Surgeon - Luminosity Device (Dynamic Tension Records:DTRCD4)
Surgeon - Luminosity Device
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近年はモジュラーシンセを用いたローファイな作品やフィールド・レコーディングやドローンにまで手を広げ、よりパーソナル性を重視したAnthony Child名義での実験的な活動も目立っているが、やはりダンスフロアをこよなく愛する者にとってはインダストリアルやハードミニマルといった系譜にある暴力的なグルーヴを刻むSurgeon名義こそが期待しているものだろう。そのSurgeon名義にしても過去の単なるハードミニマルの焼き直しではなく、モジュラーシンセの制作が反映されたり、例えば本作では"チベットの死者の書"にインスパイされたなど明確なコンセプトを持ち出したりと(それが音としてどう現れているかは謎だが)、外科医を名乗るのも納得なインテリジェンス性を発揮している。そしてアナログ機材やモジュラーシンセを導入した前作『From Farthest Known Objects』(過去レビュー)から2年、Surgeon名義でのニューアルバムが完成した。前作ではハードテクノの作風にモジュラーシンセを導入しながらも、それに拘り過ぎたせいかダンスのグルーヴが活かしきれずに今思うと前衛に寄ってしまった感もあるが、本作ではモジュラーシンセを導入しながらも過去の暴力的なダンス・グルーヴも復活し愉快痛快なゴリゴリテクノを作り上げている。出だしの"Seven Peaceful Deities"こそパルスのような反復音とモジュラーシンセのギラついた響きによるビートレスな作風だが、この表現は嵐の前の静けさと同義だ。続く"The Primary Clear Light"からボディーブローを喰らわす跳ねるようなキックの押収とザクザクしたハイハットで暴力的なグルーヴを刻み、上モノはややトランシーでもありSurgeonにしては判り易い快楽性があるが、ここからはハイエナジーのテクノの応酬が続く。岩を砕くような鈍くも跳ねるリズムの"Courage To Face Up To"でもモジュラーシンセの特徴的なメロディーに引っ張られ、ただハードなだけではなくIDMやAIテクノの思わせる雰囲気があるのは、例えば彼のDJプレイでも4つ打ち以外がそのプレイを特徴付けるように多用なリズムや緻密な音響が故だろう。そして"earth-sinking-into-water"は非常に勢いのあるハードなテクノで、膨張する太いベースラインと共に擦り切れるようなノイジーな電子音響に覆われ、荒廃した世界の中を疾走する。中盤には勢いは抑えながらもつんのめったリズムの"Master Of All Visible Shapes"で一息入れて、捻れて狂ったような響きのシンセによって精神へと作用するサイケデリックな音で侵食しながらも、またそれ以降は弾力のある跳ねたリズムや鉈の切れ味の鈍い電子音が暴れるハードテクノがこれでもかと続き、基本的には良い意味でハードに振り切れたアルバムだ。昔のインダストリアル色濃厚なハードさとはまた異なり、シンセの中毒的な音による肉体だけではなく精神のトリップも誘発する現在形のハードテクノで、また他のアーティストとは一線を画す個性を獲得している。自身の顔がドアップになったジャケットが、正直ダサいのだけが傷。



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Daniel Avery - Song For Alpha (Phantasy Sound:PHLP09CD)
Daniel Avery - Song For Alpha
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2012年にデビューを果たしたUKのDaniel Averyはその当時にして大物DJからの絶賛の評価を獲得し、アンダーグラウンドな雰囲気を纏いながらも新世代のテクノアーティストを代表するような風格を持って、制作家としてもDJとしても一躍時の人になった印象がある。広義な表現ではテクノと呼ばれる音楽性ではあるが、4つ打ちのみにとらわれずブレイク・ビーツやアンビエントのスタイルにサイケデリックやドローンといった要素も含むその音楽は、フロア志向ながらも多彩な表情を見せる表現力のあるダンス・トラックとして機能する。