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Waveform Transmission - V 2.0-2.9 (Astral Industries:AI-08)
Waveform Transmission - V2.0-2.9
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現在隆盛を誇るアンビエント・ミュージックと一口に言ってその曖昧なジャンルは、始まりとなった環境音楽からヒーリングと呼ばれるもの、または瞑想系や踊り疲れた後のチルアウトなど、様々な形となって枝分かれしている。2014年に設立されたロンドンのAstral Industriesも流行となる前から既にこのジャンルの探求を実践しているレーベルの一つで、過去の名作の復刻に勤しみつつモダン・アンビエントのリリースにも力を入れ、ドローンを重視したクラブ観点からのアンビエント・テクノとして頭一つ抜きん出た存在だ。そのレーベルから2017年にリリースされた本作を手掛けたのはWaveform Transmission、この言葉を聞くとデトロイトのハード・ミニマルの魔術師のアルバムを思い起こしてしまうが、そうではなく同じデトロイトのダブ・テクノ/アンビエントの重鎮であるRod Modell (DeepChord/Echospace)とChris Troyによるユニットなのだが、なんと1996年の『V1.0-1.9』以来のアルバムとなるのだからおおよそ20年ぶりの作品というわけだ。前述のアルバム以降のModellの活動はDeepChordやEchospace等多くの名義を用いて、フィールド・レコーディングやアナログの柔らかい揺らぐような音響を活かした幻想的なアンビエントをサウンドスケープとして表現してきたが、一方でTroyはこのWaveform Transmission以外では活動の痕跡を見つけるのは難しくミステリアスな存在ではあるが、こうして20年も経て再結成をする位なのだからModellと同じくアンビエントに対する偏執的な愛があるに違いない。さて、アルバムはと言えばアナログだと片面に18分の曲がダブルパックで計4曲の72分が収録されているが、1曲は2〜4のパートに分かれてそれぞれ異なった風景を見せる。チリチリとした柔らかなヒスノイズや風が吹くようなフィールド・レコーディングから初まり濃霧のようなシンセのドローンコードが心地好い"V 2.0-2.1"は、後半からは極寒の吹雪が吹き荒れるような不鮮明なノイズ・ドローンによる色彩が失われた世界へ突入する。"V 2.2-2.3"は不思議なフィールド・レコーディングにぼんやりとしながらも荘厳なシンセ・ドローンが神秘的で、無重力の宇宙空間で遊泳を楽しむかのような優雅で美しいアンビエントだが、後半は一転してエレクトロニクス性が強くダビーな音響が奥深くへと誘っていく。"V 2.4-2.7"の前半も非常に美しく、壮大なアンビエンス音響に包まれつつ広大な空にか弱くも美しい星の光が瞬くような電子音が散りばめられた流れだが、後半は抽象性を高めるように繊細なディレイやエコーをを用いたダブ音響によってここではない何処かを演出する。最後の"V 2.8-2.9"は不思議な程に幻想的なコード展開を重視したメランコリーな響きで、自然音や電子音が融和しながら快適な瞑想の時間帯を提供してくれるだろう。Modellにとってアンビエントなスタイルは以前から存在するものであるが、過去のダンス・トラックとして機能するミニマル・ダブな作風よりも本作は完全にリスニングやBGMとしてのアンビエントに振り切れており、そこには精密で美しい電子音や優しい自然音が境目なく融合しかつて無い程の深遠なるアンビエンスが広がっている。



Check Rod Modell & Chris Troy
| TECHNO14 | 21:00 | comments(0) | - | |
Artefakt - Monsoon (Semantica Records:SEMANTICA 107)
Artefakt - Monsoon

