2024.01.10 Wednesday
レビューが間に合わず残念ながら昨年の年間ベストに入れ損ねてしまった本作は、2021年にCH.0によって京都で立ち上げられた新興レーベルのOnda Bubblesからの2枚目のEPだ。手掛けているのは東京で活動しているというKeigo Okazakiなるアーティストで、調べてみるとファッションモデルとしても活躍する1998年生まれの若手で、ここ数年DJとしてもパーティーに名を連ねているのが見受けられる。とは言えども彼のDJを聞いた事もなければ、公式リリースは本作が初めて、その上レコードは場所を取るので購入を抑えているものの、しかし本作を聞いた瞬間にこれは買わねばと衝動的に購入を決めたのだった。強いて言うならば、カナダ発のニュー・エイジ系人気アーティストのKhotinがリミキサーとして曲を提供している事は本作を購入するきっかけになったのは少なからずあるが、しかしそれ以上にOkazakiの曲自体が若手らしいフレッシュさと共に、デビュー作にして実に快楽的なダンスの根源たる魅力を放っており、これからが気になる稀有な新星なのだ。公式の案内に拠ればTB-303、606などのヴィンテージ・シンセサイザーやドラムマシンを用いているそうで、確かにA面の"Welcome To Acid"を聞いても、まあアシッドがタイトルに入っている事から分かるようにヒプノティックなアシッド・サウンドを活かしたローファイ感溢れるハウス・サウンドが魅力だ。カタカタとして乾いて簡素な響きのドラム、古典的なクラップ音、覚醒感溢れる幻惑的な上モノが生み出す雰囲気はシカゴ・ハウスでもありディープ・ハウスでもあり、4つ打ちからブレイク・ビーツまで変化しながら、しかし激しく飲み込むグルーブではなく揺らめく陶酔感や快楽がじんわりと精神を侵食する。"Welcome To Acid (Khotin Remix)"は原曲のイメージを壊す事なく、よりどっしりと低音の効いた安定感のあるキックによるビートとトリッピーで浮遊感のある上モノや奇妙な効果音を配置し、ニュー・エイジらしい神秘的な感覚を含んだディープ・ハウスへ染まり手堅く仕上げてきた印象だ。また剥き出し感溢れるざらついたブレイク・ビーツが荒削りながらも、メランコリーで微睡むような上モノが美しいアンビエント・ハウス的な"Orange"は、真夜中のダンスフロアの中でも興奮を誘うような爽快な刺激があり、ビートダウン的にテンポを落としながらもバレアリック感のある"Earth"もロマンティックに聞かせる世界観が魅力的で、オリジナル3曲それぞれ異なる魅力を放っている。その他にOkazakiと共に活動するOrange Grooveが"Embody"を提供しており、ジャジー・コードが優美ながらもアシッドもウニョウニョと陽気に躍動するミッドテンポのハウスも、エモーショナル性が強くスルメのような味わいだ。尚、アナログ200枚限定の販売だそうで、配信等も一切無いのは希少性がありつつ素晴らしい作品が狭い範囲にしか届かないのがもったいないと思う程だ。
Check Keigo Okazaki