Mirko Loko - Detroit Love Vol.4 (Planet E:PEDL004CD)
Mirko Loko - Detroit Love Vol.4
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最初そのタイトルを見た時には期待せずにはいられなかった『Detroit Love』。Carl Craigによってデトロイトのシーンを世界に紹介すべくをコンセプトしたパーティーから、その音楽性をMIXCDへと投影させたシリーズという触れ込みだったが、実際にその音楽性がデトロイトの雰囲気を伴っているかについては非常に懐疑的なシリーズ。新作は最早デトロイトにも特に関連の無いスイスからMirko Lokoがミックスを担当しているが、過去にはPlanet EからリリースもありCraigとの交流が深いアーティストを起用しているだろう。本作もデトロイトな雰囲気を発していない事は選曲から明白なものの、その『Detroit Love』というタイトルさえ気にしなければ内容自体は寧ろこのシリーズの中でも群を抜いて素晴らしく、テクノ〜ハウス〜ミニマルが融け込んだスムースなミックスは特にフロア映えしている。Fred Pの幻想的なアンビエントである"Vision In Osaka"によって壮大さを演出する幕開けから、自身のディープで官能的なエレクトロニック・ハウスの"It's Like (Detroit Love Mix)"、そしてずぶずぶとした土着ミニマルの"Time Million (Villalobos Vocal Mix)"へと滑らかに展開していくオープニングからして文句無しの流れ。"Monte (Carl Craig Edit)"等にしても序盤はかなりミニマル性の強いグルーヴでじんわりと嵌めていくが、Lokoお気に入りのTakuya Yamashitaの曲をリミックスして艶っぽいピアノがしっとりした情緒を生む"Aos Si (Mirko Loko's HOS Remix)"やヒプノティックなシンセが妖艶なテック・ハウスの"My Own Transition"辺りから音にぐっと色味を持ち出して、じわじわと盛り上がりつつも勢いや振れ幅を強めていく。トライバルなパーカッションが爽快な"Dump Days"、弾けるオールド・スクールなファンキー・ハウスの"Faces Of Life"、デトロイト的な叙情性を持つドラマティックな"The Jazzer (Russ Gabriel Remix)"等中盤以降はパーティーのピークタイムへと入っていくような盛り上げ方。そこから更にゴリゴリで厳ついテクノの"Pressure (Laurent Garnier Mix)"、垢抜けなくもロウな響きが荒々しいハウスの"The Loft"や"Music Cinema"から中毒性たっぷりなどぎついアシッド・ハウスの"It's The Message"を通過して、最後までじわじわと続く緊張感と激しい高揚感を両立させている。音楽的にデトロイトの要素は当然希薄で『Detroit Love』というタイトルが相応しいのかどうかはおいておいても、新旧時代を紡ぎながら幅広くも4つ打ちを軸にしてフロアの感覚を反映させたミックスで、特にシリーズの中でもモダンなダンス・ミュージックとして優れている。



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| TECHNO15 | 18:30 | comments(0) | - | |
Various - Join The Future (UK Bleep & Bass 1988-91) (Cease & Desist:C&D001)
Various - Join The Future (UK Bleep & Bass 1988-91)
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近年、今となっては時代を感じるようなブレイク・ビーツやアシッド・ハウスの新作が時に目につく事もあり、何となく90年前後のレイヴ全盛期の音が見直されているようにも感じられるこの頃。そんなリバイバルの予兆が確信へと至ったのは、本作のようなコンピレーションがリリースされたのも少なからず影響しており、おおよそ30年の時を経てもダンスフロアを狂気的な興奮へと陥れるその音楽性は一向に失われない事を証明している。本作はジャーナリストのMatt Anissによる同名の書籍刊行に併せてOptimo Music主宰のJD Twitchが編集したものだが、タイトルまんまに特にレイヴシーンに多大なる影響を及ぼしたブリープとベースに焦点を当てている。