Dez Andres - Back In My Space EP (Berettamusic:BM012)
Dez Andres - Back In My Space EP
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2018年以降、毎年3〜5枚程のEPを様々なレーベルからリリースし量産体制を継続しているデトロイト・ハウスのAndresだが、それも作品の質がどれも高水準だからこそ引く手あまたなのも納得だ。デトロイトのヒップ・ホップ集団であるSlum Villageの元メンバー…という肩書きは最早不要だろうが、しかしそういった経歴は実際にハウスとヒップ・ホップをクロスオーバーした音楽性に現れており、現在のデトロイトを代表するアーティストの一人と言っても過言ではない。2023年に複数枚リリースされた中で本作はデトロイトのレーベルであるBerettamusicからリリースされたものだが、これがハウス・ミュージックを基調としている事もあるが2023年作の中では筆者の一番のお気に入りである。タイトル曲である"Back In My Space"はざっくりとしたドラムマシンがしっとり滑らかな4つ打ちを刻み生温かいベースラインと共になって心地好いミドルテンポのハウスビートを生み、そこに優美なエレピを基調としたメローな上モノも重ねて執拗にループで構成する3分半弱の曲なのだが、シンプルが故に耳に残るキャッチなメロディーが引き立つジャジーなビートダウン・ハウスだろう。"Don't Be Fooled"はもう少しテンポを上げて浮遊感も得つつスモーキーなハウスビートが爽快で、そこに流麗なストリングスやらソウルフルな歌が入ってくるディープ・ハウスなのだが、これはAndresお得意のサンプリングでSwing Out Sisterの"Twilight World"が用いられている。リズムはパーカッシヴに組み立てられているが、元の曲のストリングスを活かしてディスコ風な綺羅びやかさも引き出して、ミラーボールから光が散乱するようなパーティー感覚溢れる賑やかなハウスも素晴らしい。またレーベル繋がりでデトロイトのAirport Societyがリミックスした"Back In My Space (Airport Society Remix)"は原曲よりもアップテンポに力強いビート感へと塗り替えられてキレを増し、メロウさよりもDJツールとしての機能性に磨きを掛けており、こちらの方がパーティーのピークタイムでも映えるだろう。そして最後の"Back To Nature"で再度テンポを落としてカラッとしたリズムがブギーな感覚を打ち出して、低音がささやかに主張するベースラインを軸にしてビート中心で組み立て、淡々とした雰囲気ながらもファンキー性を発揮している。僅か4曲、しかしどれもAndresらしいサンプリングによるファンキーでメロウなハウスであり、一聴して耳を引き付ける強い魅力を持っており流石の存在感だ。



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| HOUSE17 | 20:51 | comments(0) | - | |
Pyramid - PYRAMID 5 (Ultra-Vybe, Inc.:OTS-314)
Pyramid - PYRAMID 5
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ここ数年のシティ・ポップの盛り上がりは、若い人達にとっては懐かしくも新鮮であるだろうし、昔からのファンにとっては昔の作品がアナログ化されたものに有り難みを感じるであろうし、筆者のように全く聞いてこなかった人間にとっては新しい出会いとなり、兎にも角にも世界的にもブームというか非常に勢いを感じさせる。そんな流れに乗っかって辿り着いたのはフュージョンバンドのPyramidだ。シティ・ポップにはまっていく最中でギタリストである鳥山雄司の音楽に出会い、そこから繋がったのがPyramidなのだが、鳥山に加えドラマーの神保彰(元カシオペア)とキーボーディストの和泉宏隆(元T-SQUARE)と日本のフュージョンを突き進んできた才人が集まったバンドなのだから、前提として評価されても当然といった風格を持つバンドなのだ。2005年に活動を開始してから散発的に活動を続け、惜しくも2021年に和泉が急逝しながらも残った二人はクラウドファンディングで制作資金を集め、その結果完成したのがこの5枚目のアルバムである。2022年10月に配信でリリースは開始されていたのだが、2023年11月にはアナログ化されたのでそれを購入し、それ以降何度も聞いているのだがこれが実にポップですこぶる良い。