Pop Ambient 2015 (Kompakt:KOMPAKT CD 120)
Pop Ambient 2015
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冬の風物詩、身も凍える寒冷の中でリリースされるほっこり温まるアンビエント・シリーズ"Pop Ambient"。ドイツはKompaktからレーベル創設者であるWolfgang Voigtによって選び抜かれた曲は、アンビエントの指標となるべきシリーズの一つだろう。流石にこれだけの長い期間に渡ってリリースされているとマンネリ感を避ける事は難しいが、それでも尚アンビエントにありがちな観念的な宗教性を排除しながら、純粋にBGMとして元からその場に自然と存在するような環境音的なアンビエントを送り続けており、その質の高さは保証されている。注目は冒頭に続けて2曲提供している新鋭のThore Pfeifferで、粘度の高い液体が蠢くような抽象的な動きを見せる"Wie Es Euch Gefallt"と引いては寄せる波のように静かに現れるアコースティックギターを導入した"Nero"と、穏やかな揺らぎを体感させるアンビエントを披露している。続くKompakt関連のアーティストであるDirk Leyersは"Daydreamer"と言うタイトル通りに、白昼夢に溺れていると錯覚する高揚を抑えて静かに美しいメロディーを反復させたサウンドトラック風な曲を提供。また同シリーズに幾度と無く参加しているUlf Lohmannによる"Refresh"は特に素晴らしく、鮮烈で新鮮な色が混ざり合ったような音色を発しながら涙が零れるまでの郷愁を誘うアンビエントは、ポップな要素もありながら黄昏時の景色を喚起させる。そしてLeandro Frescoによる"Nada Es Para Siempre"は深い場所で濃霧のような朧気な音響が鳴っているだけではあるが、落ち着きのある温もりが継続する正にアンビエント・ミュージック的だ。ひたすら淡くぼやけたノイズやドローン音響に美しく幻想的なシンセサイザーの音が立ち込めており、眠る時の安眠剤として効果的な一枚であろう。



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Herbert - Part Seven (Accidental:AC81)
Herbert - Part Seven
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奇想天外なテクノを生み出し、音の魔術師とも呼ぶべき才能を見せ付けるMatthew Herbert。そんなHerbertの中でも特にフロア寄りかつ玄人評価の高いシリーズが95年辺りにリリースしていた「Part」シリーズで、2014年には18年ぶりにそのシリーズを復活させている。本作は復活後では2作目に当たるPart 7となるが、やはりこのシリーズに於いてこそHerbertの童心のような遊び心と自由な創造性は輝いており、これこそがHerbertが音の魔術師たる所以だと強く印象付けている。前作同様にRahel Debebe-Dessalegneをボーカルとして器用しているが、"Bumps"は甘い歌声とノイジー気味なサウンドとカタカタとした歪なリズムが不思議な共存を見せ、ダンス・ミュージックでありながら実験的な要素も含んだトラックで正にHerbertらしさが現れている。ポニョポニョした奇妙な効果音とドタドタとしたリズムから始まる"Sucker"は、突如としてギクシャクとしたリズムも添加され角張ったリズムが壊れた機械仕掛のミニマルなダンス・トラックを思わせる。ポップな要素も強かったPart 6と比較すればこのPart 7はより実験的な方向へと傾倒しているようで、それは裏面の2曲を聴けばより実感する事だろう。トライバルなのか何なのか、形容のし難い生々しくも機械的なリズムを刻む"Get Strong"は、ピチカート奏法による小気味良いストリングスも軽快さを生み、素早いスキップをするように弾けたダンス・トラックになっている。"Pretty Daddy"でも効果音にも近い変な音が複数絡みながら、終いには赤ん坊がじゃれているようでもあり狂ったようなボーカルサンプリングもループし出して、音楽としての構成は混迷を極めていく。テクノとしての実験精神を重視しながらも、それでも尚体を揺さぶるグルーヴやポップな要素を残すその音楽性は、従来からHerbertの個性として認められているものであり、この溢れ出る才能は更にPart 8へと続いていく。