特にそれに関して影響力を持っていたのがWapr Recordsで、LFOらの発信音を強調した無機質なサウンドが刺激を誘うブリープ、そして低音を過大に強調したベース、それらの要素を兼ね備えたダンス・ミュージックはある種のムーブメントを作り上げたと言っても過言ではない(それ以降Warp Recordsは電子音楽に拘らずに今に至るまで音楽性を拡張している)。勿論ブリープはムーブメントとしては瞬間風速的な勢いではあったかもしれないが、その音楽性自体の魅力が失われたわけではなく、レイヴ・ミュージックが再評価される現状でその一部として掘り起こすのもまた自然な流れだろう。アルバムはUnique 3 & The Mad Musicianの"Only The Beginning"で幕を開けるが、これは1998年作でブリープ最初期の曲になる。スカスカで簡素な音はシカゴ・ハウスのジャッキンな音楽をUK流として解釈した考えるべきか、乾いたパーカッションとスリージーなリズム、そこに冷たい低音を効かせて確かに無機質なテクノではあるが、そこにファンキーな要素を感じてしまうのが面白い。続くDemonikの"Labyrinthe"はブリープと呼ばれる音が明確に現れているが、不気味なシンセストリングスと錆びれたようなブレイク・ビーツが組み合わさり、激しいグルーヴを脈打たなくても精神を侵食するような中毒性を生み出している。有名なレイヴユニットのAltern 8の前身であるNexus 21(今年になり1989年のアルバムがリイシューされている)の"Self-Hypnosis (Mr Whippy Mix)"も収録されているが、酩酊するようにふらつく発信音と鈍いベースサウンド、そして乾いて無味なリズムと、雰囲気としてはローファイなシカゴ・ハウスの延長線上だがファンキーというよりはトリッピーだ。ブリープと言えばSweet Exorcistも人気だが残念ながら収録されておらず、その代わり同じメンバーによるインダストリアル・バンドであるCabaret Voltaireの"Easy Life (Jive Turkey Mix)"が選ばれており、垢抜けないTR系の跳ねるように躍動するリズムを前面に打ち出しつつミステリアスな上モノがトランス感を引き出しており、正に覚醒させる快楽的な曲だ。Man Machineの"Animal (DJ Martin & DJ Homes' Primordial Jungle Mix)"は鋭く変則的なブレイク・ビーツと這いずり回るようなベースによって暗いムードながらも、当時の快楽的なレイヴの空気も纏っていて、そして今となってはダウンテンポ代表格のNightmares On Waxも"21st Kong"に聞けるように膨れ上がるベースと躍動するファンキーなリズムのハウスを作っていたのには驚かされる。まごうことなきどれもこれもブリープ&ベースなローファイ感溢れるダンス・ミュージックで、いや寧ろその垢抜けない響きも味わい深く、年月を重ねてもより熟していくような曲群。LFOが入ってないとか定番的な選曲ではないなど入門としては親切ではない点もあるだろうが、それでも決して多くはないブリープ・コンピレーションとしては価値があるし、フロアを興奮へ導く曲ばかりで実に魅力に溢れている。



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| TECHNO15 | 15:30 | comments(0) | - | |
Andras - Joyful (Beats In Space Records:BIS041)
Andras - Joyful
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ニューエイジからアンビエント、錆びたようなロウ・ハウスに柔らかいディープ・ハウスから陽気なアシッド・ハウスまで、そして時にエクスペリメンタルな方向へも振り切れるように多彩な才能を持つAndrew Wilson。Andras FoxにBerkoやHouse Of Dad等複数名義を使い分けて広範囲な音楽を持つ彼だからこそ、一つのレーベルに縛られる事なく自由な活動を行っているが、新作はユニークなダンス・ミュージックを得意とするBeats In Spaceからとなれば期待せずにはいられないだろう。本作はレーベルの説明に拠れば「70年代のアシッド・フォークや90年代のアシッド・ハウス」から影響を受けているそうで、近年は特にダンスフロアへ眼差しを向けた曲調が増えていたように、実際にこのアルバムも楽天的な空気と快活な躍動感に溢れたダンストラックで満たされている。それを踏まえてもやはり面白いというか、奇才ぷりが目立っている。冒頭の"Honeybird"は目まぐるしくアシッド・ベースが小動物のように小刻みに動き回り、そこに凛としたピアノの旋律やボイスサンプルを被せて、陽気なアシッド・ハウスではあるのだが更に毒気を抜いたトランス的でもあり、眩しい太陽光の下で踊るような多幸感が支配している。