Rod Modell - Ghost Lights (Astral Industries:AI-35)
Rod Modell - Ghost Lights
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テクノ界に極僅かに存在する金太郎飴的な存在、それをもしダブ・テクノの方面から選ぶのであれば間違いなく真っ先に挙がるのがRod Modellであろうか。 90年代後半からリリースを始めたデトロイトからのダブ・テクノ/アンビエントの職人であるModellは、DeepChordやEchospaceにWaveform Transmission、その他多くのプロジェクトを並行させながら活動しているが、名義毎に大きな差異を見つけるのは難しい程にダブ・テクノにアンビエント成分を溶け込ませた音楽性として一貫性を持っている。もっと言ってしまえばBasic ChannelことRhythm & Soundが作り上げたダブの音響という線路上を、ずっと真っすぐに進んでいるような活動でもあり、揶揄するわけではないが金太郎飴的というのは自身の音楽性にぶれがなく純度を高めているという事でもある。また2014年に発足したロンドンのAstral Industriesは、アブストラクトでアンビエント性の強いダブ・テクノにフォーカスしたレーベルなのだが、その初作はDeepChordのアルバムであったし、その後もModellは度々レーベルのカタログに名を残すなどAstral Industriesを代表するアーティストにまでなっていて、Modellのダブ・テクノの追求は最早偏執的な愛だろう。その流れからのAstral Industriesから2023年にリリースされた『Ghost Lights』もやはりAstral IndustriesらしくもありModellの濃霧のようなダブ音響とアンビエントな感覚が充満したアルバムで、レコードでは便宜上A〜Dと4曲に分けられているが、計70分にも及ぶ現実逃避的な深遠なるダブの旅と呼んでも差し支えない内容だ。ベースやリズムは一切排除されくぐもった不鮮明な電子音響やチリリチとしたヒスノイズに様々なフィールド・レコーディングから成り立った音楽は、定型的な流れもなくただただふらつき浮遊し彷徨うような感覚。"Side A"では放射するような荘厳な電子音に満たされながら鳥の囀りなどのフィールド・レコーディングを散りばめて、ゆっくりとした立ち上がりで、"Side B"に移行するとシューゲイザーのようなダブ音響に加えスペーシーな効果音や音に色味も感じられるようになりドラマティックに展開し、星が煌めく宇宙へと放り出されたかのよう。"Side C"は地上へと戻ってきたのだろうか、雑踏の環境音のような音が浮かび上がり幾分か現実的世界の雰囲気を増し、何だか重苦しい地球の重力を感じるようでもある。そして最後の"Side D"、煌めくような壮大な電子音の放射の中に星の瞬きのような美しい音や繊細なヒスノイズを織り込み、穏やかなアンビエントムードに傾倒しながら70分にも及ぶ高密土なダブ音響の終わりを迎える。流体のように常に変化し抽象的なダブサウンドに包まれた長尺な構成のため、断片的な部分での評価に意味はなく、だからこそ他のアルバムとの大きな差異を述べるのは難しい。だとしても本作の余りにも深いダブの音響と美しいアンビエントのムードは垂れ流して聞く分には最高で、ここまで一貫した作風は職人芸と呼ぶに相応しい。



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| TECHNO16 | 22:29 | comments(0) | - | |
Benedek - Southland Mystic EP (HotMix Records:HM030)


日本でのフェスティバルにも出演するなどここ数年で認知度を高めているロスアンゼルスのNicky BenedekことBenedekは、ハウス・ミュージックからディスコにローファイなモダン・ファンクまで手掛けているが、その作風に共通するのは恐らくハードウェアを主体としたノスタルジーを感じさせる音作りで、アナログシンセやリズムマシンといった古典的な機器を活かしてオールド・スクール性を発揮している。そしてそんな彼による最新作はオールド・スクールなハウスを一貫して追求するSimoncino運営のHotMix Recordsからとなれば、その質はおおよそ保証された事は想定されるが、前作のシンセ・ブギーな名作『Zebrano』(過去レビュー)の路線から然程変わる事なく期待通りの作風を披露している。何はともあれ先ずは"After Midnyte"が素晴らしく、アタック感の強いドラムキックや乾いたローファイなリズムサウンド、そこにゴージャスでウォーミーなシンセ使いにささやかに優美なエレピを潜ませ、生っぽいベースラインも合わせて艶めかしいバレアリックかつノスタルジー溢れるハウスへと仕上げており、流行や新鮮さよりも自身のルーツを実直に掘り下げその純度を高めていくような音楽に安心する。"Lost Groove"は軽やかなビート感にファンキーなギター風のフレーズと動きの多いベースから成り立っており、全体に音を詰め込み過ぎる事せずにあっさりした構成もあって、爽やかなメロウネスが際立っている。"Puffed Tribe"はずんずんと跳ねるようなビート感に勢いがあり、そこにアトモスフェリックで透明感のあるシンセやコズミックな効果音を盛り込みながら、楽園的な感覚のあるバレアリック・ハウスを展開しダンスフロアも幸せに包まれるであろう曲。このEPでもどの曲においても耳に残るメロディーの良さ、懐かしさを感じさせるシンセの響き、ローファイな味わいが秀逸で、古い新しいといったものに左右されない楽曲そのものの良さが光っており、ファンの期待に応えた内容となっている。



