Keita Sano - Partiest #1 (Crue-L Records:KYTHM159DA)
Keita Sano - Partiest #1
Amazonで詳しく見る(日本盤)

2013年デビューと比較的若い世代では頭一つ抜きん出た実力者、2019年には更なる活動の場を求めてベルリンへと移住したKeita Sano。ロウ・ハウスやアシッド・テクノ、ディスコ・ハウスにダンスホール・レゲエと若さ故の衝動と言わんばかりにジャンルに執着せずハイエナジーなダンス・ミュージックを、年に何枚ものEPとしてハイスペースで送り出す程に、音楽への意欲とアイデアは溢れるように盛んでエネルギッシュな存在だ。Rett I FlettaやMister Saturday NightにLet's Play House含む世界各国のレーベルから引く手数多という表現も嘘ではない人気っぷりだが、ここ日本に於いてはCrue-L Recordsに見初められている。本作は2018年末にリリースされた同レーベルからは2枚目となるアルバムで、プレスリリースによると「パーティー・マシン・ソウルの猪突猛進型ニューウェイブ。精度と肉感が増強。」との事で、実際に本作は以前の作品に対してより強度を高めたテクノへと向かっている。獰猛で荒々しい質感は今までと同様だが冒頭の"3 7 Point 1"を聞いても分かる通り、金属的なノイズ混じりの刺々しく不協和音にさえも聞こえるダーティーなテクノは、この曲自体はビートレスであっても内から凶暴なエネルギーが無尽蔵に溢れ出すかのようだ。続く膨張したキックと不気味な電子音のループ、破滅的なパーカッションによって繰り出されるもはやインダストリアルにも近い"HUMANOID"、逆に音を削ぎ落とし荒削りなリズムを浮かび上がらせたシカゴ・テクノ風な"4 Club Use Only"と、序盤には非4つ打ちの変化球的な構成ながらも荒廃した世界観が強烈な印象を残す。"But Is Not For Everyone"は従来の音楽性に沿った勢いと太さのあるハイエナジーな4つ打ちだが、これにしてもひんやりと感情を廃したような金属的な冷たさが続き、不気味に牙を剥くアシッドのベース・ラインが雰囲気を作り上げるツール特化型のダンス・トラックだ。不思議な事にアルバムの後半に入ると陽気なパーティー感のあるメロウネスも現れてきて、切れのある変則的なビートの躍動と共に明るくハッピーな気分のメロディーが弾ける"R.I.P."や、霞むダビーな音響の中から繊細なピアノが浮かび上がり幻想的な美しさを放つハウスの"PARTIEST"、そして最後にはノンビートな状態に不明瞭ながらもエモーショナルなドローンが充満するアンビエントな"For You"で上り詰めた高揚は跡形もなく霧散する。震撼する激しいテクノから徐々にドラマティックに振れていく新境地もあるアルバム、相変わらずその音楽性はリスナーの予想を擦り抜けながらも、しかし精度と肉感が増強という触れ込み通りのパワフルな音楽性でまだまだその進撃は止まりそうもない。

Check Keita Sano
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
James Booth - Bath Time (Funnuvojere Records:FV001)
James Booth - Bath Time
Amazonで詳しく見る(MP3)

