Jamma-Dee - Perceptions (Nothing But Net:NBN011)
Jamma-Dee - Perceptions
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2023年も多くの素晴らしい音源がリリースされたおかげで、例に漏れずレビューが間に合わずに年間ベストとして記載出来なかった作品は幾つかあった。それらの一つが本作『Perceptions』で、ロサンゼルスを拠点とするプロデューサーのDyami O'BrienことJamma-Deeによる初のアルバムだ。アーティストの事は全く知らずにこのアルバムを聞いた時に、何だか同郷のモダン・ファンク代表格のDam-Funkを思い起こしてしまったのだが、後から調べてみるとDam-FunkがレジデントDJを務める「Funkmosphere」にも関わるようになり、LAのアーティストと交流を深めたとの情報があったので、Dam-Funkからの影響は間違いなくあったのだろう。音源としては2016年から数年に渡りArcaneから3枚のEPをリリースしただけであったものの、2023年9月に遂にリリースされた本作は実は10年前のスタジオでの実験的な録音を近年になってから手を加えて完成したものだそうで、何だか懐かしい空気感があるのもそのためだろうか。アルバムの音楽性は何と定義したよいのだろうか、ヒップ・ホップかR&Bか、ファンクかブギーか、いやハウスのビート感も聞こえてくるし、それらも引っ括めてDam-Funkの流れからのモダン・ダンクと包括的に呼ぶと伝わり易いかもしれない。幕開けとなる"Up And Down"はねっとりとしながらも力強いロービートの上をメロウな鍵盤コードが続いていくが、ピッチを変えたような奇妙なボーカルサンプルもねじ込まれ、初っ端からメロウながらも熱きファンクネスが炸裂している。"Jamma's Jam"ではMndsgn & Swarvyをフィーチャーしているが、ざっくりとしたヒップ・ホップのビートに艶めかしいベースラインや優美なエレピが加わる事でメロウさを発し、途中からのエモさ爆発なシンセソロやヴィブラフォンも印象的で、これぞモダン・ファンク。Koreatown Oddityを迎えた"Spellbound"は90年代的なアタック感の強いR&B調のビートにノリの良いラップも加わるが、それでも陽気でメロウな雰囲気を保ちじっくりと耳を傾けたくなる魅力がある。ガチャガチャとしたビート感が強くダンサンブルなヒップ・ハウス的な"It Takes A Freak"のように勢いがあり弾けるようなダンストラックもあり、カタカタとしたTR系のパーカッションが効いていてまるでLarry Heardのような叙情的で慎ましいハウスの"Tic-Toc"もあり、甘ったるい歌も色っぽくあるR&B色強めな"Every Morning"もポップで耳に残りやすい。特に印象に残ったのは颯爽とした軽いビート感ながらも耽美なピアノコードとメロウな多重コーラスを活かしてファンキー&スウィートなディープ・ハウス化した"Silly"で、耳に残るフレーズ使いが特に映えている。しかし色々な曲調やビートの差はあれど、アルバム全体の開放的で楽観としたムードはやはり西海岸の音楽性によく感じられるもので、場所柄の影響なのだろうか。彼が気に入っているアーティストとのコラボレーションを紹介するアルバムとした前提で制作されており、その為半数位の曲でゲストを迎えておりそういった事もあって様々なジャンルが一つのアルバムに混在しているのだが、不思議と散漫とした感覚はなくやはり本作はメロウなモダン・ファンクなのだ。



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| ETC(MUSIC)6 | 22:03 | comments(0) | - | |
Guy Maxwell - Outside My Window (Growing Bin Records:GBR037)
Guy Maxwell - Outside My Window
