのクロスオーバーな雰囲気を尊重しつつ、Fred P.らしくフロアに寄り添いつつエモーショナル性があり、相変わらずの安定感で見事な一枚だ。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 12:00 | comments(0) | - | |
Ken Ishii - Mobius Strip (U/M/A/A:UMA-9130~9132)
Ken Ishii - Mobius Strip
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「東洋のテクノ・ゴッド」と呼んでしまうのも流石に恥ずかしくなってきてしまうが、しかしこの自信に満ち溢れた最新作を聞くと、彼がテクノへの愛を持ちテクノの力を信じているであろうと伝わってきて、やはりテクノ・ゴッドらしい風格を持っているのだなと感じずにはいられない。本人名義では2006年の『Sunriser』以来13年ぶりとなるアルバムをリリースしたKen Ishiiは、周知の通り世界を股にかけるDJでもあり、ダンスフロアの感覚も熟知しているプロフェッショナルだ。当然EPではダンスフロアのトレンドも意識したダンストラックを制作するのだが、しかしアルバムはトレンドにおおよそ左右されずに、いやそれどころか古さを残しながらも今まで培ってきたテクノという畑をより豊かに耕したようにカラフルさもあり、Ishiiというアーティスト性を素直に出し切った感さえもある。冒頭の"Bells of New Life"でいきなり独特のレーザーのようなシンセサウンドを煌めかせながらポジティブな空気に包んでいくテクノは未来的で、途中には過去にも見られたピッチベンドによる変化で魅了する技も披露し、何だか懐かしく感じられるがこれがIshiiの音なのだ。本作では彼が尊敬するデトロイトの重鎮であるJeff Millsとの念願のコラボレーションも果たしており、その内の一曲である"Take No Prisoners (Album Mix)"ではMillsらしいファンキーなリズムを生み出すTR-909のグルーヴが、Ishiiのダークで退廃的な電子音と絡んで、両者の個性がはっきりと感じられながらもフロアを強襲するパワフルなDJツールと化している。一方、もう一つの共作である"Quantum Teleportation"は近年のMillsらしい抽象的なアンビエンスから宇宙空間が創生されるようなビートレスな曲なのだが、そのまま混沌としたまま終わりへ向かうかと思いきや、ハイハットが粛々とリズムを刻み初めIshiiのレーザー光線のようなシンセが広大な空間の遠くまで伸びていくようにドラマティックな流れを作る。またIshiiから強い影響を受けたというDosemとの共作である"Green Flash (Album Mix)"は、実にDosemらしいトランシーというかデトロイト風というかメロディアスな響きが魅力的で、ハードで厳ついリズムトラックを下地に幻想的な風景が広がっていく叙情的なこの曲は、新旧世代が手を組んで最高の相性を見せている。そして日本からはかつてハードテクノ方面で活躍し現在はサウンド・デザイナーとして活動しているそうなGo Hiyamaも参加しているのだが、"Silent Disorder"ではビートや構成を壊すようにテクノを逸脱するエクスペリメンタルな方向性を見せ、しかし例えばIshiiの初期作風の奇妙な電子音楽を思い起こさせたりもする。アルバムは自分が好きなものを好きなようにやったと言うだけあり、ダンスからリスニングにエクスペリメンタルと幅広い間口を持った内容で、長い経験に裏打ちされた揺るぎないテクノだ。そして最後にはタイトル通りに美しい風景に叙情性が爆発する"Like A Star At Dawn"、何処かオリエンタルな雰囲気を持ち希望を高らかに謳い上げるこの曲は、アルバムの最後を飾るに相応しく、新旧のファンも納得するであろう名曲だ。流行でもない、単なるダンストラックでもない、時代の影響を受けずに存在し続けるアルバムだと主張するようなこの音楽は、テクノ・ゴッドのKen Ishiiという個性そのものだ。

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| TECHNO15 | 18:30 | comments(0) | - | |
Gonno & Nick Hoppner - Lost (Ostgut Ton:O-TON 124)
Gonno & Nick Hoppner - Lost
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2016年の初コラボレーション作である『Fantastic Planet』(過去レビュー)で互いの魅力を損なわずに相乗効果として作用させ、最高の相性を見せたGonnoとNick Hoppner。コラボレーションという行為が時として単に注目を集めるだけ企画となり、期待外れの結果となる事は少なくないが、彼等があれから3年を経て再度のコラボレーションを果たす事は当然それだけの充実した手応えを感じていたに違いない。前作ではハードウェアを用いた素朴な質感でディープ・ハウスにブレイク・ビーツやバレアリックといった要素を曲毎に表現し、かつDJツールの機能性も意識した上でメロディアスな彼等の特徴を活かした曲調で、二人の融合が確かに感じられていた。そして新作も大きな路線変更は無いのだが、しかし12分にも及ぶ"Bangalore"は特にダンストラックとして眼を見張る素晴らしい曲だ。長い尺の中で色々な展開があるのだが、始まりはテケテケとしパーカッションが鳴る中にぼんやりとした鐘のような音が瞑想的で、少しずつ美しいシンセのレイヤーとダビーな電子音響が現れてくるとキックも4つ打ちを刻み始めて、疾走感を得たダンストラックの構成へと遷移する。コズミックなメロディーが叙情性を発しつつも、重層的なフレーズが奥深さと複雑さとなり、色々な時間帯で予測不可能な構成変化を見せてドラマティックに盛り上がっていく。削ぎ落とすのではなく逆に様々な音が付け加えられ華麗に装飾されていくような曲は、だからといってけばけばしくなるのではなく綺麗さを保ち、終盤では微かにアシッド・サウンドもトリッピーな効果音として用いられて、12分にも渡るこの曲は鬱蒼とした闇を振り払うかのような希望を掴むような世界観がある。B面の2曲の方はより前作の路線に近いだろうか、ねっとりとしたブレイク・ビーツ風のダウンビートの"Love Lost"は浮遊感のあるシンセコードにヒプノティックなメロディーを掛け合わせてディープかつサイケデリックな音像を生み出して、ゆっくりとしたテンポだからこそじわじわと深く沈み込んでいくようだ。対して"Start Trying"はアップテンポで意気揚々と跳ねるリズム感で、そこに美しく透明感のあるシンセを伸ばして飛翔するような浮遊感を得るテックハウス調の曲で、輝かしい光に包まれ如くポジティブなダンスフロアの空気が封入されている。どれも前作以上にフロアを意識しながらも、GonnoとHoppnerのメロディアスな旋律やリズムの豊かさが発揮されたテクノ/ハウスで、期待に応えてくれた素晴らしいEP。この流れで是非ともアルバムもと欲張りな期待を抱いてしまう。