Panorama Barでもレジデントを担当するMassimiliano Pagliaraが2019年1月にFunnuvojere Recordsを始動させた。Pagliara自身がバレアリックな多幸感のある音楽を制作している事からも分かる通りレーベルも方向性としては同様で、栄えあるレーベル第1作に抜擢されたのは100% SilkやGrowing Bin Recordsからやはりローファイで素朴な響きのバレアリックなディスコやテクノを手掛けるJames Boothだ。彼の音楽もダンス・ミュージックの前提はありながらも肩の力が抜けて、どちらかといえば暗い密閉空間のフロアよりは陽が射す開放感ある野外向けのバレアリック性があり、その意味ではレーベル初の作品になったも納得だ。本作では以前よりもダンス方面へのビート感を増しており、例えば"DXXX"では80年代ディスコ風なシンセ・ベースの快楽的なラインやドタドタとしたドラムのビート感があり、安っぽく垢抜けない音質を逆手に取ってローファイながらも新鮮なバレアリック感あるディスコを聞かせる。"Bath Time"は澄んだ美しいパッドのドローンと簡素なリズムが引っ張っていくアンビエント風だが、途中から輝かしいシンセやからっと乾いたパーカッションも加わると弾ける躍動感を獲得して高揚とした至福に包まれ、例えばパーティーの真夜中の時間帯を抜けた先にある朝方のフロアで鳴っていそうなテクノ/ハウスだ。そしてピアノらしきエレガントなコードと刺激的なハンドクラップやリズムがディスコティックな雰囲気を生む"Roller Chrome"、ドタドタとしたリズムマシンの肉感溢れるビートが逞しくもニュー・エイジ風な瞑想を誘うシンセと控え目な中毒的アシッドが快楽を誘発する"Such Is Life"と、どれも基本的には闇のヴェールを振り払うようなポジティブなダンス・ミュージックで、長閑で穏やかなリゾート感さえあるバレアリック性が清々しい。アーティスト、レーベル共に今後の動向に注目したい。



Check James Booth
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Trux - Eleven (Office Recordings:OFFICE 15)
Trux - Eleven
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
BaazことBatian Volkerが主宰するベルリンのOffice Recordingsは、繊細かつ深遠なる音響に陰鬱な感情を込めたようなハウスとアンビエントのブレンドを行い、Baaz列びにChristopher RauやIron Curtisらがカタログに並ぶ通り享楽からは離れた慎ましいディープ・ハウスを手掛けている。そんなレーベルのミステリー、それが2016年に同レーベルからデビューしたTruxで、リスニングを主体としたメランコリーに染まるアンビエント寄りの作風で注目を集めて今ではOfficeの主軸アーティストと呼んでも差し支えない存在感を示しているが、本作で通算4枚目となった今でもその正体は不明なままである事が余計に興味を駆り立てる。音楽の方もアーティストと同様にミステリアスな空気を纏っており、ノイズにも似たようなドローンに覆われた中から叙情的なメロディーが薄っすらと浮かび上がる"Another World"からしてアブストラクトな音像があり、流体の如く抽象的な動きを見せて視界をぼかし続ける。続く"Behaviour"は小刻みで早いビートを刻んでいるがダンスのそれではなく、そこに陰鬱でダークなアナログシンセ的な温かいメロディーや奇怪な効果音を盛り込んで、不気味な高揚感を誘う。再びスローモーな"Earth Floor"では深い残響音を用いてそこにリバーブをかけたおどろおどろしい呟きも被せてどんよりしたアンビエントを展開し、"Sleeper"ではヒスノイズ混じりのドローンに柔らかく淡々とした4つ打ちも加わってサイケデリックなディープ・ハウスを聞かせる。またつんのめって踊れないリズムを刻み不協和音のようなコードを展開する"Give It Up"にはグリッチ風なエレクトロニカの要素もあり、全体としてはアンビエント性が強くとも時折牙を剥くように刺激的な瞬間がはっと目を覚まさせる。終始ローファイなぼやけた音像に濃霧の中で道を見失い迷ったしまったような錯覚を受けるディープなアンビエント作だが、仄かに温かみのある情緒も感じられすっと耳に馴染む心地好さもあり、微睡みに落ちていく。



Check Trux
| TECHNO14 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Laurent Garnier & Chambray - Feelin’ Good (REKIDS:REKIDS141)
Laurent Garnier & Chambray - Feelin’ Good
Amazonで詳しく見る(MP3)