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Steffi - Power Of Anonymity (Ostgut Ton:OSTGUTCD32)
Steffi - Power Of Anonymity
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3年ぶりとなるアルバムを完成させたPanorama Barでレジデントを務めるSteffi。デビューアルバムの"Yours & Mine"(過去レビュー)はシカゴ・ハウスを下地にTR/TB系のリズムを前面に打ち出しながら、柔らかさやしなやかさを兼ね備えた艶のある官能的なモダン・ハウスが収録されていた。勿論フロアで機能するダンス・ミュージックである前提ではあったものの、今思えば少々内向的でリスニング的な方面へと傾倒していたコンセプチュアルな作品だった。しかし、この新作では前作同様にTR/TB系の音を用いてアナログの雰囲気を維持しながらも、よりDJが使用する事に重点を置きフロアでこそ映えるようなダンス・トラック性が強くなっている。例えば彼女が主宰するDollyのレーベル特性であるデトロイトの叙情性がより際立ち、そしてエレクトロやテクノの性質も高めて、決して激しくなり過ぎる事はないが外交的なエネルギーが満ちた作品になっている。アルバムの幕開けとなる"Pip"はエレクトロの角ばったリズムに仄かに叙情を発する幽玄なメロディーが浮かび上がるインテリジェンス・テクノ的な曲だが、90年代前半のAIテクノ全盛期の雰囲気を纏いながらも洗練されたシンセの音色は今っぽくもある。続く"Everyday Objects"でも同様に艶のある音色のシンセが広がりエモーショナルな展開が続くが、カタカタとしたテクノ的な疾走するリズムと控えめに基礎を支えるアシッド・ベースが唸り、暗闇の宇宙空間に瞬く星の間を駆け抜けるようなコズミック感が既にピークを迎えている。"Selfhood"でも急かすようなビートとギラつくようなトランス感のあるシンセが感情を熱く鼓舞し、やはり部屋の中ではなく沸き立つフロアを喚起させる。"Bag Of Crystals"も高揚感が持続するダンス・トラックで、バタバタと叩かれるような激しいリズムとトランス作用の強いシンセが執拗に反復しながら、そこに美しいシンセ・ストリングスも入ってくれば黒さを濾過した洗練されたデトロイト・テクノにも聞こえてくる。またデトロイトのエレクトロを洗練させて今という時代に適合させた"Bang For Your Buck"や"JBW25"、そんなエレクトロ調の鞭打たれるビートにDexter & Virginiaをボーカルに器用した"Treasure Seeking"など、刺々しい攻撃的な性質はSteffiが述べるようによりフロアへと根ざしている。どれもこれもデトロイト・テクノやエレクトロなどオールド・スクールに影響を受けながらも、しかし決して古臭くない現在の感覚も纏いながらダンスフロアへと適合させ、興奮や情熱を刺激する素晴らしいテクノアルバムになっていると断言する。



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Simoncino - Dreams Of Konders (Creme Organization:Creme 12-77)
Simoncino - Dreams Of Konders
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イタリアのSimoncinoは妄信的にも思える程に初期ディープ・ハウスやシカゴ・ハウスを追求し、流行には我関せずと全くぶれる事のないスタイルで作品を制作している。本作はオランダのCreme Organizationからの作品となるが、オランダと言えばシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノなどオールド・スクールな音楽に対して理解があるのだから、この相性の良さは言うまでもない。そして本作はNYアンダーグラウンド・ハウスのBobby Kondersに対して捧げられた作品だそうで、Simoncinoもいつも通りRolandのアナログ機材などを用いつつ、オールド・スクールな雰囲気を纏ったテクノ/ハウスを手掛けている。"Meggaton"はカタカタとした不安定なパーカッションと味気ないキックのリズムにハンド・クラップも入る正にシカゴ・ハウスなディープ・ハウスで、重苦しく陰鬱なメロディーが不安を誘いながらも何処か切なさも匂わせる。