Check Gonno & Nick Hoppner
| TECHNO14 | 20:00 | comments(0) | - | |
Jonny Nash / Suzanne Kraft - Framed Space : Selected Works 2014 - 2017 (Melody As Truth:MAT12)
Jonny Nash  Suzanne Kraft - Framed Space Selected Works 2014 - 2017
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2000年代にニュー・ディスコの流れにも呼応していた日本のコズミックなバンドのDiscossessionの一員でもあったJonny Nashは、その後拠点をアムステルダムに移しLand Of LightやGaussian CurveにSombrero Galaxyといった複数のユニットでの活動によりダンス・ミュージックの枠組みを越えてニューエイジやアンビエントへと接近し、その自身の音楽性を表現する場として2014年にMelody As Truthを設立している。レーベル初期の活動は自身の作品と共に、ロサンゼルス出身でアムステルダム在住のDiego HerreraことSuzanne Kraftの作品で占められており、2013年の邂逅以降互いの音楽性に共感した彼等は2020年の現在に至るまで度々コラボレーションも果たすなど、音楽的な相性の良さは言うまでもないだろう。両者のバイオグラフィーについてはライナーノーツに詳細が記載されているので、是非本作を購入した後に読んで頂きたいが、さてこのアルバムはそんなレーベルにとっての第一章を締め括るような内容だ(2017年以降レーベルはニューカマーも送り出している)。Nash側からは『Phantom Actors』と『Exit Strategies』に『Eden』(過去レビュー)、Kraft側からは『Talk From Home』と『What You Get For Being Young』(過去レビュー)からそれぞれ選りすぐられ、かつ未発表曲も加えたMATの初期のマイルストーン的な内容で、現在再評価が著しいアンビエント/ニューエイジにおいても現在形のという意味で非常に重要なコンピレーションだ。二人の静けさが生み出す抒情的な美しさや淀みの無い牧歌的なムードなど音楽性に大きな乖離があるわけではないが、ギタリストでもあるNashはやはりギターサウンドが主張しており、Kraftの音楽は曲によってはクラブミュージック的なリズムも聞こえたりと、本作ではそれぞれの個性も聴き比べする事が可能だ。初期のNashの音楽は特に美しく、透明感のあるシンセのレイヤーとゆっくりと滴るように静謐なピアノを用いた"A Shallow Space"は後半では遠くで響くようなギターもゆったりと広がっていき、ここではない何処かへと連れて行く牧歌的なアンビエントにいきなり魅了される。時代によって音楽性にも変化はあり、ギターのコードとレイヤーを前面に打ち出して有機的な音色を強調した"Exit One"はコンテンポラリー・ミュージックとでも呼べばよいだろうか、気負わずに肩の力が抜けてリラックスした気分に心が落ち着く。そしてバリ島での録音に至った頃の曲である"Conversations With Mike"ではツィターやガムランのベルも用いられ、より深い木々が茂る自然世界から発せられるスピリチュアルなムードも強くなる事でニューエイジへと傾倒している。対してKraftは"Two Chord Wake"ではヒップホップ調のリズムと共に水彩画のような淡い響きが美しくあるが、メランコリーでありながら大空の下で陽気に戯れるような、ダンス・ミュージックの影響を残す曲調もある。勿論"Flatiron"のように胸を締め付けるような切ないギターと微かに響く繊細でジャジーなリズムで、内省的でしっとりとした抒情に染める曲もあれば、朧気なドローンによって抽象性を高めながらも生っぽいベースやギターがオーガニックな温かみを生む"Body Heat"など、静謐なアンビエントやニュー・エイジを軸に電子音とオーガニックを共存させて、深く深く内なる精神世界への瞑想へと誘うようだ。それぞれ元々はアナログで販売されていたものが、このようにCDで編纂されて纏めて聞く事でMATというレーベルの方向性を理解出来る点でも価値あるものだが、それを抜きにしても二人の静けさの間から生まれる素朴な美的感覚の魅力は昨今のアンビエントの中でも群を抜いている。



Check Jonny Nash & Suzanne Kraft
| ETC(MUSIC)5 | 18:00 | comments(0) | - | |