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| HOUSE17 | 22:23 | comments(0) | - | |
HVL / Gacha Bakradze - Splits (Organic Analogue Records:OA010)
HVL / Gacha Bakradze - Splits

2013年からUKにて運営されているOrganic Analogue Recordsは、テクノにしろエレクトロにしろハウスにしろコマーシャルな要素は一切排除しながらアンダーグラウンド指向の強いDJ向けな曲を中心に手掛け、特に初期は配信でのリリースはなくアナログのみのりリースという事もあって、マニア受けするレーベルとして一部から評価されている。そのレーベルで特に作品数が多いのがジョージアのGigi JikiaことHVLで、当ブログでも何度も紹介しているがKiyadamaやKaijiといった変名を用いつつRough House RosieやHypercolourといった著名なレーベルから深遠でアンビエント性の強いディープ・ハウスから刺激的なエレクトロ・アシッドまで披露し、またジョージアを代表するクラブ・Bassianiでもレジデントを務めるなど存在感を強めているアーティストだ。本作はそんなHVLが久しぶりにOrganic Analogueに帰還してのリリースとなるが、スプリット盤としてGacha Bakradzeと半分づつ曲を提供したEPとなっている。BakradzeはGacha名義ではApolloからもリリースした経歴があるが、Gacha Bakradzeとしてはアンビエントとベース・ミュージックを掛け合わせたような変則的なリズムを際立たせた音楽を展開しており、そんな二人が曲を提供したのだから何かしら共振するような性質があるに違いない。レコードでのA面はHVLによるもので、"Infinitesimal"は変則的に揺れる角張ったリズムの中から不気味な効果音や鈍いアシッド・サウンドがダビーに広がり、一寸の光も射さないような闇の中を蠢くダークなアシッド・エレクトロを披露し、如何にも最近のHVLらしい作風だ。"AgneffC01"はよりビート感がシャッフルしながら疾走し肉体的な躍動さえも感じさせ、そこに淡々とミニマルなアシッドかつエレクトロなを音を重ね、大きな展開を作らずにひたすら闇を潜っていくようなディープな雰囲気も伴っている。一方でBakradzeは鉄槌を打ち付けるような強烈なビート感を打ち出しており、"Routes"は図太いキックが小刻みに地響きのようなビートを叩き出し重心の低いベースラインの動きもあってベース・ミュージックのような雰囲気を発しつつ、上モノは叙情的なパッドやシンセボイス風のサウンドでデトロイト・ソウルっぽくもあり、ビート感はありつつもHVLよりもエモーショナル性が強調しているだろうか。"Widow"ではより繊細でローファイな響きのブレイク・ビーツがIDM風で、そこに鈍いアシッドベースが牙を向きつつ近未来的なりSF的な雰囲気のあるシンセがゆったりと広がれば、90年代のWarp Recordsが提唱したArtificial Intelligenceのようなベッドルーム内に広がる電脳世界のテクノを聞かせる。どちらのアーティストも直球な4つ打ちを避けてリズムに変化をもたせつつ、しかしダンスフロアでの確かな機能性を持ったビート感とアシッドを活かしながらOrganic Analogueらしいシリアスなテクノに仕上げており、スプリット盤ではありながら違和感なく互いの音楽性が同じEPに同居している。