フュージョンバンドではあるが、ベテランらしく自慢気にテクニックをひけらかすガチなフュージョンからは敢えて距離を置くように、インタビューでも述べていたBoz ScaggsなどのAORといった70年代後半から80年代にかけてのクロスオーバーと呼ばれた音楽に立ち返りたかったようで、ネオン管風の文字がレトロなジャケットからもそんな雰囲気は伝わってくるであろう。アルバムの開始を飾るのは福原美穂をボーカルに迎えた"ODORO!"、タイトル通りにメロウながらもグルーヴィーなダンス曲で、ギターやベースにドラム、更には管楽器帯も加わったサウンドは煌めくように艶ややかで、先ずはバンドありきな音に魅了される。福原の熱くソウルフルな歌、それに負けないゴージャスな楽器の音、特に主張のあるファンキーなベースが表に出つつランダムな動きの電子音がポップで、このブラック・コンテンポラリーな1曲でアルバムに引き込まれる。一転してテンポを落とした"Blue Bop"は情熱的なピアノが躍動的ながらもそこにギターやベースも絡みながら熱量が上がっていくジャズ・ファンクで、感情性豊かに哀愁溢れるブラック・コンテンポラリーといった風で何とも大人びた風格だ。"Reflection Green"は生前に和泉がレコーダーに残していた曲を元にしており、和泉のスムースに紡がれる飛翔感のあるピアノが先導しつつメランコリックなギターと絡み合い爽やかさを生み出し、着飾り過ぎないリラックスしたジャズやフュージョンでこういったシンプルな曲ではよりポップなメロディーが引き立っている。アルバムにはハーモニカも加わり陽気なサンバ風の"Mau Loa"、ロック風なギターリフが映えノリの良いセッションをしているような"Squeeze"といった曲調もあり、最早フュージョンバンドという狭い括りは軽く超えている。そしてHerbie Hancockカバーの"Paradise"ではKan Sanoをフィーチャーし、甘くメロウな歌や繊細で優美に舞うようなピアノを活かしたジャズというかAORは心も洗われるように爽快だが、若い世代とも繋がりながら自分達の音楽性をより広い範囲に届けようとする取り組みが成功している。最初にシティ・ポップという単語を出したが、本作は非常にポップで時代が求めている音を出迎えてあげたように洗練されかつ円熟したポップな響きがあり、ジャンルとしては卓越した音楽家によるフュージョンかもしれないが現在形のシティ・ポップという方面から聞いても魅力的なのである。



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| CROSSOVER/FUTURE JAZZ3 | 15:26 | comments(0) | - | |
Benoit B - Kismet (Natural Selections:NASE03)
Benoit B - Kismet
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ベルリンで活動をするフランス人のDJ/アーティストであるBenoit Bが、2015年のデビューから7年を経た2022年初頭にようやく初のアルバムである本作『Kismet』をリリースしている。自身でBanlieue Recordsを運営しながら、フレンチ・ハウスのVersatile RecordsにUnthankやInto The Light Recordsといった辺境音楽系、比較的近年はAnimals Dancingといった人気レーベルから作品もリリースしており、音楽性も同様に幅広くテクノやハウスにアンビエントやエレクトロ、ファンクにインダストリアルまで作品毎に様々な表情があり、なかなかに掴みどころのないユニークな存在感を発揮している。そんなアーティストに依る初のアルバムは、アンビエント/ニュー・エイジ系のレーベルであるNatural Selectionsからのリリースという事もあり、ニュー・エイジやバレアリックといった方面での才能を開花させた内容となっている。そしてポップな色彩を持つレトロなジャケットを見ても分かるように、アナログシンセを活かした80年代的な何処か懐かしい感覚を含んだ音楽性で、レーベルインフォに拠れば「短編小説の夢の日記」とも称されるようにファンタジー的な世界観もある。正にアルバムへの入り口となる"Gate"、ディレイを効かせたシンセや声が広がりを生みSF感とアンビエント感が融合した清々しい始まりで、そこからローファイなドラムマシンが壊れたようなリズムを刻む"Pruzkum"は何処か見知らぬ異国の地で鳴っているような辺境的ダウンテンポで、現実ではない「夢の日記」なる表現も納得な空想世界。"W3C"では浮遊感のあるシンセが放出され煌めくようなシンセの粒がドリーミーに装飾し、桃源郷へ連れて行かれた如くのニュー・エイジが現実離れしている。"