ドタドタしたシカゴ・ハウス的な辿々しいマシンによるビートとピアノの旋律が物悲しくも美しい響くタイトル曲の"Dreams Of Konders"は、闇の中でキラキラと光るような効果音も相まって正に夢の中にいるような素朴ながらも仄かに情緒を放つ。Simoncinoにとってはやや上げめな作風の"Pyramids"は意外ではあるが、アナログのリズム・マシン感たっぷりな簡素なパーカッションとエモーショナルで虚ろげな上モノで跳ねるような攻め方を見せるこの曲は、かなりテクノに寄り添っているだろう。膨らみのあるボトムラインが活きた"Space Is The Place"も、はやり乾いたハイハットやハンドクラップが入った途端にシカゴ・ハウスへと変容するが、上モノのコズミックな響きはややモダンな印象も発している。決して斬新性や流行性があるわけではないが、この揺ぎない信念が溢れるオールド・スクールな音楽は、一部のマニアを虜にするだろう。



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Korrupt Data - Korrupt Data (Planet E:PE65366-1)
Korrupt Data - Korrupt Data
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2014年の6月に突如としてPlanet Eからデビューした正体不明のアーティスト・Korrupt Data。初期デトロイト・テクノのような近未来的なテクノ/エレクトロの感性と、「星の向こうから来た探検者」と自称するサイエンス・フィクションに基づいたコンセプトを伴うその音楽は、そのミステリアスなアーティスト性も相まって一部から注目を集めている。2枚のEPをリリースした後に続いて同年10月にリリースしたのがそのアーティス名を冠した本アルバムで、ここでも当然の如く初期デトロイト・テクノの感性が息衝いている。特に肥大化しメジャー性も獲得したPlanet Eは主宰するCarl Craigの音楽性の変化もあってか、近年はレーベル自体も大箱で受けるようなモダンなテクノ化が進んでいたように感じられるが、本作はそれと真逆の、例えばKraftwerkにCybotron、そしてDrexciyaが開拓してきたような初期衝動を持ったテクノ/エレクトロを再度掘り起こしている。先行EPに収録されていた"Cryogene"からしてブリブリとしたベースラインにぼんやりと浮かぶような物哀しいシンセからは、Carl Craigの最初期の作品と同じ懐かしさが伝わってくる。また"Density Function"ではKraftwerkのヒップ・ホップ的なファンクなリズムとデトロイト特有の幻想的な上モノを組み合わせ、まるでブレード・ランナーの世界観を喚起させるSFの世界を描き出している。Drexciyaの影響が強く現れているのは"Photons, Protons, Microns, Mutrons"や"Gods & Myths"だろうか、鞭打つような冷徹なビートとロボット・ボイスを多用し、正にアナログ感のあるデトロイトの強靭なエレクトロを披露している。"Visions That Lurk"ではエレクトロ・ビートを刻みながらも大仰なシンセのリフレインや不思議な効果音により、コズミック・テクノと呼ぶべき宇宙遊泳するかのようなスケール感の大きさもある。アルバムの最後には柔らかく浮遊するシンセのメロディーにうっとりとするインテリジェンス・テクノのような"For That Way Lies Oblivion"や"Drifting Vessels"が配置されており、これを聴く限りではどう考えてもCarl Craigの作品と思わずにはいられないだろう。一体誰によるプロジェクトなのか、いやきっとPlanet Eに関連する著名なアーティストなのだろうとは思うが、それが誰だとしても本作に於けるヒップ・ホップやファンクからの影響を残しつつデトロイト・テクノのSF性を打ち出した音楽性は、生粋のデトロイト・テクノのファンが待ち望んでいたものだろう。



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Ricardo Tobar - Treillis (Desire Records:dsr095CD)
Ricardo Tobar - Treillis