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印象としてはここ数年のニュー・エイジ/アンビエントのリバイバルの中で大躍進を果たしたように感じられるBasso率いるGrowing Bin Recordsだが、レーベルは何か特定のジャンルに縛られる事はなく、今までにもジャズやファンクにハウスにディスコ、その他の音楽も含めてただ良質な音を世に送り出す事が前提だ。そこには新しい音楽もあれば古い音楽もあり、発売当時は評価されず残念ながら売れなかったような過去の作品に対しても、Bassoは何処からか見つけ出してGrowing Binというある種のブランド付けをしながら、世の中への普及にも務めている。そんな中の一枚が2021年にGrowing Binが復刻した本作『Outside My Window』で、元々はジャズアーティストであるGuy Maxwellが1980年に唯一リリースしたアルバムだ。Maxwellにとって音源はこれ以外はなくアーティスト性を語るだけの情報は無いのだが、流石に古い作品だけあり生演奏を主体にメロウな歌を重視しつつジャズやファンクにAORといった響きが聞こえてきて、現代的な解釈であればバレアリックな方面からも楽しめる充実した内容となっている。先ずオリジナルから差し替えられたジャケットを見れば分かるように、夜の穏やかな海の上に浮かぶ満月といった情景からして何かメロウなりロマンティックなりな雰囲気は予想が付くのではないだろうか。そして冒頭の"Watch Out Sally"、耽美な鍵盤使いに湿り気を帯びたようなベースラインやメロウなギターカッティング、そこに厚みを持たせて豊かを演出した多重コーラスも加わり、ラテンの雰囲気も伴ったスムース・ジャズとでも呼べばよいか。繊細でメランコリー爆発なアコースティックギターのフレーズから始まる"You Never Sang This Song"は、そこから魂を絞り出すような歌や土の香り漂うドラムも加わわって熱くなるも、シンセサイザーの幽玄な響きもムードたっぷりに演出する。対して朗らかなアコースティックギターのコードや穏やかで優しいピアノがリードする"Funny Weather"は、甘い歌やコーラスも際立ちフォーキーでもありポップでもあり、シンプルな構成がメロディーや歌の魅力をより濃いものとしている。"Summer Song"ではギターもベースも何処か陽気でゆったりとして、それに合わせて歌も肩の力が抜けメロウで甘く、途中には幸せを鳴らすような至福のトランペットも高らかに響いて平和なムードのAOR、またはスムース・ジャズだ。こういった作品がGrowing Binから復刻されるのを意外と感じる事もあるかもしれないが、このレーベルにとってはジャンルとは単に誰かにとって都合の良い区分けでしかなく、知られてはいないがしかし素晴らしい音楽を伝えたいというBassoの考えがあればこそ、復刻されるのも自然な事なのだろう。



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| ETC(MUSIC)6 | 21:47 | comments(0) | - | |
Spirit of Sundaze Ensemble - I (Sose Recordings:SOSER002)
Spirit of Sundaze Ensemble - I
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真夜中ではなく日曜の午後というパーティーとしてロンドンで人気を博したSecretsundazeは、パーティー名でもありレーベルでもあり、そして音楽のプロジェクトでもある。James PriestleyとGiles Smithから成るこのプロジェクトはテクノとハウスの溝を埋め、ガラージやバレアリックにジャズやファンクといった音楽も咀嚼しながら、ロンドンでカッティング・エッジな場を生み出していたそうだ。しかし昨年、Smithはより制作方面に力を入れたいという事でSecretsundazeを離れ、現在それはPriestleyが一人で意思を継承したとのニュースを聞く事があった。結果として、その流れはこのPriestleyによるSpirit of Sundaze Ensembleというプロジェクトに繋がる事になったのだが、本作を聞くと生演奏を以前よりも強調してバンド的な音楽性を打ち出したハウスやディスコを目的としているのかと感じる(だからEnsembleなのだろうか?)。実際に制作にはSound Signatureでも活躍するドラマーのMyele Manzanza、Zeitgeist Freedom Energy ExchangeのメンバーであるLewis Moody、Basement Jaxx等でも演奏するパーカッショニストのOli Savill、日本からは鍵盤奏者のHinako Omori、その他にも複数のメンバーが名を連ねており、かつてDJとして展開していた音楽を自らの演奏によって再現しようとする意思が感じられる。そんな事もあり収録された4曲全てはカバーなのだが、どれも元から名曲である事を差し引いても魅力的な曲として生まれ変わっている。Joyce Simsによる"Come Into My Life"はメロウな鍵盤や泣きのギターに対し、原曲よりもダンサンブルでゆったりとしたブレイク・ビーツを導入してよりクラブ・ミュージックらしさも引き出して、バレアリックなディスコへと仕上げている。"