リリース前から話題になっていた本年度アンセム級の作品、Radio Slave主宰のRekidsからはフランスにおけるダンス・ミュージックの生き字引であるLaurent Garnierとベルリンの新鋭であるChambrayの共作が届いた。近年ストレートな直球4つ打ちだけでなくブレイク・ビーツを用いた90年代前後のレイヴを思い起こさせる曲がやや再燃している印象は受けていたが、特にRadio Slaveによるリミックスがその決定打になるべきオールドースクールを意識したレイヴ・アンセム的な曲調で、2019年において燦然と輝く曲になるだろう。"Feelin' Good"はいきなり汗臭く肉感溢れるシャウトで幕を開け、そこから野蛮でドンドコとしたリズムやハンドクラップを用いた時点でかなりオールドスクール感が溢れているが、そこに膨張したベースサウンドや金属的なパーカッションも加わりダーティーなエレクトロ感とテクノの混合がある。そしていかにもレイヴ的な輝かしいピアノコードの派手な展開とブレイクに向けて連打されるスネアロールと、ある意味では古典的とも言える様式美に倣ったこの曲は、盛り上がらずにはいられない要素がこれでもかと詰まっている。過去の曲を聞いた限りでは恐らくChambrayの影響が強く出た曲調だとは思うが、DJとしては超一級のGarnierが決して作曲家としてはそうではなくともDJによる影響を制作方面へと落とし込み、完璧なまでのDJ向けのピークタイム仕様になったのは流石だ。また2つのリミックスを提供したRadio Slaveも素晴らしい仕事をしており、"Radio Slave Remix"の方は原曲よりも派手さを抑えたソリッドなビート感を打ち出し、ピアノの豪華な響きは消し去り荒削りなパーカッションやダークなシンセのみでじわじわと深い闇の中を疾走するツール性に磨きを掛けたリミックス。そしてもう一つが更なるアンセムと成りうる"Radio Slave Revenge Remix"で、こちらはピアノ・コードはそのまま用いつつもリズムは地面を撃ち抜く極太キックとジャングル風なブレイク・ビーツでゴリゴリ激しく大地を揺らし、基本的にはこのパワフルなリズムと輝かしいピアノの展開だけで突き抜ける単純な構成ながらも、このど派手で野蛮な雰囲気は正にレイヴ・クラシックだろう。原曲とリミックスそれぞれパーティーにおいてピークタイムを飾るに相応しいハイエナジーな興奮があり、早くクラブで体験したいと思わずにはいられない。



Check Laurent Garnier & Chambray
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Conforce - Autonomous (Delsin:124DSR)
Conforce - Autonomous
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
2017年10月頃のリリースから既に2年経過してしまったものの、Boris BunnikことConforceの5枚目となるアルバムは電子音響テクノを好むリスナーにとっては注目すべき内容なので、今更ながら紹介したい。Conforceのデビューアルバムこそデトロイト・テクノの多大なる影響が現れたエモーショナルかつインテリジェンスなテクノだったが、それ以降BunnikはSevernayaやSilent HarbourにVersalifeを含む多くの名義を用いてアンビエントやディープ・テクノにエレクトロやダブの要素まで多岐に渡る音楽性を披露し、溢れんばかりの才能を開花させていた。このConforce名義も作品を重ねる毎に徐々に直接的なデトロイト・テクノの影響を薄めながら、ダブのディープな音響やIDMのインテリジェンス性を強めて、フロアに即しながらもエクスペリメンタルな感覚のあるテクノへと傾倒してきている。そして本作、その路線は大きく変わらないが深海の様な深遠なる暗さと複雑奇怪なリズムを獲得しているが、言うなればDrexciyanやAutechreの音楽性も咀嚼したモダン・テクノと呼んでも差し支えないだろう。冒頭の"Tidal Gateway"からして霞んでダビーなノイズ風の音響に変則リズムが絡み、金属的なパーカッションや電子音が飛び交う荒廃したダークなテクノは、闇が支配するディープな深海を潜っているようだ。つんのめったタムのリズムで始まる"Fauna Of Estuaries"は、隙間のある空間内に反射するベルのような音と微細ながらもインダストリアルな音響を張り巡らせ、グルーヴは走りながらも終始凍てついた世界観が続く。そしてパルス風の連続しながら膨張するような電子音がループし、切れ味のある鋭いハイハットの連打や薄く張り巡らされたドローンに覆われる"Inland Current"は、緊張感の中で今にも大きく躍動しそうな感覚もあり、アンビエント的でありながらも闇が支配する激昂するフロアで浴びたくなる。勿論"Harnessed Life In Programmed Form"や"Meuse-Plain"に見られる4つ打ちのかちっとしたリズムを軸に、深いダブの音響やトリッピーな電子音を用いて重厚感を打ち出したダンストラックも無いわけではないが、"Autonomously Surpassed"の90年代のインテリジェンス・テクノに触発された繊細で変則的なリズムとSFの未来的な響きを聞かせるテクノこそ、Conforceの多彩なアーティスト性がより反映されているように思う。直球4つ打ちのテクノは少なく一見フロア向けではないエクスペリメンタルな印象もあるが、しかし真っ暗闇のフロアで肉体を震撼させるであろう痺れるディープな音響テクノは、Bunnikの多様な音楽性が一つになり今完成形を見せている。



