Cola Ren - Hailu (AMWAV:AMWV001)
Cola Ren - Hailu
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ダンス・ミュージック/電子音楽の世界でも多様性が萌芽し、その中でそれまで特に男性中心かつ欧米諸国がもてはやされた流れからアジア勢の台頭と女性アーティストの活躍が目まぐるしい昨今。ここ数年でそんな期待されるアーティストが続々とデビューを果たしているが、またその中に一人加わるであろう存在がCola Renだ。中国は広州で活動する女性アーティストだが、2023年6月にリリースされた本作がデビューなので詳しい経歴は分からないものの、NTS RadioやRinse FMなどヨーロッパのラジオ局では既に彼女の曲がピックアップされ注目を集めているようで、筆者もウェブショップで様々な作品を試聴する中で運良く本作に出会う事が出来たのだった。多くの作品の中で何故本作に魅了されたのか、それはおそらく伝統的な楽器とエレクトロニクスから成るアンビエントな鳴り、謎めきながらも耳に残るポップな旋律、アジアの秘境のような神秘的なニュー・エイジ性があり、現在のニュー・エイジ/アンビエント隆盛の流れに自然と合流していく作品だからかもしれない。冒頭の"Baraka"はノンビート構成ながらも電子音のシーケンスに躍動感があり、その奥では秘境的雰囲気を持ったぼんやりとしたシンセが漂い、中国奥地の閉ざされた山間部の雰囲気なのだろうか。フィールド・レコーディングや鐘の効果音も加わる事で一層謎めいた雰囲気を増し、民族楽器調のパーカッションが肉体的なビート感を刻みだしたり、短い構成ながらもこの時点で非常に惹き付けられる魅力を放っている。"Riot on the Hush"はマリンバのミニマルなフレーズが催眠的でそこに動物や自然の音も入り交じるフィールド・レコーディングを重ねて宗教的な世界を喚起させ、ジャラジャラと錫杖のような効果音もひっそりとなれば、そこは深い山の中にある寺院で瞑想する場所となる。辺境のトライバルなビート感が小気味良い"Brain Dance"は本EPの中では比較的ダンス寄りで、ミステリアスな効果音と幻想的な電子音が交差しながら異国情緒溢れる雰囲気を作り出し、現在人気を博す韓国のSalamandaを好きな人にも訴求するような音楽性だろう。そして同じくトライバル的ながらも更に躍動感や清涼感があり、コズミックな電子音を導入しながらもリズム重視で攻める"Outta Space"、最後にはピュアな響きの電子音が軽やかに弾け素朴な田園風景が広がるようなメロウなアンビエント・ポップの"Heart Shape Mole"で締め括られる。5曲ながらも色々なスタイルがあり表現力の豊かさに驚きつつ、アジア出身である背景を曲の雰囲気に自然と反映させ自らのアイデンティティも打ち出し、流行に乗るのではなくアーティストとしての個性を尖らせている点が素晴らしい。早くも次の作品が聞きたいと期待させられる新星、新作が待ち遠しい



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| TECHNO16 | 18:06 | comments(0) | - | |
The Orb And David Gilmour - Metallic Spheres In Colour (Sony Records Int'l:SICP 31637)
The Orb And David Gilmour - Metallic Spheres In Colour
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2010年のPink FloydのギタリストであるDavid GilmourとThe Orb(≒Alex Paterson)との邂逅である『Metallic Spheres』(過去レビュー)から13年、時が経ち足りない何かを埋めるかのように自らでリミックスし直したのが本作『Metallic Spheres In Colour』だ。元々はチャリティソングの制作に参加していたGilmourがPatersonらにリミックスを依頼した事が、そのチャリティソングの続編的な『Metallic Spheres』の制作に繋がったそうだが、しかしそれ以前からもPink FloydとThe Orbには繋がりはあったのだ。The Orbの1stアルバムのジャケットはPink Floydの『Animals』のオマージュであるし、一時期のPink Floydでベースを担当していたGuy PrattはThe Orbの作品にも何度か登場するなど、少なからずPink Floydから影響を受けていたであろうPatersonがGilmourとの制作に至ったのはなるべくしてなった事なのかもしれない。しかし『Metallic Spheres』自体はGilmourが主導で制作したものであり、エレクトリック・ギターとラップ・スティール・ギターの揺らめくようなサイケデリックな響きが前面に出て、またチャリティのためという事が足かせになりPatersonが自由にやれなかった点も少なからずあったかもしれない。それに対し盟友Youthが再度リミックスし直してThe Orbらしい作品にする事を提唱し、現在のThe OrbのメンバーであるMichael RendallとYouthがプロデュースを努め、Patersonらと共に改めてThe Orbの作品として本作を完成させたのだ。元々は2曲ながらもその中に複数の章が存在していたのだが、本作のリミックス名にもあるようにシームレスを意識する事で原曲よりも派手な演出や展開は抑制され、その意味では反復を重視するアンビエント・ハウスやダブの要素が色濃くなっている。"Seamless Solar Spheres Of Affection Mix"は出だしこそGilmourによるトリッピーかつブルージーなギターが陽炎のように揺らめくが、直ぐに浮遊感のあるエレクトロニクスやねっとりダブ風なビートも加わり、一定なビート感を保ちつつThe Orbらしい奇妙な効果音を織り交ぜたアンビエントを展開する。幻惑的なギターも浮かびあがっては消滅しながらも、反復を重視したエレクトロニクスが中心となり、20分にも及ぶ長尺な構成を活かして陶酔まっしぐらな作風だ。"Seamlessly Martian Spheres Of Reflection Mix"は前半は様々なサンプリングを導入したチルアウト状態ながらも途中から生っぽいブレイク・ビーツが入り、中盤はエキゾチックな雰囲気やアコースティッグ・ギターの爽やかな構成が入り乱れる。ビートは消失し様々なサンプリングが登場しユーモアに包まれながら眠りに就くかと思いきや、最後の2分で極彩色の荘厳なシンセサイザーに後押しされ天界へと旅立つ圧巻の流れ。やはりと言うべきか、PatersonやYouthが主体となった事でよりクラブ・ミュージックらしい構成が打ち出され、The Orbのファンであれば間違いなくこのリメイクの方が馴染むのではないだろうか。特に各曲20分という構成もあって長い時間を掛けてはまっていくアンビエント・ミュージックは、かつてのThe Orbの真骨頂でもあり、それを再度体験出来る点も喜ばしい。



