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Kaito - Nokton (Cosmic Signature:CSCD1001)
Kaito - Nokton
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2019年4月、突如としてHiroshi Watanabeがbandcamp上でKaito名義による『Nokton Vol.1』を発表した。2013年の4枚目のアルバムである『Until The End Of Time』(過去レビュー)以降、Kaitoの目立った活動はなかったのだが、見えない所でギタリストやベーシストをフィーチャーしたKaitoの本来は5枚目となるアルバムは制作中とは伺っていたので、スケジュールとは異なり『Nokton Vol.1』が配信された時にはやや驚きもあった。実はその予定されたアルバム制作中にある大きな出来事が発生した事で制作を止める事となり、しかし再度歩みを始めるべく新たに取り掛かって生まれたのが前述の『Nokton Vol.1』であり、それを更に展開しアルバムとして纏めたのがこのCDである。夜の風景、夜のドライブをイメージしたという本作は、基本的にはYAMAHA reface CSというシンセにフィルターを施しながらシンプルに制作されているそうで、今までのダンスの前提があるテクノという音楽や何度も構成を積み重ねるよう作られた曲調とも異なり、飾り気がなくある意味では非常に泥臭い本作はより一層喜怒哀楽という感情が渦巻く衝動的な音楽になっている。全編ビートレスでほぼ前述のシンセのループとインプロビゼーションによる手弾きで構成されていると思われるが、逆に一つの楽器を舐め尽くすようにいじり倒した事でWatanabe氏の激情が溢れ出る作品となったのだ。冒頭の"The NeverEnding Dream"から既に激しい慟哭をあげるようにトランス感にも近いシンセが唸りを上げて、活を入れ衝動に突き動かされるように脈動するシンセが歌っている。続く"Passing Through Darkness"は例えばkaitoのビートレス・アルバムにも見受けられるように、しんみりと切ない気持ちを投影したシンセが淡い水彩画を描くように広がり、前述の激しさとは逆に心の平穏を誘うように優しさに包み込む。一方で"Follow Me"は比較的整然とした流れのあるコード展開のループを用いているが、そこに悲しみにも近いシンセの装飾を重ねて、穏やかさを保ちながらも自己の内面へ意識を向けさせる深さがある。全体的にはやや内向的な印象の強いアルバムだが、"Become You Yourself"はそんな中でも喜びに満ち溢れて外へ外へと飛び出していこうとするポジティブな心情が感じられ、澄み切った青空の下でシンセが喜々として踊っているような、いやもしリズムが入っていれば以前の情熱的なテクノを体現するKaitoそのものだ。全てがビートレスという構成なので昨今の流行りのアンビエント・スタイルと予想する人もいるかもしれないが、全くそんな事はないどころか表面的にリズムは無くとも強いうねりのような躍動は感じられ、寧ろ込められた感情が魂の源泉からどくどくと溢れ出す如く非常に熱量の高い作風は、以前にも増してマシンソウルを体現している。今までのダンスの枠組みに沿ったKaitoのアルバムから一歩踏み出して、やりたいようにやった本作は丸裸のKaitoであり、だからこそ一層Watanabe氏に潜む感情性が実直に感じられるのだ。



Check Hiroshi Watanabe
| TECHNO15 | 17:30 | comments(0) | - | |
Planetary Assault Systems - Plantae (Ostgut Ton:o-ton123)
Planetary Assault Systems - Plantae
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UKにおいてツール性の強いファンキーかつハードなテクノを90年代から開拓し続けてきたLuke Slaterは、現在ではベルリンはテクノの中心であるBerghainに於いても活動し、同クラブが主宰するレーベルのOstgut TonからはPlanetary Assault Systems名義でこの10年で3枚のアルバムをリリースしている。幅の広さを持つSlater名義よりはPASでは直球ダンスフロア寄りでツール度と強度を高めたミニマルなテクノを突き詰めており、硬派なBerghainとの親和性が良いのだろうが、それにしてもBerghainでの経験に影響されたという本作が繰り広げる世界は真っ暗闇の中に狂乱が吹き荒れるダンスフロアそのもので、その場所を体験した事のない者にさえ現場を風景を想起させるようだ。2019年の初頭には自身のMote Evolverから『Straight Shooting』(過去レビュー)をリリースしていたが、本作もほぼその路線の踏襲で、全てがフロアのひりつよくような緊張感と膨張するエネルギーが込められている。"Red"は不気味なボイスサンプルとパルスのような電子音のループが印象的で、感情を排したように冷たいマシングルーヴが淡々としたグルーヴを作っており、単純なループと音の抜き差しで展開を作る構成はDJツールそのものだ。"Whip It Good"の緊張感と溢れるエナジーは目を見張るものがあり、スリージーなハイハットの連打やアシッド風な覚醒感溢れるループ、シャリシャリした金属的なパーカッションなどが現れては消えてを繰り返し、ひたすら猪突猛進な怒涛のグルーヴ感に踊らない事は許されない。それに比べると"Kamani"は音の密度は低く線の細いパーカッシヴなリズムが引っ張っていくが、金属が擦れるような電子音や催眠的な上モノのループによって、大きな揺さぶりをかける事なくじんわりと引っ張っていく構成もミックスの中でこそ映える曲だろう。"Mugwort"は近年のJeff Mills風のスペーシーなミニマルで、浮遊感のある揺らぐ上モノのループと上げもしない下げもしない正確な4つ打ちで、終始淡々とした流れから永遠かのような持続感を生み出している。怒涛のハードな要素だけでなくファンキーさアンビエンスもありベテランらしい深みのあるテクノだが、どれも徹底的に機械的で熱を感じさせない冷えたテクノはこの蒸し暑い夏の温度感さえ下げるようで、言葉通りにクールなDJツールとなってフロアに響き渡るに違いない。