Mine To Give (Extended Mix)"はPhotekによるエレクトロニック性の強いソウルフルなハウスなのだが、ここではどっしりしたディスコ的なビート感を強調し、生演奏のギターやベースといったライブ感のある演奏も打ち出して、より人間味溢れるしっとり情熱的な曲調へと見事に作り変えている。"Earth Is the Place"はNathan Hainesによる西ロンのブロークン・ビーツのシーンで生まれた名曲だが、しなやかなビート感や優美な雰囲気は踏襲しながらもよりパーカッシヴで爽快感があり、ボーカルに迎えられたCheriseが原曲に負けじと華やかで優しく包み込むような歌を披露し、原曲を尊重しながらもSecretsundazeによる再生的なカバーを披露してりる。そしてWbeezaによる"Coast Spotting"は原曲からがらりと変わり、ピアノやベースにドラム等の恐らく生演奏主体の叙情的で美しいジャズ・スタイルとなり、混沌としたセッションを繰り広げるような時間帯も交えながらスピリチュアルなジャズを聞かせている。Secretsundaze改めSpirit of Sundaze Ensembleは以前の魂を継承しつつアンサンブルという主体のプロジェクトへと変化したが、現時点ではこの変化は成功しているように思われ、この流れでアルバムが制作されたら面白い事になるだろう。



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| HOUSE17 | 21:51 | comments(0) | - | |
Bellofatto & Gentile - Night Swim (Horisontal Mambo:MAMBO 011)
Bellofatto & Gentile - Night Swim
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Prins Thomasが主宰するFull PuppやInternasjonal等は、Thomasが普段展開するニュー・ディスコが軸となっているが、2016年に傘下に設立されたHorisontal Mamboは感傷的なダウンテンポやバレアリックといった方向性があり、ここ数年リスニング志向の強い筆者はサブレーベルであるHorisontal Mamboの方により魅力を感じている。2023年9月にリリースされたレーベルの目下最新作である『Night Swim』はBellofatto & Gentileなる聞き慣れぬユニットの初の作品だが、サンフランシスコのライター兼DJのDan Gentileと、そして昨年C-Thru名義で素晴らしいバレアリック・ブレイク・ビーツなアルバムである『The Otherworld』(過去レビュー)をリリースしたテキサス州オースティンのJesse Edwardsから成るユニットだ。当初はイタリアのドリーム・ハウスのメロディーとテクスチャーを模索していたようだが、最終的にはモジュラーシンセサイザー、ブレイクビーツ、レフトフィールドなサンプルを含む音楽性へと進化し、この「夜の水泳」なる何とも官能的でロマンティックなタイトルのアルバムが完成したのだ。レーベルの音楽性からおおよそ予想は出来るだろうがアルバム全編に渡ってスローモーなダウンテンポのビートとバレアリックなムードが支配しており、そして静けさが広がる真夜中のメランコリーな官能とドリーミーさから夢幻の風景が浮かび上がるようなリスニング志向の作品で、結論から言うと文句無しのバレアリック・アルバムだ。引いては寄せる波のフィールド・レコーディングの合間から夜の帳を感じさせるロマンティックなシンセが浮かび上がる"Interplanetary Soccer"でアルバムは幕を開け、ゆったりと躍動するブレイク・ビーツに浮遊感を伴いながら体も揺らすようで、幻想的なシンセが叙情的な旋律を奏でながら夜の深い時間帯へと向かって行くようだ。"Dream Cycles"はゆったりとした4つ打ちの中を夢の中でふらつき彷徨うような朧気なシンセを配し、アシッド性のあるシンセを効果音的に加えながらもあくまでしっとりとした静かな夜のイメージを壊さずに、神秘的な夢現な状態が持続する。ドタドタとして躍動的なスローモーなブレイク・ビーツが特徴の"Watching UFOs in the Park"は明るく多幸感に溢れているが、昼間の音ではなく幸せな夢に浸っているイメージだ。ノンビート状態に対し静謐なシンセによって月夜を眺めるサウンドスケープを展開する"The Moon At Halftime"もあれば、アルバムの中では一番ダンス性の強い弾けるブレイク・ビーツと眩い光を発するような豊かなシンセによって至福へと上り詰める"Liquid Roses"もあり、バラエティーにも富んでアルバムは最終局面へ向かう。最後は雪がこんこん降り積もる厳寒に、家の中で暖炉と向き合い暖を取るようなほっこりとしたアンビエント調の"Winter Reprise"で、叙情的な余韻と共にしっとりと音は消えていく。Horisontal Mamboへの信頼があるからこそ幾分かは評価は甘くなるのかもしれないが、それでもHレーベルの音楽性に沿いつつエモーショナルでロマンティックなバレアリックな世界観は見事で、疲れた心身を癒やすためのチルアウトとしても機能する。