同じ様に清々しく爽快なダンスの"Live Forever"は綺麗に濾過されたようなハウスで、アトモスフェリックな上モノや優美なストリングスを配しながらも無駄な音を省く事で、シンプルな構成がよりAndrasのポップなメロディーを強調してアシッド・サウンドさえもがハッピーに聞こえる。曲によっては初期の淡いセンチメンタル性を強調したものもあり、つんのめったようなリズムの抑えめなダンスである"Poppy"は、フォークとまでは行かないものの牧歌的なメロディーが心を穏やかにして、パーティーの狂騒の後に訪れるチルアウトな感覚さえもある。それでもアルバムを支配するのは明るいアシッド・サウンドであり、スカスカに構成に弾けるようなアシッド・シンセを組み入れて、そこに長閑で穏やかなシンセを延ばした"River Red"は、ダンスながらも激しさは全くなく呑気に散歩を楽しむように無邪気なハウスだ。光の粒が飛び回るような多幸感溢れるアシッド・サウンドと共に肝となるのはやはりメロディーだろうか、"Saga of Sweetheart"でも不思議というかトリッピーな電子音によって高揚感を得ており、曲自体は音の密度や勢いに全く頼らずにシンプルで綺麗な構成ながらもしっかりとダンス・グルーヴを生む事に成功している。作品毎にアンビエントやニューエイジにアシッド・ハウスに取り組み、時代の音的なものに迎合しているだけかと思いきや、単なる模倣にならずにそれらを完全に自分の音として表現出来る点で、他のアーティストとは一線を画している。多作なアーティストだがまだまだ底の見えないその才能、本作も当然必聴である。



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| TECHNO15 | 18:30 | comments(0) | - | |
Nuron / As One - La Source (De:tuned:ASG/DE031)
Nuron / As One - La Source
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近年は90年代に一世を風靡したテクノシーンのアーティストに焦点を当てて、10枚のEP「DE」としてシリーズ化も手掛けたDe:tuned。他にもB12やJohn Beltranの作品もリリースする等、方向性としては90年代のアーリーテクノ、またはデトロイト・テクノやインテリジェンス・テクノと呼ばれるものに力を入れているのは明白で、ダンスという束縛から解放された自由なエレクトロニック・ミュージックを求める人にとっては興味の尽きないレーベルだろう。今回紹介するのは25年ぶり位となるNuronの新作だが、Nuronは90年代半ばに2枚のEPを残しつつ他にはStasisやAs One(Kirk Degiorgio)らとのスプリット盤に曲を提供しており、そんな点からも想像出来るようにベッドルームに宇宙空間を夢想するようなインテリジェンス・テクノを地で行くアーティストだったのだろう。さて、新作とは言いつつもNuronによる新曲は"La Source"の1曲のみ。だがしかしその1曲だけでもNuronの魅力を伝えるには十分で、単純な4つ打ちを否定するように繊細かつしなやかに跳ねる変則的なビートの上に、透明感のあるパッドとコズミックなメロディーを配して、ジャズやアンビエントも吸収したデトロイト・テクノのその先を見据えたような作風は、正に当時のArtificial Intelligenceの系譜だ。テクノが単にダンスさせるだけでなく、果ての見えない深遠な想像力を掻き立てる音楽でもある事を痛感させる。オリジナルの新曲は1曲のみだが、しかしNuronによるリミックスが2曲収録されている。昨年リリースされたAs Oneの最新アルバムである『Communion』(過去レビュー)からNuronによるアップデートが成されているが、こちらも完全にインテリジェンス・テクノに染まっており素晴らしい出来だ。"The Specialist (Nuron Remix)"も非4つ打ちの複雑ながらもしなやかなリズムを刻んでおり、そこに薄くシンセパッドを延ばしつつ点々とした電子音を散らして、ほんのりと情緒を漂わせながらも未来的な風景が広がるテクノを聞かせている。また"Emanation (Nuron Remix)"は原曲はビートレスだったためアンビエント性が強かったものの、このリミックスでは湿っぽいダウンテンポのリズムを導入しひらひらと羽が舞うような電子音も浮遊させ、より内なる世界に没頭させる内省的な方向へ。25年ぶりに新作を出したと思えば僅か3曲のみ、しかしそのどれもが往年の洗練されたインテリジェンス・テクノを成しており、特に90年代前半のテクノが好きだった人には懐かしくもあり恋に落ちる音楽である事は間違いない。



