Greg Gow - Paradigm Shift EP (Planet E:PLE65398-6)
Greg Gow - Paradigm Shift EP
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2000年初頭から活動しているカナダはトロントのGreg Gow、決して短くはないキャリアではあるがそれまでなかなか注目を集める事が無かった彼が、2009年作の『Pilgrimage EP』がDerrick Mayに見初められTransmatからリリースされた事は彼のキャリアの転機の一つである事は間違いない。それがきっかけとなりその存在は広く知れ渡りその後も100% PureやKMSといった著名レーベルからのリリースが続いているが、新作はまたしてもデトロイト・テクノの大御所中の大御所レーベルであるPlanet Eから。元々美しいシンセ・ストリングスのラインやキレのあるビート感によるテクノを得意とするGowの音楽性は、確かにデトロイトの叙情性に共鳴する点もあり、なればこそPlanet EからGowの音楽が送り出されるのも至極当然な事だろう。ざらついた生々しいハイハットが強調されたリズムを刻む"Transcendence"からして、すっと伸びるシンセ・ストリングスの上にエグいシンセのメロディーや覚醒的でテッキーなリフを重ねて、じわじわと盛り上がっていく構成はMayの好きそうなテクノという印象。"Paradigm Shift"はすっきりと贅肉を落とした4つ打ちビートに金属的でダビーな音響が鳴っているが、途中から壮大なアルペジオ風のメロディーが躍動する流れはスペーシーで如何にもデトロイト的で、SFやレトロ・フューチャーな世界観もある。そしてパーカッションが効いたリズムと低音が蠢くどんよりとした"Lantana"は、途中から繊細で綺麗なシンセコードが仄かに情緒を付け加えてしっとりとしたハウス調で、終盤に入るとグッとドラマ性を増すように壮大なシンセ・ストリングスが爆発するお約束的な展開で盛り上がる。本人曰くカナダの観点から見たデトロイト・テクノ像だそうで、コンセプトとして目新しさは無いものの、デトロイト好きの心をヒットする事間違いなしのテクノに安心を覚える。



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| TECHNO14 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Neil Toliday - Mallumo (Utopia Records:UTA007)
Neil Toliday - Mallumo
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2019年もクラブ・ミュージックの界隈でアンビエント・ミュージックが大旋風を巻き起こしていたが、一言でアンビエントと言っても自然回帰的なニューエイジ調から踊り疲れた後のチルアウト、日常空間に馴染むサウンド・デザインまで多様な要素が混在している。本作はそんなアンビエントの中でも殆ど展開がなく70分4節に渡ってどんよりとしたドローンが続く意味を込めない音響によるアンビエントで、精神を安静へと導く治癒的な作用もあるような音楽だ。このNeil Tolidayについては知らなかったものの手を出した理由は、時代とジャンルを超越しながらオブスキュアな音楽を提唱するUtopia Recordsからのリリースという事もあり興味を持った訳だが、結果的には非常に良質なアンビエントに出会う事が出来た。が実はこのTolidayは後から気付いたのだが90年代からハウス・アーティストとして活躍しClassic等からもリリースのあるNail名義その人であり、近年もPressure TraxxやRobsoulからファンキーなオールド・スクール系のハウスを多く手掛けているベテランで、何故に突如としてこのようなアンビエント大作を手掛けるに至ったか。プレスリリースによると鬱病の期間中に自己療法として作られたようだが、明るくもなくただただ陰鬱にも近い暗さがあるからこそ心を落ち着かせるのだろう。曲名も付けずにただI〜IVとだけ記されたパート、やはり音に合わせて意味を含ませない事を意識しているようで、どのパートも朧げでどんよりとした暗いムードのドローンがレイヤーとなり、粘度の高い液体がじっくりと形を変えていくように微細な変化を起こし、そこに微かに時折メロディーや環境音らしき音が入ってくる。大きな展開はなくドローンがうねりながら重厚感も伴い、一寸の光も見えない閉塞空間の響き。まるで大きな大聖堂の中で音が反射しているような荘厳で壮大な音響で、そういった意味では静謐で宗教的な祈りにも思われる。似たような音楽であればWolfgang VoigtによるGas名義のアンビエントを思い起こすが、そちらがまだビートがあり交響組曲からのサンプリングで華やかしさがあるものの、こちらは完全に閉塞的なダーク・アンビエントに振り切れている。なお、配信の完全版では170分近くのボリュームで、存分にずぶずぶとした内なる精神世界へと瞑想出来る事だろう。