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| TECHNO16 | 22:35 | comments(0) | - | |
Joe Davies - Shields In Full Sunlight (Smallville Records:SMALLVILLE LP16)
Joe Davies - Shields In Full Sunlight
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ドイツはハンブルグで運営されているかつてはレコードショップ兼レーベルであったSmallville Recordsは、欧州では屈指の幽玄で情緒深いディープ・ハウスを制作しており、時折Larry Heardの音楽とも比較される程に高品質な作品がカタログに並んでいる。そのレーベルの目下最新作はDJ Assam名義でも活動するJoe Daviesによる初のアルバムなのだが、2015年頃からDJ Assam名義で複数のEPは残しているものの目立った活動は伝わってこないので、音楽性に関しては分からない点も多い。そうだとしても信頼に足るレーベルが選んだアーティストだからこそ、本作も当然の如くアンビエントな雰囲気を持ちメランコリーなディープ・ハウスなアルバムは高品質で、レーベル買いと呼ばれる行為を受け入れても損はしないだろう。幕開けはOssiaをフィーチャーした"Hi Life"、優しい陽が射し込む公園で小鳥が囀っているようなフィールド・レコーディングの牧歌的な雰囲気から始まり、アトモスフェリックなシンセが蒸気のように立ち込めながら気怠い眠気と共に清々しさが満ち始め、ノンビート・アンビエントな開始によってアルバムの入り口へ誘い込む。そのままぼんやりとしたままカチッとしたリズムが跳ねる"Echo Form"へと繋がれるが、鋭角的なリズムで躍動感を持ったディープ・ハウスではあるものの軽くアシッドベースが時折唸り叙情的な上モノに惑わされ、ダビーな音響によって深い霧の中を迷うような幻惑的な世界観が続く。一方で"Two Hours Earth Room"ではダンスフロア直結な硬いキックが端正な4つ打ちを刻み、そこにトリッピーかつコズミックな効果音を散りばめながらフラットな流れの幽玄なディープ・ハウスは機能的で、如何にもSmallvilleらしいメランコリーが美しい。アルバムのハイライトはSpace Drum Meditationをフィーチャーした"Cygnus"だろうか、勢いのあるパーカッシブな4つ打ちが走る中を酩酊としてフラフラとした上モノやサイケデリックなアシッド音、緻密に様々な電子音を編み込んでアンビエントやトランスといった要素も含んだ強烈なディープ・ハウスは、9分にも渡ってダンスフロアで覚醒感を煽るに違いない。そういった勢いを持ったグルーヴ感のある曲を通過し、最後に辿り着いたのは夢の中を彷徨っているかのようなぼんやりとした"Nefyn"で、キレのあるビート感ながらも上モノは朧気で真夜中の静けさの中で、深い眠りに就くように徐々にテンションを落としていき穏やかに終了する。ダンスフロアを揺らすも美しいディープ・ハウスから、アンビエント寄りで瞑想系のリスニング曲までバランス良く並んだアルバムで、目新しさは全く感じさせないもののこれぞSmallvilleと呼ぶべき静謐な美しさとメランコリーが存在し、このレーベルの変わらぬ伝統芸のような音楽性は素晴らしい。