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2007年にBorder Communityから突如デビューを果たしたチリのRicardo Tobarは、正にレーベル性に沿うようなノイジーな音響とトリップ感の強いサイケデリックなメロディーを主体としたテクノを披露し、一躍注目を集めていた。その後はBorder CommunityだけではなくTraum SchallplattenやIn Paradisumなど多岐に渡るレーベルから、壊れかけの歪んだリズムやトランシーさも増したサウンドでより独自の路線を打ち出した音響テクノを確立させ、後はアルバムが出るばかりという状況だった。そしてデビューから6年、2013年末に遂にリリースされた初のアルバムが本作で、ここではアルバムだからこその多様性を展開させながらRicardo Tobarの音楽の完成形が姿を現している。古いドラムマシンとモジュラーシンセにアナログ機材など最小限の楽器によって制作されたという本作は、ビートレスな状態の中で濃霧に包まれたかのようなシューゲイザー風な淡い音響によりサイケデリックな風景を喚起させる"Sleepy"で始まる。続く"Organza"でもシューゲイザーを思わせる淡い音響と美しいシンセがリードするが、リズムは微妙に壊れかけたように歪んでおり鞭打つような刺激的なビートが特徴だ。"Garden"でもダンス・フロア向けの強烈なビートが聞こえるが、それはドタドタと荒々しくローファイで、そこに毒々しく危うい強烈なモジュラーシンセの音が侵食するように広がっていく。逆にドロドロとして酩酊感を呼び覚ます"Straight Line In The Water"では、ノイジーなフィードバックギターのようなサウンドの中から万華鏡のような美しい音が出現し、狂気と多幸感が入り乱れるようなロックテイストも伺える。"Otte's denial"ではよりゴツく肉体的なビートが強調される事でインダストリアル・サウンドのような印象さえ植え付けるが、上モノはあくまでトリップ感満載のサイケデリックなシンセ音が中心である事は変わりはない。そして、先行シングルとなった"If I Love You"はアルバムの中でも特にフロアで映えるようボディー・ミュージック的な刺々しいダンスビートを刻み、しかし上モノは悲壮感さえ漂うトランシーさがキモだ。その後も牧歌的な田園風景が広がり一時の安息を与える"Back Home"などがあり、リスニング的な要素もアルバムの中で効果的に盛り込まれている。極めてBorder Community的なこのアルバムは、例えば同レーベルのNathan FakeやLuke Abbottらにも負けない程のサイケデリックなシューゲイザー・サウンドであり、そして壊れかけの音響に美しさを見出だせる神秘的なダンス・ミュージックだ。ローファイが生み出す恍惚感満載の音響アルバムと言えよう。



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Slam - Reverse Proceed (Soma Quality Recordings:SOMACD105)
Slam - Reverse Proceed
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昔からのテクノのリスナーにとってグラスゴーのアーティストと言えば間違いなく代表として挙がるのが、Orde MeikleとStuart McMillanによるSlamであるのは間違いない。今も彼等によって運営されているSoma Recordsからは数々の名アーティストを輩出し、彼等自身もグラスゴーのみならずUKを代表するテクノ・アーティストの一人として、デトロイト・テクノからハード・テクノに渡る作風で高い評価を得るなど、この日本での不当にも思える過小評価とは対照的に世界での活躍は注目に値する。そんな彼等も前作のアルバムである"Human Response"(過去レビュー)を2007年にリリースして以降は、彼等が新たに立ち上げたParagraphやDrumcodeにFigureなどからDJツール志向を高めたEPをリリースし続けており、アルバムでの電子音楽の表現からは遠ざかっていた。しかし2014年にようやくリリースされた7年ぶりとなるアルバムの本作では、シーケンスへの可能性を見出し"Sequentix Cirklon"というシーケンサーを用いてSlamにとっての新たなる音楽性を開花させている。幕開けとなる"Tokyo Subway"ではそのタイトル通りに東京での地下鉄の環境を取り入れながらも、重厚なシーケンスと夢の世界のようなサウンド・スケープを展開させ、いきなり壮大なアンビエントを繰り広げる。