2017年にDelsin Recordsからリリースされた初のアルバム『Kinship』(過去レビュー)はデトロイト・テクノの叙情性、深いアンビエンスな音響を冷えた金属的なテクノに取り込み、モダンテクノとして昇華した音楽として実に素晴らしい内容であった。オランダのRobin KoekとNick LapienによるArtefaktはそれぞれが個別にも活動しているが、このArtefaktでの深い音響から壮大さを生み出しつつフロアへの視点を持ったテクノがユニットの特徴して現れ、別々の活動よりも更に2人の持ち味が相乗効果として働いているようだ。そしてこの2ndアルバム、今度はスペインのディープな音響テクノで脚光を浴びるSemantica Recordsからとなるが、音楽的な相性で言えばこのレーベルからリリースされるのも自然であり、前作の路線を素直に踏襲して自身の地盤を固めるような内容になっている。アルバムの開始となる"The Lost Centre"はノンビート・アンビエント、揺らめくようなシンセのレイヤーの中に微かな呟き声等が交じりながらも荒廃した地平が広がるような凍てついたサウンドで、これから迫り来るであろうハードな展開の予兆がある。続く"Monsoon"も微かなヒスノイズを散りばめながらも覚醒的な電子音がうねる幕開けで、そして淡々としたキックも入ってくれば期待通りの叙情性はありながらも無機質で機械的なビートや音響がゴリゴリと鳴るディープなテクノとなり、灰色の荒れ地を疾走するようなハードな質感だ。つんのめったように崩れたリズムが特徴の"Undulations"も薄っすらとした電子音響を張り巡らせ、徐々にコズミックな上モノや深さを生むダビーな電子音も加わり、荒々しくもアルバムの中では爽快感のある曲だろう。がやはりアルバム全体の雰囲気は暗く冷えており、ドスドスと太いキックがアンバランスなビートを生む"Vertigo"の覚醒感溢れる上モノが持続しながらも闇深いダークなテクノや、微妙にアシッド的な鈍いベースラインが快楽的でジャンルとしてのトランスさえも感じさせる極低温の"Ossature"など、リズムの多様性はありながらも光の射さないどんよりと荒廃したムードが全体を覆い尽くしている。アルバムの最後でダウナーへと落ちていくように、朧気な電子音響が揺らめくアンビエント性の強い"Nimbus"ではゆったりとしたリズムを刻みながら、覚醒的な電子音のループも交えながらドラマティックに盛り上がり、そして静かに跡形もなく消え去っていく。前作同様にアルバムの起承転結の流れがあり、ダンスとして盛り上がる内容であるのは前提としてリスニングとしても魅了される展開と深い音響があり、アーティストとしてその才能は偽りが無い事を証明する2作目。痺れるディープかつトランシーなテクノ、これは本物だ。



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| TECHNO14 | 18:00 | comments(0) | - | |
Andras - Boom Boom (Public Possession:PP031)
Andras - Boom Boom
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A.r.t. WilsonやHouse Of Dadといった名義でも活躍し、John TannerとのユニットであるWilson Tannerでも自然派志向のアンビエントを展開するなど、現在形のニューエイジ隆盛の中で頭角を現したメルボルンの新世代を代表するAndrew Wilson。しかし近年は無駄な装飾を削ぎ落としたロウなハウスや、果てはアシッド・サウンドまで用いたダンストラックも制作するなど、多彩な才能を持つ彼も次第にダンスフロアへの奥へと進んでいくような傾向が見受けられる。そしてAndras Fox名義で2019年にリリースされた本EPは、その傾向が更に顕著になったダンス中心の内容ではあるが、しかし単純なテクノやハウスとも異なる世界観は彼のレフトフィールドな感覚が強く込められている。"Jingo"は特にそんな性質が強く、オールドスクール感の強い4つ打ちながらも未開の地の原住民が踊っているようなアフロ・パーカッションと魔術的な魅力を放つベースラインを軸に、大きな展開する事なくミニマルなグルーヴで黙々とダンスさせる機能性重視なトライバル・テクノだ。壊れかけのラジオから流れてくるようなインタールードの"Wax FM"を挟み、"Conch"もややオールド・スクール感はあるものの、疾走感のあるリズムを刻みながら耽美なシンセコードを展開し、軽やかなパーカッションも加わって音圧やアッパーなテンポに頼る事なく軽快なグルーヴが肉体を揺らす、これも非常にシンプルながらもAndrasのダンスフロアへの的確な嗅覚が感じられる。"Rubber"はブヨブヨしたベースラインや掴みどころのない気の抜けた電子音のメロディー、そして不思議なSEも織り交ぜてAndrasの遊び心というかユーモアな性格が伝わってきて、一筋縄ではいかない奇抜なダンスも面白い。そしてスローモーなテンポながらも圧のあるキックと快楽的な電子音の上モノの組み合わせがややレイヴぽさも匂わせる"IPX7"、90年代的な時代の空気があって昨今のレイヴ調の曲が再燃するムーブメントも意識しているようだ。どれも闇雲に作り込み過ぎる事なくシンプルな支柱に沿って出来たような曲調だが、しかし必要最低限でも十分に機能を活かす点には理知的な感性もあり、色々なジャンルを難なく横断する才能はやはり本物だ。



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| TECHNO14 | 19:00 | comments(0) | - | |
Perishing Thirst - Pilgrims of the Rinde (NAFF:NAFF004)
Perishing Thirst - Pilgrims of the Rinde
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青々しいファンタジーに吸い込まれるジャケットのバレアリック感に目を引かれ、試聴してみたところ確かにバレアリックからアンビエントにニューエイジ、いやそれだけではなくアシッドなダンスから厳ついブレイク・ビーツまで、雑多にジャンルが混在しつつも湧き出すピュアな多幸感に包まれる音楽性が体の隅々まで汚れを洗い流す。このアルバムがデビュー作となるPerishing ThirstはDust-e-1ことAlex Sheaf、Cassidy Johnson、Markus Stahlによるカナディアンの自称レイヴ・バンドで、それはニューエイジやアンビエントが再燃する今という時代も取り込んで、ダンスからリスニングまで飲み込み新しい風を吹かせている。幕開けは開始を宣言するように呟きを用いた"Seek To Become"で、ピアノのメランコリーな響きと靄が立ち込めるような幻想的な電子音によってオリエンタルな空気を醸すダウンテンポで、しっとりと肌に馴染ませるようにアルバムは始まる。続く"Lac Of Therein"は微かなアシッドさえもが心地好く広がるドリーミーなダウンテンポで、透き通る清涼感溢れる電子音とバンド風なリズムが爽やかに底抜けな青空を描き出す。繊細なエレピとジャジーなリズムが小洒落ているカフェのBGM的な"How Can I Love U"を通過し、辿り着いた先は力強く跳ねるダンスビートの"Enhance"で、クリスタルの如き透明度の高い電子音が伸びながらリバーヴを活かしたボイス・サンプルやシンセも等も織り交ぜて、大空を飛翔するバレアリックなテック・ハウスだ。"Desecr-8"はアルバムの中でも最も勢いのあるダンストラックで、ビキビキしたアシッドの反復とゴリゴリしたブレイク・ビーツで爆走するが、しかし澄み切ったシンセのコードも加わってくると深いダンスフロアの闇の中というよりはやはり屋外の開放感が感じられ、こういった澄んで清涼な空気感は彼等の特徴の一つだろう。激しく揺さぶれた後には、同じくアシッドを用いながらも瞑想的に使われるアンビエント寄りのダウンテンポ"Sacred Agency"や、90年代のグルーヴィーなヒップ・ハウスと清々しくオゾンが湧出するバレアリック性が融和した"Morning Light"など、体も心も冷ますチルな曲で安らぎへと導いていく。アルバムというフォーマットを活かして多用なジャンルの表現により豊かな世界観を展開するが、それらが雑然とならずにバレアリック/ニューエイジの枠で纏められており、ダンスからリスニングまで自然と楽しめる作品だ。こういったジャンルをクロスオーバーする感覚は、初期のSystem 7なんかを思い起こさせたりもする。



Check Perishing Thirst
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Fumiya Tanaka - Beautiful Days 2010-2015 (Sundance:SNDCD002)
Fumiya Tanaka - Beautiful Days 2010-2015
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ベルリンとへ移住して以降、DJとしては当然としてアーティストとしてもミニマルというベースを元にテクノ/ハウスを求道的に実践する田中フミヤ。日本のミニマル・テクノの先駆者の一人…という評価も越えて、その知名度は寧ろ海外の方が高いのではと思われるが、こうやって長い経験を積み重ねながらもミニマルとしての音楽性のブレの無さはこの2018年リリースのアルバムに於いても健在だ。海外に拠点を移してからはミニマル・テクノの代表的レーベルの一つであるPerlonにも認められEPやアルバムをリリースする一方で、自身が主宰するSundanceからは2017年に3枚に渡ってBeautiful Days EPシリーズを展開し、フロアでの鳴りや機能性に特化したミニマル・テクノを披露していた。このシリーズはベルリンへ移住してからそこで得たアイデアを自身の音に反映させた60曲程の中から選びぬいたもので、よく彼が述べる「フロアにレコードが選ばれる」(漫画で言うならば勝手にキャラクターが歩き出すみたいなものか)等の雰囲気を詰まっているそうだ。そんなアナログ3枚を更にアルバムとして、また生粋のDJである事を主張するかのように全てミックスして構成したのがこのCDである。本人のブログに拠れば編集無しの一発録音を5回行ったそうで、最終的には事前のプランに依存しないミックスが一番グルーヴの一貫性があり採用されたというのも、如何にも彼らしいエピソードだ。出だしはスキャットのようなボイスサンプルを用いた"Everybody Don't Know Me"で始まるが、気の抜けた4つ打ちとスカスカなベースラインとダンス・トラックにしては随分と弛緩したグルーヴ感で、なよなよしながらもアコギ等のサンプリングも用いた繊細な表情を付けている。続く"At The Time, Suddenly"も雰囲気はかなり近似しているが、フラメンコらしきギターやハンドクラップのサンプルやカットアップ的なぶつ切りの音を持ち込んで、強迫的な勢いや音圧は無くともファンキー&ディープな響きで、早くもずぶずぶとしたグルーヴに飲み込まれる。ヌルっとしたベースラインながらも安定したグルーヴを持続し訝しい呟きのサンプルも乗っかって催眠的な効果を生む"Respect The Man"、シャキシャキと金属的なハイハットに切れが感じられつつも細かいサンプルが色々配置されたカットアップ・ハウス風な"Hang On A Second"など、どれも田中フミヤそのもののスルメの様な味わいを持った渋いミニマル・テクノで、一曲一曲だけ聞くと地味な印象は拭えないDJの為のツール集といった趣だ。しかし、CDとして纏めるのであればやはりこうやってミックスする事で彼のDJとしての手腕も発揮され、それぞれは淡々としながらもぬらぬらとした曲群が自然と永続的なグ酩酊感溢れるグルーヴと化していくのを聞くと、やはりこの形が結果的には最適だったのだろうと思う。オリジナル・アルバムでありミックスCDでもある、アーティストとDJとしての両面が反映された田中フミヤの音楽だ。



Check Fumiya Tanaka
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Dominik Eulberg - Mannigfaltig (!K7 Records:K7380CD)
Dominik Eulberg - Mannigfaltig
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2011年の『Diorama』(過去レビュー)から8年、EPは継続してリリースしつつもアルバムを全く出さなかったDominik Eulbergが、2019年遂に5枚目のアルバムをリリースした。ダンス・ミュージックの前提を踏襲しつつも線の太さに頼らず、酩酊感溢れる優雅な美意識やアシッド的な中毒性といった響きを打ち出して、精神へと作用する覚醒感を持った音楽はEulbergを個性あるアーティストたらしめていたが、この最新アルバムはより多様性を受け入れて最早ダンス・フロアへの依存度は低くなっている。前のアルバムのジャケットからも分かる通り自然志向的な意識が感じられたEulbergは、実は生物学者や鳥類学者でもあり自然保護の重要性を唱えているそうで、本作でもジャケットにも多種多様な生物が描かれている通りで多様性のある音楽によって自然保護を訴えるコンセプト・アルバムを作り上げた。曲名も全て動物の名前であったりとそのコンセプトは徹底しているが、アルバム出だしの"Eintagsfliege"(カゲロウ)はどんよりとした暗いムードの中に静謐なピアノやベルの和音が浮かび上がり、ダウンテンポなしっとりしたビートを伴いながら美しくも物哀しい雰囲気の夢の中を彷徨うリスニング系の曲。続く"Zweibrutiger Scheckenfalter"(蝶の一種)も荘厳なシンセのレイヤーで覆われキラキラとしたメロディーが反復し非現実的な美しさが広がるが、下部では先程よりもしっかりしたキックやアシッドのベースがダウンテンポのリズムを刻んで、ゆったりゆらゆらと心地好い酔いを生む。"Dreizehenspecht"(ミユビゲラ)では視界は明るくなり鉄琴のような朗らかなメロディーと薄いシンセの層が色彩豊かな表情を付けているが、途中からポスト・アシッド的な音も混ざってくると華やかながらも陽気な毒々しさも現れて、爽快な多幸感へと入っていく。中にはIDM系のような奇抜な印象も受ける曲もあり、"Funffleck-Widderchen"(蝶の一種)ではグリッチのようなリズムやパーカッションを用いつつ退廃的で美しくも催眠的な旋律が持続するが、次第にビートは数を増やして催眠状態ながらも刺激的な緊張感を高めていく。また少ないながらも"Sechslinien-Bodeneule"(蛾の一種)や"Neuntoter"(セアカモズ)のようにしっかりした4つ打ちテックハウスなダンスフロアに根ざした曲もあるが、こういった曲でもEulbergらしい緻密で知的な性質を失わずに、優雅なベルの音色や幻惑的なシンセのレイヤーに中毒的なアシッド・サウンドも盛り込んで、快楽性溢れ機能性抜群のトランス状態を発揮している。このようなダンス曲は少なくアルバムは総じてリスニング性が強く、狂おしい美意識と牧歌的な多幸感が溢れる世界観だが、音としてのアシッドではなく感覚としてのアシッド性を盛り込んだトランシーな空気もあり、表面的にはダンスフロアからはやや離れているものの十分にクラブ・ミュージックらしい。また今までのアルバムの中でも、特にEulbergらしい優雅な美意識での統一感があり素晴らしい。



Check Dominik Eulberg
| TECHNO14 | 11:30 | comments(0) | - | |
Ricardo Tobar - Continuidad (ESP Institute:ESP 060)
Ricardo Tobar - Continuidad
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2007年にかのBorder Communityから鮮烈なデビューを果たしてから既に10年以上経過しているが、チリ出身のRicardo Tobarはギターノイズを用いたシューゲイザーからモジュラーシンセの毒々しいサウンド等、自信の個性を存分に発揮しながら地道に自身のアーティスト性を深めている。デビュー作での溢れんばかりのフィードバックノイズに覆われたサイケデリアなロック風テクノから、金属が捻れたような歪な響きの狂気的なダンス・ミュージックまで、強烈な音像によって覚醒感や高揚感を生み出してきたTobarだが、この2019年の最新アルバムではダンス・ミュージックでもあるがしかし快適なダンス・フロアからはみ出して混沌へと落ちていく面もあり、相も変わらず刺激的な音響テクノを披露している。アルバムは金属的なパーカッションが空虚に響く中、鈍いモジュラーシンセや歪んだシンセが狂おしく唸る"Les Vagues"で始まるが、不気味なパーカッションや訝しい空気もあってどこか呪詛的な集会のようだ。そこに続く"Recife"は比較的ダンス寄りな曲だが、小刻みに動き回るようなスピード感のあるドラムがけたたましく疾走し、そこに美しく荘厳なシンセストリングスがサイケデリックな高揚感をもたらして、アルバムの中でも特にTobarのメランコリー性が発揮された叙情的な一曲だ。そこを過ぎると緊張感から開放され、落ち着いた4つ打ちを刻みながらヒプノティックなシンセのリフとノイジーなギターサウンドが酩酊感を生む"Totem"、ビートレスながらも祭事かのような打楽器のスピリチュアルな鳴りとぼんやりとしたフィードバックの持続により意識もくらむ混沌が広がる"Entrada Y Salida"と、ダンスフロアに依存しないベッドルームでの想像を刺激する曲もある。"Seguridad"になると壊れた機械を叩いているような朽ち果てたドラムマシンのリズムに合わせ、不明瞭な歪んだシンセやディストーションギターで空間が満ち、破壊的で圧倒的なエネルギーが爆発するもはやダンスでもリスニングでもない混沌が出現する。以前にも増して狂ったような強烈な音楽性を主張し、安易には聞き流せない程の響きは人によっては神経をすり減らされてしまうかもしれないが、しかしそんな破壊的な響きの中にも時折メランコリーや美しさもあり、その意味ではTobarの音楽性は初期から一貫しているように思われる。



Check Ricardo Tobar
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Kuniyuki Takahashi - Early Tape Works (1986 - 1993) Vol.2 (Music From Memory:MFM032)
Kuniyuki Takahashi - Early Tape Works (1986 - 1993) Vol.2
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隠れた名作から埋もれしまった未発表曲まで、時代に取り残されてしまった曲群を抜群の嗅覚を以て掘り起こすMusic From Memoryが次に目を付けたのは、テクノやハウスにジャズやアンビエントといった多用な音楽を、エレクトロニクスと生演奏を駆使してライブ性溢れる有機的な作風に仕立て上げるKuniyuki Takahashi(高橋邦之)だ。作品をリリースし出したのは1995年頃ではあるがそれまでにも音楽制作は行っていたようで、1986〜1993年に制作された音源をプライベートでカセットテープという形に残していたようだが、一体何処から嗅ぎ付けたのかMFMがそんな音源を2枚のアナログに渡って編纂している。本作はこの前にリリースされた『Vol.1』(過去レビュー)に続く第二弾で、路線としては全く変わらずに旧式のシンセやリズムマシン、そしてテープレーコーダーやサンプラー等レトロな機材を用いて、古くもどこか懐かしい響きを持ったアンビエント志向な音楽を手掛けている。"Island"は現在のムーブメントであるニューエイジそのもので、微睡んで叙情的なパッドに深い森の中で聞こえるような鳥の鳴き声らしきサンプリングを被せ、生命が宿る神秘のジャングルから大地の香りが沸き立つような桃源郷エスノ。ダウンテンポなしっとりダビーなリズムも入り、Kuniyukiらしい有機的な温かみを発するメロウなシンセに引っ張られる"Your Home"は、ドラマのロマンティックなシーンで流れるBGM的で物憂げな情景を浮かび上がらせる。後の作品に繋がるようにしみじみとしたギターの音色、生っぽいドラムやパーカッションを用いた"Echoes of The Past"は、Mule Musiqからのアルバムで見られるオーガニックなジャズ×ディープ・ハウスに開眼した作風のプロトタイプと言えるだろうか、非常に熱の籠もった感情性の強い響きはKuniyukiの特徴が顕著に現れている。重厚な湿っぽいストリングスと祈りのようなコーラスによる瞑想アンビエントの"Ai Iro"は霊的な存在感を放ち、静謐なピアノと琴らしき弦による悲哀の旋律と内向的な笛の音色を組み合わせ瞑想へと誘う"Sakura No Mizu"はそのタイトル通りに和の儚い侘び寂びの美しさが表現され、こういった音楽性には後のKuniyukiらしさが散見される。Mule Musiqからリリースする以降の熟練者としての卓越した技術による綺麗な響きや練られた構成の音楽に対し、本作はまだまだ辿々しく未完成な雰囲気も残る作風ながらも、それは素朴さへと繋がりKuniyukiの心の中からほっと温まる音楽性と自然な調和を成している。現在のアンビエント/ニューエイジの視点から見ても素晴らしいのは当然として、Kuniyukiの音楽性の初期胎動を感じられる作品として意義深い。



Check Kuniyuki Takahashi
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | - | |
Barker - Utility (Ostgut Ton:OSTGUTCD46)
Barker - Utility
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世界でも有数のタレントが集まるBerghain/Panorama Bar、そんなテクノの聖地的な場所でレジデントを担うSam Barkerは、10年間ベルリンの音楽業界に身を置くアーティストだ。過去にはOstgut TonからはAndy Baumeckerと手を組みBarker & Baumeckerとしてダンスだけに偏らずアンビエントな雰囲気もあるバラエティーに富んだアルバムを2枚も出しており、アーティストとして確かな才能を持っている事は証明されていたが、何故かソロでの作品は少なく2019年リリースの本作が初のソロアルバムとなる。作品の少なさはもしかすると彼の性格に依るものだろうか、自身の発言において完璧主義としての意識が強い事を述べており、完全に納得する迄は自身の分身である作品としての音楽をリリースしたくないのだろう。そんな彼がようやくアルバムを出したという事は、当然本作への自信も相当なものに違いないが、ダンス・ミュージックに当然として存在するキックドラムを殆ど用いずにしかしダンスフロアへとも通じるこの実験的かつ挑戦的な音楽は、確かな魅力を持っている。冒頭の"Paradise Engineering"でも当然全くキックが入ってこない作風はアンビエントな様相もあるが、美しく伸びる幻想的なパッドとトランス感さえもある繊細な電子音のメロディーが深遠なる世界を繰り広げるこの曲には、物哀しいセンチメンタルなムードも充満し非常に感情的な響きだ。"Posmean"もやはりキックレスだが、しかしバウンスし脈打つベースラインとリズムのようにも用いた細かく躍動する切れのあるシンセが疾走感を生み出しており、例えキックが入らずとも高揚感のあるダンス・ミュージックとして成り立つ事を証明している。変則的なリズムを刻むようなシンセのメロディーはまるでIDMを想起させる"Experience Machines"、キックという明確なリズムが無くとも振れ幅の大きいシンセが大胆な動きによって躍動感を生み、一方で不明瞭な奥深い音響が幻惑の濃霧で満たす"Gradients Of Bliss"は夢のようなダブ・テクノで心地好い。アルバムの終盤になるとダウナーに落ち着いて、闇の中で星が煌めくような静謐な電子音の連なりが微睡みのアンビエンスを発する"Wireheading"、そして珍しく金属的で鈍い打撃音が入りながらもメランコリーな風合いの強いダウンテンポ調の"Die-Hards Of The Darwinian Order"によって静けさを取り戻しながらアルバムは幕を閉じる。見事にキックを一切使わずアンビエント/IDMの要素を持ち込みながら、しかしアフターアワーズではなく真夜中のダンスフロアへも意識を向けたノンビートのダンス・ミュージックは、今までにはなかなか見受けられなかった作風として非常に挑戦的だが、美しくもサイケデリックな電子音の響きは勿論リスニングとしても十分に機能する。重厚なキックや迫力のある音圧が無くともダンスを可能とするテクノ、クラブにおけるライブではこれがどう演じられるのかも興味深い。



Check Barker
| TECHNO14 | 18:30 | comments(0) | - | |
Robert Hood - Paradygm Shift (Dekmantel:DKMNTL050)
Robert Hood  - Paradygm Shift
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近年はディスコ・サンプリングを前面に打ち出したファンキーなゴスペル・ハウスな作風が特徴のFloorplan名義がヒットして、ベテランながらもより一層アーティストとしての進化を見せつけているRobert Hood。しかし根はやはりデトロイト生まれのテクノ・アーティスト、かつては最初期のURメンバーとして、そして脱退後にはミニマル・テクノのオリジネーターの一人として活動していた事もあり、Hood名義でこの何処を切り取ってもミニマル・テクノなアルバムへ5年ぶりに戻ってきたのは意外でも何でもない。2017年作の本作はしかも今や世界有数のフェスティバルとしてのみならず実力派レーベルとなったDekmantelからのリリースで、レーベル自体は個性的で豊かなジャンルに及ぶ多様性があるが、そんなレーベルからこういったテクノ頑固一徹な音楽がリリースされるのも、やはりレーベルからレジェンドに対する畏敬の念みたいなものもあったに違いない。出だしの"Preface"こそ深い底で謎めいた電子音が蠢きクリック音等が連打されるビートレスなアンビエント調の曲だが、それ以降に続く曲はある意味では金太郎飴的とも言える、決して流行や新鮮味とは無縁の冷えて無機質なリズムを刻む、しかし一方でマッチョな肉体感も伝わってくるミニマル・テクノが陣取っている。金属の鳴りが強いシンバルとドスドスとしたキックの応酬に、ミニマル性が根付く単純なシンセのリフ、スプレーのような音響も交えた"Idea"は音の抜き差しによって若干の展開はあるものの、古典的なミニマルの様式美を実践する曲だ。続く"I Am" - 俺とは - という自己主張を感じさせるこの曲は、より平坦なキックとハイハットやハンドクラップの永続的なグルーヴと警告音のようなシンセの反復が、永続的な催眠性を催してミニマル地獄へと誘うファンキーなテクノで、こういった冷たくも肉感溢れるテクノがHoodらしさを主張する。同じミニマルな構成でも、例えば"Nephesh"のように明るいコードを用いて陽気なファンキーさを打ち出した曲、ドンドンと太い芯を持ったキックが骨太ながらもエモーショナルなシンセのループを用いて若干デトロイトな雰囲気もある"Pneuma"、音の隙間を浮かび上がらせる事でリズムの生々しい骨っぽさを強調する"Thought Process"など、ミニマルという軸を守りつつ曲毎に個性があるからこそアルバムを通して全く飽きさせない流れも見事だ。最近のシーンに溢れる線が細く揺らめくグルーヴを用いたミニマルとは一線を画す、これがオリジネーターだ、これがデトロイトだ、という気概が伝わる骨太なこのミニマル・テクノはもはやクラシック。断然支持する。



Check Robert Hood
| TECHNO14 | 22:00 | comments(0) | - | |