そして比較的フロア寄りだった2013年のデビューアルバム『Drone Logic』から5年、随分と時間は経ってしまったが待望の2ndアルバムが到着したが、これを聞くとAveryはハイプではなく最早その才能は疑うべくもない事を確信した。本作でもダンス・トラックが無いわけではないが、しかし何と言っても90年代前半にWarp Recordsが提唱したArtificial Intelligenceの続編的な、例えばPolygon Window(Aphex Twin)やAutechreにB12やSpeedy J、そしてF.U.S.E.(Richiw Hawtin)のそのシリーズの音楽性 - レイヴから解放されるべく想像力を膨らませるような精神に作用するホームリスニング・ミュージック - があり、テクノが決して踊る為だけの音楽ではなく自由な音楽である事を指し示している。アルバムはインタールード的な扱いの"First Light"で始まるが、ここから既にビートの入らない霞んだ電子のドローンによるメランコリーなアンビエントで、続く"Stereo L"ではF.U.S.E.よろしくなTB-303のうねるアシッド・サウンドを用いながらも、それは毒々しいと言うよりは気の抜けたオプティミスティック感で煌々としており、やはり真夜中のクラブの雰囲気とは異なっている。"Projector"に至ってはそのざらついたアナログな響きのリズム感とぼんやりと夢幻の電子音響は、初期のメランコリーなAphex Twinを思わせる。再びインタールード"TBW17"で凍てついたノンビート・アンビエントを展開し、そこに続く"Sensation"や"Clear"では繊細な電子音響を展開したディープかつモダンなテクノによって機能的なグルーヴを刻んで、フロアとの接点も失わない。しかしやはりアルバムの肝はAI的なイマジネーション溢れる感覚であり、前述のダンストラックに挟まれた"Citizen // Nowhere"の歪で破壊的なリズムが打ち付けながらも夢想のアンビエントなメロディーに包まれるこの曲は正にAIテクノらしい。勿論、先行EPの一つである"Diminuendo"のように痺れる電子音が空間を浮遊しながら粗いハイハットやミニマルなリズムに強迫的に闇に連れて行かれるテクノは、ただ90年代のノスタルジーに浸るだけのアルバムになる事を回避させている。そしてアルバムの後半、アシッドを用いつつも深いリヴァーブによって夢の中を彷徨うダウンテンポの"Slow Fade"や、何処でもないない何処かにいるような淡く霞んだドローンに覆われるアンビエント・ハウス的な"Quick Eternity"と、またしてもAphex Twinの残像が現れる。モダンとレトロ、肉体性と精神性、ダンスとリスニング、そんな相反する要素が自然と同居したアルバムは、インタビューによればクラブの枠を超える為と語っている。成る程、そのコンセプトは確かに達成されており、イマジネーションを刺激するようなアルバムは、これまで以上に表現力に磨きをかけた素晴らしい作品となった。



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| TECHNO14 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
HVL - Ostati (Organic Analogue Records:OA 008)
HVL - Ostati

2013年頃からリリースを開始し、特に深い音響ディープ・ハウスを得意とするRough House Rosieの中心的アーティストとして頭角を現した東ヨーロッパはジョージアのGigi JikiaことHVLが、待ちに待ったキャリア初のアルバムを完成させた。活動初期からの不鮮明な音像の中から現れるアンビエント性を含む作風から、近年はKiyadama名義でのTB/TR系の音質を打ち出したオールド・スクールなアシッド・ハウスまで手を広げているが、そのどれもが空間性を感じさせる音響の美意識が通底しており、正にディープという表現が相応しいテクノ/ハウスの現在形のアーティストである。今までにリリースされたEPはどれも評判となっておりその才能は疑うべくもないが、このアルバム『Ostati』とは彼の生まれ故郷であるジョージア語では「自分たちの技術を習得した人」を意味するそうで、つまり自身の音楽の芸術的な面での完成をこのアルバムで成したと言う意味も込められていると当方は解釈する。