その展開は途切れる事なく"Visual Capture"へと続くが、ここでもビートレスな展開の中で甘美なパッドと美しいシンセがリフレインする事で、夢の中にいるような風景を喚起させる。"Reverse Proceed"でようやくゆっくりとではあるが鈍いリズムと重苦しいベースが入り出すが、それはダンス・トラックのものではなくより濃厚なアンビエントを強調するようだ。5曲目の"Synchronicity"からはシーケンスが強調されたダンス・トラックが中心となるが、かつてのように分り易いメロディーを強調せずにあくまで上モノもビートと同化するような使い方で、よりDJツール性を主張する。"Ghosts Of Detroit"に限って言えばかつてのメランコリーなデトロイト・テクノの持ち味が強調されているが、それ以降の曲もミニマル系やアシッド・テクノにしてもシーケンスによる反復を軸とした作風がベースになっている。Slamにしてはやや意外でもあり少々地味な印象も残るアルバムにはなっているが、しかし何度も聴く内にその精密なシーケンスと幻想的な音響に魅了され、今までにないSlamの魅力を感じ取る事は出来るだろう。アンビエントもミニマルも同じ作品に組み込まれているが、これが彼等なりの電子音楽=テクノという表現なのだと思う。



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Ryo Murakami - Spectrum EP (Meakusma:mea015)
Ryo Murakami - Spectrum EP
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孤高の道を進むと表現するのは言い過ぎだろうか。しかしかつてはフロアで踊らせる事を重視するミニマル・ハウスを制作していたRyo Murakamiにとって、2013年に発表したアルバム『Depth Of Decay』は定型的なビートからの脱却かつエフェクトを用いて繊細に変化するインダストリアルな音響を聴かせる実験的な内容であり、それまでの彼に対してのイメージを刷新する意欲作であった。見事にイメージを塗り替えつつもそれが単なる物珍しさではなく実験的な音楽として受け入れられている点で、流行り廃りとは無縁な孤高の道を歩んでいるように感じられる。そんなMurakamiにとって久しぶりとなるEPが届けられたが、本作も『Depth Of Decay』の系譜に属す作品だ。"Contagion"ではつんのめるような金属的なビートが入っているが、不鮮明な上モノが朧気に浮遊しながらもリバーブなどの繊細な残響を用いながら徐々に迫力を増していくドローン系の曲で、まるで生き物のような躍動を見せる。"Statical"は無味乾燥としたキックが3拍子を刻む変則的なビートが入っており、その奥では荒野をイメージさせるような環境音らしきものがうっすらと鳴り、そこに不気味な電子音が時折刺激を加えるダークなアンビエントとも言える。どちらの曲もフロアで踊らせて汗だくになるような曲ではないが、この冷たくアブストラクトな音響はクラブの爆音で聴けばきっと背中がぞくっとするような体験を味わせてくれる事だろう。B面にはノイズ/ドローン系では高い評価を得るPorter Ricksが"Statical (Porter Ricks Change Of Tide Remix)"としてリミックスを提供しているが、何とこちらはPorter Ricks関連の作品としては10年ぶり以上となる。こんなにも長い時間が経過しているにもかかわらず、Porter Ricksらしさは全く失われずに淡く柔らかいノイズで満たしながら浮遊感のある4つ打ちを加えて、更にリバーブ/ディレイを用いて音の境界をぼかすような音響が心地良いアンビエント/ドローンとして鳴っている。



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Inner Science - Assembles 1-4 (Plain Music:PLCD-1004)
Inner Science - Assembles 1-4