Check Conforce
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Chmmr - Try New Things (Full Pupp:FPLP014)
Chmmr - Try New Things
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ニュー・ディスコ大使のPrins Thomas主宰によるFull Pupp、ノルウェーを中心としたアーティストの作品を大量に送り出してきた正にノルウェーを代表するニュー・ディスコなレーベルだが、この新作はそんな中でやや異色にも思われる音楽性を展開している。手掛けているのはノルウェーのEven BrendenことChmmrで、2010年頃からリリースを開始し途中からはFull Puppへと移籍し、2017年には初のアルバムとなる『Auto』において陽気なニュー・ディスコを軸にしながらも熱帯の豊かな色彩溢れるバレアリックやイタロのムードを持ち込んで、ダンスとリスニングを自然と横断する心地好いアルバムを完成させていた。それから2年を経たこの2ndアルバムはより空気は緩み最早ダンスフロアを全く意識させる事なく、アンビエントやフュージョンへと足を踏み入れて至上の楽園のような長閑な風景を見せる。アルバムの始まりは可愛らしいエレピと優美なシンセのコードだけによる子守唄のような"Ultrafine"、ビートは無くアンビエントな雰囲気もあり微睡みに誘う。続く崩れたダウンテンポがゆったりとリズムを刻む"1 More Day 2 Play"は、光沢感あるシンセが躍動し耽美なピアノが夜の帳を下ろしてダンスなパーティーの雰囲気も無いわけではないが、真夜中というよりは夕方の早いまだ和んだ時間帯。コンガや他のパーカッションも用いた"Adult Land #6"は微かにジャズやファンクの影響も滲ませて、情緒的なパッドやきらびやかなシンセに彩られる白昼夢状態のダウンテンポを展開し、"NFO Love Song"ではカチッとしたマシンファンクなリズムを刻む中で艷やかなシンセと朧気なエレピが意識も溶けてしまう程の甘い夢に誘う。トーク・ボックスを用いてロボット・ファンクな感も出しつつしかしぼんやりと緩んだシンセが持続する"We Live In Melas Chasma, Baby"は昨今のニュー・エイジにも共鳴し、シンプルなピアノと電子音の繊細なコードだけで簡素な響きながらもしんみりと心に染みるコンテンポラリー・ジャズな"1 4 cc"はChick Coreaへと捧げたと本人は述べている。耽美な鍵盤使いやフュージョン風な優美な響き、アンビエントの瞑想的な平穏にはダンスフロアの狂騒や興奮は一切無く、長閑な昼下がりの3時にうたた寝をするように甘美な時間帯を演出する。もはやニュー・ディスコの影さえも残さない意外や意外なアルバムだが、近年のバレアリックやニュー・エイジにアンビエントの再興が続く中で、このアルバムは見事に時代に適合した傑作だ。