Punkster"は力強いドラムマシンのキックがドタドタとディスコビートを叩き出しているが、美しい響きのシンセによってシンセ・ファンクかブギー・エレクトロといったようなレトロ感が、これぞ80年代的感覚だろう。と思えば続く"2 Strangers in a Room"では柔らかいブロークン・ビーツ的なリズムが有機的で、ほのぼの牧歌的で微睡んだようなシンセをふんだんに用いて、浮遊感のあるダウンテンポによって夢の世界に溺れてしまうようだ。アルバムはノンビートなアンビエント/ニュー・エイジ曲、ブギーかつファンキーなディスコ寄りな曲がおおよそ交互に並び、バランスの良い流れでじっくりとシンセサウンド溢れた明晰なファンタジーを楽しめる構成となっており、最後はフィールド・レコーディングをバックにうめき声のようなギターが炸裂するサイケデリックな"Head In The Clouds"によって、一時の夢が霧散するように終わりを迎える。レトロなマシン・ファンクと非現実的なアンビエンス、その両者が融解し一つとなった異世界を旅する日記のようなアルバムは、Benoit Bのユーモアと遊び心にも溢れており今までの作品の集大成と言えよう。



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| HOUSE17 | 22:18 | comments(0) | - | |
POiSON GiRL FRiEND - exQuisxx (Nippon Columbia Co., Ltd.:HMJA197)
Poison Girl Friend - exQuisxx
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Music From Memoryが掘り起こした日本産のレフトフィールドかつポップな音源集の『Heisei No Oto - Japanese Left-Field Pop From The CD Age, 1989-1996』(過去レビュー)に収録され、そして2023年には『Melting Moment』(過去レビュー)が復刻された事で注目を集めたPOiSON GiRL FRiEND。nOriKOによるシンセ・ポップなPOiSON GiRL FRiENDは90年代前半に活躍したプロジェクトで、80年後半のロンドンで体験したハウス・ミュージックに衝撃を受けたnOriKOがダンス・ミュージックへと傾倒して、海外のダンスのビート感とフレンチ・ポップスを融合させた独自の音楽によって一部で注目を集めていたようだ。現在は世界的な日本産音楽の掘り起こしによりアナログ化され復刻されたり、そして本作のように1993〜1994年にリリースされた『Shyness』『Mr. Polyglot Remix』『Love Me』から選りすぐられた編集盤も制作されたりと、もしかしたら当時よりも現在の方が海外からも含めて注目度は高いかもしれない。しかしこうやって編集盤を聞けば元々音楽的な魅力は十分にあった事に気付かせられるもので、nOriKOが過去にインタビューでもブレイクビーツやグラウンドビートが好きだと回答しているように当時の流行りのビート感があり、それだけでなくハウスやアンビエントにバレアリックといった要素まで散見され、本場のダンス・ミュージックを日本において展開しようとした挑戦は早過ぎたのか。

"Love Is..."は自己プロデュースの『Love Me』からで、ダウンテンポ気味な気怠いビート感の上に悲壮感溢れるピアノやヴァイオリンといった生音を強調しながら、nOriKOの消えてしまうようなウィスパーボイスやSE的なシンセも重ねて、何とも甘美でしかし霧散してしまうような儚く美しい曲。"Histoire D'O"はもう少しテクノっぽい響きのビート感と浮遊感を持つアンビエントな上モノが強調された曲で、面白い事に途中からドラムン・ベース調な鋭いリズムへと変化して躍動感を増し、しかしモヤモヤとしたアンビエンス感を保ちアンニュイな歌に幻惑させられる。さて、この編集盤に収録された曲の一部、特に『Shyness』全体は当時UKでエレクトロニック・ポップな方面で人気のあったCreation Recordsでの活躍が有名なMomusがプロデュースを手掛けており、Momusを知る人にとっては関連曲を聞くと、あぁなる程ねといった具合に非常にMomusの影響が強く現れている。例えばLouis Philippeをフィーチャーした"Shyness"がそれで、ポップなのに何だか晴れずに憂いを感じさせる内省的でエレクトロニックなトラックはグラウンド・ビート風で、Philippeの美しいコーラスに対しnOriKOとMomusに依る語り合いが絡む何とも夢のように気怠い世界観は、何処をどう聞いてもほぼMomusの曲だ(実際にMomusも曲作りに参加している)。"