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| TECHNO15 | 12:00 | comments(0) | - | |
Vince Watson - Voodoo Disco EP (Yoruba Records:YSD102)
Vince Watson - Voodoo Disco EP
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元々はデトロイト・テクノの熱心な信望者としてそのフォロワー的な見方をされていたVince Watsonだが、近年はJoe Claussell主宰のSacred Rhythm MusicやOsunlade主宰のYoruba Recordsなど、ブラック系のディープ・ハウスのレーベルからのリリースも目立っている。本人からすればただ単にテクノもハウスも同様に好む音楽なのだろうが、特にこういったレーベルからのリリースとなると彼らしい深いエモーショナル性を携えつつも更にブラック・ミュージック的な感覚も加わってきて、その音楽性の変化は興味深いものがある。さてこの新作は彼がYorubaからリリースした3枚目のEPで、今回はコロナ渦の影響もあるのか配信のみとなっている。レーベル自体がYorubaの宗教に影響を受けたスピリチュアルなアフロ・アフリカンな音楽性なのだが、EPの「Voodoo Disco」というタイトルも宗教性を匂わせていて、やはりWatsonもレーベルの方向性にかなり寄せてアフロなリズム感や土着性を打ち出してきている。"Into The Night"からして膨らみのあるキックやからっと乾いたパーカッションがアフロな雰囲気を纏っており、そこに内省的で厳かなピアノコードを被せて、深遠を覗くようなディープ・ハウスを聞かせる。中盤からは情緒豊かにドラマティックなシンセのメロディーも入ってきて、こうなると完全にWatsonらしい音楽性になるのだが、最後まで上げずに抑制の取れたグルーヴ感がしっとりと続く。よりパーカッシヴで弾けるようなリズム感の"The Spirit Dance"はこちらも繊細でしっとりしたピアノを用いそこに流麗なシンセストリングスを合わせると、これは最早いつものデトロイト・テクノ的な音楽性だが、それでもグルーヴ感は軽やかなハウスで優しい響きに包まれる。"Voodoo Disco (Afrosoul Mix)"は過去の曲のリミックスだが、これも原曲に比べると勢いはやや抑えられながらも滑らかなハウスグルーヴ感を打ち出し、そこに軽快なパーカッションが鳴り響いて確かにアフロな空気を纏った叙情性豊かなブラック・ディープ・ハウスへと生まれ変わっている。そして特に情緒的なピアノが夜のしっとりした艶やかさを演出する"Dreamers"、荘厳なシンセストリングスもぐっと伸びながら土着的なパーカッションが温かさも生み、正に夢の中へ没入するような儚くも慈愛に満ちたドリーム・ハウスは特に胸を締め付ける程に切ない。テクノの路線のWatsonも勿論良いのだが、このブラック感の強いディープ・ハウス路線も素晴らしく、こちらの方向でアルバムも聞いてみたいと思わずにはいられない。



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| HOUSE15 | 16:00 | comments(0) | - | |
埜庵 kohori-noan 27回目
埜庵1

すっかり一年に一度のみしか行かなくなっている鵠沼海岸にあるかき氷専門店の埜庵。今年はコロナ渦でもあり例年より更に足が遠のいて、今年は最早食す事が出来ないのではと危惧していたものの…なんとか伊豆旅行のついでに立ち寄って食してきた。実はもう既に日光・三ツ星氷室製の天然氷は無くなっている(デパートの出店用に残しているらしい)事は公式サイトで把握はしていたので、まあ普通の氷を使ったかき氷になってしまうのだが、以前から店長の石附さんが述べているように重要なのは天然氷ではなく味の本質であるソースなのであり、なので天然氷の有無は最早それ程意味を成さないのである。埜庵の絶品かき氷ソースを楽しみに今回は「ゆずみかん」(1300円)を注文。
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| - | 08:00 | comments(0) | - | |
Hear & Now - Alba Sol (Claremont 56:C56LP016)
Hear & Now - Alba Sol
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2020年も名作に恵まれたバレアリックシーン。世界各地で特定のジャンルに偏る事なく幅広い音楽性を持って広がる多幸感が溢れるスタイルは、コロナ渦に於ける閉塞的な雰囲気を少しでも和らげるのにも一役買っている事だろう。そんな音楽をUKで長らく先導してきたのがClaremont 56で、今年の初頭には新たなるバレアリックシリーズとなる『Claremont Editions One』(過去レビュー)もリリースし、有機的な響きのディスコダブやクラウト・ロックにAORも聞かせてレーベルが向かう道を示していた。続いて同レーベルからリリースされたのがこのHear & Nowによる2ndアルバムで、2年前にリリースされた『Aurora Baleare』(過去レビュー)も極めて素晴らしいバレアリックだったのだが、本作はそれ以上に素晴らしく彼等の評価を決定付けるアルバムになるに違いない。過去にはIbadanやVega Records等からディープ・ハウスをリリースしていたイタリアのRicky L、そして同郷のMarcoradiが手を組んだユニットは、ギターやピアノといった有機的な楽器を用いてディスコやダウンテンポを聞かせるが、そこにはイタリア出身だけあってイタリアのドリーム・ハウス的な夢心地な感覚や地中海の楽園的なイメージも投影し、正にバレアリックを体現している。冒頭の"Alba Sol"は前述のコンピレーションにも収録された曲だが、清涼なシンセの立ち上がりと太陽が降り注ぐように放射されるギターフレーズはロマンティックな情景を描き出し、うっとりとした夢から醒めてゆっくりと船出をするような展開は、オープニングを飾るに相応しい。続く"Bellariva"も小気味良くも切ないギターカッティング、そこに丸く柔らかいシンセのメロディーを合わせたディスコ寄りの曲調で、古き良き時代の音楽を咀嚼しながらモダンな綺麗さに纏めている。"Acqua Tonica"は適度にテック・ハウス的なエレクトロニックの艶っぽいシンセに滑らかなビート感も用いながらも、咽び泣くようなギターソロの旋律が入ってくると途端に感情性を増して、込み上げるファンキーさにぐっと来る。"Danza Delle Onde"でも湿っぽいベースや哀愁のギターがはいっているのだが、しかし昔のメロドラマ的な懐かしさというかニューエイジ調なシンセやピアノが特徴となっており、非常にアンニュイなダウンテンポになっている。イタロ的な感覚が特に強いのは"Larus"で、からっとしたパーカッションを背景に凛とした光を放つようなピアノのコードが爽快に伸びて、すっと伸びていくシンセのラインと切り裂くようなギターが咆哮するこの色彩豊かな曲は、太陽光の下で大海原を揺蕩うように航海するような余りにも楽天的なコズミック・ディスコである。ディスコなリズムでミッドテンポの"Litorale"ではロック的な哀愁漂うギターも聞け、やはりここでも胸を締め付けるようなピアノが入ってきて、ぐっと感傷的な気分に浸らされる。アルバムの世界観は非常にリラックスして開放感に満ちたバレアリック・ディスコとでも呼べばよいのだろうか、夜よりは昼、クラブよりは屋外のイメージが強く、海や太陽といった豊かな色彩に溢れていて多幸感が貫くのだがこれが彼等のバレアリックなのだろう。Claremont 56には数多くの素晴らしいアーティストが居るが、Hear & Nowはそんなレーベルの今を代表するアーティストと言っても過言ではない。



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| HOUSE15 | 16:00 | comments(0) | - | |
Raymond Richards - The Lost Art Of Wandering (ESP Institute:ESP070)
Raymond Richards - The Lost Art Of Wandering
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Lovefingers主宰のESP Instituteから特筆すべきアルバムがリリースされている。レーベル自体はダンスミュージック界隈のアーティストを掬い上げているものの、テクノやハウスだけでなくアンビエントやバレアリック、更にはソフトロックやレフトフィールドまで実に幅広く手掛けて、結果的にはダンスに依存せずに豊かな音楽性で芸術的な作品まで網羅している。そんなレーベルの多様性をまたしても知らしめるのが本作、ポートランドで活動するRaymond Richardsによる初のソロアルバムだ。元々はシューゲイザー系のSlowdiveから派生したMojave 3のメンバーであり、またThe Parson Red HeadsやThe Idaho Falls等のフォーク系バンドにも所属しているベテランで、ペダル・スティール・ギタリストを含むマルチプレイヤーとして長く音楽経験を積んでいるアーティストのようだ。何でも90年代後半にサイケデリックなポストロックに魅了されたLovefingersは、当時ロスアンゼルスでRichardsと出会いその音楽性に恋に落ちたそうだが、両者が活動の拠点を変えた事で関係は一旦途切れる事に。その後、LovefingersがESP Instituteを設立してから10年、ようやくLovefingersはプロデューサーとしてポートランドでRichardsらとキャンプをしながら本作の制作に参加して、長きに渡る思いをアルバムとして結実させた。基本的にはRichardsがペダル・スティール・ギターやテルミン、鍵盤やエレクトロニクス等の楽器を演奏しているのだが、その音はアンビエント成分を取り込んだ素朴なフォーク/カントリーで、淡い濃霧が満ちたようなサイケデリアが辺りを優しく包み込んでいる。ぼんやりとしたドローンと深いリバーブが効いた電子音によって時間の感覚が無くなっていくような"Denton, Texas"で始まり、朗らかなギターと清涼なピアノにドラムも加わり人里離れた田舎風景を喚起させる穏やかなフォークの"Fossil, Oregon"、ハーモニカの牧歌的な響きとフニャーンとしたペダル・スティール・ギターが心地好い陶酔感を生むカントリー調な"Tucson, Arizona"と、どれも非常にレイドバックした作風と地平線の果てまで見渡せるような広大さがある。"Astoria, Oregon"でもメランコリーでサイケデリックな淡いギター、そしてテルミン等の奇妙なエレクトロニクスが溶け合い、確かにSlowdiveの甘美なシューゲイザーから生まれるサイケデリアを継承しつつも、轟音で埋め尽くさずに徹底して肩の力が抜けて牧歌的な雰囲気を保っている。"Idaho Falls, Idaho"では再度小気味良いドラムも加わり、アコースティックなギターサウンドと可愛らしい電子音が陽気で団らんとした空気によって田舎の緑が生い茂る風景を描き出し、ほぼカントリーそのものだ。曲名はアメリカ西海岸の地名となっている事からきっとそれぞれの風土を背景に持つサウンド・スケープを意識しているのだろうが、どれもアメリカの余りにも広大な大地が続くようなフラットな感覚で、刺激もなく興奮も無く只々その慈悲深き世界観に安堵を覚える。2020年屈指の癒やしなサイケデリック・フォークだ。



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| ETC(MUSIC)5 | 12:00 | comments(0) | - | |
Aril Brikha - Prisma (Mule Musiq:MULE MUSIQ 253)
Aril Brikha - Prisma
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以前の繁栄を取り戻せないデトロイト・テクノが、しかしそれに影響を受けたアーティストは世界各地に点在し、今もその魅力を現在に伝えている。例えばスウェーデンはストックホルムで活動するAril Brikhaは過去にはTransmatからのリリースもある等、特に活動初期の音楽は正にデトロイト・テクノ直系であったし、少しずつ音楽性も自身のトランシーな音楽性を確立させて確固たる地位を築き上げている。2016年からは何とMule Musiqからリリースを始めてやや意外性もあったものの関係が上手くいったのか、2020年にはリスニング性重視の神秘的なアンビエントアルバムである『Dance Of A Trillion Stars』(過去レビュー)をリリースしており、更にそれに追い打ちをかけるようにリリースされたのが本作。元々レーベルからの希望で50曲も作り上げたものの自身ではそれらをどう纏めるかに困り、レーベル側がその中からアンビエント寄りの曲を纏めて前述の『Dance Of A Trillion Stars』を完成させ、そして残りの曲からダンス向けな曲を選りすぐり本作が完成したようだ。なので本作こそがファンがBrikhaに期待するダンス・ミュージックなアルバムであるのは明白で、冒頭の"Sensual Disguise"から遠くで薄っすらと鳴るような幽玄なシンセの叙情性と共に、詰まったような変則的なキックによるリズムが横揺れを誘い、深遠な落ち着きを伴いながらも実にグルーヴィーな躍動感を生んでいる。続く"Pivot"の端正でスリムな4つ打ちによる流れるようなビートに合わせ、またスムースでトランシーな電子音のシーケンスは十二分にダンスフロア向けの機能性を含んでいるが、この催眠的でメロディアスなトランス感覚こそBrikhaの持ち味だろう。またやや勢いを抑えてずっしりと地を掴むようなリズム感の"A New Breed"では、音の数も減らしてエレクトロ的なベースラインを強調して、ずぶずぶと深い闇に潜っていくようサイケデリック性を発揮。