Check Chmmr
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Black Jazz Consortium - Evolutions EP (Perpetual Sound:PS001)
Black Jazz Consortium - Evolutions EP
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
US勢の中では飛ぶ鳥を落とす勢いのテック・ハウス系DJのFred P.。FP-OnerやFP197といった変名活動も含めて多量な作品をリリースしながらも、幻想空間のディープ・ハウスや情緒的なアンビエンス、またはオーガニックなジャズ要素と幅広い才能を発揮し、そのどれもが一級品の質を保つ才人。今までSoul People Musicを運営してきたがその活動を停止させ、新たに始動させるのがPerpetual Sound。そのレーベル第一弾として自らの変名であるBlack Jazz Consortiumによる4年ぶりのEPを抜擢したが、ここら辺のレーベルやアーティスト名の違いは一体何なのか、明らかにはなっていない。しかし作品自体はいつも通りのエモーショナルなテック・ハウス路線だが、"Essential Paradise (Fred P Reshape)"ではややFP-Oner名義にも似たオーガニックな響きがあり、ざっくりとジャジーなビート感とウッドベースの湿った低音、そこに手弾き感の強いフュージョン風なシンセのメロディーを重ね、心地好い浮遊感と共に宇宙空間を駆け抜ける。"Mystery Of Fantasy (Reprise)"は2分半のインタールード的な曲で、華麗なシンセストリングスを前面に打ち出しつつビートレスな構成がシネマティックな風景を浮かび上がらせる。それをMr.Gがリミックスした"Mystery Of Fantasy (G's Fantasy Mix)"はシカゴ・テクノを思わせる硬いリズムが打ち付けるダンスな曲へと生まれ変わり、ダークな呟きとゴリゴリしたリズムを軸にミニマルな構成で引っ張っていくフロアでの機能性重視な作風だ。最後の"120 Black Key Experiment (Continuation Interlude)"もインタールード的な意味合いが強く、様々なスポークンワードを用いて近未来の宇宙空間を思わせるSFアンビエントだが、こういったスペーシーな世界観もFred P.お得意の演出だ。新たに立ち上げたレーベルのコンセプトがどういったものかを知る由も無いが、曲自体はFred P.らしい流麗でエモーショナルなテック・ハウスやアンビエント性があり、期待通りといった印象だ。



Check Fred P.
| TECHNO14 | 13:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Tomi Chair / Tominori Hosoya - Tropical Imagination (Scissor and Thread:SAT039)
Tomi Chair Tominori Hosoya - Tropical Imagination
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
Francis Harris主宰のブルックリンのScissor and Threadの新作は、ここ数年作曲家としてワールドワイドで知名度を獲得しているTominori Hosoyaによるもの。今作では別名義となるTomi Chairの作品も収録したスプリット盤で、リスナー側からはこの名義の違いを正確に把握する事は出来ないものの、ここでは『Tropical Imagination』というタイトルが示唆するように熱帯の鮮やかな色彩に満ちた豊かな世界観を彼らしいエモーショナルかつ美しいサウンドで表現している。透明感と爽快感を伴うパッドから優雅なピアノが沸き立つ開始の"Tropical Imagination"は、そこからフラットな4つ打ちと水飛沫のようなパーカッションも加わって、ひたすら流麗な電子音が複数絡み合う中を縫うようにピアノが展開し、これとHosoyaと呼ぶべきエレガントなディープ・ハウスだ。このEPで注目すべきは特にピュアなアンビエント性が打ち出されている事で、"Tropical Imagination (Dream Version)"はビートを抜いてピアノや電子音を浮かび上がらせる事で、途端に微睡みのアンビエント性を獲得した正に夢に溺れるバージョンで、一際美しい世界観が創造されている。"Heat Exhaustion"は完全にアンビエントへと振り切れており、蒸気のようなドローンが満ちながらその中に点々とした電子音を散りばめて静謐な雰囲気を作り出し、最終的には静かに霧散する。本EPで唯一となるTominori Hosoya名義の"We Are Here"もアンビエントだが、鳥の囀りなどのフィールド・レコーディングに厳かなパッドを合わせ、そして爽快に抜けるダビーなパーカッションが大きな空間性を演出し、ゆったりとビートが胎動しながらスケール感の大きさに包まれる。またレーベルオーナーであるHarrisも"Heat Exhaustion (Francis Harris Reform)"を提供しているが、ビートレスだった原曲にゆったりとしながらもパーカッシヴでダウンテンポなリズムを加え、濃霧によって視界も揺らめくような幻惑するレフトフィールドなハウスへと生まれ変わらせている。かなりアンビエントへと向かった本作は意外ながらもしかし情緒的なメロディーやムードを尊重するHosoyaの音楽性があるからこそ、このアンビエントも自然と馴染んでおり忙しない現実から一時でも離れる白昼夢へと浸らせれくれる。