Check Joe Davies
| HOUSE17 | 20:53 | comments(0) | - | |
The Deacon - Funky Revolutions EP (Rawax Motor City Edition:GM - 02)
The Deacon - Funky Revolutions EP
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2022年にリリースされたThe Deaconによるこの作品を見た時、久しぶりの新作かとやや驚いたものだ。The DeaconとはデトロイトのアーティストでありUnderground Resistance一派でもあるGerald Mitchellがかつて用いていた覆面プロジェクトで、彼の中ではテクノ/エレクトロを特に打ち出した音楽性が特徴だ。そしてこの新作…かと思いきや、実はかつてURが自分達だけがDJ用に使うための秘密兵器としてアナログ化していた『Z Record』なるものの一枚で、それがこの度『Funky Revolutions EP』と改題されてRawax関連のレーベルから再発されたという事だ。実際に聞いてみると、確かにUR関連のMIXCDで耳にした事がある曲がちらほらとあり、そういった特別な曲が正式リリースされたのはURのファンでないDJにとっても喜ばしい事だろう。制作はURが脂の乗っていた時期という事もあり文句無しにどの曲も素晴らしく、デトロイト・テクノの真髄を存分に体感出来る内容となっている。真夜中のインスピレーションと題された"Midnight Inspiration"は夜中のダークな雰囲気に満ちたテクノで、モヤモヤとした上モノがループし暗いムードのアンビエント感があり、淡々とキレのある4つ打ちが続いて如何にもDJツール的な構成だが、URらしいファンク感もある。"Essence Of Bass"は勢いと跳ねた感のあるジャジーなリズムが主導するが、殆どメロディーは入らずにヒプノティックなシンセコードが少しだけ用いられて、リズムによるファンク性を前面に打ち出した完全にDJ向けの曲だろう。そして"Funky Revolutions"はKraftwerkやDrexiyaといったエレクトロ・ファンクを推し進めたURの真骨頂とでも呼ぶべき曲であり、鋭いスネアやリズミカルなパーカッションを用いたエレクトロ・ビートにコズミックなシンセを合わせてミニマルな構成ながらも非常に躍動感を持っており、正にファンキーな革命が成されている。特にデトロイト・テクノ調なのが"In Traffic"で図太いキックが地響きの如く4つ打ちを刻み、SF感溢れる叙情的なシンセを導入した古典的かつ十八番な作風だが、それでもDJ向けの秘蔵音源だけありやはり普段よりはミニマル性が強く打ち出されている。何故今になってこのような古い音源、しかもURのDJの為だけに作れたものが再発されたのか知る由もないが、コロナ禍の最中にリリースされた事を考えるとダンス・ミュージックの世界に活気を取り戻すような意味が込められているのかもと想像してしまう。



Check Gerald Mitchell
| TECHNO16 | 16:00 | comments(0) | - | |
Los Hermanos - Another Day (Mother Tongue Records:MT-19008)
Los Hermanos - Another Day
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デトロイト・テクノが総じて盛り上がった00年代初頭から20年、現在は特にベテランの活動が鈍る事で以前の栄華のような活気は見られないものの、それらが無くなったわけではない。00年代を引っ張ったLos HermanosはGerald Mitchellを中心とした流動的なユニットで、ある意味ではLos HermanosがMitchellの音楽性を体現しているのだが、ここ何年かはMitchellも例に漏れず特にリリース活動はスローになっていた(Bandcamp上では散発的に配信はしていたが)。そんなLos Hermanosが2020年にアナログでは7年ぶりとなる新作をリリースしていたのだが、それが本作『Another Day』だ。久しぶりに新作だから評価が甘いわけではないが、先に述べたように流動的なプロジェクトであるからここでは東京で活動するBob RogueやSound Signatureでの活動もあるデトロイトのBilly Loveとコラボレーションを行い、僅か3曲ではあるがLos Hermanosとしての音楽性を拡張しながら如何にもなデトロイト・テクノ/ハウスを聞かせている。タイトル曲の"Another Day"はMitchellのソロプロジェクトであるSoul Saver名義なので単独作なのだろうが、生っぽくワイルドなハウスビートにしっとり温かみを感じさせるベースと郷愁を帯びたエレピやギターを合わせ、ゴスペルのような女性ボーカルも導入してかつて無い程にソウルフルで感傷的なハウスを展開しており、枯れたその先にある円熟味というかとても味わい深い。Los Hermanosに以前のような勢いを感じる事はないが、しかしソウル性は全く失われるどころかより一層増している。"Binary Funk Infusion (Extended Mix)"はBob Rogueとの共作で、キックや上モノ等全体的にエレクトロニックな打ち込み感を強調しているが、ヒプノティックでアシっディーなシーケンスに対しリズムはジャズからの影響を感じさせ、Los Hermanosが解釈した現在形のジャズならぬエレクトリック・テクノ・ジャズといったところか。Billy Loveと制作した"Let Love Live"はThe Billy Love Experience名義となっておりノンビートながらも8分に及ぶ大作で、スキャットのような甘くメロウなBilly Loveの歌にエレピ等シンプルな構成のメロディーと僅かなSEを重ねて、これ以上無い程にロマンティックに甘美なジャズ/フュージョンのような展開を見せる。Billy Loveの甘く誘うような歌声も良いが、Mitchellも自由に陶酔するが如くエレピソロを披露しており耳を惹き付けるのだが、デトロイト・テクノがやはりブラック・ミュージックから生まれた事を強く意識させる。コラボレーションによって過去よりも前に向かうように音楽性も変化しており、これを機にまた活動が活発になればと願わずにはいられない。



Check Los Hermanos
| HOUSE17 | 22:18 | comments(0) | - | |