Check Luke Slater
| TECHNO15 | 12:00 | comments(0) | - | |
Santiago Salazar - Cloud Iridescence LP (Not On Label)
Santiago Salazar - Cloud Iridescence LP

停滞と言っては失礼かもしれないが、テクノやハウスの歴史の中で燦然と輝く経歴を持つレジェンド達が一向に新作をリリースせず、そういった大き過ぎる存在の穴を埋める存在がなかなか現れてこないデトロイト。勿論新世代が全く台頭していないわけではなく、例えばUnderground Resistance一派に属しLos Hermanosの一員でもあったチカーノ系のSantiago Salazarは、グループを離脱してからはツール向けのテクノ寄りなHistoria y Violenciaを設立したり、そしてデトロイト外のレーベルからも積極的に作品をリリースし、その活動の幅を広めている。2019年にはデトロイト・マナーに沿ったアルバム『The Night Owl』(過去レビュー)もリリースしていたが、それから間を空けずにリリースされたのが本作のミニアルバム。Bandcamp上でのみの販売でセルフリリースとなるが、僅か6曲ながらもバラエティーに富んだ構成でデトロイトという音楽をベースにしながらも、それだけに収束しないようにと発展も目指しているように感じられる。ビートレス状態を1分程持続させアンビエントなコードで始まる"1"は、途中からダウンテンポなリズムも入ってきてコズミックな電子音も絡めながらも、終始ドリーミーな瞑想を続けるかのような内向的な曲だ。"2"では浮遊感のあるパッドと華麗なシンセが絡み合いながら、ハイハットを強調した疾走感のある4つ打ちも加わり、壮大な叙情性と吹き抜ける爽快感のあるテック・ハウスで、古典的ではあるがファンが望むであろう作風だろう。"4"はつんのめって野蛮なリズムは土着的で、そこにコズミックなシンセのループを用いてスペーシーに展開するが、これにはLos Hermanosの残像が見受けられる。更には朧気なギターも用いてサイケデリックなローファイ・ハウスに仕上げた"5"、コズミックに躍動するシンセにスウィングするジャズ・ドラムを合わせた艷やかなフュージョン風の"6"など、アルバムの世界観としては確かにデトロイトらしさがありながらも曲それぞれは異なる魅力を持っている。相変わらず流行とは無縁な、それどころか古典的でさえもあるが、得てしてデトロイト・テクノとはそういうものだしファンが期待するものだろう。



Check Santiago Salazar
| TECHNO15 | 11:30 | comments(0) | - | |
Fred P. - Reaching For The Stars (Neroli:NERO 046)
Fred P - Reaching For The Stars

イタリアのNeroliはハウスを基軸にしつつブロークン・ビーツやネオソウルにテクノまで、いうなればクロスオーバーな音楽性を2000年代序盤から先取りしているレーベルで、エレクトロニックとオーガニックを匠に共存させながら非常に優雅な世界観を持っている。多種多様なアーティストがカタログに名を連ねており、非常に豊かな音楽性を持っているが、しかしまさかUSの人気絶頂にあるテック・ハウサーのBlack Jazz ConsortiumやFP-Onerなど複数の名義を持つFred.Pがそこに加わるとは、予想だに出来なかった。確かにFred P.は深遠なるディープ・ハウスから壮大なテック・ハウスに、またはジャジーな要素に瞑想的なアンビエントまで正にクロスオーバーという点においてはNeroliとの親和性が無いわけではないのだが、それでも同レーベルの他のアーティストに比べるとやはりテクノ/ハウス色が強く毛並みが違っていたように思われる。しかしそこは流石Fred P.でNeroliというレーベルを意識した作風でレーベルカラーに寄せてきたEPになっており、DJとしての腕は勿論作曲者としても非常に優れた才能を発揮している。タイトル曲の"Reaching For The Stars"は正にタイトル通りに星へと接近するような叙情的なテック・ハウスで、幻想的なパッドを配した上に踊るように躍動する流麗なシンセソロを被せて宇宙の中に溶けてしまうようなドリーミーさがあるが、しかしリズムは崩れたブロークン・ビーツでしやかに疾走感のあるグルーヴを生み出しており、ハイテック・フュージョンと呼びたくなるフロアでも圧倒的な感動を呼び起こす曲だ。"Moonlight"の方がよりレーベルカラーを表現しており、生音風のドラムマシンによるジャズ調のリズムを下地に耽美で繊細なエレピと流麗なストリングスを用いて、迫力のあるビート感を叩き出しつつも非常に優雅なアンビエンスで包み込むなど、過去の『Sound Destination』(過去レビュー)上にある作風だ。"Riverside Drive"も非4つ打ちのブロークン・ビーツ寄りだがそれよりは荒々しく太いグルーヴ感があり、なのに上モノはエモーショナルなパッドと優美なピアノが溶け合うようにアンビエンスを作り出しており、激しさと静謐さという対照的な性質が同居している。"Moonlight"と同様に"New Ways"もレーベルカラーに寄せた作風で、生音強めでざっくりジャジーなリズムにエレピを大胆に用いたメロウかつエモーショナルな曲はフュージョン・ハウスと呼ぶべきか、DJツールではなくただ単一の曲としても魅力を発揮する。Neroliというレーベルのクロスオーバーな雰囲気を尊重しつつ、Fred P.らしくフロアに寄り添いつつエモーショナル性があり、相変わらずの安定感で見事な一枚だ。