Check Tominori Hosoya
| TECHNO14 | 18:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
YS - Perfumed Garden (Music Mine:MMCD20029,30)
YS - Perfumed Garden (2019 Remaster)
Amazonで詳しく見る(日本盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ここ数年活動が活発になっていたとは言えども、ジャパニーズ・アンビエントの再燃が無ければ恐らく本作のリイシューも無かったのは間違いない。近年は温泉好きシンセバンドとしてNaturally Gushing Electric Orchestraとして活動するサワサキヨシヒロは、1992年頃から音楽活動を開始し、Techno The GongやMeditation Y.S.等複数の名義を用いてプログレッシヴ・ロックに影響を受けたテクノ/アンビエントを展開し、そして1994年には本作をリリースするとNME誌からは「ジャンルを超えたファンキー・チル・アウト」として評価され、その頃盛り上がりつつあった日本に於ける空前のテクノブームの立役者の一人となる。つまりそんなテクノが著しく熱かった時代にリリースされた本作は、しかしそんな熱気とは対照的にダンスの狂騒とは無縁な緩く底抜けにオプティミスティックな世界観と音に何の意味も込めずにただひたすら快適性のみを追求したような響きによって、唯一無二のアンビエントを確立させていた。本作で魅了されるのは何を差し置いても"Neocrystal (On The Beach Mix)"で、繊細な光の粒子のような音のシーケンスと浮遊感をもたらす美しい鳴り、そして控え目に用いられたTB-303のアシッドは凶暴性よりもひたすら快楽へと向かい、意味も意識も込められていない純粋無垢なアンビエントは10分にも渡って覚める事のない白昼夢へと誘う。実は何気にフル・アンビエントなのはこの曲位で、他の曲はフローティングするテクノやブレイク・ビーツ寄りスタイルが多く、しかしそれでも音の響きはやはり無垢で多幸感が全開だ。"Magic Dome"なんかは当時Dave AngelがMIXCDの中で用いたりもして話題になり、軽くリズムが入りダンス寄りな作風ではあるが下辺ではアシッドが明るくうねりつつ優雅なストリングスが絢爛に彩るハッピーな世界観は、この後のユーモアに溢れ陽気な音楽を展開していく実にサワサキらしさがある。今回のリイシューに際して特筆すべきはボーナスディスクの方で、Meditation Y.S.名義でApolloからリリースしたEPやコンピレーション収録曲が纏められており、今となっては入手困難な曲が一同に聞ける事だろう。特にApolloからの14分にも及ぶ"Slumber"は"Neocrystal"級のフル・アンビエントで、眠気を誘うダウンテンポのビートにほんわかとした音の粒子が浮遊しながら、TB-303のアシッド・ベースにダブ処理を行いながら多層的な音響により意識も融解するサイケデリックなトリップ感を得て、極楽浄土への片道切符な名曲だ。アンビエントとしてはボーナスディスクの方がより純度は高く、"Aqua Gray"なんかもリズムは跳ねたブロークン・ビーツ調ながらもか細く繊細なシンセが複数のラインで陽気な旋律を奏でつつ、下部では太いアシッド・ベースがファンキーにうねる毒々しくもハッピーなアンビエントで、この何も考えていないような楽天的な世界観がやはりサワサキ節だ。そして"Neocrystal"の別バージョンで初披露となる"Selftimer"は、基本的に上モノはそのままでリズムに変化を加えて重厚感が増したダブ・バージョン的な曲で、当然天国を目指すトリップ感は最高級。CD盤では2枚で10曲の内、9曲は10分越えの大作とアンビエントしてはこの長尺な構成だからこそ夢から醒めない持続性が活きており、25年前の作品ながらも全く今でも通用する素晴らしいアンビエント・アルバムだ。ジャパニーズ・アンビエントが再度注目を集める今だからこそ、知らなかった人達にも是非とも聞いて欲しい一枚。