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| ETC4 | 14:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mark Barrott & Pete Gooding - La Torre Ibiza Volumen Tres (Hostal La Torre Recordings:HLTR003)
Mark Barrott & Pete Gooding - La Torre Ibiza Volumen Tres
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いつしか現行バレアリックを提示する作品として定着したシリーズの『La Torre Ibiza』。手掛けているのはバレアリック代表格のInternational FeelのボスであるMark Barrott、そしてイビサのクラブ「Cafe Mambo」でレジデントを担当するPete Goodingの二人。元々はBarrottが「Hostel La Torre」というイビサにあるホテル内のパーティーでBGMを担当していた事が発端となり、その「エッセンスとスピリット」をCD化すべく始まったシリーズ。一般的なイビサのイメージと言えばやはり享楽的で俗世的なダンス・ミュージックのクラブというのが第一だろうが、しかし同じイビサに在住するBarrottはと言えばそういった場所からは距離を置き、緑が生い茂り平穏な大地が続く田舎風景の中でジャンルではなくバレアリックというスタイルの音楽を追求する。そんな音楽はオーガニックとエレクトロニックの邂逅、そしてジャンルと時代を越境しつつクラブ・ミュージックからの視点も失わずに自然な状態を保つチルアウトな感覚が込められている。ただ単にバレアリックの一言で片付けてしまうと間口を狭めてしまうのでもうちょっと明らかにすると、本作でもアンビエントやエクスペリメンタル、シンセ・ポップにフォークやロック、ハウスにディスコやダブまで言葉だけで見れば纏まりは一切無いような幅広い選曲ではあるにもかかわらず、肩の力が抜けた緩く心地好い平静な空気感がバレアリックなのだ。民族的なダブ・パーカッションの効いたアンビエント感もあるハウスの"Alsema Dub"から始まり、生々しい生命の営みが感じられるモダン系エキゾ・ファンク"'A Voce 'E Napule"、ドリーミーで可愛らしい響きのハウストラックな"Ocean City"と、序盤は比較的ダンス要素がしっかりと打ち出されているが、そこからギターの入ったポストロックな"Up With The People"へと続くが牧歌的な穏やかさが雰囲気を自然と紡ぐ。同じ日本人として嬉しい事に中盤にはSatoshi & Makotoのビートレスながらも無重力のフローティング感覚に溢れたアンビエントの"Crepuscule Leger"が差し込まれ、そこからソフトなサイケデリック性のある憂いのロックな"On the Level"へのしんみりした流れは胸が切なくなる。バレアリックを象徴する一曲でBarrottがリミックスをした"Head Over Heels (Sketches From An Island Sunrise Mediation)"は大らかな包容力と清純な快楽感が広がり、そこにコズミックな酩酊感のジャーマン・プログレな"Ambiente"が繋がる瞬間も意識が飛ぶようなトリッピーさにチルアウトする。終盤にはまさかのSwing Out Sisterの曲もと意外な選曲だが、メランコリーを誘う牧歌的なシンセポップの"After Hours"だからこそバレアリックな流れに溶け込み違和感は全く感じる事がない。終始なだらかな清流が流れるような安らぎ、俗世の喧騒から隔離された平穏が続き、ジャンルを越えて心が穏やかになる音楽をそっと提供するその選曲の良さは素晴らしく、バレアリックを先導するだけある審美眼だ。また聞く者にとってはジャンルの垣根を取っ払い、音楽の知識を豊かにしてくれる一枚でもある。



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| ETC4 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
BBRB - King Kiang (Fragrant Harbour:FGHB006)
BBRB - King Kiang

全く前知識の無いEPならがも手を出してしまったのは、今世界をDJツアーで周る程に高い人気を獲得した日本の女性アーティストのPowderがリミックスを提供していたから。このBBRBなるアーティストの初作品であるが、実はMove Dらのユニット・L'Amour Fouの一員であるBenoit Bouquinと、Riles Jay Bilgoという香港在住のアーティスト二人組のユニットのようである。前述したようにPowderのリミックスがお目当てだったもののオリジナルも決してダンス・トラックとして遜色はなく、勢いに頼らずにディープ&アシッドな要素による妖艶の中に潜むメランコリーを引っ張り出した作風は快楽的だ。真夜中の艷やかで快楽的なシンセのフレーズと底辺で蠢くアシッドのライン、そしてシカゴ・ハウスのような乾いたリズム感でジワジワとなだらかに展開する"Cat Slave"は、大きく羽ばたく事もなく不気味にドラッギーさを滲ませるが、Innervisons風な持続する覚醒感がある。"Two Policemen"もスローモーな流れで鈍いベースラインにざらついたハイハットやキックが荒んだ感覚だが、途中からテッキーな上モノのループが高揚感を打ち出して、暗いミステリアスな空気の中から色めく艶やかさにしっとり。そしてやはり何と言っても素晴らしいのはPowderによる"Cat Slave (Powder Remix)"で、軽く疾走するビート感に均しつつ繊細でヒプノティックなシンセのシーケンスを組み合わせて、モダンな感覚に研ぎ上げつつ果ての見えない地平線まで永遠を走り続けるようなミニマルな持続感で、心地好い浮遊感とソフトなサイケデリック感によって睡眠を誘うようだ。そしてESP Instituteなどでも活躍するMr. Hoによる"Two Policemen (Mr. Ho Snake Cop Mix)"、こちらはより無機質で金属的なリズムマシンが淡々と冷えたビートを刻みつつ、快楽的なアシッドにダブ処理も加えてより快楽性を極めたエレクトロで、オリジナルよりも壮大な展開でフロア受けしそうである。どれも疾走するのではなく深みや持続性によってしっかりと耳を惹きつけられる作風で、それぞれのアーティストの個性も打ち出されており、デビューEPながらも今後に期待させられる。