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2014年は西村尚美にとって多忙な一年だったに違いない。Inner Science名義での"Self Figment"(過去レビュー)は3年ぶりの、Portral名義での"Fill"(過去レビュー)は8年ぶりのアルバムを、それぞれがサンプリングの有無やビートの差異といった異なる方向の音楽性でリリースし、それぞれの名義でもライブを行うなどアーティストとしてより成熟期に至るような年だったと思う。そんな一年の最後の作品がまたもInner Science名義でのアルバムとなる本作だが、これはInner Science名義ながらもビートは殆ど入らないアンビエント作品であり、またPortral名義と同様にサンプリング中心の制作となる点では、一見Portral名義の抽象的なアンビエントに近いかと思われる。但しPortral名義ではレコードからのサンプリングでノイズも含みながら滲ませるように淡い抽象画を描くようなアンビエントだったのに対し、このInner Science名義では透明感のある音の一つ一つが粒のように明確に分離しており、それらが自由に遊び回りながら並んで抽象的かつ自由な旋律を鳴らしている。Assembleの1〜4までの4曲はどれもが10分程の大作で、その時間の中で常に定形を保持する事なく音の粒が浮かんでは消え水彩絵の具が溢れるような、しかし滲む事なく各色は切り貼りされながら真っ白のキャンバスを埋めていくようだ。そういった点からはピュアで明瞭な音色の響きが非常にInner Science的であり、それがもっと自由でもっとリラックスして音と戯れているような音楽性に感じられる。更に本作を制作した際の素材を正にコラージュ的に収めた"Assembles 1-4 Component"は27分にも及ぶ大作で、もはや聴くと言うよりはただ環境音として生活の中に溶け込んでいくようなBGMとして機能する。静かな森の中に流れる透明度の高い清流に身を洗われるような、そんな快適性の高い音が雑音にまみれた都市環境の中で耳を満たすのだ。



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Aphex Twin - Syro (Warp Records:WARPCD247)
Aphex Twin - Syro
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2014年8月、突如としてロンドンの空にAphex Twinのロゴが記載された飛行船が出現し、話題と疑問を振りまいた。そして、その後AphexのTwitterアカウントでは暗号化されたURLが呟かれ、正しい特設サイトへとアクセスすると「ARTIST NAME」や「ALBUM TITLE」が記載されている事が見つかった。そう、これはRichard D. JamesことAphex Twinによる13年ぶりとなる新作の壮大なプロモーションだったのだ。相変わらずの奇行とユーモアを振りまくAphexにとって13年ぶり、いや2005年にリリースされた「Analord」シリーズ、2006年にはそれを纏めた"Chosen Lords"(過去レビュー)がリリースされていたので、正確には8年ぶりとなる新作となる本作は相も変わらずAphexらしい音を鳴らしている。巷では"Selected Ambient Works 85-92"(過去レビュー)の頃のような作品とも評価されているそうだが、確かにあの頃のような夢のような無邪気なアンビエント性が通底しているが、しかしリズムはそれ以降のより壊れかけの複雑なビートを刻むダンサンブルな要素もあり、決して懐古的な作品とも異なっている。それどころかAphexも時代に合わせて進化しているのだろうか、穏やかで優しい音は今までの中でも最も綺麗な響き方をしており、過去の作品のように敢えて録音状態を悪くしている点は見受けられない。また、曲の展開・構成に関しても捻りのきいたユーモアや奇抜性はあれども、かつてのように悪意を持って崩壊していくような暴走気味の意志は感じられず、それどころか冷静な意志をもってして音と戯れるような抑制の取れた感さえもあるのだ。ビキビキとしたアシッドのベース・ライン、脱力された骨抜きグルーヴから躍動するダンス・グルーヴにファンクなリズム、そして大量のハードウェア機材から生み出されるファットな音質などから構成されたトラックは、確かに普通ではない異形なテクノではあるが決して荒唐無稽ではないのだ。そういった意味では毒々しい悪意もなければ破天荒な壊れ方もなく、かと言ってアンビエント一辺倒な作品でもない本作が、Aphexの音楽史の中で必ずしも傑作と呼ばれる事にはならないだろう。しかしそういったAphexらしい奇抜で狂ったような音楽性に頼らない本作だからこそ、Aphexの素が見れるような作品でもあり自然体と受け止められる人懐っさがあるのだろう。




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