Check Jesse Edwards & Dan Gentile
| HOUSE17 | 13:52 | comments(0) | - | |
Session Victim - Low Key, Low Pressure (Night Time Stories:ALNLP65)
Session Victim - Low Key, Low Pressure
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ディープ・ハウスを制作するアーティストは山程いるが、それをライブを前提とした作りで実践するアーティストは決して多くはない。ドイツはベルリンにてHauke FreerとMatthias Reilingが展開するSession Victimは、ファンクやソウルといった古い音楽のサンプリングを駆使しながら生っぽさを強調したディープ・ハウスを制作しているが、それらは全てライブで実演する事を可能とした前提があり、DJが作る機能性重視という見方とはまた異なる視点を持ったライブ性のある音が特徴だ。それでも彼等が奏でるディープ・ハウスは少なくとも今までの作品に限って言えばダンスフロアでの機能性を当然含んではいたのだが、前作の『Needledrop』(過去レビュー)を聞いても分かるようにダウンテンポへの取り組みを強め、意識的にダンスフロアに依存しないリスニング性を強めている。そして通算5枚目となるこのアルバムもその路線を一層掘り下げて、ダウンテンポやブロークン・ビーツにほんの少しのアンビエントなムードをスパイスとして取り込み、まるで先祖返りかのように彼等が用いてきたサンプリング元へより接近した音楽性を主張する内容となった。そんなわけでアルバム冒頭の"Enlightenment"からして艶めかしいブロークン・ビーツで、まあそれだけならまだ驚く事ではないのだが、やはりドラムやベースにホーン帯の響きは非常に生っぽさを強調しておりファンクやジャズのライブ感を伴いつつ、その上アンニュイでモヤモヤとしたアンビエントな雰囲気に包まれた作風には驚かずにはいられないだろう。続く"Soft Landing"を聞けばざっくりとしたドラムや躍動的なベースラインに生き生きとしたライブ性を感じ、耽美な鍵盤使いにコズミックな効果音も織り交ぜながら揚々としたファンクが鳴っている。"Jazzbeat 08"はタイトルまんまに変則的なビートに金管楽器の妖艶なメロディーを打ち出したスピリチュアル・ジャズだし、"The Hidden Trail"はしなやかで柔軟性のあるビートに色っぽくムーディーなエレピを重ねた小気味良いジャズで、やはり踊らせる事は既に目的となく耳を惹き付けるリスニング重視の音楽性へと傾倒しているのは明らかだ。アルバムの中では比較的ダンスフロアでも映えそうなうねりと躍動感のあるブレイク・ビーツにダークな音色を合わせた"Assembler"といった曲もあるが、やはり全体像としてはリスニング寄り。アルバムの最後はInstra:mentalによるドラムン・ベース作の"Photograph"のカバーなのだが、原曲よりも生音を強めたラフなビート感を強調しシンセによる物悲しいメロディーを加える事で叙情的な面を前面に押し出したダウンテンポとなっており、じっくりと対峙して耳を傾けながら聞き入りたくなるメロウな曲となっている。過去の作風は間違いなく真夜中のダンスフロアを高揚させるディープ・ハウスが中心で、本作は踊れる要素は少なくダウンテンポなのはファンにとってどう感じるかは測りかねるが、そもそもダンスだろうとリスニングだろうとそういったスタイルに左右されない楽曲の魅力がSession Victimにはある。狭い部屋にこもってセッションを重ねたようなライブ性のある作りは変わらず、これもまたSession Victimらしいサンプリングによる生音と電子楽器を駆使したアルバムなのだ。



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| HOUSE17 | 22:10 | comments(0) | - | |