ノンビートの状態に朧気で不鮮明なドローンの中から90年代レイヴ風なブレイク・ビーツが差し込んできて、幕開けに相応しくじわじわと高揚感を作っていく"Shesavali"で始まり、続く"Sallow Myth"では早速快楽的なアシッドが牙を向きヒプノティックな効果音が飛び交うトリップ感の強い世界を展開するが、それも途中から幽玄なパッドが入ってくるとうっすら情緒も帯びて洗練されたディープなテクノを形成する。続く"Daisi"はTR系の乾いて安っぽいリズムがころころと転がるように刻みオールド・スクール感がありながらも軽快に走るが、逆に"Under Libra"は鈍く蠢くアシッド・ベースを用いながらも弾力のあるドラムや軽い残響の効果によって地から足が離れるような浮遊感のあるダブ・ハウスを展開する。また"Askinkila"のチージーな音質で鋭く切り込んでくる厳ついビートはデトロイト・エレクトロの系譜だが、そこに続く"Sinister Sea"は全くビートが無く暗い闇底で朧気なノイズが歪むダーク・アンビエントになるなど、アルバムの中でも各曲がそれぞれ音楽的個性を持ってバラエティーは豊かだ。ラスト2曲は特にパーティー向けの盛り上がる曲で、アシッド・トランス気味な享楽的な雰囲気と流麗で荘厳なパッドの伸びやかな広がりが交じる"Futuro"から、浮遊感のあるパッドに覆われながら疾走する4つ打ちのテック・ハウス気味な"When Rivers Flow"はコズミックなメロディーも展開しながらエモーショナルなフロアの高揚感の中で鳴っているようだ。アルバムは今までのEPから更に拡張を成し遂げながらも、しかしHVLらしい夢幻のアンビエント性や隙間を活かしたディープな空間の構成から成り立っており、高い期待をも超えてきた素晴らしい完成度だ。アナログ販売に拘りを持つOrganic Analogueも当初はそれのみのリリースだったが、販売と同時に即座に完売してしまった本作への反響の大きさ故かBandcampでの配信へと至った事が、それだけの充実した内容である事を証明している。



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Vince Watson - Via LP (Everysoul:esol013)
Vince Watson - Via LP
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最も熱心な、そして永遠のデトロイト・テクノのフォロワーを代表するであろうVince Watson、20年にも及ぶ長い活動の中で数多くのレーベルからエモーショナルなテクノ/ハウスのを送り出してきた彼も、近年はクオリティーコントロールを適切に行うためか自身のレーベルであるEverysoulを設立し、特に重要なアルバムはそこからリリースしている。そして本作、9枚目となるアルバムも自信の表れなのだろうか同様にEverysoulからのリリースとなり、そこには歴代最高傑作と呼べる程にエモーショナルかつディープなテクノ/ハウスが並んでいる。本人の説明ではパーティーからパーティーへの移動中の感情をコンセプトにしたようで、とあるパーティーでの興奮やそこからの日常に戻るリラクゼーションが各曲で表現されている事もあり、確かに過去の作品よりも更に感情が強く打ち出されているように思われる。基本的には金太郎飴的な作風である事は前提にしても、それでも尚深遠さとエモーショナル性が強くなった本作の強度は並大抵のものではなく、幕開けを飾る"Bon Voyage"から余りにも叙情的なパッドのディープな旋律、トランシーにも似た快楽的なシンセのリフが絡み合いながら、いきなり咽び泣くような感動のピークに連れて行く。続く"Via"はややグルーヴを落ち着かせてしっとりした4つ打ちから徐々に底から湧いてくるような泣きのシンセストリングスが望郷の念を呼び起こすようで、その深い情緒はデトロイト・テクノ以上にデトロイトらしいと言うか、もはや様式美ですらある。ぐっとテンポを落としてダウナーなハウス調の"Route303"では彼らしいメランコリックかつ繊細なピアノが艷やかに響きほっと落ち着きを取り戻しつつ、逆に"The Traveller"のような曲ではアッパーで攻撃的なテクノのビートにぐっと伸びていくパッドやエグミのあるシンセでパーティーの真っ只中にいるような興奮を誘う。