Mr. Polyglot Radio Reconstruction Mix"はリミックス盤の『Mr. Polyglot Remix』からで、艶めかしいウッドベースのラインとプログラミングのブレイク・ビーツが軽やかなビートを刻むダンストラックなものの、鋭く唸るギターソロや生っぽい音も含めて当時のUKのロックとダンスが邂逅したインディー・ダンス的でもあるか。"Dreamer's Ball (Hysteric Ball Mix)"もMomusによるリミックスだが、アコギやヴァイオリンなど原曲の湿っぽく生っぽい音を活かしつつパーカシブなビート感に塗り替えて、nOriKOのウィスパーボイスを活かした感傷的なダンス・ポップに仕上がっており、Momusとの共同制作はnOriKOの音楽性に最適だったと言えよう。この編集盤は3枚のアルバムからnOriKOが自らセレクトしたようで、ダンスのビート感は色々あれど世界観はバラバラになる事なく儚くロマンティックなポップ性で上手く纏まっており、今までPOiSON GiRL FRiENDを知らなかった人にとっても入り口として十分に魅力的な作品であろう。ダンス・ミュージック好きもポップス好きも、境を意識する事なく耳を傾けて欲しい。



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| HOUSE17 | 21:37 | comments(0) | - | |
Ilija Rudman Presents Dead Horse Gang - Pulsar Diaries (International Feel Recordings:IFEEL082)
Ilija Rudman Presents Dead Horse Gang - Pulsar Diaries
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新体制になってからも安定した作品のリリースを続ける現代バレアリックの先鋭であるInternational Feelは、順調な運営によって2023年にも良作を複数枚リリースしており、そんな作品の内の1枚が本作。手掛けたのはクロアチアのアーティストであるIlija Rudmanで、過去にはディスコ系のBear FunkやバレアリックなIs It Balearic? Recordingsからもリリース歴があり、そういった経歴からもInternational Feelとの親和性の良さは予感出来るだろうか。筆者は全く知らなかったもののキャリア20年を誇るベテランだそうで、実際に本作を聞いてみるとキャッチーなメロディーの魅力もあり購入を決めた次第で、このレーベルのファンであれば聞いておいて間違いなく損はしないだろう。このミニアルバム、全体像としては大雑把に括ればニュー・ディスコのビート感とバレアリックな雰囲気を纏っており、その意味では非常にInternational Feelらしい音楽性である。"Pulsar Diaries"は透明感があり清々しいシンセの響きから始まりいきなりバレアリックモードだが、そこからアシっディーなベースもリズムを刻みつつドタドタとしたディスコビートも加われば、うねるようにスローモーな流れの中に愉悦の快楽が詰まったニュー・ディスコと化す。"Delphic Expanse"はも同じような作風だがアシッドの毒々しいベースラインがより際立ち、そしてアンニュイなメロディーが妖艶さを際立てて、深みのあるディープ・ハウスとエレクトロが混ざったようにも聞こえる。アナログのB面に移ると、"Fourth Amendment"はドタドタとしたディスコ・ビートもややテンポが上がり、アシッドベースも生き物ように躍動的にうねりつつアンビエンスな上モノやギラついたシンセも導入され、豪華で豊かな響きを打ち出してイタロ・ディスコかジャーマン・プログレのダンスバージョンかのような快楽性が打ち出される。そして最後の"Ursa Major"、アタック感の強いレトロなリズムマシンのキックやゴージャスな電子音の響きを用いた事で80年代のシンセ・ファンクな雰囲気を纏い、アルバムの中でも特にレトロフューチャーな懐かしき古き良き時代を思い起こさせる曲で、懐古主義ではあるかもしれないが曲自体が素晴らしい事もありシンセ好きには堪らない。どの曲でも何だか懐かしく心に響くようなシンセサウンドが魅力なのだが、実際に制作にはYamaha SY 77やKawai SX 240にProphet Vといった古典的な名機が用いられており、そんな艶を感じさせる豊かな響きの円熟したニュー・ディスコ満載なのだからハッピーな気持ちにならないわけがない。



Check Ilija Rudman
| HOUSE16 | 15:06 | comments(0) | - | |