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| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Nami Shimada - Re-Mix Wax 〜Nami (Non) Nonstop〜 (Jetset:JS12S125)
Nami Shimada- Re-Mix Wax 〜Nami (Non) Nonstop〜
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2019年もジャンル問わず日本産音楽がちょっとしたリバイバルというか、日本の外にある世界から脚光を浴び続けた一年であったように思われるが、その中でハウス・ミュージック方面から注目を集めたのは島田奈美。彼女の話をすると一にも二にも"Sun Shower"をガラージの伝説的DJであるLarry Levanが1991年にリミックスしたという奇跡的な出来事が真っ先に挙がり、今も尚ディスコやハウスのパーティーでその名曲をDJがプレイする事は珍しくない。そのきっかけを作った人こそ今再度注目を集めるジャパニーズ・ハウスの始祖的なSoichi Teradaで、当時から彼女のポップスをハウスに解釈したリミックスが日本のハウスを先駆けていたわけで、それを体験出来るのが本作。元々1989年にリリースされていた島田の曲のTetadaによるハウス・リワークである『Mix Wax - Nami Non Stop』を、2019年にTeradaが再度リエディット&リマスターし直して再発したのである(CD盤には1989年のオリジナルバージョンも収録している)。当たり前と言えば当たり前だがどれもハウス・ミュージックとしてダンス化された曲、そしてそれらがノンストップ・ミックスとなる事で、いかにもクラブ的な感覚で生まれ変わっているのは新鮮だ。ゴージャスで賑やかな幕開けとマーチ的なグルーヴ感でノリノリになった"I'm Angry!"は、軽快な4つ打ちにスクラッチ的な効果音も混ぜたりとパーティー感を強めつつ原曲の愛らしいポップス感も共存させ、島田のアーティスト性を損なう事なく自然とハウス化している。そこからガラッと真夜中の暗さもある"Sun Shower"へ転換すると、快楽的なシンセベースが前面に出ながらどっしりとした安定感のあるハウス・グルーヴを刻み、すっきりと無駄を省いた上でレトロ・フューチャーなロボットボイスや哀愁のあるシンセの旋律を印象的に聞かせ、これがどれだけ時代を経ようとも揺るぎないクラシックとしての存在感を漂わせる。ラップ的な掛け声の入った"Here I Go Again"は90年代のハウスとヒップ・ホップが同列な時もあったヒップ・ハウス的なノリが聞ける瞬間もあるものの、まあ島田の歌が入るとどうしても耳馴染みの良いポップス性も出てくるが、妖艶なシンセのリフやアタック感の強いキックを強調した跳ねたハウスのリズムが爽快な"Tokyo Refresh"、ゴージャスなシンセブラスが弾ける眩さに包まれながらキュートな島田の声に胸キュンする"Dream Child"と、跳ねるような定間隔で刻まれるのハウスのリズムがやはりキモだ。最後の"Where Is Love?"だけはビートレスな構成で、切なく伸びるパッドとしっとりしたシンセのシーケンスを軸に島田の悲哀に満ちた歌を強調したバラード調だが、こういった曲でもTeradaのシンプルながらも感情を刺激するシンセワークが効いている。今回新たにリエディットされたという事だが筆者はアナログの方しか聞いていないため、過去のバージョンとの違いを比べる事が出来ず作風の違いも気になる所だが、取り敢えず2019年バージョンだけ聞いてもハウスとポップスが両立した魅力は十分に堪能出来るだろう。ハウス化される前のオリジナルを聞いてみたいという方には、島田自身が選曲したベスト盤である『Songs Selected By Naoko Shimada』(過去レビュー)も聞いてみて欲しい。

試聴

Check Nami Shimada
| HOUSE14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(1) | |