2015.05.19 Tuesday
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Vince Watson以上に金太郎飴のように似通った曲を作り続けるアーティストはそう多くはない。良い意味でも悪い意味でも時代に迎合する事なく、幻想的でエモーショナルなテックハウスのスタイルを自身の個性として確立させ、それを過去から未来へと向かって一貫して追求している。逆にその揺るぎない一貫性の為に新作をチェックするのも放棄してしまう事も少なくないのだが、今回は意外にもスピリチュアルなアフロハウスを手掛けるYoruba Recordsよりリリースした事によって、その異色の組み合わせが興味をそそる事で注目を集めている。勿論そんな物珍しさだけで評判になるような事はなく、やはりYorubaからとなってもVinceらしい美しいシンセの響きを、そしてレーベル性を多少は意識したのかディープ・ハウス風な壮大な世界観を作り上げ、近年の作品の中でもベストと呼べる内容となっている。EPの幕開けとなる"Moment With Lonnie"はキックの入らないビートレスなアンビエント風だが、滴り落ちるような静謐なピアノメロディーと荘厳なパッドのレイヤーは何処か宗教的でもあり、Yorubaというレーベルの神秘的な要素も共存している。そして"Eminescence"ではこれぞVinceの真骨頂とも呼べるエモーショナルなピアノのコード展開とシンセの絡みが現れ、カチッとしたパーカッションや重いベースラインが軽快に走るグルーヴを生み、フロアの中で涙を誘うような感動的な展開を繰り広げている。裏面の"Calypso"は過去にも聴いた事があると錯覚する正にVinceの金太郎飴的なテック・ハウスで、こちらもピアノソロや美しいシンセが融け合い動きのあるシンセベースやトライバルなビートが疾走するデトロイトフォロワーを宣言する(本人は否定しているが)ような作風だ。そして狂騒が過ぎ去った後のアフターアワーズを思わせる"Under The Skin"は、これもしっとりと切ないピアノが胸を締め付けるダウンテンポで、大らかで重厚なストリングスがよりドラマティックな終焉を演出する。思っている以上にコテコテにピアノやシンセを多用し荘厳さやエモーショナルな性質を打ち出して、非常にお腹いっぱい感はありつつも、これこそがVince Watsonなのだと主張する作品なのだ。
Check "Vince Watson"