タイトル曲の"Prisma"は深い残響が奥深い空間演出を成しており、跳ねるような軽快なグルーヴの中に覚醒的なベースラインや浮遊感のある上モノを散らして、心地好い酩酊感が生まれて非常にトランシーで快楽的なダンストラックになっている。その極みが最後の"More Restrained"だろう、力強くタフに打ち付ける4つ打ちキック、そこにドラッギーでエグい電子音のシーケンスが疾走しグイグイと攻め立てるこの曲は、持続性と快楽性も群を抜いておりパーティーのピークタイム時にもハマるであろうトランス寄りのテクノだ。しかしBrikha自身は「いつも聴くための音楽を作っている」で述べているように、決してダンスだけを目的としたアルバムではなく、メロディアスでエモーショナルな要素は必ず存在して聞くという事に対して意識的な音楽でもある。Brikhaの長い音楽史の中でも最も素晴らしいアルバムと言っても過言ではなく、2枚のアルバムは是非ともセットで聞く事で、BrikhaのDJではなく音楽家としての魅力が伝わる名作だ。



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| TECHNO15 | 15:00 | comments(0) | - | |
Masanori Nozawa & Kazuma Okabayashi - Catena (Medium)
Masanori Nozawa & Kazuma Okabayashi - Catena

2017年末にリリースされたアルバム『III』(過去レビュー)から早3年、そこからコロナ渦に見舞われた状況の中で久しぶりにBandcamp上から届けられたMasanori Nozawaの新作は、アンビエント/ドローン音楽家のKazuma Okabayashiとの共作だ。2014年にMedium Musicを立ち上げて以降胸に突き刺さるグッとエモーショナルなテクノ/ハウスを推し進めてきたNozawa、そしてBandcamp上にガラス細工のような繊細で美しいドローン作品を多く残しているOkabayashi、そんな2人の共作は間違いなく2人の魅力や個性が溶け合っており、壮大な美しさの中に灯火をそっとつけるような情熱が籠もる希望に満ちたアンビエント作だ。オリジナルは2バージョン収録されているが、それぞれに両者の個性が強く反映されたアレンジとなっており、聴き比べるとなる程という納得感がある。"Galactic Dub"はハイハットらしき音がリズムを刻む中で薄っすらと爽快なシンセが浮かび上がりつつ、次第のカラフルなシンセのシーケンスも組み合わさりぐいぐいと上昇気流に乗るような壮大な世界観。キックは無いにもかかわらず電子音のうねりが躍動感も生み出し、大気圏を突き抜けて宇宙へと飛翔していく如く、非常にスケール感の大きい情熱的なアンビエントだ。対して"Earthly Mix"はOkabayashiの個性が反映されているのだろう、序盤からか消え入りそうな繊細なドローンを重ねて深い濃霧の中に迷い込んだような幻想が広がり、しかしオーケストラ的な重厚感もあるドローンが穏やかに持続して、一時の現実逃避を引き起こす。こうして聴き比べると互いの個性もはっきりと浮かび上がり、それぞれの魅力を理解する事が出来る。またリミックスも3曲収録されているが、こちらも聴き応えは十分。圧巻はエモーショナル性にかけては右に出る者はいないのではないか、Hiroshi Watanabeによる"Kaito Remix"は序盤はビートレスな状態に晴れ晴れしいシンセストリングスでじわじわと叙情性を膨らませつつ、途中からキックも入り歩みを始めると余りにも深く余りにも壮大な慈悲に包まれていき、コズミックなSEや咽び泣くような切ないメロディーも一体となりドラマティックなストーリーに引き込まれていく。アシッドをこよなく愛しマシンライブを行う"Yebisu303 Remix"は、やはりと言うべきかアシッドのヒプノティック性を打ち出した4つ打ちテクノへと塗り替えているが、アシッドの快楽性だけではなくすっきりとしたDJツール的な構成ながらもエモーショナルな雰囲気も伴っていて、何だかデトロイト・テクノ的にも聞こえてくる。そして"Boys be kko Remix"も同様に4つ打ちだがディープ・ハウス寄りで、黒光りするようなディープな音響に快楽的なシンセでドラッギーに嵌めていくが、中盤での全く音が消えさった状態で入ってくるメランコリーなピアノによる叙情的な展開も見ものだ。オリジナルからリミックスまでどれも各アーティストの個性が反映された魅力いっぱい、DJプレイとして使うも良し、ベッドルームで聞くも良しな一枚である。



Check Masanori Nozawa & Kazuma Okabayashi
| TECHNO15 | 12:00 | comments(0) | - | |