アルバムの中盤もフロアをノックアウトするような攻撃的な曲が待ち受けており、ずっしりしたバスドラや激しいハイハットに打ち付けられながらもレーザーのような色彩豊かな電子音が快楽を上り詰めていく"Momentum"、そしてアルバムの中でも特に高揚感に溢れているグルーヴで疾走りつつヒプノティックな電子音のループと壮大なパッドが宇宙の広がりを思わせる"Tale Of Two Cities"と、このハイエナジーな感覚には抗う事は出来ないだろう。終盤は緊張感から解放されながらも丁度心地好いグルーヴ感の上に乗るメランコリーな旋律の美しさが際立つ"Lonely Journey"、そして最後のノンビート・バージョンで物哀しいメロディーが明確に打ち出され感動的な終わりを迎える"Via (Sun Rising Mix)"の流れで、アルバムは全ての感情を吐き出すかのようにエモーショナルな世界が一貫している。ややもすれば金太郎飴と揶揄されがちな完成されたスタイルは、しかし純度を高める事で更に聞く者を感動させるエモーショナル&ディープの先に辿り着き、Watsonの最高傑作となった。いつも同じだろ?と思っているファンや深遠で美しいテクノを求める人、そしてデトロイト・テクノ好きな人にも当然お勧めしたい。



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Christopher Rau - F.M.E. Hustle (Money $ex Records:M$LP007)
Christopher Rau - F.M.E. Hustle
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ハウス・ミュージックを軸にしながらも作品毎にブロークン・ビーツやヒップ・ホップ、アンビエントやビートダウンなど大きな振れ幅を持つベルリンのMoney $ex Records、ダンス・ミュージックであればジャンルは問わないというようなスタンスがあればこそユニークなアーティストも多く集まっている面白いレーベルの一つだ。しかしそのレーベルからのニューアルバムはGieglingやSmallville等から繊細さな響きと幽玄な世界のディープ・ハウスをリリースしてきたChristopher Rauによるもので、Money $exとの相性は?と思うところもあったが、Rauも過去には剥き出し感あるロウなハウスや変則ブレイク・ビーツも手掛けてはいたりもするので、意外と合うのかもしれない。蓋を開けてみればアルバムは予想よりも幅広い音楽性でその意味ではMoney $exのカラーに寄り添ったとも言えるし、そしてRauらしいうっすらと伸びるような淡い情感もあってRauらしさを保ってもいる。アルバムは濃霧が満ちたような幻想的なアンビエントである"F.M.E. Hustle"で始まり、変則的に詰まったリズム感ながらもRauらしい叙情的なパッドを用いてすっと浮遊感を得たディープ・ハウスの"Utoplateau"や、同様にブロークン・ビーツで揺れつつも淡く純朴なシンセのメロディーで柔らかく包み込むディープな"Jetlag Alter"と、序盤はおおよそRauに期待している音楽性そのものだ。変則ビートはその後も続き、ぐるぐると目が回るような重心低くローリングするリズムの一方で耽美に空高く舞うエレガントな上モノを配した"Draulic Drone"からヒップ・ホップ調のロービートでしっとりと湿度を帯びて内向的な情感のある"B.S. Fondue"、そして更にビートが弛緩してダウンテンポへと行き着いてアルバムの中でほっと一息つくメランコリーな"Glacial Pacer"と、身体的なビート感を軸に上げ下げを盛り込んで上手くアルバムの流れを作っている。そこから再度4つ打ちでテクノ的な強靭なビートとヒプノティックな残響で空間を演出するアッパーな"Uebelst Bekorbt (House Mix)"、隙間を残しながら端正な4つ打ちですっきりと軽快なテック・ハウスの"Drama - Chamber"と、ダンスからリスニングまで程よく盛り込まれている。アルバムはリズムは激しかったり、逆に落ち着いていたりと幅はありながらも、旋律に込められた甘美な陶酔感はうっとりとドリーミーでこれは正にRauらしい統一感がある。Money $exという癖のあるレーベル性に沿いながらも、やはりRauの静謐な世界観は光っている。



Check Christopher Rau
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