Vince Watson - Eminescence (Yoruba Records:YSD68)
Vince Watson - Eminescence
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Vince Watson以上に金太郎飴のように似通った曲を作り続けるアーティストはそう多くはない。良い意味でも悪い意味でも時代に迎合する事なく、幻想的でエモーショナルなテックハウスのスタイルを自身の個性として確立させ、それを過去から未来へと向かって一貫して追求している。逆にその揺るぎない一貫性の為に新作をチェックするのも放棄してしまう事も少なくないのだが、今回は意外にもスピリチュアルなアフロハウスを手掛けるYoruba Recordsよりリリースした事によって、その異色の組み合わせが興味をそそる事で注目を集めている。勿論そんな物珍しさだけで評判になるような事はなく、やはりYorubaからとなってもVinceらしい美しいシンセの響きを、そしてレーベル性を多少は意識したのかディープ・ハウス風な壮大な世界観を作り上げ、近年の作品の中でもベストと呼べる内容となっている。EPの幕開けとなる"Moment With Lonnie"はキックの入らないビートレスなアンビエント風だが、滴り落ちるような静謐なピアノメロディーと荘厳なパッドのレイヤーは何処か宗教的でもあり、Yorubaというレーベルの神秘的な要素も共存している。そして"Eminescence"ではこれぞVinceの真骨頂とも呼べるエモーショナルなピアノのコード展開とシンセの絡みが現れ、カチッとしたパーカッションや重いベースラインが軽快に走るグルーヴを生み、フロアの中で涙を誘うような感動的な展開を繰り広げている。裏面の"Calypso"は過去にも聴いた事があると錯覚する正にVinceの金太郎飴的なテック・ハウスで、こちらもピアノソロや美しいシンセが融け合い動きのあるシンセベースやトライバルなビートが疾走するデトロイトフォロワーを宣言する(本人は否定しているが)ような作風だ。そして狂騒が過ぎ去った後のアフターアワーズを思わせる"Under The Skin"は、これもしっとりと切ないピアノが胸を締め付けるダウンテンポで、大らかで重厚なストリングスがよりドラマティックな終焉を演出する。思っている以上にコテコテにピアノやシンセを多用し荘厳さやエモーショナルな性質を打ち出して、非常にお腹いっぱい感はありつつも、これこそがVince Watsonなのだと主張する作品なのだ。



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| TECHNO11 | 19:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Head High - Home. House. Hardcore. (Power House Records:PH606)
Head High - Home. House. Hardcore.
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Shed、EQD、The Traveller含め数多くの変名を用いて活動するベルリンのテクノアーティスト・Rene Pawlowitzだが、その中でも彼が主宰するPower HouseからリリースされるWK7/Head High名義の作品は、特に90年代のレイヴ・サウンドを意識したハードなテクノや激しいブレイク・ビーツを用いて臨界点を突破するようなエナジーに溢れている。2010年から始まったこのPower Houseの運営は年に一枚程のリリースと決して活動が盛んなわけではなかったが、Pawlowitzが色々な名義でリリースするどの作品よりも高い評価と人気を獲得し、フロアを揺らすキラートラックを生み出すレーベルとして認知されている。惜しむらくはどの作品もアナログでのリリースと言う事もあり、どうしてもDJに聴かれる機会が多かった事だろうが、しかしこの度Power Houseの作品群が纏めてCD化される事になった。2010年の最初期の作品からリリースされたばかりの最新作まで、つまりはPower Houseの大半の作品が収録されており、その上Pawlowitzがミックスも行っている事で単なるアルバムではなくライブ感溢れるMIXCDとしてPower Houseの音楽性がより活きた形で作品となったのだ。アルバムの冒頭でビートレスながらもレーザーのようなパッドが放射する"Hex Pad"から荒れ狂うエナジーの嵐が吹き荒れ、そして続く"It's A Love Thing (Piano Invasion)"では棍棒で叩き殴るような太く荒い前のめりなビートが炸裂し、そして"Avalanche"ではグシャグシャとしたキックが飛び跳ねるようなリズムを生み、レイヴらしい悪っぽいシンセが入ってくれば正に90年代の懐かしくも狂ったようなハイエナジーな世界観が眼前に広がっていく。基本的には変則にシャッフルするブレイク・ビーツが中心となりけたたましいリズムを刻みつつ、そこに派手ながらもエモーショナルなシンセやピアノが入ってくるスタイルが確立されているので、アルバムとしてはやや単調な点は否めないのは事実だ。しかしそれを補って余りある暴力的で荒削りなパワーにはひれ伏してしまう程の勢いがあり、単純明快なこの猪突猛進のスタイルは直感的に聴く者の体を揺さぶる分り易さがあるのも事実だ。その意味では正にDJ向けでフロアで投下してこそ映える音楽性なのだが、そのフロアの感覚をこのMIXCDで擬似的に体感出来る点でこのアルバムは素晴らしい。正に"Power House"なのだ。



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| TECHNO11 | 09:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Model 500 - Digital Solutions (Metroplex Records:MLP-02CD)
Model 500 - Digital Solutions
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テクノのオリジネーターの帰還である。おおよそ15年ぶりとなるアルバムとしては3枚目となる作品を先日リリースしたModel 500ことJuan Atkinsは、活動から30年を経ても良くも悪くもModel 500が完成させたマシン・ソウルを忠実に守り続けている。2010年の"OFI / Huesca"(過去レビュー)、2012年の"Control"(過去レビュー)、そして近年のライブ活動と着実に復活の狼煙は上げていたが、その終着点となる本作で遂にデトロイト・テクノの産みの親が完全復活した事を証明している。アルバムの冒頭を飾る"Hi NRG"からしてModel 500の初期作風を思わせる東洋的な懐かしいシンセサウンド、そしてデトロイト・テクノのエモーショナルな上モノ、宇宙的な効果音にかっちりとキレのあるリズムトラックが存在しており、時間が経過しようとも変わらないテクノの元祖としての存在感を放っている。続く"Electric Night"も完全に初期作風を踏襲した肉体を刺激するエレクトロ・ファンクで、まあ言ってしまえばKraftwerkが黒人音楽化したようなものだが、Atkinsによるロボットボイスも何だか懐かしくもありつつバチッと鞭打つような強靭なリズムが素晴らしい。"The Groove"では近年のライブメンバーにも加わっているMike Banksがプロデューサーとして参加しAndy Gがギターを弾いているが、エレクトロなトラックの中で天空を切り裂く雷鳴のようなギターが咆哮する展開は、BanksによるPファンク精神が爆発しているようにも思われる。中には"Storm"のようにModel 500名義と言うよりはAtkinsがTresor等からリリースしていたような、よりDJツール的なシャープさと4つ打ちを強めたテクノもあったりと、まあ何にせよオリジネーターとしての威風堂々たる意志が感じられる曲もある。最後には3年前にR & S Recordsからリリースされていた"Control"が待っているが、ああ、これはもう完全にModel 500以外の曲でも何でもないテクノ/エレクトロだ。流行とは無縁の変わらない音楽性だから、3年を経てもこのアルバムの中でも特に違和感なく刺激的なエレクトロ・ファンクを、心身を揺さぶるマシン・ソウルを奏でている。また各曲は5分前後でアルバムは50分にも満たないコンパクトな構成で、冗長さが全く無くすっきりといつの間にか聴き終えてしまう纏まりの良さがあり、久しぶりのアルバムはお世辞抜きにして素晴らしいレトロフューチャーなテクノを体験させてくれるだろう。



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| TECHNO11 | 06:00 | comments(0) | trackbacks(1) | |
John Tejada - Signs Under Test (Kompakt:KOMPAKT CD 119)
John Tejada - Signs Under Test
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ある時はデトロイト・テクノやミニマルなテック・ハウスを、ある時はポストロックやエレクトロニカをと時代によって様々な音楽に取り組んできたJohn Tejadaは、ここ数年はドイツはKompaktと蜜月の関係を作り上げて、レーベル性を意識したようにミニマル性とポップ性を両立させたテック・ハウスを披露してきた。そしてKompaktから続けて3作目となる本作は、やはり繊細で綺麗なシンセを用いながらポップな要素やエモーショナルな流れを重視しながら、TejadaのIDMやエレクトロニカの側面も盛り込んだある意味ではアーティストの様々な音楽性が開花したアルバムになった。冒頭を飾る"Two 0 One"からして浮遊感のある優美なシンセがふわふわと広がりながら、柔らかいキックが快適な4つ打ちを刻み、この時点でKompaktらしいポップな世界観にDJツール性が溶け込んでいる。続く"Y 0 Why"では横揺れする起伏の多いリズムに繊細なシンセのメロディーが絡み合い万華鏡のようなカラフルな景色を描き、"Beacht"では色彩豊かなサイケデリックなシンセが広がるも重いベースラインが機能性を高め、フロアで映えるようなグルーヴと共に感情を前面に打ち出した情緒的な音が表現されている。"R.U.R."では一転してリラックスした間のあるビートと共に妙にピコピコとしたアナログシンセのメロディーを打ち出して、妖艶なムードの中にテクノポップのようなロマンチシズムを詰め込んだ奇っ怪なダンストラックだ。だが本作に於ける特徴はやはり"Cryptochrome"で特に強調されるような繊細で優しいシンセのメロディーが生むメランコリーで、霞んだ霧の中に消え行くような儚く淡い音像がほんのりと広がっている。全体的にフロアで聴くにはやや線は華奢でリズムも細いかと思いつつも、その線の細さを活かしてセンチメンタルな感情も呼び起こす繊細なメロディーは格別で、そして流麗なテック・ハウスからジャンルが枝分かれしたようにリズムにも多様性も持ち込んだ音楽は、これぞTejadaの長年に渡る経験が反映されている。芸術的と呼んでも過言ではない位だ。



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| TECHNO11 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Baraso / Zendid - Different Treatment EP (Earlydub Records:EDRV-02)
Baraso / Zendid - Different Treatment EP

まだ設立されたばかりで詳細は不明ながらもフランスのEarlydub Recodsは注目だ。レーベル公式の案内では既に認められているアーティストだけでなく、まだ世に出ていない新人も紹介する音楽性との事で、それ以外の方向性は一切分からない。しかしその方針通りにレーベルの第2弾ではスペインの20代半ばの若手DJであるBarasoと、フランスからZendidをフィーチャーしており、やはり積極的に新人を取り上げている。この二人はPark & Ride Recordsの"Chicago"(過去レビュー)にも取り上げられており、そこでもモダンなテクノ/ハウスを披露して新人ながらも魅了される音楽性を放っていた。本作ではA面にBarasoによる"The Treatment"と"Nord Us"が収録されている。前者は重みと膨らみのあるキックが揺れながら4つ打ちを刻み、そこに薄く綺麗に伸びるパッドや幻想的なシンセのフレーズを被せたディープなテクノで、後者は分厚いキックを用いながらも水平のグルーヴを保ちそこにヒプノティックなシンセやダビーな残響を織り交ぜたテック・ハウスで、どちらも大きな展開は抑制されてDJ仕様となるツール性を高めながらも淡白ではない叙情性も持ち合わせている。一方裏面にはZendidによる曲が収録されており、激しく打ち付けるキックの上に流麗なメロディーが広がりながらやや派手ながらも感情豊かに壮大な展開を繰り広げるテック系の"Blueorlan"、対照的にカチッとした引き締まった4つ打ちに抽象的で空気感のあるパッドがもやつくディープ寄りな"A Different Place"と、Barasoより曲の展開は大きいものの今っぽく綺麗な音で心地良いテック・ハウス性が強い。まだまだレーベルは始動したばかりでDJも未知数な部分は多いが、それでも本作には期待を懸けるには十分な程にフロアに根ざしつつエモーショナルな音楽性が詰まっている。リリースは180グラム重量盤でアナログのみと、そのアンダーグラウンドな方向性もレーベルの確固たる意気込みが感じられる。



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| TECHNO11 | 19:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Liaisons Dangereuses - Liaisons Dangereuses (Soulsheriff Records:SSCD06)
Liaisons Dangereuses - Liaisons Dangereuses
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何度目の再発だろうか、Liaisons Dangereusesによる81年作の唯一のアルバムがこの2015年にまたもや再発されている。Liaisons Dangereusesは元Einsturzende NeubautenのBeate Bartel、元DFAのChris Haasらが集まったジャーマン・ニュー・ウェイヴのバンドだ。ドイツの音楽と言えば特異な電子音楽を展開したジャーマン・プログレがデトロイト・テクノを始めとするダンス・ミュージックに強い影響を与えているのは有名な話だが、このLiaisons Dangereusesも例えばJuan AtkinsやCarl Craigらがサンプリングで用いるなど、同様にテクノへの強い影響を残している。何と言ってもボーカル以外は全て電子楽器で作られている点でテクノとの近似性は言うまでもないが、しかしKORG MS-20による激しくうねる強靭なベースラインや奇妙で自由なシーケンスによるリズム、怪しげなシンセの音色などその特徴はあちらこちらに散りばめられている。アルバムの中でも一番強烈な印象を残すのが"Les Ninos Del Parque"で、打ち付けるようなハンマービートにKORG MS-20による変則的な拍子のベースライン、そして電子的なサウンドとは対照的に汗臭さも残すだみ声ボーカルは、電子音楽による制作ながらも肉体性も感じさせる迫力あるグルーヴを刻む。そしてCarl Craigの作品である"Galaxyにサンプリングして使われているのが"Peut etre... pas"で、やはりこちらもグシャッとしたキックや動きの多いベースラインに跳ねるようなリズムを刻むシンセが一体となり…しかしそこに野暮ったいボーカルが入ってくると妙に人間臭くなる。中には"Aperitif de la mort"や"Dupont"のように抽象的な音像を描き出すコラージュサウンドもあり、電子楽器を自由に使うテクノのマインドが既にここに存在していた事にも気付かされるだろう。こんな音楽性はバンド本人による才能もあるのだろうが、プロデュースはジャーマン・プログレや電子音楽の可能性を広げた名匠Conny Plank、ここでもその名を見るとは電子音楽好きならば反応せざるを得ないだろう。



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John Beltran Presents Music For Machines (Delsin Records:DSR-D1-CD)
John Beltran Presents Music For Machines
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デトロイトの中でも特に叙情性の強い音楽を手掛けるJohn Beltranは、一時期はまっていたラテン・ミュージックからここ数年は再度テクノ〜アンビエントに回帰している。オランダはDelsinからリリースされたベスト盤の"Ambient Selections 1995 - 2011"(過去レビュー)と再びピュアなアンビエントを披露した"Amazing Things"(過去レビュー)からも、彼の中でアンビエントの2度めの春を迎えていた事を感じていた者は多いだろう。そのようにアンビエントによってDelsinとの関係を深めた彼が更にDelsinと手掛けたのは、John Beltranが選ぶアンビエント作品集だ。アンビエントへの情熱や造詣が深いBltranだからこそコンパイラーに迎えられたのは言うまでもないが、アンビエントにも色々な方向性がある中で本作はBeltranのファンにこそ、先ず一番に聴いて欲しいようなBeltranが考えるアンビエントが収められている。やはり本作に収録された音楽の特徴はノンビートである事は前提として、不明瞭なドローンが続くものやスピリチュアルで瞑想的なものとは異なり、カラフルな色彩を以ってして豊かな叙情性を展開している事だ。ただ自然に空気と同居しているような存在感を現さないアンビエントとは異なり、音楽としての存在感を落ち着いて発しつつ耳に入る事で静かに心に訴えかけるような感情的な性質は、元来Beltran自身が制作していたテクノ/アンビエントと同列である。例えばGreg Chinによる"Dashboard Angels"を聴いて欲しい。しなやかで優雅なストリングスに絡んでいく色彩豊かで可愛らしい電子音によるこの曲は、言われなければBeltranによる未発表曲だと思う程に、夢の世界で羽ばたくようなノスタルジーに溢れている。Mick Chillageによる"Only In My Dreams"も素晴らしく、ドローンのような前半から重力が無くなりキラキラとしたシンセの反復で浮遊感に満たされる爽やかで情熱的なアンビエントは、何処までも澄んでいて清らかだ。アルバムの冒頭を飾るWinter Flags(ApolloからデビューしたGachaの変名)による"Winterfall Winds"も、淡く消え去りそうな穏やかなノイズが吹き荒れるシューゲイザー風アンビエントで、この物哀しさにも似た郷愁は本作の方向性を示唆しているようだ。他にもクラシックを取り入れたようなゆったりと壮大な曲から透明感の強い電子音が伸びるドローンのような曲、有機的な鳴りも取り入れながらただただ美しいサウンドスケープを描き出し、Beltranならではの音による癒やしが待ち受けている。紛うことなき素晴らしいアンビエント・セレクションだ。