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| TECHNO16 | 22:58 | comments(0) | - | |
Rings Around Saturn - All Things Shining (Best Effort:BE012)
Rings Around Saturn - All Things Shining
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2023年も素晴らしいアンビエント作品に多々出会う機会があったが、その年内に紹介は間に合わなかったものの本作もそんな素晴らしい作品の一つだ。本アルバムを手掛けたRings Around SaturnはオーストラリアはメルボルンのRory McPikeによるプロジェクトで、他にも2200やBleekmanといった名義でも活動し、またDan White名義では過去にニュー・エイジのシーンで台頭するKhotinとのスプリット盤もリリースしたりと、名義の多さを活かしながら様々なジャンルの音楽を制作しながら非常に精力的な活動を行っている。とは言えども筆者はRings Around Saturnについて全く知らなかったのだが、本作を試聴してみたところエレクトロ・アコースティックな響きを用いた心身が洗われるように清涼感に満ちたアンビエント〜IDM〜エレクトロニカを展開しており、その奇抜ながらも心地好いサウンドに魅了され即座に購入を決めたのだった。全体像としてはアンビエントになるのだろうが、ただぼんやりとした環境音楽的なものよりは変化も多く表現力は豊かで、特に鮮やかな色彩を感じさせるような芳醇な音の響きが耳に残り、アルバムとしてなかなかに刺激的でもある。アルバムはパルスのように電子音がダビーに反復しうねりのような胎動を見せる"Force-Lines"から始まるが、確かにアンビエントではあるしノンビートにもかかわらず、ビートを感じさせる躍動しているかのような構成が印象的だ。対して"Lansky's Vision"は繊細な電子音を散りばめつつ雄大なシンセが空へと浮かんでいくような雄大なアンビエントで、蒸気が蒸し返すような電子音が大気へと満ちそれと共に無重力感に包まれながら飛翔するようだ。"Psychic Tsunami"なる面白いタイトルのこの曲は、コズミックな音の粒が目まぐるしく動き回り情熱的にも思われる熱量を発しながら内なる世界の瞑想へと導かれ、正に霊的な電子音が押し寄せるニュー・エイジ性の強い曲調。一方、"Look Out Through My Eyes"はエモーショナルながらも不鮮明な電子音のヴェールに覆われ、ひたすらアンビエントへと振り切れた曲で、これにしても清涼感に満ちあふれている。"Liquid Breath"は液体のように不定形なシンセが終始流動的に変化し、ただ意味も込めずにその音の気持ち良さだけで聞かせるような雰囲気があり、また"All Fortune is Good Fortune"は弦のようなオーガニックな響きと電子音の対比させながら透徹したノスタルジーに包まれる素朴さがあり、何処か見知らぬ異国の田舎風景が浮かび上がる。どの曲もピュアな美しさやメランコリー、原風景的な懐かしさがあり、アンビエントととしてはではなくリスニングの電子音楽としても十分に魅力的で、正にアルバムタイトルが示すように「全てが輝く世界」が待ち受けている。



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| TECHNO16 | 23:01 | comments(0) | - | |
Cousin - HomeSoon (Mood Hut:MH031)
Cousin - HomeSoon
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カナダはバンクーバーのMood Hutはハウス・ミュージックにニュー・エイジを取り入れたりモダンな感覚を持った面白いレーベルで、筆者は特にLocal Artistの『Expanding Horizons』(過去レビュー)に魅了されレーベルに興味を持つようになり、その後同レーベルからの作品は随時チェックするようになっている。そんな中で出会ったのが2023年末にリリースされたCousinによる『HomeSoon』で、音楽的には広義の意味ではテクノになるのかもしれないが、ただそれだけに押し込めてしまうには勿体ない程に豊かな音楽性を含んでおり、Mood Hutというレーベル性に乗りながらユニークなダンス・ミュージックを披露している。Cousin名義では主にシドニーのMoonshoe Recordsで活動するJackson Festerは、Freda & JacksonやUnsolicited Jointsといった複数のプロジェクトも行いレフトフィールドなハウスからダブテクノやアンビエントまで展開しており、現在は主にCousinが活動の中心となっている。本作はレーベルインフォに依れば「元旦の朝、Cousinは疲れた目をしながら散歩をした。生い茂った歩道に降りたとき〜中略〜まるで草花が生き返ったかのようだった」といった感覚をスタジオセッションに反映させ、植物とのコミュニケーションをリスナーにも勧めているようだが、実際聞いてみるとオーガニックな響きと共に何か生命の胎動のような雰囲気もあり、草が生い茂る緑色のジャケットも何となくそんなイメージが適切に思える。1曲目の"Catsu"は霊的なシンセが脈打つようにうねり、微細な効果音を溶け込ませながら静かに花弁が開いていくような美しいアンビエントで、電子音でありながら何処となくオーガニックに思われる作風が面白い。"Overpass"は落ち着いたパーカッションやタップ音が小気味良くリズムを刻み、ぼんやりとしたニュー・エイジ調のシンセが朧気に浮遊し陶酔感たっぷりに9分にも及ぶ長い旅へと誘われ、まるでJoe Claussellのエレクトロニック・バージョンなアンビエント・ハウスでも呼ぶべきだろうか。"3x A Charm"は更に変容したレフトフィールド・ハウスで、奇妙なダブサウンドと変則的なリズムが溶け合い、何か植物が呻いているかのような不思議な効果音も盛り込んで、忙しなくも瑞々しい自然感に癒やされる。それがより顕著なのが"Muster"でこちらもコロッとした素朴なキックが変則的ながらも疾走感のあるビートを叩き出し、体の隅々まで洗い流すような透明感のある電子音が蒸気のように沸き立ち、未来的な電子音のSEも密かに溶け込ませ、身も心も浄化されながら浮遊していくような爽快感に包まれる。決して直球ダンスなリズム感ではないもののしかし実にリズミカルでダンストラックとしても有能だが、アンビエントやIDMにダブやレフトフィールドといった要素も含まれた変幻自在な表情が面白く、ホームリスニングとしても耳を惹き付けられる。



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| TECHNO16 | 21:22 | comments(0) | - | |