Check Feed. P
| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 12:00 | comments(0) | - | |
Ken Ishii - Mobius Strip (U/M/A/A:UMA-9130~9132)
Ken Ishii - Mobius Strip
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「東洋のテクノ・ゴッド」と呼んでしまうのも流石に恥ずかしくなってきてしまうが、しかしこの自信に満ち溢れた最新作を聞くと、彼がテクノへの愛を持ちテクノの力を信じているであろうと伝わってきて、やはりテクノ・ゴッドらしい風格を持っているのだなと感じずにはいられない。本人名義では2006年の『Sunriser』以来13年ぶりとなるアルバムをリリースしたKen Ishiiは、周知の通り世界を股にかけるDJでもあり、ダンスフロアの感覚も熟知しているプロフェッショナルだ。当然EPではダンスフロアのトレンドも意識したダンストラックを制作するのだが、しかしアルバムはトレンドにおおよそ左右されずに、いやそれどころか古さを残しながらも今まで培ってきたテクノという畑をより豊かに耕したようにカラフルさもあり、Ishiiというアーティスト性を素直に出し切った感さえもある。冒頭の"Bells of New Life"でいきなり独特のレーザーのようなシンセサウンドを煌めかせながらポジティブな空気に包んでいくテクノは未来的で、途中には過去にも見られたピッチベンドによる変化で魅了する技も披露し、何だか懐かしく感じられるがこれがIshiiの音なのだ。本作では彼が尊敬するデトロイトの重鎮であるJeff Millsとの念願のコラボレーションも果たしており、その内の一曲である"Take No Prisoners (Album Mix)"ではMillsらしいファンキーなリズムを生み出すTR-909のグルーヴが、Ishiiのダークで退廃的な電子音と絡んで、両者の個性がはっきりと感じられながらもフロアを強襲するパワフルなDJツールと化している。一方、もう一つの共作である"Quantum Teleportation"は近年のMillsらしい抽象的なアンビエンスから宇宙空間が創生されるようなビートレスな曲なのだが、そのまま混沌としたまま終わりへ向かうかと思いきや、ハイハットが粛々とリズムを刻み初めIshiiのレーザー光線のようなシンセが広大な空間の遠くまで伸びていくようにドラマティックな流れを作る。またIshiiから強い影響を受けたというDosemとの共作である"Green Flash (Album Mix)"は、実にDosemらしいトランシーというかデトロイト風というかメロディアスな響きが魅力的で、ハードで厳ついリズムトラックを下地に幻想的な風景が広がっていく叙情的なこの曲は、新旧世代が手を組んで最高の相性を見せている。そして日本からはかつてハードテクノ方面で活躍し現在はサウンド・デザイナーとして活動しているそうなGo Hiyamaも参加しているのだが、"Silent Disorder"ではビートや構成を壊すようにテクノを逸脱するエクスペリメンタルな方向性を見せ、しかし例えばIshiiの初期作風の奇妙な電子音楽を思い起こさせたりもする。アルバムは自分が好きなものを好きなようにやったと言うだけあり、ダンスからリスニングにエクスペリメンタルと幅広い間口を持った内容で、長い経験に裏打ちされた揺るぎないテクノだ。そして最後にはタイトル通りに美しい風景に叙情性が爆発する"Like A Star At Dawn"、何処かオリエンタルな雰囲気を持ち希望を高らかに謳い上げるこの曲は、アルバムの最後を飾るに相応しく、新旧のファンも納得するであろう名曲だ。流行でもない、単なるダンストラックでもない、時代の影響を受けずに存在し続けるアルバムだと主張するようなこの音楽は、テクノ・ゴッドのKen Ishiiという個性そのものだ。

Check Ken Ishii
| TECHNO15 | 18:30 | comments(0) | - | |