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| TECHNO11 | 06:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
VA - Chicago (Park & Ride Records:PAR001)
VA - Chicago

Chicagoとだけ題されたそっけないタイトルのコンピレーション、しかもスペインから新たに立ち上げられたPark & Rideの第1作目では、気が付かなければ見逃してしまう作品かもしれない。だがそこに収録されたアーティストに気付けば、本作が食指を動かす作品である事は間違いないだろう。ウクライナの女性ミニマリストであるNastia、新興レーベル・Earlydubからの作品も注目を集めるZendidやBaraso、そしてスペインから頭角を現しているSonodabなど、レーベルの初の作品にしてはアンダーグラウンド性を保ちつつも内容は保証されている。何といってもNastiaによる"February59"の骨太な作風には驚かされるだろう。強靭で肉厚なキックが正確な4つ打ちを刻むこの曲からは男勝りな気概が感じられるが、そこにもやもやと抽象的な上モノが浮遊し微かな陶酔感も匂わす事で、完全にフロア対応型のミニマルな構成でありながら情感も兼ね備えた機能的DJツールとして成り立っている。Zendidによる"Omw"にも太いキックやどっしりしたベース・ラインが入っているが、リズムは跳ねておりキレがあり隙間の感じられるグルーヴが際立っている。そして底からゆっくりと浮かび上がってくるような陶酔を発するパッド系の音はディープ・ハウスのそれであり、テクノの厳つさとディープ・ハウスの情緒性を伴う作品になっている。逆にSonodabが提供する"Ad Hoc"は感情や展開を限りなく削ぎ落としているが、湿ったリズムやベースラインからは泥沼に足を踏み入れたような粘性の高いグルーヴが感じられ、反復を基調にしたモノクローム的なミニマル・ハウスを展開している。そしてBaraso & Leenyによる"J Rice (Club)"も序盤は膨らみのある硬いリズムだけで引っ張っていく展開だが、途中からは限りなく重さの無い空気のようなパッドが広がり始め、爽やかな浮遊感を伴いながら微睡むの世界へと誘うテクノとディープ・ハウスを行き交う。本作のタイトルがChicagoなのは全曲を聴いても理解が及ばないところではあるものの、レーベル初の作品としてはレーベルを世界に周知するには十分な内容であり、DJであれば持っておくと便利な一枚になるのではと思う。