Check Yoshihiro Sawasaki
| TECHNO14 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Thomas Fehlmann - 1929 - Das Jahr Babylon (Kompakt:KOMPAKT CD153)
Thomas Fehlmann - 1929 - Das Jahr Babylon
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
2018年には8年ぶりのアルバムとなる『Los Lagos』(過去レビュー)やTerrence Dixonとの共作アルバムもリリースし、また久しぶりの来日ライブも行うなど、 老いてなお盛んに精力的な活動を行うベルリンのThomas Fehlmann。ジャーマン・ニューウェーヴの変異体であるPalais Schaumburgの元メンバーという肩書きから始まり、ベルリンとデトロイトの橋渡しも行いつつThe Orbの片割れとして長く活動も続けるなど、ドイツに於けるダブやアンビエントさえも包括するテクノ音響職人としての才能はトップクラス。そんな精力的な活動の中で2018年3枚目となるアルバムをリリースしていたのだが、本作は1929年のベルリンをテーマにしたドキュメンタリーの為のサウンドトラックだ。1929年は世界恐慌もありドイツ経済が壊滅的な状況になる中で、アドルフ・ヒトラーが政権を握り、その後第二次世界大戦前へと続いていく暗黒の時代、そんな時代を切り取ったドキュメンタリーという事もあり、音楽自体も普段の作風に比べると幾分かどんよりとしており決してクラブでの刺激的な高揚感とはかけ離れている。特にモノクロ映像も用いたドキュメンタリーに意識したのだろうか、音の響きからは色彩感覚が失われダークかつモノトーンな雰囲気が強く表現されている。曲名には各チャプター名とその時のムードを表したであろうタイトルが付けられており、それもあってどの曲もヒスノイズ混じりのダブやドローンの音響を用いたアンビエント性の強い作風はより抽象性を高めて、中にはリズムの入る曲があっても全体的に映像の邪魔をしない高揚感を抑えた曲調になっている。勿論だからといって本作からFehlmannらしさが失われているかと言えばそうではなく、古ぼけたように霞んだ音響にもぬめりのあるダブ音響を披露しミニマルな構成やシャッフル・ビートも織り交ぜて、Fehlmannらしく繊細かつ精密な音響職人らしいこだわりのある音が活きている。シーン毎に曲が並べられているため普通のアルバムに比べると何となく断片的な流れに受け止められるが、映像と合わせて聞いてみると、不安な時代感がより強く伝わってくる音楽性だ。Fehlmannらしい美しい音響がありながら、退廃美的に感じられるダーク・アンビエント。





Check Thomas Fehlmann
| TECHNO14 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |