Teen Daze - Quiet City (Easy Listening:EZ01)
Teen Daze - Quiet City
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カナダはヴァンクーヴァーに設立された新レーベル、その名もEasy Listening Recordingsとはその直球さに微笑ましくも、しかし興味を必然的にそそられる。レーベル名に引き寄せられるように試聴してみたところ、爽やかでメロウな、そしてバレアリックな季節のディープ・ハウスは即座に耳を虜にした。筆者はすっかり忘れたいたもののこのTeen Dazeは、Let's Play HouseやCoastal HazeからもリリースをしているPacific ColiseumことJamison Isaakによるプロジェクトで、確かにリゾート感覚のあるバレアリックなアルバム『How's Life』(過去レビュー)は素晴らしかった。そんな雰囲気を継承しながらも本作はよりソフトなハウスで、より甘くメロウで、強く胸を締め付けるようなロマンティシズムに溢れている。タイトル曲の"Quiet City"からして甘酸っぱいメランコリーがあり、ローファイながらも颯爽とした柔らかいビートが流れる上にアンビエント感のあるパッドや郷愁を含む甘美なピアノを配し、夕焼けに染まった海沿いの道路を恋人と一緒にドライブするようなロマンティックな風景が浮かび上がる。"Life Style"ではどっしり太いキックによるざっくりとしたブレイク・ビーツに安定感があり、ここでもメロウなシンセ使いやエモーショナル性の強いフレーズがこれでもかと溢れ、ドライブから一転して街中を気ままに散歩して日常の何気ない時間を楽しむかのようだ。終盤には軽くアシッド・サウンドも導入されるが、陽気なムードに自然と溶け込み多幸感が増していく。最後は"Night Club"と夜の帳が下りた後の一日の最後の時間帯、軽快に走るような変則ビートを刻みウォーミーなシンセコードの中を牧歌的な笛のようなメロディーに導かれ、暗くなってからのドキドキが増してクラブへ行く前のあの高揚に包まれるディープ・ハウスを聞いて、後はクラブでのパーティーが待ち受けている。過去のTeen Dazeと大きな差がわるわけではないが、特にディープ・ハウスへと接近しつつバレアリックなムードを保っており、この路線でのアルバムがもしリリースされたらと期待してしまう。



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| HOUSE17 | 22:02 | comments(0) | - | |
Principles Of Geometry - Penta EP (Tigersushi:TSR100)
Principles Of Geometry - Penta EP
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いつリリースされるのか、または新作はもう永遠にリリースされないのか、幻想として存在するようなBoards Of Canada(以下BOC)に恋い焦がれ新作を待ち侘びているそんな貴方に、今必要なのはこのEPだろう。Joakim主宰、2002年頃にフランスにて設立されたTigersushiの通算カタログ100作目を飾ったのは、レーベルの初期から現在に至るまでカタログに存在し続けレーベルの中心的存在となっているPrinciples Of Geometryだ。Guillaume GrossoとJeremy Duvalから成るユニットで、Tigersushiからアルバム5枚とEP多数をリリースしており、エレクトロからディスコにIDMやダウンテンポにハウスなど作品毎に様々に変容するスタイルだが、今まで全く知らなかったアーティストなので何が本質なのかはまだ測りかねている。しかしこの最新EPを試聴した時に、まるでBOCの残香漂う音を感じ即座に購入を決めたのだった。1曲目の"Glower"から既にその影響は顕著に現れており、濃霧のようでミステリアスなシンセの響きから開始し、チョップしたようなヒップ・ホップ的なビートに奇妙なボイスサンプル風な効果音も入り混じりどんよりとしたムードは、正にBOCのサイケデリックな世界観と近似する。しかし単に物真似に終始する事なく、途中からビヨビヨとした狂ったようなアシッド・サウンドが暴れ出し、スローなレイヴサウンドへと変容するのが面白い。一方で跳ねるようなブレイク・ビーツと無邪気に遊び回るような明るいシンセが躍動する"Radiants"も確かに此処ではない何処か的なサイケデリック性はあるものの、トリッピーなアシッドも加わって力強いビートを叩き出し、ダンス性の強い陽気なテクノ/エレクトロを聞かせている。"Oregon"はもう出だしから完全にBOC流のヒップ・ホップかIDMかのビート感、そして遠い記憶の彼方に置き忘れたノスタルジーを誘うドリーミーなシンセの広がりがあり、もし知らずにBOCの新曲だと聞かされたら信じてしまうかもしれない。そしてアシッドバキバキ、ローリングするドタドタとしたビートが慌ただしいローファイなレイヴ調の"Today"を通過して、最後はふんわりとした心地好いブレイク・ビーツと透明感のあるパッドの中からトリッピーなシンセが羽ばたき、浮揚感を得て大空へと舞い上がるようなアンビエント性もある"Kidsangls"でBOCの世界を踏襲してEPは完結する。確かに偉大なるアーティストの音そのまんま、いやアシッドも巧みに用いてよりダンスへと向かっている面もあるが、やはりBOCの影響が余りにも顕著過ぎて物真似と揶揄する人もいるかもしれないが、これはPrinciples Of Geometryが色々なジャンルに取り組む流れの中での偉大なるレジェンドへの経緯を示した作品だと受け止めている。だから、もしかしたらこんな作風は本作だけかもしれないが、その点でも非常に魅力的な作品となっているのだ。



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| TECHNO16 | 23:15 | comments(0) | - | |
Jpye - Blue My Mind (Claremont 56:C56LP025)
Jpye - Blue My Mind
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現行バレアリックを代表するレーベルの一つであるClaremont 56からの作品という事であれば全幅の信頼を寄せるのは間違いではなく、2021年にデビューしたJpyeの初のアルバム『Samba With You』(過去レビュー)もそんなレーベルに期待して購入したようなものだ。太陽の光をいっぱいに浴びたように陽気で、ジャズやディスコにレゲエやダウンテンポといった音楽性を消化しつつメロウかつポップなバレアリック・サウンドに仕上げたアルバムは、デビュー作ながらも既に豊かな円熟味さえ感じさせていた。Jpyeはフランスのマルチ・インストゥルメンタリストであるJean-Philippe Altieによるプロジェクトで、それ以前にも様々な名義・バンドで活動していたようなので、だからこそデビュー作にして素晴らしいバレアリック・アルバムだったのも何も不思議ではなかったのだが。あれから2年後の2023年6月、早くも2枚目のアルバムである『Blue My Mind』がリリースされている。前作同様にボーカリストであるElle HolgateことE11e、かつてのバンドメンバーでもあったLeonidasとRenato Toniniらが本作でも制作に参加しており、そういった事もあってか前作をそのまま踏襲した路線で続編とも受け取れるバレアリック・アルバムとなっている。冒頭の"Freedom Ain't Free"ではe11eをフィーチャーし、ヴィブラフォンやギターの感傷的な響きを活かしつつカラッと乾いたパーカッションによってラテンな空気を誘う曲を基に、e11eの気怠くも甘く切ない歌を重ねていきなりメロウなモードに魅了される。"You Freak Out"ではDa Rocによるしんみりとしたピアノとコズミックなピアノを軸に、うねりのあるベースとざっくりと生っぽいビートのジャズ・ファンクを丁寧に聞かせて、アルバムの序盤は随分と叙情的だ。しかし妖艶に誘う歌が色っぽいディスコ・ダブ的な"Shiver"辺りから陽気さを増し、奇抜なボコーダによる歌とファンキーなギターカッティングに対し奇妙なシンセを合わせたジャジーでエレクトロなファンクの"Xcuse My French"や、垢抜けないディスコビートに対しビヨビヨとしたトリッピーなシンセが映えるブギーな"Va La-Bas"など、ゆったりと大らかではありつつ青空の下で太陽光に照らされたようなポップな陽気さに包まれ、この緩くも開放的な雰囲気はリゾート地のそれのよう。豊かな残響が揺らめきアフタービートが心地好いレゲエ調の"Tutto OK"に官能的に惑わされつつ、ハウスのビート感にスラップベースが力強く響きダンサンブルに体を揺らす"Take Off"もあり、ラストは耽美なピアノが美しくダブ音響が空間性を広げるバレアリックなディスコ・ダブの"Fingers Crossed"で夢の中でうつらうつらと終わりを迎えるようだ。様々なジャンルを咀嚼しながらバレアリックという世界、スタイルで包みこんだClaremont 56らしいアルバム、何だか夏の燦々とした太陽の下が似合う音楽だなあ。



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| ETC(MUSIC)6 | 21:52 | comments(0) | - | |
2024/2/16 Reprise @ Womb
今では世界的なDJにまでなったDJ Nobuがここ日本で2021年の夏より主催しているパーティーがRepriseだ。「ダンスミュージックの反復するビートのように、当たり前だった穏やかな日常を時代に合わせて進歩しながらも繰り返し続けていけること」という思いが込められているようで、丁度コロナ禍の中で立ち上げられた事も影響していたのだろう。現在に至るまでにも何度も開催され、その度にDJ Nobuが皆に聞いて欲しい期待のDJや実力あるベテランを選び抜き、前衛的にダンス・ミュージックの開拓を行ってきた。そして今回の目玉は各々がDJ/ライブアーティストとての熟練者であるSatoshi Tomiie & Kuniyuki Takahashiによるレアなライブセッションが日本初披露と、貴重な体験の一夜が待ち受ける。
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| EVENT REPORT7 | 21:38 | comments(0) | - | |
Sa Pa - Atmospheric Fragments (Astral Industries:AI-33)
Sa Pa - Atmospheric Fragments
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先日、Astral IndustriesからリリースされたRod Modellの『Ghost Lights』(過去レビュー)を紹介したので、引き続き同レーベルからのSa Paによる『Atmospheric Fragments』を紹介しよう。Astral Industriesは2014年に設立されてからおおよそ10年が経過しているが、ダブやアンビエントにドローンといった音楽にフォーカスしながらDeepchordに始まりやWolfgang VoigtやMonolake、Heavenly Music CorporationにLucid Dreams等、その方面の才人達の作品を多くカタログに残している。ダンスフロアで踊らす事を目的ともせずに、不鮮明でぼやけたドローンや深いダブの残響を用いた上に特に長尺な曲構成によって没入感の強い音楽は、超自然的な神秘体験にも近い。そんなレーベルに新たに参加したのがベルリンで活動するSa Paで、GieglingやForumといったアンダーグラウンド性の強いレーベルや現在形のミニマル・ダブを追求するBLKRTZからもリリースしている事からも分かるように、枠に当てはまらないノイズ混じりのエクスペリメンタル性の強いダブを得意としており、だからこそAstral Industriesの流れに合流したのも自然な事なのだろう。さて、この最新アルバムはアナログではA/B面で1曲ずつ収録され、どちらもおおよそ24分と大作となっており、その意味ではレーベルの大作性に正しく沿った内容だ。元々は2020年に行われた展覧会における10本の短編映画のサウンドトラックとして制作されたそうだが、2021年にはそれを再構築してライブが行われたそうで、ここではその"Studio Mix"と"Live Mix"が収録されている。先ずは"Studio Mix"、金属的な効果音からフィールド・レコーディングのような環境音が刺激的に蠢くオープニングから、徐々に重苦しくぼやけたドローンに飲み込まれていき、何処かも分からない空間へと放り出される。コード展開やメロディーといったものは一切なく、環境音を取り込みながら深いダブ処理と生命のように不定形に変化する電子音響を用いて、都市の空虚な日常環境を表現しているのだろうか。刻々と変化していく音楽はさながら街を歩き回り変化していく風景のサウンド・スケープ的でもあり、圧倒的なドローンが溢れ出し高揚する時間帯もあれば、静けさの中で繊細な電子音や液体のような音に耳が集中する時間帯もあり、24分にも渡って深い霧に包まれながら行く先を模索していくようなドローン・アンビエントだ。元は同じ素材である"Live Mix"はその名の通りライブ感、つまり周りの空気と同化したように臨場感がより際立っており、導入される環境音もより前面へと打ち出され"Studio Mix"の緻密さよりも大胆なダブ処理が心地好く、アンビエントの観点からはより環境音楽としての意味を持っているだろうか。そして、Astral Industriesの他の作品がビートの有無にかかわらずまだ幾分かはビートを感じさせたり、一般的な展開らしい展開があったりもするものの、本作のどちらのバージョンもそういった概念すら逸脱して不定形に変化するドローン音響作品へと振り切れており、個性の強いレーベルの中でもより際立った独自の音楽性が感じ取れるだろう。例えばMonolakeの『Gobi. The Desert』やVladislav Delayの『Naima』と共鳴するであろう作品で、実験的な音響音楽が好きな人には間違いなくハマるであろう。



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| TECHNO16 | 22:47 | comments(0) | - | |