| TECHNO11 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Virginia - My Fantasy EP (Ostgut Ton:o-ton83)
Virginia - My Fantasy EP
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ドイツの最大規模のクラブであるBerghain/Panorama Barが音楽制作の場として運営するOstgut Tonには、男性アーティストだけではなく多くのクラバーを魅了する女性アーティストもいる。例えばTama SumoやSteffiがそうだが、2013年にはOstgut TonからEPをリリースしたVirginia Nascimentoもその一人だ。Panorama Barでレジデントを務めるDJでもありボーカリストでもあり(事実Steffiの曲にボーカリストとして参加もしている)、そして現在はトラックメーカーとしての動きも強めている期待のアーティストだ。Ostgut Tonからおおよそ2年ぶりとなる新作は、前作に於ける自身のボーカルも用いながら多様性のあるテクノ/ハウスを展開した音楽性とは異なり、ボーカルは極力用いずにフロアを一心に見つめたようにDJの視点からパーティーでこそ映える事を意識したトラックが中心となっている。"Fictional"ではどっしりと芯の強いキックが安定したビートに恍惚感の強いベースラインが絡んで、フロアで活きるグルーヴ感を生んでいる。そして何よりも豊かな音色の上モノが情緒的なコード展開や幻惑的なメロディーを見せながら絡み合い、単にツールとしてだけでなく豊かな感情性を含んだ機能的な曲として成り立っている。また"Never Enough"は乾いた質感ながらも軽快で弾けるようなビートを刻んでおり、そこに鮮やかなシンセや芳醇なベースサウンドが加わって、随分と爽やかでポジティブなハウス・ミュージックだ。唯一ボーカルを導入した"My Fantasy"にしても声はあくまでアクセント的に用いられ、基本はシカゴ・ハウスを思わせる乾いたキックやハンドクラップを主体とした辿々しいビートと、そして美しいストリングスによる滑らかな旋律が耳に残り、古き良き時代のオールド・スクールな性質が強い。どれもこれもフロアに根ざした無駄のないシンプルなダンス・ミュージックであり、そしてデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスを意識した情緒性の強い作風は、後から思えば正にOstgut Ton的なのだと実感させられる。



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Juju & Jordash - Clean-Cut (Dekmantel:DKMNTL021)
Juju & Jordash - Clean-Cut
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Vakura(Vedomir)やJoey Andersonなど現在のダンス・ミュージックのシーンの中でも、一般的と言うよりは奇才な音楽性によりカルト的な人気を博すアーティストを擁しているオランダ発のDekmantel。そんなレーベルの中心的アーティストがGal AnerとJordan CzamanskiによるJuju & Jordashだ。このユニットも例に違わずディープ・ハウスからデトロイト・ハウス、ビートダウンにロウ・ハウス、ディスコ・ダブにサイケデリックな音響テクノまで、作品毎にその音楽性を変容させながら深化を推し進めている。この3rdアルバムでは過去と同様にハードウェア中心で制作されたアナログ色が打ち出された作品ではあるが、前作の実験的でもあった音楽性から再度変化を促しよりフロア寄りで無駄の無いシンプルなテクノ/ハウスを披露している。冒頭にはタイトル曲の"Clean-Cut"が配置されているが、アルバムの中でも特に叙情性が強くデトロイト・テクノからの影響も匂わしている。味気ないドラムマシンによるラフなビート、原始的で素朴なシンセ、美しくも切なさで包み込むパッドなど、決して新鮮とは言えないオールド・スクール寄りな曲ではあるがこれがアルバムの特徴を如実に表現しているのではないだろうか。続く"Schmofield"でも簡素なマシンビートが際立っているが、アンニュイなフルート風の上モノやサイケデリックなギターが導入され、彼等らしい人肌の温もりが伝わってくるようだ。"Whippersnapper"に至っては初期のデトロイト・テクノ/エレクトロを思い起こさせるカチッとしたマシンビートや物憂げなメロディーが用いられ、ますますこのアルバムの方向性は明確になり出す。一方で殆どビートが入らずに不気味な音響が闇の奥で鳴り続けるような"Swamp Things"や"Maharaja Mark"は、彼等の音楽性の広さを示唆すると共にマシンを用いた音響の探求にも思われる。本作で異色なのは"Anywhere"で、横に揺れるビート感に淡く柔らかい上モノの中にかすれたファルセットボーカルも織り交ぜて、ディープ・ハウスとファンクを掛け合わせたようなエモーショナルな曲となっている。Juju & Jordashとしての活動はまだそれ程長いわけでもないが、それにもかかわらずアルバムは本作で3枚目となるように、ダンス・ミュージックという世界に於いて彼等はアルバム制作に積極的だ。しかしこうやってアルバムを辿っていけばアルバムでこそ彼等の多彩な音楽性を発揮出来る事を理解出来るであろうし、実際にアルバムのような大きなボリュームであっても品質を落とす事なく制作が出来るユニットなのだ。



Check "Juju & Jordash"
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